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回顧 ――高校二年生 夏―― 1

回顧――高校二年生 夏――



すぐに春休みに突入した俺は、とーこさんにも瀬田にも会わないまま二年に進級した。

伸び悩んでいた身長も、何が光臨したのかそれまで緩やかだったのに、目に見えて伸びはじめた。

百五十センチ後半だった身長は、百六十センチ後半に届く位になって。

その後もゆっくりと伸び続けているらしく、身体の間接が軋む。

それをある時ぼそりと呟いたら、今頃第二次成長かよ、と笑いやがった坂内を蹴り飛ばしたのはご愛嬌。

もうすぐ、お前の身長にとどくんだからな。



本が大好きでこの高校を選んだはずの俺は、今年、図書委員にはならなかった。

どうしても、思い出してしまう。

瀬田の、冷たい目を。


もし、会ってしまったら。

もし、冷たくあしらわれたら。


高二にもなって情けないと思うけど、それだけ瀬田の豹変した態度は俺の心に引っ掛かったまま、重石のように存在し続けていた。



そんな瀬田も会長の任期を六月で終え、今は俺らの同学年の奴が生徒会を引き継いでいる。



「間宮、お前古典の課題、何の本にするか決めた?」

夏休みを目前に控えた七月ある日の放課後、古典の教諭から出された課題プリントを見ながら、坂内がため息をつく。

文系進学は学年に一クラスしかないため、クラス替えも無く持ち上がり。

故に、相変わらず俺は坂内とつるんでる事が多かった。


二回目の席替えで目の前の席になった坂内は、文系進学のくせして古典がまるっきりダメ。

あんなに楽しいものなのに、信じられん。

俺は外を見ていた視線を戻して、坂内の手にあるプリントを見る。


「そーだなー、とりかえばや物語か堤中納言物語か。萬葉集も捨てがたい」

「あー、脳みそとろけそう。お願い、なんかオススメない?」


「おすすめぇ?」


オススメといわれても、好き嫌いあるだろうしなぁ。

「図書館行ってさ適当に選んでみるから、その中から難しくなさそうなの選んでよ」

お願いっ! と、拝むポーズで頭を下げる坂内を苦笑しながら見る。


文系進学と言うだけあって、理系授業に関しては評価は甘い。

ていうか、物理ないし。

そのくらい、理系は甘い。


が。


その代わり、文系に関してはとても評価が辛い。

特に坂内は付属大の文学部に進むつもりらしいから、内申を考えると悪い点は取れないのだ。

同じく文学部を目標にしている俺には、その心中察して余りあるけれど。


「……市立図書館とかに、しない?」

妥協点を見つけて、右の人差し指を立ててみる。

坂内は面倒そうに顔の前に挙げていた手を振った。

「なんですぐそこに図書館あるのに、市立の方にまで行かなきゃなんねぇんだよ。返すの面倒。さ、行こうか間宮」

「は? 即決かよ。嫌だよ、俺……」

掴まれた腕を振り払うと、坂内は立ち上がってため息をついた。

「お前さ、まだ割り切れてねぇの?」

両手を腰に置いて、ふんぞり返りそうな勢いで言われた言葉に、俺は不覚にも固まってしまった。


「割り切れ……て、って――」

鸚鵡返しのように呟いた言葉を、坂内は遮る。

「だーかーらーっ! まだ、カウンターの先輩の事諦めてねぇのかって言ってんの。つうか、長くねぇ?」

カウンターの先輩。

昨年カウンター業務の終了を瀬田に言われてから、瀬田にもとーこさんにも会ってない。


会いたいけれど。

気になるけれど。

小心者の俺は、瀬田の冷たい目を見る勇気が無い。

もしかしたら、態度を変化させているかもしれないとーこさんに会う勇気はもっと無い。


俺は音がするくらいぎこちない動作で、視線を逸らす。

「うるさいな……、別にそういうわけじゃ……」

「はぁ? お前があの先輩のこと好きだってこと、もろわかりだぜ? 今更だよ、今更」

「えっ?」

そうなの?

坂内を見上げると、やっぱりえらそうな態度のまま俺を見下ろしている。

「最初っから、ばればれだって」

最初……


なんでどうして、それだけが頭に回る。

坂内はため息をついて(そんなにため息ばっかついてると、幸せが逃げるぞー)、椅子に座りなおした。


「あれだけ他人の事は関係ありません、みたいな顔しといてさ。すげぇ楽しそうにカウンター業務に行ってたじゃん」

「……本、好きだから」

「阿呆。先輩に会えるからだろ? 本読みたきゃ、別にカウンターにいなくたっていいんだから。つーか、反対にそこにいなきゃいけなかったら面倒だろ?」


言い返す言葉が見つからなくて、彷徨わせた視線を俯けた。

「悪かったな、分かりやすくて」

「別に、悪かねぇよ。まぁ、先輩と会えなくなったのに、なんか理由がある感じもしないでもないけど。そこは聞かない」

「……坂内」

お前、いい奴?

「面倒だから」

前言撤回。


「たださ、お前図書館目当てでこの学校来たんだろ? なんか理由があるにせよ、それの為に好きな図書館に行かないって、お前どうよ」

どうよ、と聞かれても。

「よーするに、あれだ。間宮、お前きっかけつかめてねぇだけだから」

そういうと、再び立ち上がった。

その顔は、にやりと笑っていて。


……なんか、旗色悪い……


瀬田と始めてあった時、丸め込まれたあの話し合いを思い出して眉を顰める。


「ほら、いざ行かん! 俺の為に!!」

「っ、坂内っ?」

勢いで叫ぶと、坂内は自分の鞄だけじゃなく俺のも片手で掴んで教室のドアへと走り出した。

もちろん、反対の手で俺の腕を掴みながら。



俺、キャッチセールスとかには気をつけよう。

言葉で懐柔されすぎ……



引きずられながら、諦めの境地でため息をついた。


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