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増えたスキル

これからエドワードはトム少年として生きていかなければなりません。

 トムの体にはトムの生まれてからの記憶が残っていた。

 それによるとトムは不幸な家庭に生まれ間もなく孤児になった。

 孤児院にいたこともあるが虐めがひどいのでそこも飛び出し八才くらいから探索者の手伝いをして遺跡に潜り荷物運びをした。

 寝泊りは遺跡の中でしてお金を倹約した。

 そのうちに探索者が遺跡に入らなくなり、十才くらいからは鉄屑拾いを始めたのだ。

 遺跡の中や周りには鉄屑が一杯落ちていてそれを拾い換金所でお金に換えて貰っていた。

 けれどもそういう子はたくさんいたが、鉄屑が拾えなくなると普通の冒険者になって討伐したり、探索者として他所の遺跡に移って行ったりしたのだ。

 だがトムは地表に僅かに出ている鉄屑を掘り出して集めることを覚えたので、鉄屑拾いをやめることはできなかったのだ。

 少し土を掘れば鉄屑は埋まっているのでその仕事が続けられたということがあったのだ。

 そして競争相手がいないので、余計この仕事をずっと続けていられることになったのだ。


 ある時トムは土の中から錆びた鉄の箱を掘り出した。

 箱は壊れていたが、中に入っていたと思われる不思議な金属製品を見つけたのだ。

 それは大人の中指くらいの大きさの円筒形の魔道具だった。

 それは四つの短い円筒形を縦長に繋いだもので、それぞれの円筒部分が回転するようになっていた。

 その円筒を『カチッ』と音がするまで順番に回して行くと、最後の円筒を回し終わったとき、その魔道具が青白く光り、全身が雷撃を受けたように衝撃が走った。

 そして魔道具がトムの魂に『肉体交換』というギフトを授けたことを伝えたのだ。

 それは古代遺跡の魔道具でドーナムというものだった。

 それによってトムは肉体交換したい相手に手で触れれば幾らでもそれができるというギフトを得たのだ。

 そしてあの時彼は肉体交換するために一人でいるフェルナンデスの額に手で触ろうとしたのだ。

 その時は失敗したが、今回は成功した訳だ。

 でも俺が逃げている理由を俺の体の記憶に基づいて判断しなかったから、ただ単に貴族のお坊ちゃまがお供から逃げて自由に遊ぼうと思っていたのだと勘違いしたのだ。

 その為、彼は殺された。

 俺は初めてトムを見た時、体重の何倍もありそうな鉄屑を背負って歩いている彼を羨ましく思った。

 エドワードは勉強こそしていたが、武術はしておらず体もそれほど筋肉がついていなくて脆弱な体をしていた。

 おれは鉄屑の背負子を背負って歩いてみたが、全然平気だった。

 さて今の俺には前世の三十年くらいの人生プラスエドワードとして生きた十年、トムとして生きた十五年の合計五十五年の記憶がある。

 特に前世では寝る間もないほど働きづめに働いた社畜の人生があるから、トムの人生がどんなに悲惨だとしても命を狙われる心配もないので、十分耐えられる。


 俺はトムの記憶をもとに素材換金所に鉄屑を持って行って、お金を受け取った。今回は銀貨二枚と銅貨三十枚になった。

 少し前からトムは遺跡で寝起きするのはやめて安宿に泊まるようになった。

 実は例のドウナムは使用済みのものだが、それでも研究者に求められていたので金貨一枚で売れたのである。

 換金所の所長がそのとき呼んだ王都の鑑定士がこのドウナムは『超古代の肉体交換のギフトを授ける魔道具』だと言った。

 そしてこれが未使用だった場合は権力者が巨万の富を差し出してまでも求めるだろうと。

 何故なら老人になったら若い肉体と交換すれば不老不死と同じになるからだという。

 けれどもトムは不幸にも命を狙われて逃げているエドワードと肉体交換したために、贅沢な貴族生活を味わわないうちに殺されてしまったのだ。

 そしてそのギフトも彼の命と共にこの世から消えたのだ。

 今回俺が換金した素材換金所の所長が言った。

「なあ、トム。またこの間の魔道具みたいのを掘り起こすことはないか?

 あれば今度は前の二倍の金を出すぞ。未使用の場合は一生遊んで暮らせるほどの金になるかもな」

 そういう所を見ると、トムには金貨一枚払ったが実際はもっとたくさん儲けたのだろうと思った。

 

 トムとして生きるのは何の苦労もなかった。

 すべてトムの記憶に従って生活すれば良い訳だし、命の危険もなくこんな楽なことはない。

 そしてトムは自分の生活を悲惨だと思い込んでいたが、俺の社畜時代に比べたらこんなのんびりした楽な仕事はないのだ。

 もっともコツを覚えるまでには人知れぬ苦労をしたかもしれないが、トムの記憶に基づいて動いている俺は単なる作業をしているのと同じで全然ストレスがない。

 嫌なことを言う上司もいないし、足を引っ張る同僚もいない。

 そして鉄屑拾いに関してはほぼ独占状態だ。

 みんなこの仕事を軽蔑しているので俺より年下の子は誰もやろうとはしないのだ。

 それが俺には助かる。

 ところで俺はドウナムのことだが、あれ以外にまだあるのではないかと推理した。

 遺跡はときどき火魔法などで壁を壊して隠れた部屋を見つけたりするので、爆発によって中のものが遺跡の周囲に飛び散る場合がある。

 あのとき『肉体交換』のドウナムが無事に使用可能だったのは爆発で飛ばされても鉄の箱に入っていたからで、とすれば他にも未使用のドウナムが箱に入っていたかもしれないということだ。

 何故ならあの箱の大きさはたった一本のドウナムを入れておくには容量が大きすぎたからである。

 だから俺はトムが『肉体交換』のドウナムを見つけた場所に行き、掘り出した場所の近くも掘ってみることにした。

 そして周囲二メートルくらいを広げて掘って行った結果、歪に曲がって壊れたドウナムと傷一つないドウナムを見つけた。

 ドウナムは銀色の金属でできていて四つの短い円筒が繋がってできている。

 表面には解読できないような超古代文字が浮き彫りにされていて、なんのギフトをくれるものかは分からない。

 だがギフトなし、器なしと陰で笑われた十年間を思うと、俺のエドワードの部分が胸をときめかせた。

円筒を回転させていくたびにパチン、パチンと音がする。

 そして四回目のパチンという音がしたときにドウナムは青白く輝き俺の全身に痺れるような衝撃が走った。

 そして俺の意識は確かに次の情報を感じた。


 『模倣』のドウナム。行動や声やしぐさなどは見るだけで模倣しやすくなり、対象の素肌に自分の素肌で一秒以上触れるとギフトをコピーして我が物にできる。


 なんだって? 俺は驚いた。

器なしの俺だったのに、ギフトを一個どころか何個でもコピーできるのかと。

 

 俺は試しに冒険者ギルドの訓練場に行った。

 そこにいる人たちでひときわ目立った冒険者がいた。

 それはAランクの冒険者で剣士のマリナという女性だった。

 なんでも貴族の令嬢だったのだが騎士になり、騎士団に在籍していたのだが窮屈になり冒険者に転向したという変わり者だ。

 俺は一人で木剣を持って型を練習しているその姿を見ながら、離れた場所で同じように模倣してみた。

 すると面白いようにほぼ同時に同じような動きができるではないか。

 それを周りにいた者たちが気が付いて、見学し始めたので、相手のマリナさんにもわかってしまった。

「なあ、君。名前はなんて言うんだ? 私はマリナというんだが」

「あっ、トムと言います。Gランクですがずっと鉄屑拾いしています」

「へえ、君が鉄屑拾い続けているトム君か? ところで剣を覚えたいのか?」

「いやその……たまたま訓練場に来たんですがマリナさんの練習を見て動きが格好いいからちょっと真似したくなって、真似にはならなかったんですけど」

「ふむ……君はなにか喋り方が貴族っぽい感じがするな。それも誰かの真似か?」

「あっ、そうかもしれません」

「トム、君の動きはなかなかのものだぞ。ちょっと私と立ち合ってみないか?」

「えーと剣の握り方はこれで良かったですか」

 俺はわざとぎこちない握り方をした。

「違う。右手はこうで……」

 するとマリナさんは俺の手を上から自分の手を重ねて握り方を教えてくれた。

 そのときビリビリと体に衝撃が走り、新たなギフトをコピーしたことを知った。

 多分剣に関するギフトだと思う。

 その後マリナさんと向かい合って立ち稽古することになった。

「いいぞ、どこからでもかかって来い」

 言われて俺は斬りこんで行く。

 それを軽くはじいて返す剣でマリナさんは僕の剣を叩き落そうとした。

 だが僕はそれを逸らして突きの動作に入る。

「うおっ?!」

 マリナさんは慌ててバックステップでそれを躱す。

「まさか今のを返して来るとは思わなかったな。本当に初心者か?」

「はい、今日初めて剣を握ります」

「だがもう容赦しないぞ。こっちから行くぞ」

 そして今度はマリナさんは真剣に攻撃して来た。

 木剣でも思い切り当てられれば怪我をする。

 俺は必死に防戦した。

 もちろん訓練もなにもしていない俺は最後には負けるのだが、それでも相手の動きが分かるので結構長持ちしたと思う。

「面白いな。少し気を抜いて打ち合えばいつまでも続けられるぞ。

 まるでお互いがお互いの動きを予想して動いているみたいだ」

 実際二人の打ち合いは二人で息を合わせて剣舞をしているかのようで動きが無駄なく美しい。

 周囲も感心して見守っている。

「ははははまるで自分と一緒に打ち合っているみたいだ。面白い奴だな、君は」

 そう言ってマリナさんと別れたが、木刀を置き場に返して立ち去ろうとすると、筋肉隆々のおっさんが俺の肩に丸太のような腕を回して話しかけて来た。

「おい、トムと言ったか、お前俺と格闘してみないか。もちろん少し手をぬいてやるから」

 と無理やり素手での戦いをもちかけられた。実はその時相手の腕が俺の首に触ったので全身に衝撃が走ってギフトがコピーされた。

 もちろん体格差があるのでまともにやり合えば勝ち目はないが、離れて殴り合いの真似事をする分には結構相手になれた。

 構えも相手の動きに合わせて臨機応変にできたし、こっちのパンチや肘うちやキックは思い切りやっても相手は全然平気だった。

 相手が攻撃するときは少し手を抜いてくれるので、躱したりブロックしたりするが、ブロックのときはそのまま吹っ飛んでしまったりした。

「このくらいで良いだろう。お前なかなかやるじゃないか。特に人の動きを見て真似して自分の物にするのが得意みたいだな」

「はあ、ところであなたは格闘かなにかのギフトを持っているのですか?」

「はははは、そんなもの貴族でもないのに持っている訳ねえじゃないか。ただ鍛錬に鍛錬を重ねてこうなったのよ」

 そう言っておっさんは力こぶを作ってみせた。

 そうか『模倣』のギフトの対象はギフトでなくても良いのか。

 そう思った。

 つまり先天的な『ギフト』だけでなく、後天的に訓練して身に着いた『スキル』でも模倣可能だということだ。

 

 あるとき俺はエドワードが埋葬されているという墓に行った。

 俺は自分自身の墓に花を添えて祈っていると、背後から声をかけた夫人がいた。

 振り返るとそれは伯爵家の正室である、俺の母親だった。

「お前は何者だ? 何故息子の墓に花を供えたのだ?」

「失礼しました。エドワード様のお母上と存じますが、あなた様にお渡しするものがあります」

「なんと……お前はいったいなにものなのだ?」

「私はトムという下級の冒険者で鉄屑拾いを生業としている卑しい身分の者です。

 以前フェルナンデス様に無礼討ちされそうになったときエドワード様に救って頂いたことがあり、そのことがご縁でたびたび声をかけて頂くことになった者です。

 そのエドワード様が亡くなられるちょっと前に私にあなた様宛の手紙を託したのでございます」

 俺はそう言って予め用意してあった手紙を差し出した。

 手紙を見るとあきらかにエドワードの筆跡なので母は真剣に読み始めた。

 

 最愛のお母上様

 この手紙を貴女が読んでいるということは、私が既にこの世の者ではないということでしょう。

 実は私を殺めたのは……


 俺は手紙の中で自分がかなり前から側室母子に命を狙われていたこと。その記録は日記の形で自分の部屋の壁の中に隠していること。そして伝声管の場所と使い方についてもすべて教えた。


「ありがとう、トム。お前は卑しい身分と言いながらも言葉も態度も良く預かった手紙を私に見せたことを見ても息子との約束を守った義士であると思った。

 この手紙に従って私は息子を殺害した者たちの責任を取らす積りだが、その後でお前に礼を述べることにしよう」


 数日後、伯爵家から迎えがあり俺は馬車でお屋敷に着いた。

 母上は俺にこの数日の動きをすべて知らせた。

 まずエドワードの日記と手紙を裏付けるため、伝声管で側室母子の会話を盗聴するなどして証拠を固めた後、彼女らとその指示に従って動いた使用人たちを拘束して実家の公爵家の力を借りて処罰をした。伯爵も側室たちに惑わされかけていたが、まさか殺害までするとは思っておらず、母の決定に従ったという。

 その説明をした後、俺に養子にならないかと誘われたが、それはかえって迷惑になると断り、どうせなら姻戚の下位貴族の次男三男から選んで養子を迎えた方が良いでしょうと提案した。

 この件はそれで片付き、俺は母上から時々お茶に誘われる栄誉を褒美に貰った。

「トムよ、お前を見てると顔も年齢も全く違うのだが亡くなったエドワードを思い出す。ときどきお茶を飲みに来て私と歓談する時を過ごして欲しい」

「はい、私は両親に早くから死別して長いこと孤児として生きて参りました。

 奥方様とたまさかにでもお会いできるなら親と会っているようで心癒されます。

 誠にありがたいことでございます」

 こう言って私は次に素材換金所にやって来た。

「実は今回以前見つけたドウナムの場所の近くで二つのドウナムを見つけました。見てもらえないでしょうか」

 所長は喜んでたまたま来ていた鑑定士を呼んで二つのドウナムを見つけた。

「ふうむ、この形の整った方は『模倣』のドウナムらしい。残念ながら使用済みだが研究者に渡せば前回の『肉体交換』のドウナムと合わせて比較研究できることだろう。そしてこの形が歪んでいる方は未使用だがこれだけ歪んでいれば回転できないので始動できず使用不可だろう。

 このドウナムは『若返り』のドウナムで、なんとこれを使うことのできるのは十八才以上の者に限るらしい。

 使用するとすべて十八才の若さまで若返ることができるだけでなく、その肉体を死の直前まで保つことができるという。

 つまり人生の全ての時期を肉体が最高潮の状態で過ごすことができるという夢のようなギフトだ。

 これも使用不可とはいえ、未使用状態であるから研究者にはかなり強く求められるだろう」

「ちょっと待ってください。その未使用のドウナムは金貨二枚ではお譲りできません」

 俺はドウナムをしまおうとする鑑定士の手を押さえた。

 そのとき全身に衝撃が走った。鑑定士のギフトが模倣できたのだ。

「分かった。価格交渉は所長としてくれ。私は所長とさらに交渉しなければいけないからな」

 私の手をふりほどき鑑定士は言った。

「しかしお前は相変わらずギフトなしで器なしなのだな。

 もし使用前のドウナムを手に入れたら自分で使えたものを残念だな」

 そう言って笑った。

 ということは彼はその前の時も今もまた俺を鑑定してギフトなし、器なしと鑑定しているのだ。

 これはどういうことだ?


 俺は宿に戻ってから自分を鑑定して次のことが分かった。

 まず鑑定のギフトをコピーできたので自分のステータスが見えるようになった。

 それによると、ステータスにはギフトという項目はなくあるのはスキルという項目だけだった。


氏名:トム(エドワード・キャンティ)

年齢:15才

性別:男性

種族:人族

(中略) 

スキル:模倣。剣術。格闘術。鑑定※。


 とあり、鑑定の※を見ると、()内の情報は本人のみ鑑定可能、またコピー元の鑑定はスキルを読み取る能力がないので、読み取れるように補正してある。


 という説明があった。

 

 つまりあの鑑定士というかこの時代の鑑定では俺のスキルは読み取れないということが分かった。

 そして俺が模倣した時点でギフトという物はすべて古代仕様のスキルに直されているのだ。

 さらにスキルという形になれば先天的な才能も後天的な能力もこの時代の鑑定能力では認識できないことが分かった。


 俺は鉄屑集めを何年も続けているが、冒険者としてはずっとGランクなのだ。

 これはギルドとも交渉して特例として認めて貰っている。

 というのは鉄屑を集めることは鉄資材をリサイクルするために必要なことだからだ。

 これを認めないことになるとトムはFランクのクエストを受けなくてはいけなくなる。

 とすれば探索者の仕事になるのでこの都市を移動してダンジョンか他の遺跡に行くことになる。

 だからずっとGランクのままに留まることになっているのだ。

 

 俺は今まで森の周辺か遺跡周辺しか捜さなかったが、今度はドウナムを売って金貨を五枚も手に入れたので、鉄の剣と皮鎧と手甲を買った。

 そして背負子を背負いながら森の中に入った。

 入って思ったのだが、森の中というのは意外と落とし物が多い。

 それとも投棄されたゴミか?

 その中に錆びた剣とか戦斧とかが結構落ちている。

 拾って使うには無理がある傷み方なので、持って帰ってもしかたないので捨てて行くのだろう。

 そして使った矢がやたらあちこちに落ちている。

 中には木の幹に刺さったまま放置されたものもある。

 もっとも潰れたやじりや折れたシャフトなどは回収しても使えないから捨てて行くのだろう。

 だが中には再利用できそうなものも沢山ある。

 剣で捨てられているのは刃こぼれしたりヒビが入ったり折れたりしたものだ。

 俺は矢は使わないが、やじりなどは砥石で磨いて武具屋に持って行くと安く買い取ってくれる。

 だが屑鉄に関しては協定があるらしく直接鍛冶屋に持って行って買い取ってもらう訳にはいかないのだ。

 素材換金所はギルド傘下なので、これは違反できないのだ。

 ギルドの素材コーナーに背負子一杯の鉄屑を持ち込む訳にはいかないのでそういうことになっているらしいのだ。

 

 結果俺は背負子一杯の錆びたり傷んだ武器ゴミを背負って森から出ようとしたら、そこに俺の商売敵が現れてゆく手を遮ったのだ。

 森周辺や遺跡周辺では競争相手はいなかったが、森の中では違ったのだ。

 


 俺の目の前には十数匹のゴブリンが錆びた剣や棍棒を持って立っていた。

 俺が森の中の投棄された剣類を集めることは彼らの武器供給の道を閉ざすことになっていたのだ。

 まあ、そういうことを意識して俺の前に立ち塞がったかどうかは分からないが、とにかく彼らにとって俺は柔らかい肉の餌だし持ち運んでいるのは自分たちの武器になるブツだ。


 俺は腰の剣を抜いた。そして背負子を下ろした。と同時にゴブリンどもが一斉に飛び掛かって来た。

 ゴブリンは時代劇の悪役みたいに打ち合わせをしながら順番にかかって来ない。

 まさしく獣のように一斉に飛び掛かり、味方に剣が当たろうとどうだろうとお構いなしに振り回すのだ。

 だから俺のしたことは自分のいた場所をずらして攻撃を避けることだけだ。

 するとお互いにぶつかり合って同士討ちをしたりする。

 後は集中的に集まって来るところを避けて、独りぼっちになってるところを斬って行く。

 両側から来たら片方に剣を振り、も片方を蹴飛ばしたりするが、できるだけ一対一になるようにフットワークを使う。

 これは剣術でも格闘術でも共通の対集団戦のやり方だ。

 そしてゴブリンは訓練された軍隊ではないので、これが面白いほど型通りに当てはまる。

 つまり沢山集まるところを『実』とすれば、独りぼっちの所を『虚』と考え、『虚』を中心に狙って行くのである。

 この虚実の考えは孫氏の兵法にもある。

 前世の父親の話だが高校生時代体育の時間にサッカーをやることがあった。

 その頃はサッカーはそんなに流行ってなくてやり方もわからず無我夢中でボールを追うしか知らない者たちばかりだったという。

 その時親父は孫氏の兵法の虚実の考えを使って、ボールが行く方向を『実』、ボールから離れた方向を『虚』と考えて動いたそうだ。

 つまりボールが動いたら真っ先にボールがない方向に走ったとのこと。

 みんなはサッカーのやり方が分からないからボールの方に集まるが結果的にボールはみんながいない方にはじき出される。

 するとそこには親父が待っていて零れて来たボールを蹴ったという。

 結果一時間の授業でボールが親父の所に来たのは五六回だったという。

 親父は足も遅く運動神経も鈍い生徒だったが、ボールに触った回数がトップクラス並みだったのだ。

 つまり俺はゴブリンにとってサッカーボールであり、ゴブリンがボールに向かって殺到するときに、そこから離れていれば良いということだ。


 そうやって削って行って、僅か数分で十数匹のゴブリンは全部斬り捨てた。

 かれらの得物のうち鉄製品だけ取り上げて、すでに一杯に積まれた背負子に無理やり上乗せして積んだ。

 結果背負子のお化けみたいな感じで俺は町に戻った。

 いつもより重い背負子だが不思議にそれほど重く感じなかったのは何故かと思い、ステータスを見てみた。

氏名:トム(エドワード・キャンティ)

年齢:15才

性別:男性

種族:人族

(中略) 

スキル:模倣。剣術。格闘術。鑑定※。剛力。


 いつの間にかスキルに『剛力』が増えている。

 そういえば一匹だけ一回り体が大きいゴリラみたいな奴がいて棍棒もやたら太いのを振り回していた奴がいた。

 そいつの両腕を切り落とした後首を持って投げ飛ばしたことがあった。その後とどめを刺したんだが、そのとき手でつかんだから『剛力』をコピーしたのかもしれない。

 そのせいで帰りの背負子が重くなかったのだ。

 普段の二倍の量だから結構重い筈なのにそう感じなかったのはそういうことだったんだ。

 けれど戦っているとき、緊張していたから体に衝撃が走っていた筈だけど気が付かなかったな。

スキルのコピーは前作のようにやり過ぎないようにする積りです。

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