第二章:泥濘の日常
翌朝、食卓には刺すような沈黙が流れていた。
キッチンに立つ母・由美は、機械的な動作で味噌汁を注いでいる。
その手元はわずかに震え、視線は決して僕や恵理と合わない。
母さんは知っているはずだ。
昨夜、この場所で何が行われていたのかを。
だが、彼女は「何も起きていない」という狂気にも似た平穏を必死に演じていた。
「…おはよう、みんな。今日もいい天気だ」
リビングに現れた佑三さんは、昨日までの冷酷な顔を脱ぎ捨て、まるで絵に描いたような「良き父」として振る舞う。
そのギャップが、僕の吐き気を催させた。
「恵理、受験勉強はどうかな? 集中できないなら、夜にパパが特別に教えてあげよう。浴室なら、誰にも邪魔されずにリラックスできるしな」
佑三さんが恵理の肩に手を置く。
恵理の体が、ビクッと目に見えて跳ね上がった。
彼女の目には光がなく、ただ一点を見つめている。
昨夜の抵抗は、もうない。
抵抗すればするほど、佑三さんの行為がエスカレートすること、そして僕や母さんへの「制裁」が厳しくなることを、彼女は悟ってしまったのだ。
「…はい。お願いします」
恵理の乾いた声が響く。
それは、彼女の魂が死んでいく音だった。
「純一も、仕事頑張れよ。お前の代わりなんて、グループ内にはいくらでもいるんだからな。僕が首を縦に振らなきゃ、お前は明日から路頭に迷うんだ。…分かってるな?」
「…わかってます。ありがとうございます、佑三さん」
僕は頭を下げる。
胃の奥から酸っぱいものがこみ上げてくる。
恩人に感謝するフリをしながら、僕は自分の無力さに殺されそうになっていた。
数日後、事態はさらに悪化した。
佑三さんは、もはや人目を憚ることすらしなくなった。
「純一、ちょっとビールを持ってきてくれないか?」
浴室から呼ばれ、僕が脱衣所へ向かうと、そこには湯気の中で恵理を弄ぶ佑三さんの姿があった。
ドアは開け放たれたまま。
恵理は真っ赤に腫らした目で僕を見つめ、声もなく「助けて」と唇を動かした。
だが、佑三さんは僕の視線を真っ向から受け止め、勝ち誇ったように笑う。
「どうだ、純一。お前のミスを帳消しにするための『奉仕』だよ。お前もこれを見届ける義務があるんじゃないのか?」
佑三の指が恵理の濡れた肌を滑り、彼女の肩を強く引き寄せて震える胸を露わにさせる。
湯気が立ち込める中、彼の掌が恵理の膨らみをゆっくりと揉みしだき、指先で硬くなった先端を弾くように刺激する。
恵理の体が震え、抑えきれない喘ぎが漏れ出すが、佑三はそれを楽しむように舌を彼女の耳朶に這わせ、熱い息を吹きかける。
「ほら、純一、よく見なさい。自分の妹のここを!…こんなに糸を引いて……」と囁きながら、彼は恵理の脚を広げさせ、指先で秘部全体を刺激する。
彼の指が、ゆっくりとした動きを速めるたび、卑猥な水音が浴室に響き、恵理の腰が無意識にくねる。
彼女の目は涙で曇り、唇を噛んで耐えるが、佑三は純一によく見えるように恵理の体を回転させ、下半身を露わにし、自身の硬くなったものを彼女の尻に押しつけて腰を振り続ける。
汗と湯気が混じり、肌同士の摩擦が粘つく音を立て、佑三の低いうめき声が混じる中、恵理の抵抗は次第に溶け、ただ震える体が彼の欲求に委ねられていく。
彼は、わざとらしく恵理の肌に舌を這わせ、僕に見せつけるように行為を続ける。
僕は持っていたビールを床に落とした。缶が転がる虚しい音が響く。
「…ふざけるな…」
僕の口から、掠れた声が漏れた。
初めて見せた僕の反抗的な態度に、佑三さんの目が冷たく光る。
「なんだ、文句があるのか?お前がしでかした横領紛いのミス、あれを警察に突き出せば、お前だけでなく母さんも終わりだ。この家も、恵理の大学進学もな!」
彼は恵理の髪を掴み、無理やり僕の方を向かせた。
「さあ、恵理。お前の不甲斐ない兄貴に言ってやれ。『私は幸せだから、余計なことはしないで』とな」
恵理は震える唇を噛み締め、涙を流しながら、死んだような声で囁いた。
「…お兄ちゃん、お願い。…何もしないで…」
その言葉は、どんな刃物よりも深く僕の胸を突き刺した。




