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十一悔目「流動」

「いいかあぁっ! てめぇら! 今日は死んでも勝つぜいぃぃっ!」


「うぉぉぉっ! 俺の魂燃えろおぉぉっ!」


「絶対勝ちますっ!」


「バスケも野球も勝つでえぇっ!」


「みんな……燃えてるな……」


「それはそうですよ。球技大会ですから。陸奥実君は何に出るのですか?」


「どっちもだ。確か野球は5回まで、バスケは8分を二回やるんだったよな?」


「はい。トーナメント式ですが……間に合います?」


「試合は最初と最後なんだよ。大丈夫だろ」


「むつみゃあぁっ! メンバーは心配すんなっ! コールドゲームにしてやるぜぃっ!」


「とりあえず落ち着け、とおちゃん! 試合まだだから!」


「開会式はカットだとよ。だからもう始まるぞ」


「……今は8時57分です」


「なにぃっ! あと3分っ? 朝山っどこでもドア!」


「お前は地獄に行けっ!」


「ほら、しょうもないネタやっとらんで行くでっ!」


「あと2分です」


「とおちゃん早く!」


「待てっ! 忘れもん! あの秋の日の、」


「サンマ食ってただけやんっ!」


「サンマだけに飽きがこない」


「秋こないんかぃ!」


「なんだかんだ言って棗さんはツッコミ入れてくれるよな」


「……僕らだけでも行きましょうか」






 文句なしだった。


「よっしゃあぁぁ! てっぺん目指して勝つぞぉっ!」


 雲一つない青空。すぅっと吸い込まれそうで身体が軽くなる気がした。そこに蝉たちが声を掛け合っている。それは高かったり低かったり、濁っていたり澄んだりしていて歌っているようにも聞こえる。バックサウンドとしては最高だ。しかもじめじめしていない。風が吹くと肌に爽快感をあたえてくれた。いかにも“夏”を表していた。

 そして今日は、



おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!



 球技大会だ!

 グラウンドには少年サッカーで使うコートより少し広いのが三面ある。体育委員やらサッカー部やらが走り回って準備をしていた。サッカー部は各コート三人が審判をしてくれる。


「いいか? もし審判が邪魔になったら、ロングパスのフリして顔面を狙えっ……!」


「って馬場君、それは反則以前の問題ですよ」


「審判は味方につけるか消すかだ。手段は選ばん!」


 チームに一番迷惑かけそうなタイプだ……。

 全部で15クラス。先生のグループも混ざるので16となる。大会初日の22日は準決勝まで試合をする。しかも二つの競技があるものだから、てんてこ舞いで運営しなければならなかった。

 サッカー第一試合は2‐A対3‐E。2‐Aチームが降り立った。その中に陸奥実君と前橋君がいる。馬場君と藤野君は後半で僕はバスケなので一緒に応援しよう。


「やっつけろぉっ! ぶっ殺せっ!」


「やっつけろぉっ! ぶっ殺せっ!」


「やっつけろぉっ! ぶっ殺せっ!」


 応援にしては酷すぎ息合いすぎ……、


「コロコロまーえばしぃー!」


「グラコロまーえばしぃー!」


「ピッコロまーえばしぃー!」


 応援じゃないんですか?


「てめぇぇらあぁぁっ!」


 あんな遠くからでもはっきり聞こえるなんてさすがだ、前橋君。


「それぞれの方たちにあやまれえぇぇっ!」


「そっちかよっ!」


 いつになっても微笑ましい限りだ。ただ、先生に注意されたのは言うまでもない。


「新戸くん、バッチ、フジーニョ」


「はい」


「ん?」


「おぉ……」


 奈多弓さんが来た。


「どや? えぇ感じやろ?」


 なぜ黄色と白のチアガールの衣装に……? しかも麦藁帽子を首にかけて……。二人は涙を流していた。下心がまる見えです。とりあえず僕はツッコミしないで無視する。


「本格的ですね」


「当たり前やねんっ。応援は死ぬ気でやらんとあかんやろ……?」


「自分に向けられてる視線が気になりません?」


「うーん、そんなん気にしてたらキビしー現代社会で生き残れへんで」


「……」


「ってちゃうがな! ワイが言いたいんはちゃう……ぐひひひ……」


 眼がつりあがって下卑た笑み……。


「実はなぁ、あとから知ったんやけど、もう一種目あるねん。明日やるらしいんや……」


「でも明日は準決勝と決勝がありますけど」


「ちょっとした余興やと思うわ」


 余興なのに変に力が入っているのは気のせいだろうか?


「わかってますよ。僕に出てほしいのですよね?」


「空気読んでるわぁ!」


 ズビシッ、と指を差された。


「生憎ですが、僕はバスケに出る予定ですから。他の方にお願いしてください」


「なんやてぇ……。しゃあない、奥の手や」


 奥の手が早い。

 片手を挙げた。


「真乃やあぁん、カムヒアァッ!」


「ここにいますよ」


「そこちょいとノッてくれや……。恥ずいねん」


「……」


 フォローしようがなかった。

 東條さんもチアガールだった。この二人に狙われたら恐ろしく嫌なことが起きそうな気がする……! 


「頼むわ」


 肩をぽんと叩く。


「はい。……えっとですね、」


 メモ帳? しかもかなり使い込んでいる。


「新戸君は……これ言っていいんですか? ちょっと放送コードに引っ掛かりますけど……見ます?」


 僕と奈多弓さんと馬場君と藤野君は……、訂正、僕と奈多弓さんはメモ帳を見せてもらった。


「うわぁ……、新戸君って顔に似合わず、あんなことやこんなことまでやってるっちゅうんか?」


「根も葉も無い噂ですね。というより、こんなことしてないですっ!」


「あんなことは?」


「してませんよっ!」


「へぇ〜、あんなことやこんなことって、例えば何ですか?」


「えぇっ! ……それは……」


 改めて言われると……、って真に受けては駄目だ! 女の子が聞いていいことではないと思う。そういうのは流れで判断してほしい……。


「……知りたければ前橋君あたりに聞いてください」


「にいどぉっ! そのくらい自分で説明しろぉ!」


 どうして聞こえるのですか? それにしてもまだ試合やらないのか? もうとっくに開始時間を過ぎている。


「あらあら? ということは新戸くんは知っとるんやな〜。お年頃やねんな」


「男の子だからしかたないですよ」


 のほほんとフォローするなっ。もう……駄目だ……。


「失礼しますっ」


 逃げ出した。


「あっ! 待て!」


 全力疾走した。二人は持ち場を離れられず捕まえそこねたのか、舌打ちが聞こえた。観戦したいが、身の安全が優先だ。


「……さて」


 汗がひどく滴る。走ったせいだ。……タオル……ない……。取りに行こう。

 誰もいないことを確認し、校舎に入る。下駄箱で上履きに履き換えると階段を上っていった。そして自分のクラスに着く。中に入る前にドアから、


「……!」


 誰かが既にいるのが見えた。

 窓際にある大きめの石油ストーブに座って校庭を眺めている。膝を立てて、そこに肘を立てて頬杖をついていた。女子……みたいだが、背を向けているのでわからない。制服着ているから見学だろうか。……確か僕のいるクラスは見学者はいないはずだが……。

 僕は普通に開けた


「…………誰?」


 彼女はふとして振り向く。瞳は……死んでいた。


「……っあ!」


 僕を発見するや、蘇る。


「……何でここにいんだ?」


「それはこちらの台詞ですよ、木村先輩……」


 がいた。教室は密閉していて蒸し風呂状態だった。こんな中にずっといたのか? 自殺行為だ。


「窓開けましょうよ」


 急いで全開にする。夏の風が教室内を吹き抜けて、あっという間に和らいだ。

 木村先輩を見ればやはり汗だくになっている。僕は閉め切っていた理由については聞かないことにした。


「今日は球技大会ですけど……見学ですか?」


 未使用のタオルを差し出す。恐る恐る受け取って拭き始めた。そして首にかける。


「体調不良だよ。……だりぃ」


「それはこんな暑いところにいたのでは熱中症になります。水を飲んだ方がいいですよ」


「うっさい」


 頬杖から体操座りになる。拗ねた子供みたい。でもどこか淋しげだった。わかっている。


「……若海先輩はどちらにいますか?」


「病院。まだダメっぽい」


「……」


 礼香さんを心配している……。


「心配すんなよ! 立ち直ってやってくるさ」


「そうだといいのですが……」


 僕はむしろ今後が心配だった。嘘発見機のような男に目を付けられてしまったのだ。もし不信感を抱かれてしまったら一筋縄ではいかない。これから彼女に安寧の日々が訪れるのかどうか……。

 僕としては雛さんとの姉妹関係に衝撃を受けていた。人を嫌う礼香さんのイメージが全くない。ましてや自分が嫌いな嘘をついてでも妹を嫌うなんてありえない。誰にでも優しい礼香さん……ではなかった。正直、以前のように振る舞うには多少の時間が必要だ。

 今はお互いにそっとしておくしかない……か。


「あぁぁっ、もおぉ! 男のくせにウジウジすんなっ! イライラする!」


 無理が垣間見える。


「いつもではないですか」


「なにを〜!」


 例の両拳で頭をぐりぐりする攻撃……痛い……!


「……さて、どうしよっかね」


 味気なさそうに外を眺めた。試合の状況は全然わからない。前橋君がいるから大丈夫だろうけど。


「……」


「そういや何でここに来たんだよ? 球技大会出ねぇのか?」


「……タオルを取りに来ました」


 いきなりかぁっと顔が赤くなった。なぜ? しかも貸したタオルを僕の顔に投げ付ける。痛い。


「ばかっ!」


 ……よくわからなかった。


「新戸、保健室行くぞ!」


「? なぜです?」


「……涼みにっ!」


 礼香さんはいないのか……。

 づかづかと早足で出ていった。。






「あら、そらちゃん! あたしのために遊びに来てくれたんだ」


「だから“くう”だっつってんだろ、秋間! しかもお前に用はない!」


「相変わらずツンツンしてる。ホントに生意気ね〜。どこかの誰かさんがいないと淋しいから来たんだよねー?」


「なんかぶっ飛ばしてえ……」


「逆効果ですね。熱くならないでください」


 否定しない木村先輩はまだ顔が赤かった。

 このやけに人をからかう人が保健室の先生の秋間あきま 花火はなか先生だ。保健室の先生というとたいていは大人の女性を連想するが、ここではむしろ逆だった。見た目はかなり幼いし背も150あるかないか……。暗めの茶髪で前髪はパッツン、後ろ髪は名前のように花火が咲いてるようだった。

 彼女は僕に目を向けた。さきほどからちらちら見てきていた。


「新入りさん?」


「えっと……、2‐Aの新戸 瑠璃人と言います。よろしくお願いします」


 確かに健康診断以外では初めてだ。


「何だよ新入りって……。バイトじゃないんだからよ。あと、この変態ヤローに自己紹介すんなよ。うちの学校は怪しいのが、」


「黙れ」


 先生……点滴の針を首に突き付けるのは止めましょうよ……。


「よろしくね、……瑠璃君……でいっか。……カッコイイ名前ね〜」


「はっはぁ……」


「秋間の方がいいと思う」


「……刺身にすんぞ」


 今のは褒め言葉のような気がするのだが……。しかもまだ針を突き付けてる……。

 ぱっと解放する。


「さて、女装しましょっか」


「……は?」


 壁一面を占める巨大クローゼット。ここにはあまりにも不似合いだ。でも、健康診断の時はなかったような……。

 中にはびっしりと服が……しかもコスプレ用のが……たくさん……。奈多弓さんたちのチアガールの服はここからか。女装の趣味があるのか……いや先生は女性だからコスプレということになる。なるほど……いや、納得してる場合ではないっ!


「そろそろかな?」


「……?」


 僕らの入ってきた扉から誰かが入って、


「ここで会ったが三年目です!」


「覚悟せぃ、新戸 瑠璃人ぉ!」


 ってなぜ二人がここにっ? どうやってここに来たのを知った?


「……」


 そういえば木村先輩は知らない。


「えっとですね、こちらの麦藁帽子の方が奈多弓 棗さんで、そちらの長髪の方が東條 真乃さんです」


「どうもこんにちは」


「ってあんたはプロデューサーかぃっ!」


 力強いツッコミありがとうございます。……確かに痛い。


「そしてこの方は僕の部活の先輩の木村 空先輩です」


「律義にどーも」


 他人には無愛想。でも打ち解けるのは早い。

 二人はなぜか僕にでなく木村先輩に何か耳打ちしている。


「……えーっと、つまりお前ら三人は新戸にコスプレしてほしいと?」


 三人って秋間先生も? しかも木村先輩が僕の保護者っぽくなっている……。


「空先輩、必ず屈服させるんで大丈夫です」


 大丈夫じゃない……。


「期待に応えたるさかい」


 誰も期待してないっ。


「…………気持ちはわかるけどよ、勘弁してくんねーか?」


「……!」


「なんでやねん!」


 木村先輩……。少し感動、


「こいつ、婿入り直前だから」


「……え?」


 できないっ!


「本当ですか?」


「すました顔してやるじゃないっ」


 何言ってんですかぁっ!


「簡単に信じないでくださいよっ! 僕は16歳ですよ? 法律違反ですし!」


「恋愛には障害はつきものさ」


「恋愛以前にあなた方が障害ですけど! しかも秋間先生、恥ずかしくないですか?」


「ちょっとだけ」


「あんさんは面倒な男やなぁ! 男は気合いとノリで決まるんやで!」


「時には慎重にならないといけませんよ」


「うわ。ワイには素でツッコミ入れたわ……」


「私的には新戸さんの恋愛は興味ありません」


「そうですか。もっともしていないですが」


「相手が気になるだけです」


「思いっきりホームランですっ!」


「……とにかく、新戸のコスプレは断念しろ、三人とも」


「すみません。その前に婿入り直前というのとその他を却下してください」


「……ったく、しゃあないわ。……実はなぁ、サッカー負けたんや」


「えっ! ……そうですか……」


「バスケは優勝するとして、女装コンテストで優勝せなあかん」


「そうしないと総合優勝はほぼないと思われますっ」


「総合優勝? 何ですかそれ?」


「三つの結果を総合して優勝クラスを決めるんや」


 なぜ“球技”大会なのに……。


「せやからコンテストに出てぇなっ!」


「……しかし、僕はバスケが、」


「掛け持ちオーケーですけど、汗をかかれるのは困ります。メイクができません」


「……他の人はどうなのですか? 陸奥実君あたりは駄目なのですか?」


「むっちゃんはダメや」


「? なぜです?」


「……あんさん、空気読めや……」


「……?」


「とにかく新戸、出ないと総合優勝は無理みたいだな。まぁ、あたしは関係ないけど」


「……それでも納得いきません」


「空先輩、クラスはどちらです?」


「……3‐Eだけど?」


「サッカー優勝クラスやないかっ!」


「……!」


「そうなんだ。バスケもやる気あるのいるみたいだし、優勝はあたしらのもんだな!」


 ……それは……、


「木村先輩、それはありませんよ」


 僕が、


「2‐Aが勝つので」


 許さないっ!






「ん〜、クールな瑠璃君はメイドとかチャイナは似合わないねっ」


「そうですか? メイドはポイント高いと思うんですけど……」


「今大会は意外性も加味されとる。メイドなんかありきたりやないかぃ」


「とすると……ゴスロリあたりか?」


「それはこってりしすぎない? バニーさん……もキツイわね」


「そや! 教師はどうやっ? 黒タイツとミニスカ、ワイシャツで指示棒持たせんねん! クールなイメージもピッタリや!」


「ただ、胸がないですよね」


「……それは……言っちゃダメだろ」


「じゃあ……着物は?」


「着物は男でも着るやつおるやん」


「でもですね……、リボンとか着ければかわいいと思います」


「クールか……。意外に難しい」


 あーだこーだと議論と実証を繰り返していく。ノリで決めてしまったが、やはり陸奥実君にやらせた方が確実だと思う。……本人にしてはコンプレックスだから出たくないのだろう。それより、なぜ木村先輩が手伝っているのだろう?

 そして数十分後…………。


「よし! 決定!」


「すぐに手配するわっ!」


「凡人どもにワイらのテクを見せたるわぁ!」


「頑張ってくださいね、新戸さん!」


 最近こんな感じのが多い気がしてならない。


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