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回顧 ――高校二年生 夏―― 7

とーこさんが、隣を歩いている。

その状態だけ考えれば、とても嬉しいシチュエーションなんだけど。

「……」

無言のこの雰囲気は、なんだか凄くいたたまれない。

既に暗くなった校舎を出て、正門へ向かう。

そのまま敷地外にでてしばらく歩いた後、やっととーこさんが口を開いた。

「要くん。今日はこの後、用事ある?」

「え? 用事、ですか?」

家に帰るだけですが……

そう思いながら首を振ると、とーこさんは小さく頷いて駅へ向かう道ではなく横道にそれる。

それは懐かしい路地で。


「とーこさんっ、こっちって……っ」

思わず立ち止まった俺は、先を歩くとーこさんの背を慌てて追いかける。

とーこさんは俺の声に足を止めて、半身こちらに向けた。

「圭介の家、久しぶりに行かない? 要くん、ずっと来ていなかったでしょう?」

一・二歩離れたところで足を止めた俺は、とーこさんの言葉に困惑気味な視線を向けた。

「でも、瀬田は……」

こんな状態で、瀬田の家になんていけるはずがない。

さっきみたいな別れかたして、どんな顔をすればいいのか……


とーこさんは俺を見ていた視線をゆっくりと動かすと、“こっち”と道から外れて公園の中に入っていく。

「とーこさん?」

意味が分からずそれでもついていくと、一番手前の街灯の下でとーこさんが振り向いた。

以前なら、見上げていたとーこさん。

その彼女を、見下ろす。

「図書館業務がいきなり打ち切りになって要くんが圭介の家に来なくなったのは、何か理由があると思ってた。要くんのほうに」

街灯に照らされたとーこさんは、意志の強い、普段ならあまり見ない感情的な目を俺に向けていて。

「でもそれは私の勘違いだったのね。圭介が、あなたに何か言ったのでしょう?」

「え……、えと……」

じっと見上げてくるその視線に戸惑って、思わず目を逸らす。

さっきは勢いと言うか何も考えずに言っちゃったけど、とーこさんが何も知らないのなら瀬田のいないところでそれを言うのはなんか……嫌だ。

口ごもっている俺の前で、とーこさんは静かに俺が答えを言い出すのを待っている。

待ってるのは分かるんだけど……。


「その……、ごめん。とーこさん」

瀬田がどういう意図で俺にあんな事を言ったのか分からないから。

まだ、瀬田を信じていたいから。

とーこさんは片手で口元を押さえると、ふぅっとため息をついた。

「わかったわ。もう、聞かない。でも……」

「でも?」

「圭介は、要くんのこと邪魔になんてしていなかったわ。一緒にいたから、私には分かる。だから、圭介を許して?」

とーこさんの言葉に、目を丸く見開いて見つめる。

「ホントに?」

ホントに、俺のこと、邪魔にしてなかった?

とーこさんは深く頷いて、俺の言葉を肯定した。

「それに多分圭介が要くんを遠ざけようとした理由の一端に、私が関係していると思うの。だから、私から謝るわ」

「え?」

とーこさんが関係?

戸惑っているうちに、とーこさんは深々と俺に対して頭を下げた。


「嫌な思いをさせてしまって、ごめんなさい。何を言われたか私には分からないけれど、さっきの要くんの言葉を聞けば想像は出来る」

「とーこさんっ……」

慌ててとーこさんに頭を上げてくれるよう、言い募る。

とーこさんに謝って欲しいわけじゃない。

こんな姿、見たくない。

両手を握り締めて俯く。


とーこさんはゆっくりと顔を上げると、俺の頭に手を伸ばした。


「悲しかったんでしょう……?」


そんな瞳を、あなたはしていたから――

そう続けられた言葉と、頭を撫でる優しい重み。


瀬田に言われた言葉が脳裏に浮かんで。

それでも、俺を邪魔にしていなかったとそう言ってくれるとーこさんの言葉を、俺は信じたいとそう願った。

この優しい温もりのまま……



目を瞑って頭を撫でてくれるとーこさんの手のひらの重みを感じていたら、後ろから声を掛けられて内心飛び上がる。


「だから、なんで見る度いちゃついている場面かな」


振り向くと、肩で息をしている瀬田が公園の入り口に立っていた。



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