2 釘バットは棍棒系か? 刺突系か?
彼女は【干戈】だ。それは、肉体の死を迎えた魂が人為的に武器として再形―-転生したものだ。宮地は二十八歳の時に交通事故で肉体が死亡し、生きた太刀としてこの世で第二の生を得て、干戈としての使命に従っている。
「ノ太刀」というのは、魂がどの武器の形になったかを表す号のようなものだ。銃になれば「ノ銃」。槍になれば「ノ槍」。釘バットになれば「ノ釘バット」となる。
釘バット――あり得ないと思うだろうが、実際にいる。しかも、武器としてのその形は、釘の先端を打ち込んだだけの典型的な形ではなく、頭部が完全に埋まり、先端部分が長く露出している殺傷力に形をしており、「釘バット型干戈は棍棒系か刺突系か論争」が時折話題を呼ぶ。
――本来はバットで本体もバットなんだから棍棒系に決まってんだろ。バットの用途知ってるか? 殴るためだぞ。釘なんて付属品だ。なあ兄弟。お前は棍棒系だもんな。
――野球ボール打つためだわ。釘が突き出てんだぞ。それも先端が。刺さるじゃん。確かにフルスイングするけど、まず先に刺さるじゃん。死ぬじゃん。そしたらお前がのたまう本体部分の出番ないじゃん。つまりメイン攻撃は釘の部分なんだよ。ということは攻撃方法は刺突。結論は刺突系。そうだろ相棒。
以前テレビ番組で白熱した釘バット干戈の使用者二人による「釘バット型干戈は棍棒系か刺突系か論争」での一幕である。結局どうなったかというと、釘バットの干戈たちの「いや……そんなん、俺ら自身もよく知らんし」という曖昧な返答により結論へは至らず、現在も論争は続けられている。
そんな日本では干戈の系の約七割が刀剣となり、中でも太刀と成る割合が多かった。これは歴史上における日本の主要武器が刀だったという背景からの影響であろうという見解がされている。アメリカでは銃器。イギリスでは剣という国柄が表れるのが、干戈の面白いところでもある。
干戈の振るい手を【退獄師】という。安西も退獄師であり、その等級は乙一級だ。この等級は退獄師の中でもありふれた、いわば平均値であるが、一般人に比べれば戦闘力があまりにも高い。
この世界には、生きて戦う者と、死して尚戦わざるを得ない者がいる。前者は退獄師を指し、後者が干戈を指す。退獄師と干戈は平安時代末期から生まれた存在。だが本来は、馴染むほどに浸透してよい存在ではない。むしろ、悲しむ者や嘆く者がいても、死者として黄泉路へと進み輪廻転生を経て生まれ直した方がよかったモノである。生まれざるを得なかった所以もまた、同じ時代から出現してしまったのである。