貴族街での小規模なスキル稼ぎ
最初11才のヒロイン予定(予定は未定にして決定にあらず)が登場します。
その後でトムと合流します。
防犯ブザーを押したら、異世界てんせーしたよ。
わたし小学校6年生11才の有村真由美だよ。
父方のお祖父ちゃんが入院先で急に具合が悪くなったっていうから、わたしまっさきに病院に行ったよ。
そうしたらお祖父ちゃんまだ意識があってわたしの手をにぎって言ったんだ。
「まゆたん、みんなが来る前にじじから形見をあげるぞ」
そう言って枕の下から出して見せたのはただの防犯ブザーだった。
「防犯ブザーなら持ってるよ」
「そんなのは捨ててこれを使え。これは普段はただの防犯ブザーだけどな、本当に命の危険があったとき押すと異世界に飛んでとってもお金持ちの家の娘に生まれ変わる超絶グッズじゃ」
「普通の痴漢のときは?」
「……」
「じじ……じじっ!」
お祖父ちゃんはそれきり返事しないで昏睡状態になった。
その後、みんながやって来て間もなくお祖父ちゃんは天国に行ってしまった。いや、もしかして異世界に行ったかもしれない。どうしてこんな変な防犯ブザー持ってるんだろう。本当はお祖父ちゃんが使おうとして持ってたのをわたしにくれたのかな?
私はこのブザーのことは誰にも言わなかったけど、今までのブザーは机の引き出しにしまって、このブザーを持ち歩くことにした。ブザーが変わったことママも気づかなかった。ママはいつも忙しくしてるからね。
ときどきこっそり鳴らしてみるけど、本当に普通のブザーだった。
でもって、ある朝学校に行くのに横断歩道を渡ってると私たち小学生たちのところに車が突っ込んで来た。私思わず防犯ブザーを押したら足もとが光って頭が真っ白になっちゃった。
声が聞こえた。何もかも真っ白で何も見えないのに、声だけが聞こえてくるんだよ。誰の声かわかんない。私のことはほっといて自分たちだけで勝手に喋ってる感じだよ。
『有村さん、自分の転生ブザーを孫娘に上げたんだな』
『それじゃあ、約束通り、家柄の良いところに転生させようか』
『どうせなら同じ年齢の子に憑依させれば、精神年齢差によるトラブルがなくて良いだろう。うん、この公爵家の娘がちょうど条件に合うんじゃないか』
『でもこの子は病弱な子だから、体を少し改良してから転移させよう』
『この真由美という子の体はどうする? 無傷だけれど』
『じゃあ、この健康な体を大方の材料にして公爵令嬢の体を改造しよう』
『表面的な印象はそのままにして病的な部分は廃棄しよう』
『魂だけの憑依じゃなく、肉体も部品交換だな、はははは』
はははって何? 人の体だと思って好き勝手にしないでよ。って文句を言いたいけど声が出ないっ。
『実質は憑依転生になるけど、扱いは生まれたときから転生したことにした方が良い。それを11才になってから前世の記憶を思い出したって仕様になるな』
あのう、わたし全部聞いてるんですけどぉ。
『もちろん、真由美は知っていても構わない』
構わないのか……。
『憑依先の令嬢が生まれた時から転生してたと信じれば良い訳だから』
『じゃあ、いっそ真由美もこの部分だけの記憶を消そう』
おいっ、初めから聞かせるなよ、それなら。そして……
私はサザーラン公爵家の三女ナディア・サザーンラン11才。
私は生まれたときから病弱で、しかも貴族なら誰でも授かっているというギフトという先天的な能力がないらしい。ギフト用の器はあるけど空っぽらしい。
ところで親戚にあたる公爵家の女性が降嫁したキャンティ伯爵家の跡継ぎが病死でいなくなったということで、親戚筋に養子の申し込みがあったが、そのお鉢が私に回って来た。
伯爵家は格下だということで誰も自分の子を養子にやりたがらなかったのだ。
私は実家が立派だということと、実家ではもて余されていることもあって、気前よく養子に出されたみたいだ。
私には侍女が一人ついている。気持ちが優しくて、悪い人ではないのだが、不器用で侍女仲間でははずれ侍女と言われてるらしい。将来性のない私にその人が専属につけられていたけれど、ことあるごとに意地悪をされていたらしい。マルマという15才の平民出の子だ。普通は公爵家の侍女となれば貴族の子女が修行がてら来るものだが、誰も私にはつきたがらなかったということだろう。
私が来たのは伯爵家に降嫁した奥方様、私の養母になる方の要望らしい。
伯爵さま、私の養父になる方は何故か全然権限がない。もともとそうだったらしいが、何か今回嫡子が病死したことと関連して益々立場を失ったようだ。
私を笑顔で迎い入れたのはシャルロッテ・キャンティ伯爵夫人で、私の病弱の様子と侍女のマルマ一人だけの様子を見て眉を曇らせた。
「いったい公爵家でどんな扱いを受けて来たのかしら。あなたの体は私が必ず治してあげます。そしてもう三人ほど侍女をてつけてあげます。そして立派なお婿さんも捜してあげますよ」
それを聞いて私は思わず嬉しくて涙が溢れて来た。実の親にも言われたことのない温かい言葉がみにしみたからだ。だからこのお養母さんの為にも私は体を丈夫にしようと思った。
けれどこのお屋敷に来てから三日もしないうちに私は熱を出して昏睡状態に陥り、意識を戻した時に一緒に前世の記憶まで思い出してしまったのだ。
私の前世はこことは別世界の地球という惑星の日本という島国国家に住んでいた、有村真由美という女の子で小学6年生で今と同じ11才だ。今のナディアとしての人生と合計22年分の記憶があるわけだけれど、気分は11才の女の子のままだ。けれどもあまりにも環境が違う。そこは貴族とか平民の区別がほとんどなく、あるとすれば金持ちと貧乏人の差が目立った程度だ。今の世界よりもずっと進んでいて、魔法はなく代わりに科学という者が発展している。
そんなことを考えていると、だんだん私の前世の意識が強くなって、えー、何この世界? って思うようになった。
親の愛情が全然なくて、病弱な私は利用価値がないからとまるでいらない物扱いだ。
スマホもないしテレビもない。電気もガスもないじゃん。
だいいち爺ちゃんなんでこんなところにわたしをてんせーさせたの? 金持ちの家に生まれる超絶グッズだって? 社会環境が悪いよ。未発達だし、文化程度が低いし、大昔の封建時代じゃない。女の子の人権もないし、ああもうっ! おまけにこんな弱い体だしっ、ってばたばたしたら体が激しくばたばた動いて毛布が吹っ飛んだ。
あれ? と思ったら私ビョンと飛び起きて、縄跳びダンスなんかもできちゃった。どこが病弱なの?
「お……お嬢様ぁぁ、お嬢様がぁぁぁ、目が覚めて踊ってますぅぅぅ」
びっくりしてたのはベッドの横の椅子に座っていた侍女のマルマだ。看病疲れでうとうとしてたらしい。
そして私が回復して元気になったと知って、お養母さまはたいそう喜んでくれた。
「長い間殆どの時間を寝て過ごしていたのに、こんなに動けて筋肉もしっかりついているのはきっと神様の御慈悲だと思いますわ。ナディア、いやナディ、これから外に出て色々なところを見て廻りましょうね。綺麗な服も沢山作って着飾ってパーティにも出ましょう。そうね、お茶会を開いて親戚のお嬢さんたちを招くのも良いわ」
お養母さまは目をキラキラさせて嬉しそうに話してくださるの。
私は早速この世界のことでやりたいことがあったから、言ったの。
「お養母さま、わたしやってみたいことがあります。剣術とか魔法を習いたいです」
するとお母様はびっくりして
「そ……そうなの? 習う分には構わないと思うけど、そうね。じゃあ、後で考えておきますね」
そう言ってくれた。だって、こんな遅れた世界だから、せめて剣と魔法くらいは経験しておかなきゃ不安だもの。
そのときにこのお屋敷に訪ねて来た人がいた。
なんでも亡くなったエドワードさんの知人の少年らしいけど、何故かお養母さまはその少年に私を会わせようとしているのだ。
俺は貴族街を歩きながら、王立学校から出て来る沢山の制服を着た生徒たちを鑑定しまくった。もちろん怪しまれては困るから、隠身・変装・貴族礼法・演技を重ね掛けして、貴族の男子だけれど見知らぬ人でさらに印象が殆ど薄くて知覚されないようにした状態でマンウォッチングしてたのだ。
おいしいっ、御馳走ならおいしすぎるっ。男女関係なく、涎の出そうな極上のギフトやスキルのフルコースだ。
今にも俺は飛び出して相手かまわず顔なり手足なり肌の出ているところをペタペタ触りまくりこいつらのスキルやギフトを腹いっぱい食べてみたい感じなのだ。
駄目だ。ここにいると思わず飛び出て生徒たちを襲いかねない。俺は、そのまま足をキャンティ伯爵邸に向けた。
シャルロッテさま……俺のお母さまに会いに来いと言われてたからだ。ただし、今は亡き彼女の息子のエドワードの友人としてだけれど。
氏名:シャルロッテ・キャンティ
年齢:29才
性別:女性
人種:人族(四分の一ハイ・エルフ)
身分:ステファン・キャンティ伯爵第一夫人
職業:魔法士
ギフト:上級木魔法
スキル:上級木魔法。魔力操作。弓術。王室作法・貴族作法。社交術。ダンス。刺繍。王室茶道。
母上はハイエルフの血が四分の一入っているのか。俺には八分の一だけれど、鑑定には割愛されているな。だから木魔法と弓術なのか。
俺は笑顔で迎えてくれた母の前に跪き手の甲に儀礼的にキスをした。
母は平民の俺がそんなことをしてもにこやかに受け入れてくれるばかりかむしろ喜んでいるようだった。俺に故エドワードの面影を見てるのだろうか? それにしても印象も年齢も違い過ぎるというのに。
「ちょうど良いところに来たわ。今度うちの娘になったナディアに合わせるわ」
エドワードだったとき、ナディアとは何度か会っている。エドワードより一つ上だが病弱であまり長話できないので短い会話しか交わしたことがない。
でも向こうは俺のことを初対面だと思うだろう。そうか、この家に引き取られたのか、色黒でごっつい感じのドジな侍女が一人だけそばについていたな。どうみてもあれは平民の子だろう。公爵家の令嬢つきの侍女のタイプではない。
ナディアは驚くべきことにしっかりした足取りでやって来た。顔色も良く目はキラキラしている。本人か?
一緒に来たのは色黒でごついマルマという侍女ほか三名の侍女だ。マルマ以外は下級貴族の子女だと一目でわかる。
氏名:ナディア・キャンティ
年齢:11才(三日後に12才)
性別:女性
人種:人族
身分:伯爵家長女(養女)
職業:なし
ギフト:なし(空き)
スキル:超暗算(そろばん名人)水泳。英会話。ジャズダンス。
えっ? この子もしかして転生者? 前世で習い事してた日本の子供ってこと?
氏名:マルマ
年齢:15才
性別:女性
人種:人族(ネタール人)
身分:平民
職業:ナディアつき侍女
ギフト:最下級土魔法
スキル:忠義
ギフトが最下級土魔法ってなに? 初級の下に下級というのがあるのは知ってたけれど、最下級って……。泥だんごでも作るのがうまいとか……。ネタール人……聞いたことがないな。
スキルが忠義か。忠犬ハチ公の侍女版だな。
氏名:ヘンリエッタ・トロフィ
年齢:17才
性別:女性
人種:人族
身分:トロフィ子爵家三女
職業:キャンティ家侍女
ギフト:初級火魔法
スキル:初級火魔法 給仕
貴族礼法。
氏名:ヘレン・アリグレッタ
年齢:15才
性別:女性
人種:人族
身分:アリグレッタ男爵家次女
職業:キャンティ伯爵家侍女
ギフト:戦琴演奏。
スキル:短剣術。戦琴演奏。
氏名:バーバラ・ゲラホーテ
年齢:23才
性別:女性
人種:ドワーフ
身分:ゲラホーテ男爵長女
職業:キャンティ伯爵家侍女
ギフト:格闘術
スキル:格闘術・棍棒術
バーバラという子が一番年下に見えるがドワーフなので、そう見える。もちろん俺はこの三人の侍女は以前から伯爵家にいるのでよく知っている。
俺がエドワードとして三日間の意識不明から目覚めた時いた侍女はヘンリエッタだ。火魔法をできるなんて知らなかった。それなら良いとこに嫁に行けるだろう。
こういうとき俺は高速思考で鑑定するのだ。だからいつまでもジロジロ見てるわけではない。ほんのチラチラと見るだけだ。
「ナディア様、私は冒険者のトムと言います。かつてエドワード様に知己を得る機会がありまして、それが縁でここに出入りを許されている平民です。どうかお見知りおきを」
「まあ、そうですか。えーと、お養母さま?」
助けを呼ぶように自分の方を見たので、母は俺とナディアに言った。
「トムは生前のエドワードと親しくしてたらしく、冒険者と言っても粗雑な人間ではありません。むしろ私はエドワードを思い起こすほど礼儀を心得た心優しい少年だと思います。それであなたに紹介したのは、どうやら彼は魔法や剣術もできるらしく、初歩で良いなら彼から習ってはと思ってるのですが」
突然の提案に俺もナディアも驚いていたが、もとより俺には断る理由がない。
「それじゃあ、ちょっとだけ私の教え方で良いかどうか、今庭に出て試しても良いでしょうか?」
ナディアが頷いたので、俺はヘンリエッタに言った。
「すみません、あなたにお願いがあるのですが、木剣を三本用意して頂けませんか?」
「あ、はい庭に持って行けば良いのですね」
子爵令嬢に物を頼むのは本来はとんでもないことだが、俺はエドワードの頃からよく知っているので気軽に頼んでしまった。そして次にヘレンの方に
「あなたの得意な武器は?」
「短剣です」
「では短木剣を持って庭に出て頂けませんか?」
「はい」
すぐにバーバラの方を見ると
「あっ、私は素手でも、棍棒でもできます」
「じゃあ、それも用意してください」
「はい」
それからマルマの方を見ると、彼女は黒い顔を赤くして
「わ……わたし、そういうの心得がなくって、不器用ですから」
「そうですか? 大丈夫ですよ。お嬢様と一緒に教えて差し上げますから。あなたには剣を使ってもらいます」
「はい」
すると母は目を丸くして俺を見ていた。
「あの侍女たちは貴族の令嬢なのに、平民のお前に言われて何の抵抗もなく返事をしていたのは何故でしょう? まるでエドワードに言われて動いているときと同じ……不思議だわ」
いや、俺がエドワードだからですよ。でもそれは言えないことだけれどね。
俺はナディアとマルマとヘンリエッタに木剣を持たせて、一人ずつ手を添えて持ち方を指導した。その後素振りをさせ八方斬と一閃突きの型を教えた。
その間他の侍女たち二人は得物を持って待っている。
「それじゃあ、まず一人ずつ私にかかってきてください」
ナディア、マルマ、ヘンリエッタの順に俺に打ち込ませる。力はないが剣筋はだんだん鋭くなって行く。
見ていたヘレンとバーバラはあっけにとられている。
彼女らはギフトなしで鍛錬によって短剣術、棍棒術をスキルにまでしたのだ。
それが並大抵の努力でないことは彼女たちが一番よく知っている。それが武術は全く素人の三人が俺相手に流暢に剣を打ち込んでいるのを見れば、信じられないのも無理はない。
それからヘレンとバーバラには攻撃をせず受けるだけにするように言って、三人の相手を順番にさせた。見てる限り今のところは余裕を持って受けたり躱したり流したりしているが、そのうちもっと上達すれば受けるだけでは敵わなくなるのが目に見えるようだ。
「私は毎日来ることはできません。たまに来るときに簡単な基礎を教えるだけです。ですから普段は侍女の皆さんがお嬢様のお相手をしてあげてください。
また侍女の皆さん同士で練習すれば上達が早いでしょう。
もっともヘレンさんとバーバラさんは既にかなりの腕前ですがね」
その後、ヘレンさんとバーバラさんと俺とで二対一の手合わせをした。俺は攻撃せずに受け専門だが、彼女たちが本気で来てもなんとか二人いっぺんに相手をすることができた。いつの間に俺はこんなに上達したのだろうと思ったが、六人の冒険者を実際に倒した経験が生きているのかもしれない。
そしてヘレンやバーバラの剣を避けながら、相手の手を掴んで軽く投げたりした。もちろん痛くないように加減したが。
バーバラは格闘術が本命なのでそう簡単には投げさせてくれなかったが、なんとか怪力の彼女を総合格闘技の技で抑え込んだ。
実は母とナディアと侍女四名からスキルをコピーしたり、逆にスキルをペイストしたりしている。特に不器用だが忠義のあるマルマにはナディアの世話がちゃんとできるようにスキルを多めに貼り付けておいた。
氏名:トム(エドワード・キャンティ)
年齢:15才
性別:男性
種族:人族
(中略)
スキル:模倣。鑑定。
剣術。槍術。弓術。棍棒術。(new)格闘術。剛力。隠身。投擲。短剣術。変装術。身体強化魔法。俊敏。縮地。木登り。戦琴演奏。(new)
水泳。(new)超暗算(new)英会話。(new)
鍛冶。裁縫。会計。調理。歌唱。舞踊。交渉。清掃。木こり。漁師。狩人。農耕作。土木作業。大工。細工師。育児。子守り。解体。伐採。按摩。薬師。看護。釜焚き。給仕。接客。詐欺。演技。虚言癖。英会話。(new)王室作法。(new)忠義。(new)
貴族礼法。刺繍。社交術。王室茶道。ダンス。(new)
ジャズダンス。(new)
超暗算。(new)
上級木魔法1(20)(new)
中級風魔法1(10)。
初級水魔法。魔力操作。
初級火魔法。(new)
最下級土魔法。(new)
氏名:ナディア・キャンティ
年齢:11才(三日後に12才)
性別:女性
人種:人族
身分:伯爵家長女(養女)
職業:なし
ギフト:初級水魔法。(new)
スキル:剣術。(new)槍術。(new) 弓術(new) 格闘術。(new)
魔力操作。(new) 隠身。(new)身体強化魔法。(new)
超暗算(そろばん名人)水泳。英会話。ジャズダンス。
初級水魔法。(new)初級火魔法。(new) 上級木魔法1。(20)(new)
ナディア以外の伯爵家の人たちのスキルがどうなったかは省略します。