ナディア上級生に決闘を申し込む
自分が読みたいと思う本を自分で書く、というスタンスで書いている積りですが、
なかなか思うように筆が運びません。
ときどきどんなものが読みたいのかまたは書きたいのか分からなくなることもあります。
俺はゆっくりクエストをして行きやがてFランクに上がった。すべてどんなクエストもソロ故に慎重に慎重を重ねて、今自分に足りないクエストは何かと真剣に考えて行った。
Fランクからは薬草採取のほかに簡単な討伐が仕事に入って来る。モンスターがいつも自分にとって対処しうる数だけ現れるとは限らない。そこで欲しいスキルは『探索』だ。モンスターがどのくらいの数でどの距離にいるのかを知れば、危険を避けることができるのだ。
そしてそのスキルを持っている者を俺は知っている。それが何と女性なのだ。男だったら酒でも飲んでいるときに交じって行って、喋っているうちに体を触ることもできるが、女は駄目だ。この世界にセクハラという概念はないと思うが、それでもやたらに女性の手とかには触れない。いつも機会を狙っているのだが、何もできないでいる。
俺はキャンティ伯爵邸に向かった。今日は約束の日だからだ。
俺は今日はナディアに魔法を教えることに決めていた。
俺が行くとナディアは侍女たちとの訓練の成果を見せてくれた。剣術&格闘術で普通の盗賊くらいなら一対一で張り合えるくらいにはなっている。
その後水魔法の色々な応用をやって見せた。
「要するに魔力操作を工夫すれば、色々な利用の仕方ができるってことですね」
ナディアはそう言うと、初級火魔法でファイヤーボールを出した。
「でも火魔法の場合は何がありますか? 細長くしてファイヤーアローとかファイヤーランスするくらいですか?」
「うん、他にもファイヤーウォールというのもあるけど、どちらにしても初級火魔法じゃ破壊力はそれほどない。だからこんなのを考えた」
俺はソフトボール大のファイヤーボールを出してから魔力操作でそれを圧縮した。
圧縮すると青白いパチンコ玉くらいの大きさになった。さらにそれを細長く伸ばした。
つまり細長い一本の矢にしてから、庭に置いてある岩に向かって加速して放つ。この加速が遅ければ矢が飛ぶときぶれるし動く的なら避けられる。
それで岩には10cmほど深く小さな穴が開いた。
「これが急所に当たれば一撃必殺になる。そして手足を狙えば戦闘不能にできる」
俺はその後は自分で考えて工夫するように言った。
「ところでナディアさんに聞きたいことがあるんだが」
俺は侍女たちもいる場所で相談をした。
「ある女性冒険者と是非握手したいんだが、どうすればできるだろう? 口を利いたこともない相手なんだ」
ナディア嬢はほんのちょっと考えてから
「そんなの相手の女性に握手させてくださいって頼めば良いんじゃない?」
「でもどうして? って聞かれたらなんて言えば?」
「そのまま言えば良いんじゃない。憧れてるっていうか、尊敬してるって言うしかないよ」
「あっ」
「なにがあっなの? 実際その人のファンなんでしょ。そう言うこと言われて、怒る人いないよ。握手くらいしてくれるっじゃない?」
そうか、俺はコピーのことばかり考えていたから、握手を難しく考えていたんだ。俺には詐欺のスキルだってあるんだからできる筈だ。
そして俺はギルドの酒場で彼女のパーティ『陽だまりの草原』が食事してるところに近づいて行った。
彼女はそこで斥候役をしている猫人族のミリーというDランカーだ。
まず、俺はミリーの所に真っすぐ行って、頭を下げた。
「すみません。握手してください。憧れてます」
「はあ? わたしにかぁ?」
向こうが判断する前に俺は彼女の手を掴んで上下に振ってから、すぐ隣の魔法使いの女性にも握手を求めたが、避けられた。それで隣のリーダーの剣士の手を掴もうとしたがパシンとはねられた。
「邪魔だ。飯を食ってるんだ。向こうへ行け」
「すみません、お邪魔しました。皆さんに憧れていたもので、すみません」
俺はペコペコしてからさっと引き上げた。魔法使いとリーダーは隠れ蓑だ。一番先に判断に迷っているうちにミリーさんと握手できて良かった。
そして俺はまんまと『探索』をゲットできたために、討伐系でも採集系でも森の奥まで安全に入れるようになった。
ミリーはトムに掴まれた手をじっと見ていた。する隣の魔法使いの女性は笑った。
「なにボーッとしてるのよ。あんたはただのダシだよ。本当の目的は私なの。でも直接私に言うのを臆して、まずあんたと握手して景気をつけようとしたんだね。でもその手に乗るものかってこと。簡単に手は握らせない。私の手はあんたほどやすくはないからね」
するとその横に座っていたリーダーが言った。
「まったく女たちは自分の都合の良いように解釈する。あの餓鬼の目的は俺だよ。あいつはずっとソロでやってるようだが、そろそろ限界が来たのさ。だから荷物運びでも良いから自分を使ってほしくて俺の機嫌を取りに来たんだ。だが直接俺の所に来れなくて優しそうなお前たちの所に来て勢いをつけたって訳だよ。だがな、いちいちそういうのを相手にしていたらきりがない。ま、そういうことだ」
だが、ミリーは誰にも聞こえないように呟いた。
『あのトムって子がこっそりあたしのことをいつも見つめていることには気づいていた。
童貞の子って純情で臆病なんだな。言ってくれればあたし遊んであげたのに。
つまりあんたたちは隠れ蓑で私が本命だよ。でもこれは秘密だにゃ』
ミリーは口元をちょっとだけほころばせると目の前の魚料理を食べ続けた。
三回目にキャンティ伯爵邸を訪れたとき、母のシャルロッテさまが俺に言った。
「春からナディアが王立学校に通うようになります。マルマが侍女を代表して入学します」
なに科か聞くと、魔法科だという。
「ただちょっと心配なのは、ナディアは公爵家にいた頃から、ギフトのない無能者だって陰で言われているらしいの。マルマも平民で不器用な侍女だって言われていて、主従ともにつらい思いをしないかと……」
「大丈夫ですよ。二人とも実力を見せれば誰も何も言わなくなる……と思います」
そしてその後入学式も終えて楽しい学校生活を過ごしていると思っていたら、伯爵邸から呼び出しがあった。
そして母から聞いた話は……
「ナディアが上級生の魔法科の男子に決闘を申し込んだのです」
そいつは最初からわたしたちをゴミ扱いにして来た。
ハロルド・マッケンローという魔法科の2年生だ。
取り巻きの男子生徒4人と一緒にわたしのところに来ていきなり言った。
「お前は元公爵家のゴミ令嬢ナディアじゃないか。伯爵家に売り飛ばされてから性懲りもなく王立学校に潜りこんで来たとは恥知らずも良いところだ。一体どんな手を使って入学させてもらったんだ? 実技試験は初級火魔法のファイヤーボールを的に当てたそうだが、それって使い捨てのスクロールでも使ったのか? なにしろお前はギフトなしの無能だけじゃなく、年じゅう寝たきりの病人だったっていうじゃないか。全く伯爵家もとんでもないゴミを拾ったもんだ。そうそう、そこにいる泥人形みたいな侍女もお前に似て全くの無能だそうだな。そいつもどうやって入学させたんだ?
しかもただの平民だって?
そんな色の黒いみっともない女を連れて歩くなよ。まだほかにもましなのがいたろうに。よりによってそんな役立たず「決闘だ」えっ?」
わたしがそいつの面に手袋を投げつけたら、喜んで拾いやがった。ってことは受けるんだな?ようし、ハロルド・マッケンロー覚悟しろよ。
「ハロルド・マッケンロー、お前がわたしに負けたら私とマルマに床に頭をつけて謝ってもらうぞ」
「おい、ゴミ令嬢のナディア。クズ侍女と一緒にかかって来いよ。俺も一人従者を用意する。2対2でやろうじゃないか。言っとくが俺は中級火魔法を使えるんだぞ。スクロールで作ったファイヤーボールの百個分はあるぜ。こんがり炭にしてやるから覚悟しておけよ。さてと決闘は明日の放課後だ。お前が逃げないように俺が学校には届けておいてやる、お前が負けたら学校を出て行ってもらうぞ」
ハロルドはわたしを学校から追い出したかったんだ。だからわたしは挑発に乗ってしまったのを喜んでいる。
でも後悔するのは向こうだ。わたしにはトムさんがついている。明日までになんとか勝てるようにしてもらおうっと。
「それは、無理だね。相手は中級の火魔法を使うのなら、燃えない服を用意するんだね」
「なぜ燃えない服を?」
「服が全部燃えたら、ナディアさんもマルマさんも裸になってしまうからさ。決闘場で死んでも生き返らせてもらえる不死結界が張ってあるから良いけど、燃えた服は元に戻らないんだ」
「それは困る。じゃあ、これから防具屋に行って買って来なきゃ」
「その前に決闘の始まりの時とお互いのとる距離は?」
「明日の放課後です。それと対面して離れる距離は20mと決まっています。魔法戦ですから」
「ファイヤーボールが届く時間は?」
「1秒です」
「水魔法でお互いやってみよう。濡れた方が負けだ。おっと、私が相手じゃなくマルマが相手になる」
ただ水をかけるだけだからちょっと痛いけれど傷はつかない。自分は避けて相手には当てるという練習だ。
それをある程度お互いが当たらないまま続くようになると、俊敏を発動させて撃ち合うようにした。さらに加えて縮地も使わせる。そして木剣を持たせて近づいた相手に剣先を突き付けるまで練習させた。
「二人でやる場合はお互いぶつかるといけないから、相手から離れる方向に逃げること。そして……」
俺は『探索』も二人につけた。
「相手の魔力を感じながら、そちらを見ずに魔法を撃つ練習もすること」
その練習を続けていると二人とも『気配察知』を身に着けた。ずるいが、早速それを俺も貰った。
「今度は野外に行って本物の火を撃ち合ってみよう」
俺は今度は彼女らを外に連れ出し、本物のファイヤーボールを撃ち合わせた。
まさか無能と不器用の二人があれほど激しくスピーディに火魔法を撃ち合えるとは誰も思わないだろう。しかも両方の魔法はお互いをかすりもしない。
最後に俺は二人に言った。
「後は本番で頑張ってくれ」
次の日の午後、ナディアとマルマが他の侍女たちと一緒に俺の宿に来た。
「終わりました」
「どうだった?」
「どうもこうも、初撃で倒しました」
「えっ?」
「ハロルドがわたしに向かってファイヤーボールを撃ったので、私は彼に向かってブルーファイヤーアローを撃った後、縮地を使って傍に行き首元に剣先を突き付けたところ胸の所に私の魔法が当たって穴が開いていました。彼は私の火魔法は初級なので自分の中級魔法が吹き飛ばすのだと信じて避けもしなかったようなのです。でも私のブルーファイヤーアローは凝縮してしかも超高温だったので、彼の粗いファイヤーボールを貫通して彼の胸に背中まで抜ける穴を開けました」
「向こうの従者はどうしたのだ?」
「はい、向こうの従者はハロルドがファイヤーボールを撃ったので、それで私が死ぬと思って見物していたのです。でも始まった途端マルマが縮地で彼に近づき首を斬り落としました」
「そうか。でも決闘は不死結界の中でやったんだな?」
「はい、死ぬときの痛みとかは感じたらしいですが、きちんと結界を解除すると、彼らの肉体は元通りになりました。でもハロルドの胸と背中には衣服に穴があいてましたので、後で修復するでしょう」
「いやいや、奴ら貴族は修復などしない。新しく買うよ、きっと。見栄っ張りだからな。
それで、奴は約束通り頭を床につけてあなたたちに謝ったのですか?」
「はい、たった一言悪かったと言って。かなり辛そうでしたけれど。あっという間に素早くやって逃げて行きました」
「じゃあ、これですべて解決ですね」
「いえ、ハロルドについては解決なんですが、彼に応援していた人たちが、今度は次々に私に決闘を申し込んだのです。彼らの要求は全部ハロルドと同じで、私が勝ったら私の言うことを一つ聞くというものです」
「そんなことより、相手が負けたら学校をやめるという風に対等条件にしたらどうなんですか?」
「そこまでは気が付きませんでした。でも私が学校をやめろといえばやめるのでは」
「分かりました。じゃあ、今回はマルマの代わりに私が従者になって、受けて立ちましょう。で、何人いるんですか?」
「十五人です。全部マッケンロー侯爵の派閥の貴族の関係です」
「よし分かりました。明日まとめて受けましょう」
「なにか練習することはありますか?」
「ちょっとだけ密室で練習しましょう」
「えっ、密室で?」
練習が終わった後、密室から出て来た侍女たち4人のうち3人は顔にインクで落書きをされていた。落書きをされたいなかった侍女はマルマだけだった。
俺は15人の貴族の息子たちとその従者たちを見た。
中には騎士科の者も結構いる。全員の鑑定をして、少なくてもギフトやスキルで警戒を必要とする者はいないと判断する。
するとナディアが挑戦者たちに言った。
「私は何度もこういうことを繰り返したくありません。だから一度で済ませたいと思います。私は私本人とここにいる従者一人にしますが、あなたたちは15人いるのですから、従者は抜かして本人たちだけにしてください。15対2でやりましょう。それ以外の条件では受けません。どうします? 中止しますか?」
「「「やってやろうじゃないか、15人で切り刻んでやるよ」」」
「では、始めましょう」
俺たちは二人で白い霧を出した。不死結界の中はたちまち視界が真っ白になった。ナディアは気配察知と探索の両方を使って走り回り『蒸気』を敵方の顔にかけて廻った。彼らは蒸気で目を焼かれて視界は失われる。白い霧に混ざって蒸気が白い湯気に変わるが、何が起きているかは誰にもわからない。隠身も俊敏も縮地も使っているので、彼らには反撃する暇もない。
その後で俺はナディアとバトンタッチし、一人ずつ首を絞めながら頭に至近距離でブルーファイヤーバレットを撃ち込む。その後で霧を解除すると全員額に一円玉ほどの穴をあけて倒れていた。立っていたのは俺とナディアだけだ。
不死結界を解いた後、ナディアは言った。
「なんでも言うことを一つ聞くと言いましたね。では私に言ったようにあなたたちが学校を自主退学するというのはどうでしょう? ……さすがにそれは嫌みたいですね。その嫌なことをあなたたちは私にさせようとしたのですよ。さて私はあなたたちにハロルドと同じことをしてもらおうと思ってましたが、実は今度の従者はお金で雇った従者で、彼に払う謝礼がとても高額で私一人では払いきれないのです。ですから御一人金貨十枚援助してくださいませんか?
それが嫌な方は学校をやめるというのでも構いません」
結果彼らは全員金貨十枚で学校に居残れる権利を買った。もちろんこの提案は俺が考えたもので、金貨150枚……日本円にすると1500万円相当のファイトマネーを俺が貰って、なおかつ俺は彼らのギフトとスキルを全部コピーしたのだ。
彼らは一派閥の貴族の子弟たちだ。だから親の持つギフトやスキルと同じようなものを持っていると考える。けれども、女生徒は今回一人もいなかった。
彼女らのギフトやスキルはまた違った種類のものがある。
今度はそれが欲しいなと思った。
とりあえず俺の鑑定を見ると色々増えていた。どれが誰のものかは分からないが。
氏名:トム(エドワード・キャンティ)
年齢:15才
性別:男性
種族:人族
(中略)
スキル:模倣。鑑定。
剣術。槍術。弓術。棍棒術。格闘術。剛力。隠身。投擲。短剣術。変装術。身体強化魔法。俊敏。縮地。木登り。戦琴演奏。
探索。(new)気配察知。(new)
水泳。超暗算英会話。
鍛冶。裁縫。会計。調理。歌唱。舞踊。交渉。清掃。木こり。漁師。狩人。農耕作。土木作業。大工。細工師。育児。子守り。解体。伐採。按摩。薬師。看護。釜焚き。給仕。接客。詐欺。演技。虚言癖。英会話。王室作法。忠義。貴族礼法。刺繍。社交術。王室茶道。ダンス。
ジャズダンス。
超暗算。
上級木魔法10(20)(new)
中級風魔法。(new)
中級水魔法。(new)
中級火魔法。(new)
中級土魔法。(new)魔力操作。
騎士でなくてもスキルで剣術を持っている貴族は多かった。
あと初級の魔法や最下級の魔法は中級魔法によって吸収されたみたいだ。
俺はナディアにまた質問した。
「たくさんの学生……特に女生徒とたくさん握手する方法はないだろうか?」
「どうして握手したいの?」
「俺は女性の前だと緊張する。だからせめて少しでも沢山の女生徒と握手できれば、あがり症も治ると思ってる。これは実際に効果のある治療法だ」
「そうか、それなら方法があるよ」
ナディアはにっこりと笑った。
続きはこの次に。でも更新は不定期です。
何かを思いついたら書くというかんじですので……。