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ペットな王子様  作者: 水無月
第四章:黒猫と男友達
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第27話

「で、どういう事?」

 私の家のリビングで、二人の向かい側に座ってそう尋ねると、ラウルと蓮は互いに違う方向に視線をそらせた。二人とも、手にした紅茶のカップをもぞもぞといじっている。

「――蓮。あれ、魔法だよね?」

「えっと、手品?」

「あんな手品あるかー!」

 視線をそらせたままと呆けようとする蓮に、思わず突っ込む。あまりの衝撃で、風邪はどこかに消え失せたようだ。蓮は小さくため息をつく。

「お前が勝手なことするから……」

 苛立ちを隠さず蓮が呟くと、ラウルがむっと蓮を睨んだ。

「おぬしが嫌味を言うからではないか!」

「お前がひまわりに迷惑かけるからだろ!」

「迷惑などかけとらん! 寂しそうだから、一緒に暮らしてやっておるのだ!」

「なんだその上から目線はっ! どんだけ迷惑かけてるか、自覚しろ!」

「おぬしこそ、何も知らずにその言い草はなんだ! オレとヒナタアオイの生活を邪魔したいだけではないのか!?」

「お前なぁ!」

「ちょっと待てーーーーー!!」

 軽快に言い合いをはじめた二人を止めようと、声を張り上げる。

 口をつぐみ、ふてくされたように再び視線をそらしあう二人。私はそんな蓮の横顔を見つめる。気まずいのか、蓮は目を伏せる。

「蓮も、ラウルと同じ世界の人って事だよね?」

「……まぁ、うん。一応そう。でも、俺は生まれも育ちもこっちだし、これからもずっとこっちで暮らすつもりだし、こっちの人間だと思ってくれていいんだけどな」

 不安げに私と視線を合わせる蓮。素性がばれて、今までと違う目で見られるのが怖いのだろう。確かに、ラウルに出会う前に蓮の魔法を見たら、どうしたらいいかわからなかったかもしれない。だが、既にラウルでファンタジーな出来事に耐性ができている。

「どっちの世界の人でも蓮は蓮だよ。そんなに不安そうにしないでよ」

「ひまわり」

 ほっとしたように微笑む蓮。その隣で、相変わらず不貞腐れているラウル。そんな二人を見て、ふと疑問がよぎった。

「ラウルって、王子様なんだよね?」

「ん? あぁ、そうだけど?」

 確認するように尋ねると、蓮は頷き、ラウルは何を今更というように私を見た。

「王子様って、偉いのよね?」

「まぁ、そうだな。王族は一番身分が高いから」

 私が何を言いたいのか計りかねるような表情で答える蓮。私は、二人を交互に見つめる。

「ひまわり?」

「そんな王子様に、思いっきりタメ口な蓮って何者? 二人はどういう関係なの?」

 常識的に考えて、一般庶民が王子様にあんな口の聞き方はしないだろう。蓮は普段、礼儀をわきまえている人間だ。いくら異世界だからといって、ただの知り合いではあんな話し方はしないだろう。

 二人はちらりと視線を合わせると、互いに諦めたように小さく嘆息し、同時に口を開く。

「俺の甥っ子」

「母上の弟だ」

 一瞬固まった後、家中に私の驚きの声が響き渡る。私の驚愕の叫びに、蓮は額に手を当ててため息をつき、ラウルは半眼でティーカップを両手に持ち、こくりと一口飲む。

「蓮も王子様っ!?」

「違うから。とりあえず、ひまわりもお茶飲んでちょっと落ち着け」

 小さく嘆息しながら勧められ、私はティーカップを持って口に運ぶ。温かい紅茶を飲んで少し落ち着いた私を見て、蓮は再び口を開く。

「うちはもともと、王族やら貴族とは全く無縁のただの一般庶民。ひいじいちゃんの代からこっちに住んでる。こっちの世界に足を踏み入れるはずのない王族と、関わる事なんてなかったはずなんだ。それを、ただふらりと遊びにきたあの変人王子が……」

「変人王子?」

 忌々しげに呟いた蓮の言葉に思わずラウルの方に視線を移すと、ラウルは半眼で私を軽く睨んだ。

「オレの事ではない、父上の事だ。レン。父上が即位してもう数年たっておるのだ。いい加減王子は止めたらどうだ?」

「いや、突っ込むべきはそこじゃないんじゃ……」

 蓮に向けられた後半の言葉に思わず突っ込むが、二人は気に止めた様子もない。

 確かにラウルの話を聞く限りおかしな父親だという事は否定できそうもない。蓮はどうやらそんなラウルの父親がお気に召さないようだ。基本的に温和な蓮の顔が、般若の形相に変わっている。怒りで次の言葉すら出てこない蓮を驚いて見ていると、ラウルが呆れた顔で説明を引き継いだ。

「つまりだな、本来、王族は足を踏み入れてはならぬこの地に父上がたまたま訪れ、母上と恋に落ち、真実の愛を芽生えさせたのだ。あちらの世界で、王族と庶民が対面することはほぼない。それが異世界で出会って恋におちるとは、まさに運命だとは思わぬか? まるで、ヒナタアオイとオレのようだな」

「いや、違うから」

 私の突っ込みは無視し、何故か満足げな笑みを浮かべているラウル。父親のあり得ない課題を素直にやりとげようとしたのは、両親の慣れ染めに憧れていたからかもしれない。

 しかし、ラウルの言う通りなら、まるでシンデレラストーリーだ。いくら蓮がシスコンだったとしても、そんなに怒るような事ではないように思える。

 ちらりと蓮を見ると、目を閉じて大きく息を吸っている。その息ごと怒りをのみ込んだのか、再び目を開けると蓮の茶色の瞳は少し落ち着きを取り戻していた。

「とにかく、たまたま姉ちゃんが王族と結婚するはめになっただけで、俺は王族とは関係ない。関わるつもりもない。結婚を機に向こうで暮らさないかって話もあったけど、俺も両親もあっちの世界に住む気はないし。俺も将来は父親の仕事引き継いで、こっちでずっと暮らす予定」

「父親の仕事って……お父さん、確か普通にサラリーマンだよね?」

「ん? あぁ……」

 蓮は私の疑問に苦笑いを浮かべる。

「こっちでの仕事じゃないんだ。こっちの世界の仕事とは別に、こっちの世界に住む魔法界の人間を取り締まる『守護者(ガーティアン)』っていう仕事を代々してる。まぁ、警察みたいなものかな」

「そうなんだ」

 次々と明かされる事実に頭がなかなかついていかなくて、ただ相槌をうつしかない私の前で、ラウルが蓮を軽く睨む。

「そういうお前が悪用しているではないか」

「してねーよ」

「してるではないか! 抵抗出来ぬオレを、無理矢理移動させおって!!」

 ぷうっと頬を膨らませたラウルを見て、はっと思い出す。学校で見せた、ラウルを消した消失マジック。

「あれ、魔法!?」

「気づくの遅いな、ひまわり」

「だって! 蓮が魔法使いって事で驚きすぎて頭回らないんだもん!!」

 ふっと微笑を浮かべた蓮に、思わず言い訳をする。確かに、蓮が魔法が使えるという時点であれが魔法だと気づいてもおかしくない。物ならともかく、嫌がるラウルを一瞬で消し去るなんて無理な話だ。

「まぁ、タネを明かせばそういうこと。あのハンカチを使った出現や消失マジックは、だいたい移動魔法なんだ」

「何? どうやって? どういうこと??」

 問い詰める私に、蓮は苦笑いを浮かべながらハンカチを取り出す。そして、それを広げて私の目の前にかざした。

「よく見てみ? ハンカチと同じ色で魔方陣描いてあるのわかるだろ」

「あ……」

 確かに、近くでよく見るとなにやら模様が描かれているのがわかる。

「これと同じ魔方陣が俺の部屋にもある。移動魔法はその魔方陣の中に置いてある物をもう一方に転送することができるわけ。手をかざして魔法を発動させれば完了。ま、こっちの世界じゃこのハンカチに収まる程度の物しか移動できないけどな」

「ずるーい!」

「ずるいって……一応魔法使わずにやってる時もあるし、他のマジックは全部ちゃんと練習してやってるって」

「悪用であろう?」

 困ったように言い訳をする蓮の横で、ラウルが同意を求めるように私を見つめる。

「悪用じゃないっ! ちゃんと法には触れてねーよ!」

「おばあ様にあんな無様な姿を見せられた屈辱……。これが悪用なわけがないであろう!!」

 むっとしてにらみ合う二人を見ながら、再びある事を思いだす。蓮に消された後、屋上でたそがれていたラウルの姿。あれは蓮の家に転送させられ、猫の姿を蓮のお母さんに見られてしまったことがショックだったのだろう。それで拗ねていたに違いない。

 思い出して怒りが再燃したのか、ラウルは怒った顔で立ち上がり、向かい側に座る私の隣まで来てストンと腰を下ろした。

「もう、話は十分であろう。さっさと帰るがよい! これ以上、オレとヒナタアオイの時間を邪魔するでない」

 ぴたりと私に身を寄せるラウル。蓮の頬にさっと朱がさしたが、ぐっと拳を握り、理性で怒りを抑え込んだのが見て取れた。

「あのなぁ……」

「だいたい、王族と関わる気はないのであろう? オレと話していては関わっていることになるではないか」

 蓮の言葉をさえぎって続けたラウルの言葉に、蓮の顔が引きつる。

「お前はただの甥っ子。王族扱いしてるつもりはない」

「くだらん言い訳だな」

 私の腕に自分の腕をからませ、ラウルは蓮を半眼で見る。蓮は再び握りしめた拳に力を入れる。どうも二人は、人の姿でも仲がよろしくないらしい。

 ちらりと時計を見ると、もう七時近く。

「ラウル、お願いがあるんだけど、いい?」

 突然の申し出に、ラウルはきょとんと私を見上げたのだった。

2013.4.17 17:18 改稿

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