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INTERLUDE

「……それでは、皆さんに自己紹介してもらいますね」


 そいつは急にやって来た。


「え! いきなりぃっ?」


「ほら、頑張ってみて!」


 このクソ暑い夏の頃、しかも夏休み前だ。そういうのって、普通は休み明けにやらないか? オレはそう思う。


「センセェ、なかなかのキチクやわ〜!」


 しかもそいつは、緊張感の欠片もなかった。お喋りな関西弁で、見た目はかなりのお調子者。薄紫のワンピースに露出した程よく日焼けした肌に、おかっぱ気味の頭、紫のリボンが巻いてある麦藁帽子を頭の後ろに掛けていた。


「じゃあ、皆に自己紹介しない? 名前も忘れるかもよ? 夏休み入るからね」


「うっ……! わぁーったよ、しゃあない」


 ぴょんっと跳ねて、オレらに向いた。


「ワイの名前は奈多弓 棗! 趣味はお喋りとケンカ! 信条はケンカは素手でタイマンやねん! 運動神経バツグンやでぇ! よろしくなぁ!」


 一体何なんだ、こいつ……。がき大将みたいなやつが来たな……。


「はい、それじゃあ棗ちゃんは……ロンリーウルフ君の隣でいいわね?」


「!」


 よりによってオレの隣かよ!






「やぁ〜、悪いなぁロンリーウルフ君。これからもよろしくなぁ」


「あ、あぁ。オレは前橋 透気だ」


 オレは前橋まえばし 透気とおき。ごく普通の小学6年生だ。そんで、オレの席の隣のこの麦藁帽子の女の子がさっきのだ。


「転校初日からぶっ飛びすぎだろ。なんだよ、カッコつけた不良みたいなキメゼリフ」


「いやはや、いきなり厳しいツッコミやなぁ……。あれはボケや。堪忍してや、とおやん」


「しかも馴れ馴れしすぎ!」


「だって、こういうんは近くの人から馴れ親しんだ方がクラス制覇に近道やろ?」


「……三國無双じゃねぇんだからよ……」


「まぁ、ワイはお喋りやから、日が経てばいつの間にか友達できとるわ」


「はぁ……」


 確かに、話しやすいってーのはあるな。関西人だからかも。

 朝の会が終わって、授業になった。


「んじゃ、始めるよ。号令!」


「きりーつ、れーっ、ちゃくせーきっ」


 授業始まった……。あぁ、めんどっちー、


「……」


「…………」


 待てやこらぁぁぁっ!


「おめーはなに、いきなり居眠りぶっこいてんのっ?」


「ん、いやぁな、昨日は夜更かししてしもーて……眠いねん」


「どんだけだよ!」


「ロンリーウルフ! うるさいぞ!」


「いや、違うって先生! 奈多弓のやつ、いきなり爆睡してんだけどっ!」


「そっとしときなよ。女の子にはなぁ、それなりの事情があるのっ。クウキヨメバカヤロー」


「えぇっ?」


 先生、キャラ変わってる……。いつもなら真面目でちょっと間抜けなのに……。絶対に“クウキヨメバカヤロー”なんて言わねぇ。どうしてだ? ……まさか……。


「すぴ……すぴ……」


「……」


 まさかな。こんなヨダレだらだらしてアホみたいなやつのせいじゃ……って、


「おい、お前の教科書、きたねーぞっ! せめて教科書しまえし!」


「うるさぁぁぁいっ!」


「!」


 オレの頭の上を、何かが通り過ぎた。……確かに通り過ぎたよな……? おそるおそる後ろを見ると……、


「……」


 白チョークが……粉になってる……。んなアホな……。どんだけ強い力入れたんだよ。チョークで人殺せるぞ……。恐ろしすぎる。逆らっちゃダメだ……。殺される……。


「それじゃ、気を取り直してやるよ」


 それからというもの、オレの生活は一変した。

 具体的に言うと、まず朝は、


「おっは~、とおやん!」


 登校はこいつと一緒に行くようになり、学校では、


「まったくこれだから情けないぜ! オレの生き様を見よ!」


「なはは~!」


 オレまでお喋りになって、下校は、


「帰るで、とおやん」


 何事もなかったかのように一緒に帰る。今までは特に目立つこともなく、ツッコミ専門として話をしてきたが、夏休みに入るまでのわずか数日でボケまで使いこなすようになってしまった。それはオレの性格が変化してきた証拠かもしれない。……学校ってこんなに楽しかったんだ……。


「ん……んぅ~! 今日もいっぱい暴れたなぁ!」


 今はもう夕方。夕日が超まぶしいけど優しい感じ。暑いし、汗びっしゃだけど、気持ちよくてスースーする。セミもみんみんうるさいけど、オレらのほうがうるさい。とにかく全部が新鮮な感じがするんだ。

 オレらは帰り道を歩いていた。右に道路があって、左に家が道路に沿って並んでいく。


「どったん? ぼーっとしよって」


「今日で学校終わりだぜ? 小学生最後の夏休みだと思うと、さびしい気がするぜ」


「なぁに年寄りくさいことぬかしよる?」


 奈多弓は歩道と道路をさえぎるブロックに乗った。両手でバランスをとりながら歩いていく。


「中学生になっても高校生になっても大学生になってもあるやんか」


「そりゃそうだけどよ」


「そうや。夏休み入ったらプールとか花火大会とか行こな」


「ダイスケとかハルナとかと一緒に行こうぜ!」


「そらあかん!」


 ブロックからジャンプしてオレの前に降り立つ。しかも顔近づけて……、はずい!


「な、なんでだよ?」


 その時だった。急に静まり返って、セミが鳴かなくなった。しかもなんとなく寒い気がする。……夏なのに?


「なっ奈多弓、なんか寒くね? 氷河期の再来っ?」


「……」


「そりゃ現代社会は氷河期なみの冷たさだけど、それより寒い気がするぜ!」


「……」


 何よりも、奈多弓が喋らなくなったことが、ちょっと怖かった。


「なんかしゃべれよ、奈多弓? 夏だからって下校中のきもだめしはまずいって……」


 一体どうしたんだ……? しかもオレを無視して先に行くし、どうしたってんだよ。もしかして、人見知り? そういや、知り合ったのオレくらいだしな。そうか、怒ってんのか。……でもなぁ……。


「奈多弓、クラス制覇目指すんじゃ、」


「ダイスケ連れてきたら……」


「……あ」


 やっぱり嫌だったか? 意外と人見知りだったんか。


「とおやん死ぬで?」


「……は?」


 何だそれ? 新しい断り方か?


「おいおい、いくらダイスケとかが嫌だっつてもな、それはひどすぎじゃね? あいつはオレよりおもしろいヤツだぜ? 奈多弓だって気が合うよ!」


「……」


 またこいつは無視して先行きやがって……!


「おい、いい加減に、……!」


 腕をつかもうとしたオレの手が、逆につかまれた。


「……」


 なんか……、やっぱ怒ってんな……。めっちゃにらんでるもんな、って、いてぇし!


「いてぇよ、奈多弓!」


 オレはふりほどいた。……うわ、まだじんじんする。


「!」


 な、なんだ、こいつの目……? なんかこえ~よ……。


「私ね……」


 わ、“私”? こいつ、関西弁じゃなかったんかよ?


「あなたに死んでほしくないの。分かって……?」


「……」


 声もちがう……。大人の女っぽい。それにすごく真剣だ。なんか信じても……いやいや、こんな占いみたいなの、売れない予言者みてぇじゃん。……けどなぁ……。


「……」


「……!」


 もしかして……、


「お前、名探偵〇〇〇かっ!」


「……え?」


「さては黒ずくめの男に毒もられたんだろ!」


「……」


 キョトンとしてオレを見る。その時はいつもの奈多弓のような気がした。


「……ふふ」


「?」


「あははは」


「なっ!」


「あははははは……ははは……!」


「なんで笑うんだよ! バカにすんな!」


 なんかむかつく! でも、……すごくかわいい。やば、はずい!


「あなたは大切な人なの。でも恋人にはなれない。ごめんなさいね」


「こ、恋人っ?」


 な、何言ってんだ、こいつはあぁぁぁぁっぁ!


「でも……親友になって。お願い……」


 その後に話をしてくれた。どうやら親の仕事のせいでいろんなところに転校してるらしい。だから友だちも満足に作れねんだと。なんか……フクザツだぜ……。


「そんなん当たり前だぜぃ! 奈多弓が転校してもオレらはずっと親友だ! 中学高校全部おんなじとこ行こうぜ!」


「……!」


「男が約束を守るときゃ、指きりって決まってる! ほら、指きりしようぜ!」


「……うん!」






「どったん? ぼーっとしよって」


「今日で学校終わりだぜ? 高校2年生最後の夏休みだと思うと、さびしい気がするぜぃ」


「それは最後とは言わんけどな……。なぁに年寄りくさいことぬかしよる? 四、五年にくらいはあるやんか」


「そりゃそうだけどよ」


「そうや。夏休み入ったらプールとか花火大会とか行こな」


「そうだな。陸奥実とか東條とかと一緒に行こうぜぃ!」


「……」


「どうしたんどよ? まさか、また人見知りかよ?」


「……」


「って、陸奥実とか東條は慣れてんだろ?」


「そうだけど……今年こそ私は、」


「緊張するとすぐ大人ぶるんだから、いい加減にしなさいよ! いつまでヒッキーになるつもりっ? お母さん心配だわ!」


「誰がお母さんよ……? ……ねぇ、とおやん、いい加減に付き合ってよ……?」


「だからダミだっつーのっ! 猛烈なラブコールは男冥利に尽きるけど、お前が言ったことだぜぃ?」


「そんなの、小学生のときのやつでしょ? どうして真に受けるの?」


「男が約束したことだぜぃ? そう簡単にゃ破れねぇってもんよ! なに陸奥実&東條カップルと新戸&部活の先輩カップルに触発されてんのっ?」


「触発なんてされてないっ! ……あの時からなの……。それともやっぱり私のこと、嫌いなの……」


「……」


「……どうなの?」


「……あぁ、嫌いだ」


「……そう……」


「異性の親友としては大好きよ? でも恋人としては好きじゃない。特に今の奈多弓は……好きじゃない」


「!」


「何を悩んでるかは分かんねーけど、その悩みをスッキリさせてからにしよーぜぃ?」


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