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現代物

Vtuberるるの憂鬱

作者: 網笠せい
掲載日:2025/08/27

「みなさんこんばんは! るるです!」


 私が話すと、画面の中のキャラクター「るる」が連動する。3Dアバターが動くのに最初は慣れなかったけれど、今はもう一つの自分の姿なんじゃないかというくらい、愛着がわいている。


 画面の中のチャットに「こんばんは」と声をかけてくれる人がたくさんいて、るるは名前を読み上げていく。


「今日はゲーム配信です。この前の続き!」


 ゲーム画面の右下にるるが映っている。雑談しながらゲームしていると、まるで友達と一緒に遊んでいる気分だ。「このアイテムどこにあるの?」と聞くと、ヒントをチャットに打ち込んでくれる人がいる。攻略がとてもはかどる。


 チャットの流れが少しずつ早くなってきて、るるは「見逃してるコメントがあったらごめん!」と声をかけた。スパチャが飛んできて「これやってー」とリクエストが来たのに、私はきゅっと口をつぐんだ。高いところに上って、下からのアングルを見せろってリクエストだった。パンツ見せろ的なことなんだろう。


 アバターだからもちろん私じゃないんだけれど、この人は友達にもそういうことを言うのかな。ちょっと悲しくなってスルーした。


 コメント欄には「下からのアングル!」としつこくリクエストが来る。「しつこい。やめなよ」と言ってくれるファンの人もいるのが救いだ。スルーしつづけてたらコメント欄が荒れてきて、るるの先輩たちはこういうのをさばくのが上手いんだよな、と自分の力不足にちょっと落ち込んだ。


「それ、セクハラー」とかすぐに言っておけばよかったのかもしれないけど、まともに返してしまいそうになる。向いてないのかなぁと頭の端っこに浮かぶ言葉を必死で押しやって、配信をつづけた。


 そんな私の努力も虚しく「パンツ! パンツ!」とコメントしてくる人がいて、さすがにスルーできなくなった。


「セクハラって知ってる? るるはアバターだけど、お金払えばなんでも言っていいなんてことはないよ?」


 ああ、言っちゃった。


 私は頭を抱えた。るるも画面の中で頭を抱えている。「そうだよ!」「るるちゃんに謝りな!」というコメントが流れてくる。一人を断罪するような流れも集団リンチみたいになって嫌だから、あわてて言葉を付け加えた。


「これからは気をつけてね。画面の向こうに人がいるんだってこと、忘れないでね」


 先輩たちなら、もっと上手に伝えられるんだろうなぁ、と私は再び落ち込んだ。


 一度コメント欄の空気が悪くなると、切り替えるのはなかなか難しい。こういうとき、先輩たちならなんて言うのかなぁ。キャラによって違う気がする。「うっせぇバーカ!」と笑いながら言う先輩もいるし、「めっ」とたしなめる先輩もいる。完全スルーしちゃう先輩もいるし、「スパチャありがとーう!」とだけ返す先輩もいる。


 色々考えていたらコントローラーの操作を間違えて、ゲームのキャラが溶岩地帯に突っ込んでいった。


「あんぎゃああああ!」


 思わず素の叫びが出てしまって、コメント欄がそれまでの雰囲気に一気に戻った。


 ……なんだ、案外素の自分でいいのかも? 無理してもつづかないもんね。


【おわり】

参考資料

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