あの日、異父妹の存在を知った日
語り手は成人するまでアヤカという名前でしたが、家を出てティルに改名しています。
回想アヤカ=現在ティル
細かい説明はシリーズの先の話にあるので省きますが、なんかそういうもんなんだなあと思っていただけると助かります。
「アヤカ、君には異父妹がいるんだよ」
父からそう聞かされたのは、五歳くらいの頃だっただろうか。
伯父の家に従兄弟が産まれ、祝いを届けに行った帰りだったはずだ。新生児は小さくてふわふわで、とてもかわいくて、我が家にも赤ちゃんがいたらなあ…と呟いた私に、ちょっと困ったような顔をして教えてくれたのを覚えている。
「ほんと?おじさまのとこのふわふわの子みたいな?」
「……うーん…そこまでは小さくないかな…」
「そっかぁ…ふわふわでぷにぷにの時に会いたかったなあ…」
「多分、アヤカと一歳くらいしか違わないから、我が家に居てもふわふわの赤ちゃんを見るのは難しかっただろうね」
そうなんだ…残念。と馬車の座席お行儀悪く足をぶらつかせる私に、父は悪戯っ子のような顔をして更に教えてくれた。
異父妹がとても綺麗な金髪をしている事を。
「そっか、だからお母様は最近私とあまり会わなくなったのね?」
私は結構早い段階で、金髪と言うにはくすんだ色である事が判明していた。髪質もしっかりしているし、ここから色が濃くなる事はあっても薄くなる事はない、と、母が残念そうに溢していたのを、その頃の私はもう知っていた。
もう少し薄ければ…という期待と、それが叶わない絶望を露にする母の姿は、普通の子供だったら傷ついたんだろうなあ、と今なら思う。
私はなんというか…母の期待からガッカリまでのタイムを計って日記につけていた。
段々早くなっていくのが面白くて……。
父にはバレていたと思う。だからこそこんな話を教えてくれたのだろう。
「そうだね、アヤカの異父妹はダイアナと言うんだけど、髪質は真っ直ぐなんだけど細くてやわらかめらしくてね、三歳くらいまであまり髪が伸びなかったみたいなんだ」
「じゃあ金髪かどうかわかんなかったって事?」
「いや、短くても綺麗な金髪だったそうだよ」
ただね、と父は続けた。
魔力を持つ人間の髪色は、魔力の性質によって変質する事がある。魔力量の多い方の親の魔力性質を受け継ぐ事が多い。
その理屈で行くと、異父妹の父は魔力が少ないため、母の魔力性質を受け継ぐ可能性が高く、髪が伸びると金髪でなくなる恐れがあった。
「長い期待の先に大きなガッカリが待っていなくてよかった」
うっかり、金髪のまま育たなかったダイアナがどうなるかを想像してしまった私は、そんな未来がなかった事に胸を撫で下ろした。
まあ、どうあってもそんな未来は来なかっただろうけど。その懸念があったから、父は調査し、確認をしていたのだろうから。
彼女が金髪のお嬢さんに育ったことを。
「そうだね」
「私が異父妹に会える日は来るかしら」
「どうだろうね…正式に我が家に迎え入れた方がいいんじゃないとは話をしているんだが…頑なに拒まれていてね」
当主である母が同意しないのでは、会う事は難しそうだ。
でも、いつか会えたら仲良くしたいな。
***
「そんな事を思っていた日もありました」
「突然どうしたのティル姉さま」
おっと声に出ていた。
長椅子に並んで座っているダイアナに不思議そうな顔を向けられて、苦笑を返す。
今、私の腕の中にはかわいい姪っ子がいる。
ふわふわであったかくて、まだ生後数ヶ月だと言うのに綺麗な金髪が生えはじめている。
「ダイアナの事をね、父に教えてもらった時の事を思い出してたんだ」
「ご存知だったんですか…と言うのもおかしな話ですね、家政と情報部のとりまとめを担ってた方が知らないはずもありませんものねえ…」
色々あって我が家を継いだのはダイアナだから、言葉に実感がある。
うまくやってくれてるようで何よりだ。
「もうちょっと年齢が離れてて、早いうちから我が家で育ってたなら、こんな頃のダイアナのお世話とかできたのになーって、思ってたんだよねあの頃」
「ヒェ…!」
姪っ子をゆらゆら揺らしながら呟いたら、ダイアナの方から変な音が聞こえた。
隣を見ると、ダイアナが口元を押さえてうつむいている。
「?ダイアナ?大丈夫?」
「あ、大丈夫なのでそのままでお願いします、ちょっと想像して動悸が危険だっただけなので」
「…?わかった」
わからないけど大丈夫ならまあいいか。
「でも、赤子だった頃はともかく、ある程度育ってからのダイアナをちゃんと我が家で育てようと言う話を、母が頑として受け入れなかったのは残念だったな…」
なんでだったんだろうなあ、と漏れた言葉に、ダイアナが一つため息をついた後、冷えた声で教えてくれた。
「お母様は私達をこの家に連れてきた時に『夫と娘を家から遠ざける事ができたから、ようやくダイアナを家に招き入れられるわ!妬んで虐げられたらたまらないものね!』と言ってたから、提案を曲解してたのでしょうね」
「あー………本当に私と父に興味がなかったんだねえ」
妬んで虐げる、か…そこまで母の愛を求めてると思われたのかな?私から母に会いに行った事もほとんどないのになあ。
なかなか冷めているとは思うが、貴族の家であればそう珍しくもない話。
しかし、母が自分の感情の尺度で見た世界ではそういう懸念があったんだろうな。大変そうな世界だ。
「まあ、過去はどうあれ、私はかわいい姪っ子をこうやって構えて幸せだよ、色々とありがとうダイアナ」
「私も幸せなのでお相子です」
笑顔を向ければ、ダイアナからも笑顔を返して貰える。うん幸せだな。
もう少し姪っ子を抱えていたい所だけど…そろそろかな、と思ったタイミングで部屋の扉をノックする音。ダイアナ返事を待って入って来たのは侍女のローリだ。
「団欒中申し訳ないのですが、そろそろお時間です」
「わかった、じゃあ私は帰るね、今日はありがとう」
姪っ子をダイアナの腕に返し、席を立つ。
「次回はまた納品の時に」
「えぇ、気を付けて帰ってね」
「ふふ、転移陣ですぐだけどね」
「様式美というヤツです」
顔を見合せて笑った後、私はダイアナの寝室からドア一枚隔てた侍女の待機部屋に入る。
今の自宅からの直通転移陣をここに置かせてもらっているのだ。
もっと頻繁に来たい気持ちはあるが、お互いに仕事のある身だし、うっかり母と遭遇すると面倒なので、来ても大丈夫な日時を打ち合わせてから来ている。
あの日、異父妹の存在を聞かされた日に漠然と抱いていた望みは、概ね叶っている。
うん、予想もしてなかった幸せだけど、これはダイアナが努力してくれたおかげでもあるんだよね。
彼女と、彼女の家族に報いるためにも、お仕事がんばりますか。
金髪家族が増える第一歩。




