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回顧 ――高校一年生 夏―― 1


彼女をちゃんと意識したのは、高校一年の夏休み前だった。





「あー、なんか納得」

カウンターで読んでいた本から視線を上げると、そこには見たことのない上級生の姿。

襟章を見れば学年は分かる。

俺の襟元に1-Cと刻印された襟章がついているのと同じで、その男の襟元にも2-Aの襟章がつけられている。


つんつんと立ち上がった真っ黒い髪、着崩すでもない制服。

爽やか好青年みたいなその男は、外見を裏切らない爽やかな笑みを浮かべて俺を見ている。


とりあえず顔を上げてみたものの話しかけてくる風でもないし、ただ値踏みされるようなその視線に嫌気がさして、そのまま視線を手元の本に戻した。


そんな態度が少し気に障ったのか、カウンターに肘をつくと俺の名前を呼ぶ。

「ねぇ、図書委員の間宮って君だろ? 俺は瀬田。二年の瀬田 圭介。よろしくー」

勝手に俺の手を取って、ぶんぶん縦に振るその人に、内心イラつきながらも仕方なく立ち上がった。


「なんか用ですか?」

「まーた、かわいいっちゅーか、かわいいっちゅーか」

可愛いばっかじゃないかよ。

突っ込みたいところを我慢しながら、やんわりと手を離す。


瀬田(呼び捨て決定)は、少し面白そうに口端を歪めて、ぴらりとカウンターに一枚の紙を置いた。

覗き込むと、何か折れ線グラフとデータが印刷してある。


「毎年四月からの、図書館の利用状況。ホラ見てみて、今年の利用者数、すごいでしょ」

「は?」

いきなり出された紙にただ返事を返すと、いいから見てと、指でとんとんとカウンターを叩かれた。

ムッときたけど押し付けがましいその笑顔に、仕方なくその人の指がなぞる線を目で辿る。


言われて見れば、確かに昨年と今年の利用者数には、倍以上の差がある。

うん、それは分かりました。分かりましたけど。

「それで、俺に何か?」

「そんな可愛い顔して、俺とか言うんだ。僕ってくるかと思った」

「――“俺”の、勝手だと思います」

適当な表情を浮かべながら、グラフから視線を上げる。

瀬田は、まぁそうだな、とか一人でブツブツ言いながらそれを手に持っていたバインダーファイルにしまいこんだ。


「なんでこんなに利用者数が増えたのか、調査したわけですよ」

ちょいちょいと掌で呼ばれてすごいいい気はしなかったけれど、仕方なく促されるままカウンターから離れる。

瀬田は近くにいた図書委員の子に声を掛けて、カウンター業務を頼んだ。


なんでこの人、偉そうなんだろう。

そして、なんで皆、この人の言うことを聞くの?


首を傾げながら、エントランスにある談話スペースへと足を踏み入れる。

いつも来ない場所だけに、なにかそわそわしてしまう自分が、ちょっと情けない。


談話スペースの一番奥、壁際にある椅子に座るよう促される。

言うこと聞く必要あるのかなぁ、そんなことを考えながら腰をおろして、目の前に座る瀬田を見た。

警戒心いっぱいの俺と目が合うと、瀬田は目を細めて苦笑した。


「あのね、何もとって食おうってわけじゃないから。そんな敵意をむき出しにしなくていいんだよ?」


「ソウデスカ」


棒読みの声を返すと、面白そうに肩を震わせる。

その笑いが止まらないまま、さっき紙をしまいこんでいたバインダーファイルから、少し厚みのある書類を取り出した。


「間宮くん、君が図書委員になった理由を聞いていいかい?」

理由?

「本が好きだからですけど」

それ以外に、どんな理由を言えと?


その答えに満足したように小さく頷くと、ぐるりとあたりを見渡した。


「この学校の図書館は、他に誇れるものだからね」


それは、はい。そうです。

俺がこの学校を受験したのも、この図書館が目当てです。


うちの学校は、文系に特化したカリキュラムが特色。

普通科・文系進学・外語進学に分かれていて、俺は文系進学に属している。

そして文系特化校だけあって、図書館設備が凄いのだ。

高校とは思えない。

隣接している付属大と共用だから、蔵書も高校レベルではないと思う。


図書室、じゃない、図書館というだけでも、規模の差異が分かるはず。


五階建ての図書館は、入ってすぐに広いエントランス。

エントランス脇にある、談話スペースには十セットのテーブル・椅子。

一階は雑誌や小説など、一般的な書籍。

二階は、ハードカバー系の一般図書。

三階は、図書館から持ち出し厳禁の、現代書物。

四階は、同じく持ち出し厳禁の、古書類。

五階は、自習室兼会議室


どこの大学だ、と突っ込みたくなる素敵な設備。


本好きの俺としては、垂涎の的。


入学したてで委員決めの時、立候補して図書委員になった。

そのためにここに来たと言っても、過言じゃない。

「お~い、間宮くーん」


いい感じに妄想に入り込んでいた俺を、瀬田が呼び戻した。


「そんな読書大好きな君に、なんて悲しいお知らせ」

さっきバインダーファイルから取り出した書類を、目の前に突きつけられた。


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