ライラという少女
主人公トムは解決策が思いつかないまま街をさまよい歩きます。
俺は黙って自分自身の鑑定を
していた。
氏名:トム(エドワード・キャンティ)
年齢:15才
性別:男性
種族:人族
(中略)
スキル:模倣。鑑定。
剣術。槍術。弓術。格闘術。剛力。隠身。投擲。短剣術。変装術。身体強化魔法。俊敏。縮地。木登り。
鍛冶。裁縫。会計。調理。歌唱。舞踊。交渉。清掃。木こり。漁師。狩人。農耕作。土木作業。大工。細工師。育児。子守り。解体。伐採。按摩。薬師。看護。釜焚き。給仕。接客。
貴族礼法。刺繍。社交術。王室茶道。
中級風魔法1(10)。
初級水魔法。魔力操作。
微妙にスキルの並び方が変わっている。
そして中級風魔法は10のうち1だけ身に付いたことになっている。やはり魔力量の関係だろうか? その辺はよく分からない。だが、これだけのものを身に着けたとしても、これから俺に降りかかるだろう不幸は避けようがない。
あのエレノア嬢は家に帰ってから財布からイヤリングを出して耳につけようとするだろう。町娘に扮するときイヤリングは贅沢だから咄嗟に財布にしまったものだろう。
そして片方がないと気が付いたとき、いつ落としたのかと思いめぐらせるだろう。買い物をしてるときはきちんと確認してお金を出し入れしてたし、そんなに何か所も買い物していない。その証拠に手には何も持っていなかった。屋台の串焼きなどを食べたくらいだろう。
とすればスリに遭ったときか、でもあのときはトムという冒険者がすぐに取り返した。彼から財布を取り上げたアルフレッドはそのまま彼女に返した。
つまり掏り取られた時から彼女に戻ってくるまで財布の中はそのままだったことになる。
そこまで彼女は考えて、はっとするのだ。トムにスリから財布を取り消してくれたお礼とアルフレッドの乱暴にたいする詫びとして銀貨を二枚ほど掴んで渡した。そのときは自分が貴族だとばれているからあんまり慎重にお金を数えない。無造作に掴んで腹の太い演技をしたと思う。その分新調味に欠けたと思う。そうだ、間違えてイヤリングを渡してしまったとしてもあのときは気づかなかったかもしれない。
俺はあのときエレノア嬢が素早く立ち去ったことを思い出した。よほど慌てていたのかもしれない。
そうだ。彼女は俺にイヤリングを渡してしまった可能性を考えてそれを早速男爵に告げるかもしれない。
何故ならそのイヤリングがどれだけ高価かは問題ではない。イヤリングに小さく刻み込まれた羽の印の紋章があるからだ。それはブリードレッド男爵家の令嬢のイヤリングということになる。それが何を意味するか?
それが人の目に触れれば、真っ先に疑われるのは令嬢の貞操である。しかも不名誉にして不適切な行為の証拠になるということだ。それが事実かどうかは問題ではない。男爵は早速手を打ってトムという冒険者を抹殺しイヤリングを取り返すだろう。本来なら殺されるのはスリの少年たちだったと思うが、それが俺にお鉢が回ってきたのだ。
俺はそんなことを考えながら街を歩き回っていた。なんの策も思い浮かばぬまま、ただ不安に苛まれ怯えながら彷徨していたのだ。
いや、色々な場合を考えてみた。だがどれもこれも必ず行き詰まる結果になる。簡単な話、王都から逃げ出すことも考えた。だが俺の逃げる足は定期的な馬車か徒歩だ。貴族は金の力で人を雇ってまでも追手を差し向けるだろう。逃げる方向が四つ五つあったらそれだけの数の追手を用意して必ず捕まえるだろう。イヤリングを川に投げても無駄だ。俺が殺されることに変わらない。
そのとき、俺は行き倒れの乞食女を見た。ひどい匂いで髪も皮膚も汚れまくっていて、しかもガラガラに痩せている。
氏名:ライラ
性別:女性
年齢:16才
人種:狐人族
身分:孤児
職業:詐欺師・物乞い
ギフト:詐欺
スキル:演技・虚言癖
うわあ、初めての獣人だ。しかも詐欺師とは。
コピーしたくないが、俺は彼女を抱き上げた。そしてクリーンの魔法をかけて、すっかり綺麗にした。それから俺はそいつを食堂に連れて行って、消化の良いものを食べさせた。
俺は何も考えずにその少女を助けた。だがその少女が元気になってあることないこと嘘っぱちを話だしたときに俺はあることを思いついた。
「おい、ライラ。お前は俺に嘘をつくことはできない。お前の名前はコーネリアじゃなくてライラだ。そしてお前は年齢は14才じゃなくて16才だ。そしてお前は悪者に攫われて逃げて来た商家の娘じゃなくて、詐欺師で物乞いの孤児だ。お前は俺に嘘をつくことはできない。俺はこういう格好をしているが貴族だ。そして人の嘘を見抜き心を読む『看破』というギフトを持つ。お前は詐欺のギフトを持つが俺の前ではそのギフトを使うことはできない。もしまた俺に嘘をつこうとすれば、この場で首を切り落としてやる」
それを聞くとライラは歯をカタカタ鳴らして、真っ青になった。
「お許しください、貴族様。お坊ちゃま、どうか命だけは」
「お前の安い命など取っても仕方ない。だが、俺の言う通りにすれば、お前にはとっておきの褒美をやろう」
「とっておきの褒美? それはなんでしょう?」
「それが分かるのはお前が俺の言う通りのミッションをこなしてからだ」
俺はライラに貴族女性に必要なスキルと『変装術』と『交渉』をペイストした。
そして古着屋に行って、町娘風の服を安く買って与え、その足で貴族街まで行かせた。
俺も変装してライラの従者のふりをしてついて行く。
貴族街に変装と演技と詐術を使ってまんまと入り込んだ俺たちは高級服店に入った。表に『王立学校の制服あります』と貼り紙がしてあったからだ。
「わたし、ブリードレッド家のエレノアだけれど、制服を汚していまクリーニングに出しているのだけれど、突然学校から呼び出されたの。制服がなければ学校に入れないから、ちょっとの間だけ貸してくれるかな?」
そう言いながら変装したライラは偽物の耳につけたイヤリングを片方だけちらりと見せる。
顔も髪型もエレノア嬢に似せているので、その紋章を見せればもう相手は信じてしまう。
そして所作も身のこなしも貴族の礼法のスキルのせいで化けの皮が剥がれない。
ライラはまんまと制服に着替えると、俺と一緒に店を出る。
その足でブリードレッド男爵邸に向かう時は髪の色と目の色を変えて更に変装術の中の一つの『印象に残らない容姿』と軽い隠身を重ねがけして門番の兵士に話しかける。
「私はここの御令嬢を知る者です。名前を告げることは控えさせてもらうけれど、それはエレノア嬢の為と心得て下さい。
いまこれからあなたに言うことは一言一句正確にお嬢様に告げること。そうしなければ、あなたの首が飛ぶかもしれないので、よく心得ておくことです。
お屋敷に行ったら執事の者にこう伝えなさい。エレノアお嬢様に会いたいという王立学校の女生徒が従者と一緒に門の外で待っています。これだけです」
門番は急いでお屋敷に走って行ったが、やって来たのは初老の執事だった。
「失礼ですがご氏名とご用件をお聞かせ願えないでしょうか?」
その時、俺は前に出て威圧した。
「お前はここの執事か? 門番の者には言った。氏名も名乗らず要件も言わないのはエレノア嬢の為を思ってのことなのだ。
このお嬢様の家名を聞けば、門の外に待たせたことだけでお前の首だけでなくエレノア嬢の立場も危うくなるぞ。二度も言わせるな。すぐエレノア嬢を呼ぶのだ」
この俺の一言で少なくても俺は男爵以上の身分でそれよりも高位の貴族令嬢の従者をしている感じになった。
執事の老人は俺たちの顔を目を見開いて見たが顔を震わせるように左右に激しく振ると慌てて答えた。
「はい、失礼致しました。ただいま、エレノア様を及び致します」
そして屋敷に駆け出した。
俺は風の魔法で執事がエレノア嬢に報告している様子を聞き取った。
「学校の女生徒が? どなたか分からないの?」
「無理です。印象を薄くする魔法を使っています」
「従者を見れば見当はつかないの?」
「二人とも使ってます。それもきっとお嬢様のためらしいです」
「分かりました。それではお前だけでも一緒に来てください」
「はい、お供します」
やがてエレノア嬢が姿を現した。ライラは背筋を伸ばしてあくまでも上位の貴族令嬢の様に彼女を迎えた。
「エレノアさん、安心しなさい。あなたの家に敵対する家の者ではありません。けれども、私が誰かを知る必要はありません。私も従者を遠ざけますから、人払いをお願いします」
俺もずっと離れたが風魔法で話を聞き取っている。
「あなたは何も話さなくて結構です。あなたは今日街に出てましたね。たまたま私も出ていたのであなたを見かけたのです。
私は声をかけずにそっとそこから離れようとしましたが、たまたま子供があなたにぶつかったところを見たのです。
あなたは走り去る男の子の方に気をとられていたかもしれませんが、そのとき衝突した二人の足元に何かが落ちたのを見たのです。私は誰にも気づかれないようにそれを拾いましたが、これを渡すチャンスを失ってしまいました。何やらいろいろあったため、私も目立つことは避けたかったので。
そしてこれがあなたの落とし物です。こういうものを落としたことが分かればそれだけであなたの立場が悪くなると思うので、私は正体を隠してこれを渡します。そしてこの後私はこのことを忘れます。あなたは何も心配しないで今日のことはお忘れなさい。ところでもう男爵にこのことを告げましたか?」
エレノア嬢は首を横に振った。
「それは良かった。このことは初めからなにもなかったことです。それではごきげんよう」
「ま……まってください。あなたは?」
「それを言ったらあなたは気にして夜も眠れなくなります。私は初めから存在してなかったと思ってください。これからもあなたに接することはありません。それと……この後、風魔法で私の正体を突き止めようとしても無駄です。というかそれを行えば私には分かるので、やらない方が良いと言っておきましょう。これはあなたの為なのです。ごきげんよう」
エレノア嬢は受け取ったイヤリングを握りしめたままライラの背中に向かって深々とお辞儀をし続けていた。
その後高級服店に制服を戻してから貴族街を抜け出し商人街に来てから、俺はライラから貴族関係のスキルを奪い返した。
そして物乞いや虚言癖、詐欺のスキルもカットした。そしてギフトの『詐欺』もカットしてその代わりに彼女の希望の冒険者に向いたスキルを何種類か見立ててペイストしてやった。
「これがお前の最後の詐欺に対する報酬だ。一応『演技』は残しておいてやる。それとこれはギルドに登録する金と今夜一晩安宿に泊まるだけの費用だ。後は人に物乞いせず、騙さず、自分の力で食べて行くんだ。
俺はそれだけ言うとライラと別れた。別れ際に彼女が泣いて頼むので『変装』だけペイストしてやった。ギルド登録では誤魔化せないが獣人だと差別されることもあるので是非欲しいのだそうだ。
「だが言っておくが、変装して俺に近づこうとしても駄目だぞ。同じスキルを持っているから誤魔化せないんだ」
そう言うと今度こそライラと別れた。
だが俺自身は『詐欺』も『演技』も持っているから、これからでも人を騙せるのだ。
そして俺は回れ右してまた貴族街の方に歩いて行くのだ。
何をしに? スキル集めに行くのだ。まだ日は高い。
氏名:トム(エドワード・キャンティ)
年齢:15才
性別:男性
種族:人族
(中略)
スキル:模倣。鑑定。
剣術。槍術。弓術。格闘術。剛力。隠身。投擲。短剣術。変装術。身体強化魔法。俊敏。縮地。木登り。
鍛冶。裁縫。会計。調理。歌唱。舞踊。交渉。清掃。木こり。漁師。狩人。農耕作。土木作業。大工。細工師。育児。子守り。解体。伐採。按摩。薬師。看護。釜焚き。給仕。接客。詐欺(new)。演技(new)。虚言癖(new)。
貴族礼法。刺繍。社交術。王室茶道。
中級風魔法1(10)。
初級水魔法。魔力操作。
また危ない真似をしようとしています。懲りない奴です。