回顧 ――高校一年生 夏―― 3
と、いうことで。
俺の毎日の行動が、だいぶ制限されるようになりました。
それを知ったのは、翌日の放課後。
「あ、来た来た~。遅いわよ、間宮くんってば」
最後に星やハートが付いちゃうんじゃなかろうかと思う口調で、瀬田(生徒会長と分かっても脳内呼び捨ては継続)がカウンターで俺を呼んでいた。
あぁ、図書館縮小案とかなければ、ホンキで知らない振りして通り過ぎたい。
ぶっすーとした顔のままカウンターに近づくと、そこには女の人が一人、瀬田の変なノリにも表情一つ変えずに座っていた。
「先輩待たせるなんて、悪い子ちゃん」
「……その言葉遣いしてる間は、あんたを先輩と思わないことにする」
さすがにイラッときた俺は、え~、ひど~いとかほざいている瀬田を睨みつける。
瀬田は何にも気にしないような顔でニコニコと笑うと、カウンター内にいる女の人に視線を移した。
「こんな後輩だけどよろしく頼むよ」
「あんたに言われたくない」
「まぁ生意気。でもその顔で言われても可愛いだけね」
なんで俺に話す時だけ、その口調なんだよっ。
そう思ったものの何言っても無駄な気がしてきて、女の人の方に視線を移した。
「彼女のこと、間宮くんも知ってるでしょ?」
――
小さく頷きながら、口を噤む。
うん、知ってる。
同じ図書委員会の、ヒト。
けどすみません、名前を存じません。
瀬田はニヤニヤ笑いながら、女の人に俺を指差しながら話しかける。
「ね、この子知ってるよね?」
その人は少し首を傾げて、軽く握った右手を口元に当てた。
「図書委員会の一年なのは知ってるけれど。ごめんなさい、名前までは分からないわ」
めっちゃ無表情で、あっさりと言ってくれました。
ごめんなさいとか言いながら、表情は言ってない!
いや、俺も知らないけど一応知ってる振りくらいはしてよ!
瀬田はニヤニヤ笑いを本格的な笑いに変えながら、カウンターに寄りかかった。
「なんてお似合いなお二人。という事で、彼女はとーこさん。こっちは要」
「苗字は?」
俺の疑問を一緒に、とーこさんが瀬田に聞き返す。
「っていうかさ、手っ取り早く仲良くなる手段にさ。名前呼びって含まれると思わない?なので、会長命令。とーこさんと要で呼び合ってみましょう」
「あんた、馬鹿?」
つい漏れた俺の言葉に、瀬田の拳骨が落ちた。
「痛いっ! あんた何をっ」
「先輩にあんたとか馬鹿とか、どの口が言うのかな? ん?」
ほっぺたを抓られながら俺に迫ってくる瀬田を、思いっきり押し返す。
「変でしょ、ここでそんな呼び方してたらっ」
クラスメイトでもあるまいし、勘繰られるって。
ね? と、とーこさんを見ると、ゆっくりと頷いた。
「会長、いい加減にしないと本当にこの子に嫌われるわよ」
――この子
その言葉に、ピクリと眉間に皴がよる。
いや、確かにね。後輩ですけど。
去年まで中学生やってましたけど。
こっ……この子は、ないんじゃないでしょうか? とーこさん。
ひきつっていると思いつつ、とーこさんに笑顔を向ける。
「要でいいです、俺もとーこさんって呼ばせてもらうんで」
なんか下に見られた気がして、嫌。
身長低いから、余計にそこは刺激しちゃいけない部分なんですよ。とーこさん。
「あはは、年下コンプレックス~」
面白そうに笑う瀬田の足を、横から蹴り飛ばす。
ぶちぶち文句を言い始めた奴の言葉を聞き流し、了解を求めるようにもう一度名前を呼んでみた。
とーこさんは、困惑したような……って思えばそう見えるかな? 程度の変化しか見せない無表情で、小さく首を傾げる。
「ねー、とーこさんもいいでしょう? 要もこう言ってるんだしぃ」
「あんたが俺を、呼び捨てするな」
「二人だけなんてずるいじゃん、ねー? とーこさん」
とーこさんは瀬田の言葉に眉を少し顰めてから、まぁいいわ、と呟いた。
「あなたがそれでいいなら。要くんね、よろしく」
少し綻んだ口元に、思わず目が惹かれたのは言うまでもない。
――いや、まったくの無表情が少し崩れたから見ただけだよ?