二十三悔目「規則」
[陸奥実 流様、あなたは今年でお亡くなりになられます。詳しく申しますと、2019年九月十六日、午前十二時に亡くなられます。ですが、それを回避する方法がございます。
一、素直に諦める。
二、現在の自分の年齢分だけ関係が全くない他人を抹殺する。
三、最も親しい友人を一人だけ抹殺する。
注、三をお選びになる際は一つ条件があります。それはあなた自身が手を下さないこと。あなたが“直接”抹殺しなければよいのです。
その他、あなたが従うか逆らうかは自由です。]
「……ふぅ」
6日。腹は針で突かれるように痛い。まだ無理はしてはいけないようだ。身体が動かせない分、頭が異様に回ってしまう。
手紙。全くもって理解しがたいものだ。映画でもありそうなだけにいまいち実感がない。……落ち着いて状況を整理しよう。
手紙が来たのは6月24日。ちょうど八菜が転入した日だ。そして俺が襲われたのは7月29日。腹の辺りを刃物で突き刺された。奇跡的にも助かって、今は入院中だ。
この日はまさに奇跡的だった。犯人は俺にヒントをくれたからだ。
「“……三人……する……”」
捨て台詞みたいだが、かなりのミスだ。おそらく“三人を殺害する”という内容に近いだろう。つまり、犯人は特定の人数を殺さなければならない状況に陥っている。そんなのは手紙以外に説明できない。よって他にも手紙は確かに存在していることになる。
だが、これは俺の被害妄想にすぎない。
「……うーん……」
相手はわかっていないはずだ。もし、これから大胆にも赤の他人が接近してきたら要注意だ。なぜなら罠をかけるかもしれないからだ。つまり、“自殺させる”ように仕組ませる。これがベストな達成方法になるわけだ。ちなみに俺の場合、年齢に相当する人数、つまり16人を殺害するか、親友を自殺させるしかない。この方法は使いたくないし、手紙に従うわけにはいかない。
……考えを張り巡らせていると、誰かがノックしてきた。
「お兄ちゃん、お見舞いに来たよ! 感謝してよね!」
八菜だ。今日は午前中に部活があったらしい。……3時18分……、遊びに行く予定じゃなかったのか……?
「ありがとな。それより、午後から遊びに行くんじゃなかったのか?」
「もうヘトヘトだよ……。とてもじゃないけど、気力ないって」
「……そっか」
もしかしたら、断ってきたのかもしれない。
「けど、あれからほとんど毎日、俺の見舞いに来てるけど……夏休みは満喫できてるのか? 別に無理して来ることないんだぞ?」
「いいの。お兄ちゃんと居たいし……」
「八菜がいいなら構わないが……」
夏休みを楽しんでいないのは俺の方か。真乃と棗さんに宿題を手伝ってくれと頼まれて、4日間やった。その翌日の5日目にグサリだ。しかも入院二週間とは……。リハビリも多少してるし、実はそんなに退屈してなかったりする。
持ってきてくれたペットボトルのお茶を飲む。
「ところで、東條先輩とうまくいってるの?」
「ぶはっ!」
何言ってんだ! 思わず吹き出してしまった……。そして八菜に余計な迷惑をかけてしまった。
「誰のタレコミだ? とおちゃん、いや……棗さんあたりか」
「違う。風の噂」
「その風の噂自体が怪しいけどな……。生憎だけど、あいつと俺はそんな関係じゃない」
「じゃあ何なの?」
「何なのって言われても……、そうだな……気のいい友達だよ」
「あっそ。けっ!」
お前こそ何だよ……。
いや待てよ……、三人……。……ちょうどいたじゃないか……!
「むっちゃん、来たで」
「こんにちは」
とおちゃんとそこのおバカ二人。あの場に三人いた。……でもよく考えると、三人同時は大人でも荷が重いか。しかも、とてつもなく卑怯であくどくて強かな三人組だ。FBIでも苦戦を強いられるだろう…………ってちょっと待て。
「お前ら、いつの間に、」
「ノックしたけど、反応なかったんねん」
このタイミングはまずい……!
「……」
八菜が睨んでる、睨んでる……。
俺にこいつら嫌い、と本音を連発するくらいだ。しかも棗さん自体も八菜のことをあまりよく思っていない。劣悪なムードになるのは避けられない……!
「八菜さん、こんにちは」
「……ふんっ。何の用よ?」
「何やワレ、言葉遣いも知らんのか?」
「な、なっちゃん……、私たちはお見舞いですよ。八菜さんもですよね?」
「当たり前じゃない! 用が済んだらとっとと帰ってよ。顔も見たくないっ」
「ワイらの顔見たくないんなら、ワレが帰れや! いくらむっちゃんの妹とはいえ、調子乗ってんと、容赦せぇへんでぇ」
「何よ! 歳が2つ離れてるくらいでいい気にならないでよ! そっちの方が調子こいてるしっ!」
「年上や経歴の長い人に敬語を使うんが社会の常識やっ! 小学校で習わんかったんかぃっ? 小学生からやり直せや!」
「あんたみたいな頭がバカで大した取り柄のないヤツに、どうして敬語使わなきゃなんないのっ! もう時代は実力社会なの! それこそ愚かな風習だし!」
「バカはワレや! 人間の礼儀として敬語を使わんといかん状況があんねんっ! ワレのほざくのはガキの屁理屈やっ! 小学生どころか人間やり直せやっ!」
「なにいぃぃぃぃっっ!」
「やんのか、ワレ? 口げんかに負けたから暴力でいわせるんかぃ? とんだ女やな!」
「……」
「…………」
うわあぁ……。すごく嫌な空気だ……。爆発寸前、いや、核ミサイル発射寸前だよ……。
あの八菜が涙目で歯軋りしている。珍しいな……。それにしても大阪弁って口げんかになると、怖いな……。棗さんが怖いよ……。
真乃はそれを読んだのか、二人をよそに目を合わせる。
どうにかならないのかよ……? これはヤバすぎるだろ……。
私も八菜さんの予定を読んで来たんですが、まさか会ってしまうとは……。
下手したら取っ組み合いになるぞ……。八菜はあらゆる武術の有段者なんだよ……。
まずいですね。なっちゃんはムエタイのジムに通ってるんです……。
マジかよ。初めて聞いた……。お前、それじゃあ総合格闘技の試合になっちゃうだろ、何とかしろよ……。俺も何とかするから。
わかりました。死力を尽くします……!
と、会話したつもり。俺の意図が通じたのか、
「なっちゃん、流さんの前で暴れたら、流さん疲れちゃいますよ」
「ちゃうねん! あっちから、」
「それでも暴れたら絶交しますから」
「んぐぐ……わかった」
宥めてくれた。真乃の圧力も凄いな……。
棗さんは何とか堪えてくれているのを、八菜は傍らで鼻で笑っている。今度はこっちか。
「八菜、ケンカするな」
「してないし。……あいつが悪いんだよ」
「とにかく、これ以上やったら、お前と二度と口きかない」
「えぇっ、そんな……! ……それはヤダ……」
「なら、大人しくしてろ」
「……うん」
この手の脅しをかければ、大抵は言うことを聞いてくれる。
「とりあえずここは、」
「一時休戦にしたるわ」
……ふぅ。本気の安堵のため息だ。
まるで仲の悪いライバルみたいな連中だな。それだけに火花が散りすぎだ。
「いや、やっぱ休戦やない! 決戦やぁ!」
「えぇっ!」
何のために止めたんだよ……!
取り出したのは、……ご存知、あれだった。
「ほぉ〜、私にUNOで勝負する気? いい度胸じゃない」
「休戦はワイらの気性に合わん! ここは白黒つけなあかんっ! 勝負せぇ! 青髪ツンデレ美少女っ!」
「望むところよっ! 麦藁小麦ムスメっ!」
……打ち合わせしたかのような展開だな……。そういえば、八菜はこういうゲームは得意だったっけ……?
結局、俺ら4人でUNOで遊ぶことになった。カードをルールに従って配ってゲームを開始する。ちなみにルールはだいたい同じだが、ドロー4カードを出された時はドロー4だけでなく、ドロー2でも回避できるルールが適用された。ただし、その場合は選択された色のドロー2しか使うことはできない。
席順は時計回りに俺、真乃、棗さん、八菜となった。この席順がUNOでは重要なポイントだ。……両側に八菜と真乃か……。八菜はともかく、真乃はジャンル問わず強かだ。きっと世にも恐ろしい攻めをしかけてくるはず……!
場札は赤の8、手札は……赤は2と3、黄色はスキップ、ドロー2、1、ワイルドカードとなっている。
「俺からいくぞ」
場札に合った色、もしくは数字しか出すことはできない。ここは順当に赤2を出そう。
「はい」
次は真乃だ。
「黄2です」
「黄5や」
「黄1」
意外に静かな立ち上がりだ。いきなりドロー4合戦になるかと思ったのだが……。
「黄1」
「緑1です」
「緑7や」
「赤青7」
「ワイルド、黄色」
「黄赤リバース」
「!」
そこでリバースか! 時計回りの順番が反時計回りに変更された。つまり真乃が出したので、次は俺だ。しかもそこでようやく気づいたことがあった。
「……」
字残りだ……。UNOでは数字以外の特殊な効力を持つカードがある。先ほどのリバースみたいなものだ。もちろんそれで勝ってはいけない。なので、手札がそのカードのみとなった時、山札から2枚引かなければならないのだ。
だが、別に自分から宣言する必要はない。UNOの醍醐味は騙し合いにあるのだ。
「俺、赤ないからな……」
基本的にルール違反だが、他のプレーヤーに指摘されない限りルール違反と見なされない。つまり、ばれなければいいのだ。もし指摘されてしまい、ルール違反がばれた場合、山札から5枚引かなければならない。ちなみにこの罰則はローカルルールなので本当はどうなのかわからない。あるところでは3回スキップさせたり強制的に負けにさせたりするらしい。
山札から引くと、緑のドロー2が出た。もし、この時点で出せなければ、次の人に回る。
「ないから、八菜いいぞ」
「はいはい。赤リバース」
「え!」
ま、また……? 皆に俺は赤を持っていないことがばれている。まさか、赤で俺をはめる気か……!
山札から引いても、青6と赤が出ない。
「赤4です」
「んな、赤2」
「赤9」
「く……ない……」
敵に情報が渡るとあっという間に不利になる。この情報戦もUNOの醍醐味だ。……ドロー4!
「うおりゃぁぁぁぁあっ! ドロ4だあぁぁぁぁっ!」
「むっ!」
もちろん真乃は持っているだろう! でも真乃の手札は2枚! 叩くには早過ぎではない時期だ。
「……色は……?」
ということは、ドロー2……? 当たる確率は25%だ。
「……青!」
「あります! ドロー2、ウノ!」
「あるんかいっ! ワイも青ドロ2やぁ!」
追加されて8枚か……。
「八菜はあるのか?」
「……」
手札は3枚。あってもおかしくはない。そのうちの2枚を……、
「ないよ」
出す振りをした。
「なかなかの役者やな、あんさん」
八菜は山札から渋々8枚引いた。これで手札は11枚となった。
「ここから反撃してやるんだから!」
こいつ……わざと引いたみたいだな。……ん?
「どうしたんや?」
「……ほら、聞こえてこないか?」
サイレンだった。しかもこちらにどんどん近付いてくる。
「お兄ちゃん、お昼寝してたからね……。救急車行ったんだよ」
「……まぁ、ここは病院ですから来てもおかしくはないと思いますけど……、気にかかることでも?」
「いや、ないけど……」
「なら、ゲーム再開するでっ!」
何だろう? 変な気分だ。よくドラマや漫画にある、嫌な予感の兆し……。それを感じ取っているのかは分からないが、どことなく不安な気持ちになっていた。まぁ、救急車と聞いて、いい気分にはならないけど……、本当に変だ……。
「……」
「流さん……?」
真っ先にそんな俺に気付く真乃。俺に纏わり付く雰囲気を感じ、眉を寄せていた。
「あぁ、悪い。……俺の番だな……って、どうしてドロー4を2枚使ってんだっ! ……色は?」
「赤!」
「なっない……」
「ごめんね、お兄ちゃん。八つ当たりってやつだねっ」
「ふざけんなあぁぁっ!」
結局、俺も山札から8枚手札に加えた……。
「それじゃ、一足先に帰るね」
「あ、あぁ。気をつけて帰れよ、八菜」
「勝負はおあずけにしたるっ! 次に会うたら、こてんぱんに叩きのめしたるからなぁ!」
「じょうとおっ! 棗先輩は私のライバルとして認めてあげようじゃないの! じゃあね!」
「おとといきやがれ! ……まったく、減らず口たたきおって」
「……結局、勝った回数で、流さんがビリですか……。珍しいですね」
「全てはあいつのせいだ! スキップだのドロー4だの連発したから……」
「あはは……、でも……」
「……だか……」
「…………」
「……」
「……」
「……はぁ。わたしも何やってんだかな……」
「あ、やぁちゃん」
「ひぃちゃん……。どうしてここに?」
「それが……知り合いが救急車で運ばれたらしくて、急いで来たんだよ」
「知り合い? それなら早く行きなよ? 遅れるとまずいでしょ?」
「でも、受け付けの人に聞いたら面会はできませんって……」
「そりゃできるわけないでしょ? 早く来すぎっ。明日にでもまた来ればいいんじゃない?」
「……うん……。だけど心配で……」
「誰なのよ、そいつ? って言っても、わたしの知らない人か」
「新戸先輩だよ」
「! うそっ!」
「うん。瑠璃ちゃん先輩なんだ……」
「…………」
「どうしたの?」
「あぁ、いやいや、わたしもとりあえず知ってる人だから、驚いちゃって……」
「……瑠璃ちゃん先輩のこと……好きなの?」
「ばっ……、ばっかじゃないのっ! なに言ってんのよ! 私はお兄ちゃん一筋なんだからっ」
「分かりやすい……」
「違うって! それに、あいつのことはあんたが好きなんじゃないの! 親友から好きな人を奪うようなことはしないしっ。興味ないし!」
「……うちのお姉ちゃんも好きなんだ……」
「あぁ……えっと……礼先輩よね。確かにひぃちゃんといい勝負だわ。清楚でチャーミングで、おまけに姉妹揃ってチチもでかいし」
「や、やぁちゃん……オヤジくさい……」
「ま、せいぜい頑張んなさい。でも、お兄ちゃんは私のだからね? お兄ちゃんを狙うのは許さないんだから……」
「分かってるよ……」
「今日は引き上げましょ? 明日、暇つぶしに付き合ってあげてもいいけどね」
「やっぱり気になるんじゃん」
「今日の夜ご飯はパフェ食い放題だぁぁっ!」




