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その名を知っている。


「ヒュテ!」

「待て、ラッサーナ」

 アウェフフが止める。

 駆け寄ろうとするラッサの腕をヤマトが掴んだ。


「離してよ、ヒュテが……」

「駄目だ、ラッサ」

 観衆は、決着の雰囲気に飲まれている。

 奇妙な沈黙。

 そういう時間が場を支配していた。


「でも……」

「違う、ラッサ。あれは……」

 ヒュテの纏っていたマントの背中に、大きな黒い穴が開いている。

 魔術の直撃。

 石を砕くようなあんなものをまともに受けて、しかも二発も受けたら、生きていられるはずがない。


 強靭な防具でも装備していたのなら平気だったかもしれない。

 青陣衣、と呼ばれていたそれは、見ていた限りでジョラージュの剣を弾くほどの強靭さがあったが、魔術には弱いのだと言っていた。

 電気的なエネルギーには耐性がない、ということなのだと思う。

 事実、剣ではほとんど傷がつかなかったのに、魔術を受けた所は大きく穴を穿たれている。

 真っ黒な穴を。

「あれは……」


「って、てぇ……」

 もぞもぞ、と。

 絡まりながら倒れ込んでいた二人の体が動き出す。

 覆いかぶさるような形になっていたヒュテの青いマントが、ずるりと。

「……魔術効かないとか嘘じゃん」

 誰に対する文句だったのか。


 ごろりと、横に転がって体を起こしながら、しかし立ち上がるまでの気力はない様子で。

「ヒュテ!」

「あー、ラッサ。そんな顔されると結婚したくなっちゃうだろ」

「バカじゃないの! バカなの! よかった」

 罵声と安堵。

 まあ罵声は仕方がない。この状況でよくもまあ軽口を叩けるものだと。

 へいへい、というように軽く手を振るヒュテ。


 その傍らで――

「が……ぶぇ……?」

 口から血が零れているジョラージュの姿があった。

 手にしていた剣は、半ばほどから折れている。

 いや、斬られている。

 交錯する瞬間、ヒュテの短剣がジョラージュの剣を切断していた。


 ヒュテの短剣は届かなかったのではない。最初からジョラージュの武器を破壊しようとしていた。

 普通ではない反射神経で、自分を迫る相手の剣を斬って捨てた。

 そのジョラージュの腹に、折れた剣が突き刺さっている。

 後ろからの光弾で吹き飛ばされたヒュテに押される形で、切っ先がジョラージュの腹に突き立っていた。


「遠隔魔術とは、ね……想定外だったよ」

 自分のいる場所から離れた位置で光弾を発現させるなど、伝承で聞くくらいの技術だった。

 そんなものを使えるほど鍛錬していたとは、やはりジョラージュは只者ではない。

 だが、その魔術を行使する為に、手元の剣に意識が薄かった。

 剣戟に意識を集中していれば、剣を斬られるようなこともなかっただろうが。


 折れた切っ先が突き刺さったのは運が悪かっただけのこと。逆にヒュテに突き立ったとしても――

「なん……」

 ジョラージュの口から洩れるのは疑念の言葉。

「ああ、これはさ。ついさっき買ったんだけど」

 ヒュテが青陣衣を捲ると、その下にはまた更に分厚い黒い毛皮が――

「黒鬼虎の毛皮。かなり状態がよかった」

「は、は……」

 ジョラージュの口から血泡と共に笑いが零れた。

 そんなものを着込んでいたのか、と。


「暑くてもう途中で脱ぎたかったんだけど」

 着ておいてよかったよ、と。

「…………」

 ヒュテのその言葉を聞き届けたかどうかはわからないが、ジョラージュが答えることはなかった。

 勝敗が決した。

 だというのに、その場の誰もが何も言わない。

 何も言えない。


「……馬鹿やろ」

 ヒュテはそれだけ言うとジョラージュの腹に刺さった刃を抜いて、彼の目を閉じた。


 勝利などではない。

 終わりでもない。

 町のあちこちから聞こえる喧騒、煙が上がっているのも見える。

 ただこの場だけは、やけに静かだった。


  ※   ※   ※ 


「全員、突撃だ!」


 終わりではない。

 ヒュテとジョラージュの戦いが終わったからといって、これで終わりではなかった。

 弛緩した空気の中、崩れるミァレとウュセのキキーエ親子。茫然とする七家の面々とヘロの白装束の兵士。

 そこに向けてなだれ込んできたのは――


「なんと、プエムか!」

 アウェフフが驚愕の声を上げ、全員がそれを認識する。

 赤い服の兵士たち。軽く百は超える。

 チザサとヘロの決着がついたところに向けて、一斉に向かってくる。その人相はどれも凶悪な雰囲気で、兵士というよりは強盗団といった風情。

 ある意味、海賊的な気質をもっとも色濃く受け継いでいる集団かもしれなかった。


「こいつは想定外だ」

「そればっかりじゃない!」

「ごもっとも」

 立ち上がって迎え撃とうとしつつあまり緊張感のないヒュテにラッサが文句を言う。

 さっきは精魂尽きたような雰囲気だったが、事態が変わればそうも言っていられない。

「ええい、あのプエムがこんな……」


「兄ばかりだと思ってもらったら困りますねぇ」

 毒づくアウェフフに兵士たちの中から声が響く。

 向かってくる兵士の中で、一際にやけた顔の男が。

「ヨーレンか」

「こういう機会は百年に一度もないのでね。ついでなので全員片付けてしまおうかと」

 言ってる間に既にプエムの兵士たちはチザサの兵士たちとの戦闘……殺し合いに突入していた。

 虚を突かれたことと、数で圧倒的に負けていることで、瞬く間に形成が不利になっていく。


「ちい、一度引くぞ!」

 既に七家の面々は逃げ出している。

 野次馬たちも巻き込まれては大変だと散り散りだ。

「そうしかなさそうだ、ねっ!」

 ヒュテが光弾を――今までより明らかに大きなものを作り、掲げる。

「避けなよ!」

 巨大な光弾に、慌てて敵も味方もその着弾地点から逃げ出す。


 ――バンッ


 と、まるで風船がはじけるような音を立てて、ちょっとした熱風と共にそれが破裂した際には、既にチザサとロファメトの手勢は背中を向けて走り去るところだった。


  ※   ※   ※ 


「アスカとフィフは!?」

 走りながらヤマトが聞いたのは、分厚いマントを二重に着込んだまま走っているヒュテにだ。

「え?」

「その黒鬼虎の毛皮、持ってきたんでしょ!」

「ああ、妹さんか。町で騒ぎが起きたらロファメトの家に行くようにいったけど」

 すれ違いだった。


 追ってくる赤い服の兵士たちや、町のあちこちで起きている暴動。

 こんな中をどうやって――


「逃がさねえぞ、坊主」

 ヤマトたちの行く手を遮る一団があった。

「こんな時に……」

「こんな時だからだぜ。いい具合に盛り上がってきてんじゃねえか」

 幅広の見事な拵えの片端の曲刀をかざすのは、ゾマーク・ギハァト。


「知り合いかい?」

 ヒュテがヤマトに訊ねる。

「知らないんですか?」

「いんや、知ってるけど」

 じゃあなぜ聞いたんだ、と言いたいが。


「おいお前ら、邪魔すんな!」

 ゾマークが声を掛けたのはヒュテたちではない。他のプエムの兵士たちだ。

 ゾマークの周囲にもいるが、話している間にも後ろから迫ってくる。その兵士たちに向けて。

「こいつは俺の相手だ。邪魔したらぶっ殺すぞ」

 追いすがってきたプエムの兵士たちに言い放つと、言われた方は戸惑うように顔を見合わせる。

 異なる上の立場の者からの指示に、どうしたらいいのかと。


「いえいえ、困りますよゾマークさん。そこにはヒュテ・チザサとロファメト・アウェフフがいるんです」

「ヨーレンさんよ、俺の勝負の邪魔はすんじゃねえ。他のはどうでもいい」

 それはよかった、とヨーレンが言うが、挟まれた形でヤマトたちは動けない。

 対する相手も、どこに手を出していいのか悪いのか、やや膠着状態に陥る。


「俺は全体の指示もあるから、手伝ってやれないが」

「うん、大丈夫。行って」

 ヒュテにはヒュテのやることがある。チザサの兵士と共に態勢を立て直さなければプエムとやり合うことは出来ないだろう。

 ゾマークがヤマト相手に喧嘩を吹っ掛けたいだけだというのなら、ヒュテがここに留まる必要はない。


「わしらも行くぞ」

 アウェフフも同じだ。ヤマトの個人的な仲間ではなく、町のことを考えたらヒュテの補佐をしなければならない。

「行かせませんよ。行けると思いますか?」

 ぬううう、と唸るアウェフフ。


 プエムの兵士たちの後方で別の戦闘が起きている。

 見れば、ロファメト三兄弟やそれに従う人たちがプエムの兵士と衝突していた。だが数は十数人で、プエムの兵士を蹴散らすほどの勢いはない。

 あれでは程なく疲れてやられてしまうのではないか。

 先ほどから別の戦闘もこなしているのだ。疲労もしていれば怪我をしているかもしれない。


 状況は不利。

 せめて前方のゾマークが素通りさせてくれればいいのだが、ゾマークはともかく付き従うプエムの兵士たちはそれを許してくれそうにない。乱戦となればゾマークも嬉々としてこちらを攻撃してくるだろう。

 前方の数は少ないが、ゾマークは危険。どうすれば。


「ぬぉあああああああああぁぁぁぁぁっぁぁっ‼」


 唐突に、後方に集まっていたプエムの兵士たちの一角が崩れる。

 横から、思い切り何かにぶん殴られたように。

「な、何事ですか?」

 ヨーレンが、自分のすぐ傍で起きた襲撃に声を上げた。

 兵士が数人、一撃で吹き飛ばされたのだ。驚かない方がおかしい。


「てめえら、勝手なことばっかしてんじゃねぇぞ!」

 それをアスカが聞いたらどう思うだろうか。

 ヤマトは、こんな状況なのに少しおかしかった。仕方がないではないか、彼はどちらかというと身勝手な印象の強い人なのだから。


「き、貴様、何者だ!」

「あァん? 俺様か?」

 ヨーレンの問いかけに対して、彼は親指で自分を示す。


「俺様はこのノエチェゼの警備隊長――」

 赤い兵士の集団の真っただ中に現れて、彼は自信満々といった顔で言い切った。

 自称のはずなのだが、正規の兵士の目の前で。

「ボンル様だ!」

 知っている。自信家でがさつだけど、真っ直ぐな心根の竜人だ。


「知らん。こいつも一緒にやってしまえ!」

「させぬわ!」

 好機と見て、アウェフフが突っ込む。

 それに続いてチザサの兵士たちも、ヒュテも一緒に。青陣衣を脱ぎ捨てて、黒鬼虎の毛皮を頭からかぶった姿で。

 黒い毛皮を纏った戦士。

(やべ、かっこいい)

 思わず見とれてしまうヤマトが、はっとゾマークに注意を向けると、彼もヒュテの黒鬼虎装備に目を奪われているところだった。


 リーダーがああいう目立つ装備で先頭に立って戦うというのは、本当に味方の士気を高めるものなのかもしれない。

 入り乱れていく乱闘が、数では劣るものの少しずつチザサ優位になりつつあった。


 死者も出ている。腕が落ち、腹に突き刺さったものに悲鳴を上げる兵士もいる。

 そんな地獄絵図のような中でも、ラッサは不思議なほど落ち着いた様子だった。

「私も行くわ、ヤマト」

「ラッサ……」

「アスカと合流して、町を出て。この町は荒れるから」

「でも、ラッサ……」

 心配だ。

 心配でないはずがない。

 こんな状況で放っておいていいのかと。


 不安でいっぱいのヤマトに向けてラッサは笑顔を向ける。

「私には、ほら。三人もいるから」

 ラッサががくいっと示すのは、少し離れた場所で戦っている彼女の兄たちだ。


 ――兄ちゃん! 俺のラッサに変な男が言い寄ってる!

 ――本当だ、変な小僧が俺のラッサに触ろうとしてやがる!

 ――あれも敵だな。あれが最大の敵だぞ! 俺のラッサーナ、待ってろ!


「ね」

「う……うん」

「アスカには、ヤマトしかいないんでしょう?」

 そうだ。

 確かにそうだ。アスカの兄は自分しかいない。


「あんな奴の相手をすることはないわ。アスカを見つけて逃げるのよ」

 戦えとは言わない。戦う必要などないのだから。

 アスカと合流さえすれば、後はラッサたちが心配なだけで。

「そんなに心配されるのは心外だわ」

 むう、とむくれる。

 そうは言われても、心配するなというのが無理だ。

 こんな状況で。


「もう……」

 ラッサは腰に手を当て、やや前傾姿勢で上目遣いにヤマトを軽くにらんだ。

「私はね、ロファメト・ラッサーナよ」

「…………」

 その姿は、いつか見たような笑顔で。

「知らないかしら?」


 ああ、そういえば。

 そうだったかな。

 聞いているし、知っている。

 ほんの数日前のことなのに、随分と昔のようにも思うけれど。

 夕焼けの中でそう聞いた。

 挑戦的な瞳で、可愛いなって思ったんだ。


「ああ、知ってる」

 知ったから。

 奴隷商の娘だって知っていたけど、その内面は知らなかった。

 ほんの少しの時間だけど一緒に過ごして、見てきた。

 初めてだったんだ。

 こんな風に、誰かを好きになるってことを知ったのは。


「……今は、ちゃんと知ってる」

「でしょ」

 ラッサの言葉は正しい。今、ヤマトがすべきことは、ロファメトの一員として戦うことでもないし、戦闘狂との一騎打ちでもない。

 妹を見つけて、安全な場所に逃げることだ。

 他の全てのことを出来ないのは、やりたくても出来ないのは、ヤマトにそれだけの力がないから。


 小さかった。

 自分の存在が小さいことを思い知る。

 この世界の中で、ヤマト一人の存在など本当に小さなものに過ぎない。十人程度の兵士を片付けたとしてもそこまでの存在。


 全部を守りたいというのは簡単だ。

 全部を手に入れたいのが本当だ。


 けれど、それは出来ない。力がないから。

 そういう中でも、最優先でやらなければならないことがある。幼い妹の保護を。

 か弱いわけではなくても、アスカが頼れる存在は自分だけだ。フィフもいるにしても、やはりヤマトだけなのだから。


「またいずれ、ちゃんと話しましょう」

「ああ、ラッサ……お兄さんたち!」

 遠くで戦っているラッサの兄たちに呼びかける。


 ――ああ、変なやつから兄貴呼ばわりされたよ!

 ――許さねえ。あの野郎、なにがお兄様だとぶっ飛ばす。

 ――妹ならともかく弟は余ってんだこのバカ!


「ラッサをお願いします!」


 ――言われるまでもねえよ!


 三人の返事を聞きながら、軽く後ろでを振って戦いに身を任せるラッサの背中を見送った。

 颯爽と駆けていく背中。そして。

 見事な飛び蹴りがヨーレン・プエムの顎を蹴り上げるところを。

 あの蹴りは知らなかったな。


  ※   ※   ※ 


「待たせたかな?」

「へっ、まあ気にするほどじゃねえ」


 ラッサとのやり取りの最中にゾマークが仕掛けてくることはなかった。

 そんな雰囲気だったので、敢えて無視してみたのだ。

 どうやらゾマークは本当にただの勝負をしたいだけの戦闘狂らしい。

 話しても無駄だろうし、時間の余裕があるわけでもない。

 ヤマトの手には使い慣れた槍がある。争いごとに駆け付けたのだから当然手ぶらで来ているわけではない。


 身軽だ。荷物はロファメト邸に置いてきた。

 軽くとんとんとジャンプしてみて、自分の体の軽さを量る。

 動ける。

 十分な休息は取れているし、どこにも痛みはない。万全だ。


「じゃあ、やろうか」

 槍を握るヤマトに、嬉しそうにゾマークが剣を向けた。

「いいぜ、お前みたいな奴を斬りたかったんだ」

「…………」

 迷惑な人だな、と。


 周囲の兵士たちはゾマークの鬼気に怯えるように離れる。

 普段から目を付けた相手に勝負を吹っ掛けているのだろうが、暴れるゾマークの傍にいると被害があるのかもしれない。

 それにしては。

(……距離の取り方が整然としてるみたいな気もするけど)

 怯えた様子なのは間違いがない。だが、妙に規則正しいような気がした。

 五歩のルールとかそういうのがあるのかもしれない。


「…………」

 強そうだな、と思う。

 見ただけで相手の強さがわかるわけではないが、戦う意識で向き合ってみればわかることもある。

「死ぬの、怖くないの?」

 とりあえず聞いてみた。なぜ戦うのだろうかと。

「言うじゃねえか。死ぬのはお前だぜ、坊主」

 考えているわけではない。想像していない。自分が敗れて死ぬことなど。

 少なくとも今まではそうだったのだろう。だからこうして戦っていられる。


(なんだ)

 少し拍子抜けな気がした。

 百戦錬磨の戦士のようだったから死を超越した何か思いがあるのかと思ったのだが、そういうわけではない。

 覚悟があるわけでもない。

(ただ、腕が立つだけか)

 戦うのが得意だから、得意なことを楽しんでいるだけ。

 そうかと思えばひどく幼稚な気がする。


 さっきのヒュテとジョラージュの戦いに中てられて、気分が高揚しすぎていたようだ。一対一の勝負というものへの憧れというか、そういう構図に。

「時間がもったいない」

「あ?」

 ヤマトはだっと駆け出して、槍を支えにして大きく跳んだ。

 ゾマークの塞ぐ方向とは別の脇道に向かって。塀を飛び越えて屋根の上に。


「あ、てめぇ!」

「相手にしてらんないよ」

 ラッサの言う通りだった。

 こんなのを相手にしている場合ではない。さっさとアスカと合流しなければ。

「追え、お前らも!」

 後方から、ゾマークとプエムの兵士たちが追ってくる気配を感じる。

 あの場で少しでも敵の数が減ればラッサたちも楽になるだろう。道を塞いでいた兵士がいなくなることも大きい。

 ヤマトを追ってもらう分には構わない。

 フィフジャとアスカ、グレイと合流してしまえば、あの連中も一掃してしまえるだろう。

 そう思い、脇道にそれながらもロファメト邸を目指すのだった。




 町の喧騒がひどい。

 暴動というか、かなり無法地帯のようになっていた。

 あちこちでひどい騒ぎだ。

 昨日までそんなことはなかったのに、ごく普通の人々が被害者にも加害者にもなっている。

 港で起こった戦闘行為を発端にして、その周辺から火事場泥棒が始まり、略奪があり、暴動が広がっている。

 もともとがあまり治安の良い町ではないと言っていた。(たが)が外れたらこういうものか。


「…………」

 見ていて気分がいいものではないが、アスカたちを探しているのだからイヤでも目に付く。

 見なくても見つけられればいいのだが。

「……そう、だな」

 やってみようか。


「おおぉぉぉぉぉ」


 ――ォォォッ!


 低く唸る。

 これなら遠くまで響くだろうか、と。

(……いや、響いても意味わかんないじゃん)

 せっかくいい考えだと思ったのに、やはり自分は少し間が抜けている。


 ――オオオォォン!


 抜けている分は、補ってくれる仲間がいるものだ。

「グレイ!」

 応じてくれた遠吠えは、頼りになる家族の呼び声だった。


  ※   ※   ※ 


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