吸血鬼種
ファンタジー世界に、ある意味不可欠な種族。
作品によっては主人公に。
あるいは重要な仲間に。
ある時はシナリオの重要な場面でだけ登場して、主人公達の窮地を助けてくれる謎の協力者に。
そのまたある時はとても残虐で強大な敵に。
またまたある時は、平和を望む力無きただの民として。
ありとあらゆる使い方ができる、便利な種族。
ファンタジー世界に登場する吸血鬼といえば、人型で夜行性で人間の血を吸う怪物ですね。
よく描写される姿は、黒づくめのモーニングコートにシルクハット、赤い布が裏地の黒マントの男性。
犬歯が鋭く伸びていて、病的なまでに白い(むしろ青い)肌。
ドラキュラ伯爵なんて爵位を名乗る? のもいて、貴族らしく高いプライドを持ったりしている世界もあります。
あまりにも有名過ぎて様々な特徴を持つ吸血鬼が存在します。
非常に高い身体能力や極めて鋭敏な五感の感覚器を持っていたり。 その強い身体能力は夜じゃないと発揮できなかったり、昼夜関係無く発揮できたり。 単に夜行性だから日が出ている間は眠いだけだったり。
マントに擬態させた巨大なコウモリの羽で飛んだり。 巨大なコウモリの羽が無くとも飛べたり。 そもそも飛べなかったり。
吸血鬼と言えば名前の通り、血を吸う存在です。
ではなぜ血を吸うのかって理由を付けている作品も有りましたね。
メインは生きるため。 血に含まれた栄養が生きるのに必要だから、吸う。 吸血鬼は魔力を魔力として生み出す、取り込む器官がなくて、血に混ざっている魔力でないと取り込めないとかってのも有りましたね。
他には趣味、嗜みなんてふざけたものだったり。
眷属や下僕を作る時に儀式や行為として必要ってだけだったりも見たことが有ります。
その下僕に作るにしても、血を吸う時に吸った相手を自動的に下僕にしたり。
血を吸った上で相手に吸血鬼本人の血を少量飲ませる、血液交換みたいな事をしたり。
血を全て吸い上げて命まで奪った後に、死霊術を使って動く死体を下僕として使役するのも居ましたね。
他の特徴として、狼・霧・コウモリに変身できたり出来なかったり、日の差さない場所限定で変身できたり。
コウモリを下僕としていて命令できたり、そもそもの吸血鬼の正体が巨大なコウモリでコウモリの王だったり。
魔法の専門家を超える魔法使いの素養があったり、ただの脳筋で魔法を全く使えなかったり。
無限の寿命があったり、普通の人間かそれより少し長い位の寿命だったり。
男性型しかいなかったり、男女それぞれが普通にいたり。
血を吸う対象を魅了する様に極めて美しい容姿をしていたり、そんな物お構いなしに怪物じみた醜い容姿だったり。
魔法で美しい容姿に見せかけて、本当は醜い容姿だったり。
闇の支配者だと自称したり、周囲がそう呼んでいたり、そんなの無しにただの怪物扱いだったり、ただの魔物だったり、神みたいなものだったり、平和的ないち人種だったり。
人間達の負の感情の概念の実体化的存在で不滅だったり、ただのいち生物止まりで切られて殺されたり。
人間との間に子供を作れるのか、半吸血鬼のダンピールと言う存在が、東欧やロシア民話に登場するとか。
そりゃあもう、作品によって様々な吸血鬼が存在します。
強さもまちまち。
前述した、神同然の強さを持っていたり、かと思えばちょっとした衝撃で砂(灰)になってしまう貧弱なのも居たり。
もう何がなんだか訳が分からない種族となっています。
矛盾しまくって、正しい吸血鬼像なぞ無いと言わんばかりに乱造されています。
印象としては耽美な世界だと強い傾向にあり、ハードなファンタジー世界だと中堅からラスボス級までの幅広い強さ。
主人公が吸血鬼だと吸血コウモリや、最下級の下っ端吸血鬼やダンピールより世代を重ねた吸血鬼の血が薄い種から始まって、神級の最上位真祖となる流れをよく見ます。
打って変わって、吸血鬼の弱点は案外伝承のまま。
・日光に弱い(弱くないのもいる)
・水がさわれない(“流れる”水……川や海限定の可能性あり)
・にんにくが苦手
・十字架が苦手
・鏡に映らないので正体バレ回避で鏡を避ける
・銀を恐れる(倒せる訳ではない)
・心臓に木の杭を打ち込まれたら死ぬ
・首を切り落とされる(切られても死なない種もいる)
・燃やされる(灰から復活するのもいる)
・聖句や祝福を込めた銀の弾丸を撃ち込む
その伝承の一部だけに弱点が減ったり、ゲーム等で吸血鬼が闇の象徴とか死者扱いで光や聖属性の攻撃に弱くなっていたりしますが、大抵どれかが有効なのは変わりません。
強い吸血鬼になるほど弱点が顕著に現れるパターンと、逆に弱点を完全克服していくパターンも有りますね。
…………まあ、これだけあれば増やす必要は無いってだけかもですが。
この吸血鬼の謂れはかなり古いですが、有名になって広まったのは、とある男女からですね。
まあとある英霊が登場するゲームを含めた作品群で有名な方々ですので、ご存じの方も多いかと思いますが。
まず男性。
ヴラド公。
ヴラド3世
ワラキア公国と言う国の君主だった偉人。
この方は侵略してきた敵軍の兵士の遺体を、敵軍に見せびらかすように串刺しのオブジェみたくしました。
これは敵軍の士気をえぐり取る為に行ったのだろうと自分は思っていますが、こんな凄惨な行為をやられた敵軍側はたまったものではないですよね。
やられたらああなる。
顔面蒼白、士気減退。
兎に角戦って国土を守り敵軍を追い返したヴラド公は、国の守護者。 英雄ですね。
でも敵からすれば、串刺しの遺体で血の海を創り出した、血が大好きな悪魔・怪人・怪物。
その血の海で何をするの? 浴びるの? 飲むの? 吸血鬼?
ってなだいぶ極端で超個人的な意訳で、ヴラド公=吸血鬼 のイメージが広まったのではないかと。
次に女性。
バートリ・エルジェーベト又はエリザベート・バートリ 伯爵夫人
ハンガリー王国の貴族で、ハンガリー(当時?)では名字が先に来るのが普通らしく、バートリが家名だそうです。
この方が何をしたかですが……。
元々男女問わず多数の愛人を囲っていたり。
なんてのは、可愛い方。
若く美しい女性の血でお風呂。
それ以外にも、農村の娘を攫って残虐な行為をしていたそうです。
エスカレートして、召使い(使用人)を(無意味?に)ありとあらゆる拷問にかけたり、内臓を取り出してうっとり眺めたり。
かの有名な拷問具である、鉄の処女も使っていたそうで。
そんな猟奇的な性格だったそうです。
被害にあった方々は、少なくとも650人以上とする話もあるとか。
正気か? と思いますが、そんな事をしていたので吸血鬼伝説のモチーフになった訳です。
で、ドラキュラ伯爵のモチーフがヴラド公と言われているみたいてすが、伯爵の部分はこのエリザベートさんから来てるかもですね。
まあエリザベートさんは女吸血鬼カーミラのモチーフとも言われてますので、ドラキュラの伯爵はどこから来たかは、自分は知りませんが。
とまあ、あまりにも幅があり過ぎる謎の存在。
極端に強くもできれば、逆に笑えるほど貧弱なモノにもできる。
この存在をどう使うかで、作品の傾向を見るのも面白いかもしれません。
便利に使われ過ぎて、もはやコレといった枠すら残らないほどに観念を破壊された種族である吸血鬼。
あなたの世界では、どんな扱われ方をしていますか?