表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/28

回顧 ――高校一年生 夏―― 8


「え、なんでどーして?」


どーして瀬田の家に、とーこさん?

今日、休んでいたはずなのに、何でここで本を読んでるの?


少しだけ戸惑ったような表情のとーこさんの前まで歩いていく。

「要」

それを引き止めるように、後ろから瀬田に腕を掴まれた。

体が傾いで、瀬田に寄りかかる。

それを支えるように、瀬田の手が俺の肩を押さえた。

「俺との話が終わってないだろう?」

「え?」


この状況で、天然物の話はいいよ。

俺は、それより……

「とーこさん、体調悪いの? 今日、お休みしたって聞いたけど」

風邪ひいているとかそういう風には見えない。

大体、具合が悪かったらこんなとこにいないはず。


「要」

後ろから瀬田が俺を呼ぶのと同時に、とーこさんの右足に視線が止まった。


「足、どうかしたんですか?」


右足に足首と甲を覆う白い包帯が、ひざ掛けの端から覗いている。

ゆっくりと手を伸ばそうとしたその腕を、瀬田に再び止められた。

「捻挫。要、あのな……」

「圭介」

その言葉を、とーこさんが遮る。

二人のやり取りに何か入っていけない雰囲気が漂っていて、なんとなく面白くない。

だから瀬田の手から腕を振りほどいて、とーこさんの足元にしゃがみこんだ。

「とーこさん?」

さっきの返事を、瀬田からじゃなくとーこさんから返して欲しくて。


とーこさんは瀬田から俺に視線を移すと、右手を伸ばして包帯に触れた。

「昨日、階段を踏み外してしまったの。包帯なんか巻いているけれど、たいした事ないのよ」

そうして、少しだけ目を細める。

「本当に?」


だって今日、休んだのに。

話したくもない女の先輩と、いる羽目になったのに。


俺の考えている事が伝わったのか、少し困ったような表情でごめんなさいねと呟いた。

「一日は安静にしているように言われたものだから。明日はちゃんと行くわ」

「桐子」

瀬田の強い口調が、とーこさんを呼ぶ。

それは強く何かを諫めているようで、それほど捻挫が酷いのかとがっくりと肩を落とした。

「とーこさん、無理しちゃダメですよ?」

明日来て酷くなって、また休みじゃ意味がないし。

そう言って覗きこむように顔を上げると、とーこさんの表情がふわっとほころぶ。


「子犬みたい」


そう言って包帯に触れていた右手を、俺の頭で軽くバウンドさせた。

「あのね。大丈夫だから、心配しないで」

何か面白いのか、バウンドさせた手が頭を撫でる。

多分いつもの俺なら“子ども扱いするな!”って怒るところだけど、そんなことよりもとーこさんの表情に意識を奪われた。

口元に名残を浮かべて、既に無表情に戻りつつあるその顔をじっと見つめる。


「と……こさん」


あまりの驚きに、声が掠れる。

俺の状態に撫でていた手を止めて、とーこさんは首を傾げた。


「とーこさんが、笑った」


「え?」


「初めて見た。とーこさんが笑ったのって」


「え、と……要くん?」


俺は困ったような、でも無表情ベースのとーこさんに満面の笑みを浮かべた。

だって、嬉しいんだよ。

すでに一ヶ月は一緒にいるのに、笑顔、見たことなかったんだから。


とーこさんは戸惑ったように、眉を顰める。

その変化さえも嬉しく感じる俺は、どこかねじでもとんでるんだろうか。


とーこさんは見上げる俺から視線を外して、後ろに立つ瀬田を見た。

「かーなめ」

後ろから、瀬田に頭をがしっと掴まれる。

「撫でてほしいなら、俺が存分に撫でてやろう!」

そのまま両手でわしゃわしゃと髪をかき回されて、慌てて立ち上がる。

「何すんだよ、瀬田!」

「呼び捨てにすんなよ、後輩」

瀬田は立ち上がった拍子に外れた両手を“降参”みたいに上げて、おちゃらけながら後ろに下がった。


「とーこさんの読書の邪魔をしちゃ、だめでしょう? ほら、何か読みたいなら物色しなさい」

「えっ、いいの? だって話が……」

先に瀬田と話してからって……

そう言って首を傾げると、瀬田は苦笑して後ろを向いた。

「本好き人間に、“おあずけ”は可哀想だからね」

「先輩、ありがとう!」

「調子いいんだから」

瀬田のボヤキを背に、俺はさっきの部屋に駆け出す。


今までの事、水に流してやるよ! 一瞬だけ!


ほくほくと続きの部屋を一歩出たところで、ふと、立ち止まった。


「どーした、要」


その声に、ぐるりと二人を振り返る。


「ていうか、なんでとーこさんが瀬田んちにいるの?!」





――根本的な疑問を、今更思い出しました!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ