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ペットな王子様  作者: 水無月
第六章:大人な王子様
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第31話

 意味のわからないこの状況をなんとか理解しようと、一度目を閉じて深呼吸をした。ラウルの姿が目に映らねばまだ冷静でいられる。

 事の始まりは何なのか……。

 一日を軽く振り返ってみる。


 良い子なラウルに見送られ、美青年に助けられ、桜子に軽くからかわれ、帰り一緒に遊び、ふざけて催眠術かける真似をされ……。


「まさかあれにかかってるわけ!?」

「何にかかってるのだ? 流行り病か?」

「ぬわっ!?」

 はっとして見開いた瞳の目の前に心配そうな大人ラウルの顔。思わず奇声をあげてのけ反る。不可思議そうなラウルの表情。

「元気そうだが……変すぎるぞ、ヒナタアオイ」

「えーと、うん。そうだ、お腹空いてるよね! 今用意するから、食べてて!」

「ヒナタアオイ?」

 とりあえずラウルから遠ざかろうと、笑顔でキッチンに逃げ込む。だが、買ってきた物を温めて出すだけなのでたいして時間はかからなかった。

 夕飯をもってリビングに行くと、納得いかないように小首を傾げながらテレビを見ているラウル。青年の姿で難しい顔をしているのに、映っているのがアニメな辺り、中身はやはりいつものラウルだ。

「先に御飯食べててくれる? ちょっと電話してくるから」

「……うむ」

 私の様子が気になるのと空腹感を天秤にかけ、やや空腹感が勝ったらしい。渋々頷くと、食事を始めるラウル。私は携帯を片手に掴むと、二階の自分の部屋へと駆け込んだ。

 数回のコール音ででたのは桜子。

『何かあった?』

「ラウルが大人なの!!」

 急くように言った私に返ってきたのはしばしの沈黙。そして、何故か笑い声。

「笑い事じゃないんだってば!!」

『ごめんごめん。で、なんだって? 王子が大人? 面白いじゃない』

「ちょっとは驚こうよ、桜子」

 笑いを堪えながら話す桜子に突っ込むが、桜子にはたいした事ではないらしい。優雅に紅茶でも飲みながら電話してるんじゃないかと思うほど、ゆったりと答える。

『驚く事もないでしょ。相手は魔法使い。何したっておかしくないじゃない』

「でも、ラウルはわからないみたいなの。私におかしな人を見るような眼差し向けてさ」

『大人になってる自覚はないわけ? それとも、葵の目がおかしくなった?』

「たぶん、私。鏡も見せたし。だから、桜子のかけた催眠術かと思って……」

 受話器越しに聞こえるのは爆笑……。

「さーくーらーこー」

『あー、ごめんごめん』

 恨めしい声を出した私に、おそらく笑ってでた涙を拭きながら答える桜子。動揺しまくりの私が面白くてしょうがないらしい。

「どうやったら催眠術とけるのかな?」

『いや、催眠術なわけないでしょ。あんなんでかかったら、葵やばいって』

「うーん……」

 確かに、ふざけてやっただけである。あれでこんな見事に催眠術にかかるとも思えないが、他に心当たりもない。あの表情を見ると、ラウルの魔法のはずもない……。

『ま、中身は王子のまんまで見た目がいい男になっただけでしょ? 害もないだろうし、せっかくの美青年を堪能したら?』

「堪能って……」

『王子も男なんだって認識できるいいチャンスじゃない。ま、頑張って』

 そう言うと、母親に呼ばれたらしく、別れの言葉を言って電話を切る桜子。

 私は携帯を見つめて、どうしたらいいのか再び考える。

 確かに、害はない。ラウルが私を傷付けるような事をしないのはわかっている。

 が、あの見た目で無邪気にまとわりつかれるのは心臓が持たない。

 私は再び携帯を開くと、電話をかける。

 しばらくして電話に出たのは、蓮。

「蓮、どうしよう! ラウルが大人なの!」

 私のいきなりの第一声に、しばしの沈黙。蓮は電話の向こうで苦笑いを浮かべているようだった。

『えーっと、ひまわり……。まずは落ち着こう』

 なだめる様なやわらかな蓮の声。錯乱気味の私の耳に、優しく響く。

『ラウルが大人って、どういう事?』

「あのね、帰ってきて猫から人間の姿に戻してあげたら、大人だったの」

『……えっと、よければ今からいこうか?』

 私の返答が的を射ないからか、気遣うように蓮はそう言った。

「来てくれる?」

『いいよ。直ぐ出るから……15分くらいでつくかな。落ち着かないなら、それまで部屋にでもこもってろよ』

「うん、待ってるね。ありがとう」

『じゃ』

 電話を切った後、蓮の優しさに少しほっとする。本当にピンチな時は桜子の方が先に駆けつけてくれたりするが、面白事件まで心配してくれるのは蓮の方だ。いい友達をもってよかったなと、しみじみと感謝する。

 私はベッドの上にコロンと転がりながら、蓮を待った。

 ラウルの前に行ったらまた動揺しそうなので、とりあえずここで頭を冷やした方がいい。

 しかし……、ここまで見た目いい男に弱いのもどうかと思う。人間中身が重要だとちゃんとわかっているのに、恋愛感情ではないにしても、やはりドキドキしてしまう。

 もう少ししっかりしなきゃと、しばし反省の時間となった。


 十数分後。

 玄関のチャイムが鳴り、私は慌てて階段を駆け下りた。いまだ青年姿なままのラウルが、リビングから顔を出してこちらを見つめている。私はちょっと笑って見せるとその前を通り過ぎ、玄関のドアを開けた。急いで来てくれたのか、少し呼吸の乱れた蓮が心配そうな表情で立っていた。

「ありがと、蓮」

「いや、気にするなよ。元はといえばおかしな事に巻き込んじゃって、謝りたいのはこっちのほうだし」

 気遣うように笑んでから、蓮は私の肩越しに中を見たようだった。そして、怪訝そうな顔になる。

「蓮?」

「いつものラウル……だよな?」

「え」

 私も振り返って顔を出しているラウルを確認するが、やはり手足はすらりと伸び、秀美な顔立ちの青年ラウルにしか見えない。

 固まっている私を、不安げに見つめる蓮。

「やっぱ、大人に見えてるわけ?」

「うん……」

 困惑顔のまま玄関で立ち往生している私たちを、ラウルは不機嫌そうに見つめている。

「蓮まで来て、一体どうしたというのだ?」

 理解できない状況に、ラウルもさすがにイライラし始めたらしい。唇を尖らせてふてくされている様は、青年姿でもちょっと愛らしい。

 しかし、それを楽しんでいる余裕もあまりなかった。

「とりあえず中で話そう、ひまわり」

 戸惑う私に優しく微笑んだ蓮が、なんだかとても頼もしく思えた。

2013.4.17 18:47 改稿

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