ファットマンとリトルボーイ
ファットマンとリトルボーイ
安岡 憙弘
「ファットマンさん、一体どうして長崎なんかに住むことにしたんですか。私はどうしてもそれが分からないのです。私はどうしても長崎みたいな田舎に住む理由がわからないのです。ファットマンさん、一体どうして長崎なんかにお住みになることにしたのですか。長崎には異人館もあって住みやすいのですか。長崎にいて何か良い所でもあったのですか。私は広島に住んでいます。広島は良いものですよ。緑が豊かでファットマンさんにもお見せしたいです。ファットマンさんは一体何故長崎にそんなにこだわるのですか。長崎のオランダ坂は細くて長くてくねくねしていてファットマンさんならお体が差し支えますでしょうに。ファットマンさんはやはり広島の広い丘陵地帯がお似合いですよ。あすこならファットマンさんのお体がいくら太っていてもバカにもされませんし目立ったりもしませんですよ。是非一度広島へお越しくださいますように。お越しの際はですね、広島電鉄の敷石を頼りにされると良いですよ。爆心地へ来るとグラウンド・ゼロでございますね。そのグラウンド・ゼロの周りまで来ると広電の敷石が真っ黒に焼け焦げているのがはっきりとご確認頂けます。たまには人のお姿までうつっているのもご確認いただけます。その敷石をお目当てに記念公園まできていただければ公園の真ん中に詩の刻彫された記念モニュメントが建っています。その前のベンチに座っていますからすぐおわかりになられます。私の名前はリトル・ボーイと申します。可愛い名前だとよく言われます。体は小さいですけれども心は鉄腕アトムのように剛鉄製でございます。」