表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ペットな王子様  作者: 水無月
第三章:黒猫と親友
19/67

第19話

 翌日、ラウルは猫の姿でお留守番することになった。

 猫の姿で一緒に寝ていたラウルを起こし、人の姿に戻して支度をさせて一緒に朝食。出かける前に一通り留守番時の注意をして、猫へ変身させてから学校へ来た。

 猫の姿は猫の姿で、人の姿で留守番してる時とは別の心配が伴うが、私に拾われる前も猫の姿で無事でいたのだからきっとお出かけしても平気だろうと、自分自身に言い聞かせていた。


「おっす! ひまわり!」

 学校の近くまで来ると、後ろから自転車で走ってきた蓮が隣に並んだ。

「おはよ、蓮」

 挨拶をすると、自転車を降りて歩き出す蓮。高校は徒歩圏内にあるが、よく寝坊する蓮は自転車で登校することが多い。

「今日も寝坊? 髪はねてるよ」

「マジ?」

 慌てて片手で髪をなでる蓮。くすくす笑う私の横顔を、拗ねたように軽く睨んでいる。

「鏡見てる暇なんてねーもん」

「そんなんだから彼女ができないんじゃないの?」

 軽い冗談のつもりで言ったのだが、蓮はなんだか深いため息をついている。

「いや、何も本気で落ち込まなくても。冗談よ冗談。ありのままの蓮を好きになってくれる子がそのうち現れるって!!」

「励まされましても……」

 遠い目をする蓮をどうフォローしようかと焦っていると、背後で女子の黄色い声が上がった。二人同時に振り返る。見れば数人の女子が道端にしゃがんで顔をほころばせながら騒いでいた。

「そういえば、ひまわり……」

 何か思い出したように、私のほうを見る蓮。

 その時、騒いでいた女子の肩から何かがぴょこんと顔を出した。

「お前の猫、ついてきてるけどいいのか?」

「あまりよくない」

 女子高生に抱かれながら、こちらを見てニヤリと笑ったようにしか見えない黒猫。間違いなくラウルだと確信する。確かに、魔法を解くために家の中にいてもしょうがないとは言っていたが、まさかついてくるとは……。

 ばれてはしょうがないという顔で、代わる代わる抱き上げていた彼女達の腕をするりと抜けてくると、私の足もとまで小走りにやってくる黒猫ラウル。お前のために来てやったと言わんばかりに、ぴんっと尻尾を立てて私を見上げる。

「学校は猫の来るところじゃないのよ?」

 小さくため息をついて抱き上げた私の腕の中で、ラウルは何やら一人満足げに短く鳴いたのだった。


「可愛いねぇ」

 休み時間、私の机の上にちょこんと座っているラウルをとりまく人々は、徐々に増えていった。

 授業中は窓から見える太い木の枝で器用に居眠りをし、休み時間になると窓から教室に入ってくる。ご主人様を慕って学校までついてくる健気な子猫として、ラウルは数時間のうちに人気者になっていた。

 王子様として周りにちやほやされて育ったからか、多くの人に褒められるのはたとえ猫の姿でも嬉しいらしい。気持ち良さそうな顔で色んな人に抱かれている。

 猫の姿は屈辱的と言いつつも、楽しんでいるようにしか見えない。

「おや、妬いてるの?」

「え?」

 桜子がからかうような眼差しで私を見ていた。

「なんだか不貞腐れてるように見えるけど」

「そんなこと……」

 反論しつつも、他の子たちに抱かれてへらへらしているように見えるラウルにちょっとイラついていた自分に気づく。若い女の子なら誰でもいいのかと思っていた辺り、これもやきもちというのだろうか。

「ひまわりーって、まだいんのか、猫」

 元気よく教室にやってきた蓮が、ラウルに気づいて呆れたような声を出す。

「葵が帰るまでいる気じゃない?」

「かもね」

 少し不機嫌そうな私に気付いたのか、蓮は一瞬怪訝そうな顔をしたがその後何か思いついたのか、にやりと笑う。そして、他の人に抱かれたラウルの方へ向かっていった。

「くっろねっこちゃん」

「…………」

 蓮の猫なで声を聞いたとたん、腕から飛び降りると机の上に着地し、フゥっと威嚇するラウル。ぶわっと全身の毛が逆立っている。先日追いかけられたのが相当嫌だったのか、他の男子に対しては普通だったのに、かなり敵対心むき出しだ。

「ここは猫の来るところじゃないんだよー?」

「……」

 わざとらしい笑顔の蓮を無言で睨むラウル。他の生徒達は蓮が何をしようとしているのか、期待するような眼差しを向けている。

「だから、僕がおうちに帰してあげようね?」

「ニャーー!!」

 あっさりと首根っこを掴まれたラウルは、空中でじたばたと暴れる。

「さて、取り出しましたるはいつものハンカチ」

 暴れるラウルを軽く無視し、蓮は聴衆に向かって笑顔でハンカチを取り出した。蓮がいつもマジックに使うものだ。

「これを、この黒猫にかぶせます」

「え? ちょっと? 蓮??」

 わくわくしたような眼差しの聴衆と裏腹に、私は少々あせる。このパターンは消失マジックだ。蓮の手品の腕は昔から相当なもので、以前にも蝶やトカゲなどをハンカチの下から消したのを見たことはあるが、今度は猫。しかも、ラウルだ。

 まぁ、失敗したら失敗したで笑いが取れるからいいのだが……。

「それでは、スリー・トゥー・ワン――」

 じぃっと観衆が注目する中、カウントダウンする蓮。

「ゼロ!」

「おぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 ハンカチをとったとたん、大歓声が起こる。

 蓮の手の中にいたラウルは、影も形もなくなっていた。

「えぇぇ!?」

 驚く私に、ニヤッと笑う蓮。

 その時、チャイムが鳴った。

「はーい! マジック終わり~!!」

 トリックを聞くものやら、ラウルの行方を捜そうと蓮の体を触るものに、笑顔で終了を告げる蓮。周りもあまりに見事なマジックにしばらく騒いでいたが、先生がやってきたので仕方なく各教室に戻っていく。

「蓮!!」

 あのわが道を行く王子様をどうやって消したのだろうと呆然としていた私は、蓮が立ち去ろうとしたのをみて、ようやく我にかえる。

「ラウル、どこ?」

 蓮が手荒な事をするわけはないとわかっているが、無理矢理どこかに隠されてラウルが大人しくしているはずがない。それなのに、騒いでいる気配がないのが少し心配だった。

「大丈夫。次の休み時間に返しに来るよ」

 茶目っ気たっぷりに笑って去っていく蓮。

 私が次の授業に集中できなかったのは、言うまでなかった。



2013.4.15 22:42 改稿

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ