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港の決闘


 ヤマトがすべきことなど何もなく、物事は進んでいた。

 主役どころか脇役ですらない。端役というか、ギャラリーだ。

 この場で主たる役割を負うべき人間がいるとしたなら、少なくとも戦いの趨勢がついてから現場に到着したヤマトのことではないだろう。

 早朝にヤマトが駆け付けた際には、既に舞台は終幕の様相を呈していた。



「なぜ、なぜだ! こんな戦力はどこにもなかったはずだ」

 数十人の武装した男たちに取り囲まれ、朝の陽ざしの中でもまだうっすらと湿っている石造りの町に跪く白髪青年。

 周囲には、やはり十数人の兵士が倒れている。

 半数はもう動かない。

 もう半数は、足を深く切られて動けなかったり、まだ動いてはいるものの大きく腹を裂かれて死を待つだけの状態。

 白い装束が赤く染まっている。


「ぬしは己の成り立ちも忘れてしまったかの」

 取り囲む中、初老だが見事な体躯を晒す半裸のアウェフフが呆れたように首を振った。

「わしらは元々海賊じゃ。ぬしは陸のことばかり見ておったが、船に運ばれる食料が多いとは思わんだったか」

「バカな……それほど多くの人間を潜めていたら……」

「船乗りはの、何十日も船の中で生活することもざらじゃ。日に何人か、船の中の人数を増やしても誰も見咎めはせんだったわ」


 種明かしをすれば、ただそれだけのこと。

 一日に二人や三人、船に荷物を運んで入った人間が出てこない。そんなものを誰が数えているのか。

 人手を集めているのが知られれば用心される。当然、ジョラージュとて知っていれば手を打っていただろう。

 敵の現有戦力の量と場所を知り、それを上回る人員配備をしていたはずだった。

 まして、自分の周囲には特に優秀な兵士を十人以上配備していた。仮に奇襲を受けたとしてもジョラージュが逃げ延びて、本拠地なりで態勢を立て直せば勝利は揺るがないという形だったのに。


「なぜ、あいつらが……」

 まだ港では騒ぎが治まらない。

 あちこちで喧嘩なのか殺し合いなのか雄たけびや悲鳴、怒号が上がっている。

 それはまだ広がっていきそうだ。


 そんな中に、三人の男が、見事な連携で次々と暴れる相手を倒していくのがヤマトにも見えていた。

 相手をしているのは白い装束の兵士だったり、そうでもない港町のごろつき風の男だったりしているが。

「まだ戻ってくるはずがない!」

「そう、交易に出ていればの」

 アウェフフが本当にやれやれという風に首を振った。


「リゴベッテから戻ってくるには、あと二旬程度ではまだ無理じゃったろう。おかげで大損じゃ」

「ば、ばかな……」

「無茶言ってごめんよ、叔父さん。従兄弟殿たちも窮屈な思いをさせちゃってさ」

 大喧嘩を楽しそうにやっている三人の男は、ロファメト兄弟と呼ばれていた。

 ラッサの兄である。


 彼らはジョラージュの身辺警護をしていた精兵を急襲して、連れていた他の者と共にジョラージュを追い詰めた。

 奇襲を受けたことに気付いたジョラージュが逃げ延びようとしたところに、チザサの兵士とロファメト・アウェフフ、ヒュテ・チザサが立ちはだかった。

 その段階で、ヤマトが駆け付けてきたと。騒ぎを聞きつけたラッサと共に。



「こんな……馬鹿なことを。正気じゃないぞヒュテ!」

 憎しみを込めた目で、この人がこんな顔をするのかとヤマトは思ったが、ジョラージュは前に立つヒュテを睨みつけて怒鳴りつけた。

「僕を殺したところで騒ぎは収まらない。お前がやったことはこの町を混乱させるだけだ!」

「わかってるよ、ジョラージュ」

 飄々とした様子で応じる。


 確かに、戦っているのはチザサとヘロの兵士だけではない。港のあちこちで、小競り合いや喧嘩、物の奪い合いなどが始まっている。

 倉庫からもだし、船の方も混乱しているようだ。

 暴動。

 チザサの武力侵攻……なのか、ヘロのクーデーター失敗というべきか、その混乱に乗じた暴動が起きている。


 本来なら取り締まるべきこの町の兵士たちは、今はお互いの敵と向かい合っているのだ。

 町の騒ぎに際限はない。ジョラージュの言う通り。

「それでもさ、俺も死にたくないんだよね」

「ふざ、けたことを……」

「ジョラージュ、お前は勝ち過ぎたんだ」


 憎しみを込めたジョラージュの瞳と違い、ヒュテの目は、笑いながらも少し寂しそうだった。

「お前は完全に勝ちを手に入れていた。こんな強引なことをしなくても、あと十年も俺をいじめていたらこの町の全部を手に入れられたんだ」

「……当たり前だ」

「守っていれば勝てた。いや、もう勝っていた。誰もがそんなことわかっていたのに」

 勝ちを急いだ。

 強引に物事を進めようとした。

 それは、いつも後ろから自分を追い抜いていくヒュテの存在があったからの焦りだったのかもしれないが。


「ことが殺す殺されるって話になれば、俺だって手段は選べない」

 ぐ、と拳を握る。

「チザサに残ったわずかばかりの財産を活用して、今日この日を選ぶしかなかった。どれだけ町に損害を与えても」

「バカが……」

「お前と違って、俺は勝った後のことを考える必要がなかったからさ。お前は勝った後もこの町を支配することを考えていたんだろうけど、俺は違う。今日勝たなければ、ノエチェゼの未来がどうであれ、俺の未来がなかったんだから」


 後先を考えない。

 町の重要な収入源である交易船に被害を与えても、生きるか死ぬかの二択であれば選択の余地はなかった。

 この混乱はヒュテ・チザサにとっても、ロファメト・アウェフフにとっても勝利とは言いがたい。

 ただ、死ななかっただけのこと。

 損するか、大損をするか。それを選んだ。そこまで追い詰めてしまったジョラージュの誤算。


「それでも、な」

 遠くから駆けてくる人影を認めて、ヒュテが顎で促した。

 ジョラージュもそちらを見る。ヤマトもそれを見た。

 七家の面々だ。暴動の中を、それぞれの護衛と思しき人を連れて駆けてくる。

 全員ではないが、ヤマトの記憶では誰がいて誰が不在なのかまで判別できなかった。一人だけ、ウュセ・キキーエがいたことはわかったが。


「こ、これはいったい……どういうことなのですか、ヒュテ・チザサ」

 息を切らしながら責めるように言ったのはウュセの父親、ミァレだ。

 他の七家の人間は、困惑しながらも、事のあらましを既に理解しているようだった。


「決闘だ、ジョラージュ」

「……なん、だと」

 宣言するヒュテに、唸るような声と共に睨み上げるジョラージュ。

 その宣言は、相手にというよりは七家の面子に宣言したようだった。

「古くからの習わしだろう。どちらの主張を通すか、代表者同士で決闘だ。他の者に手出しはさせない」


 からん、と。

 金属音と共に、ジョラージュの手元に一本の剣が転がされた。

「お前の剣だ。違うのがよければ用意してもいい」

「……正気か?」

 ここまで優位な状況で、止めを刺しもせずに、対等な条件で決闘だと。

 荒くれものの町だ。最終的にはこういう単純な形式がわかりやすいのかもしれない。

 強い者の意見が通る。

 そこに正しさがあるかどうかなど関係ない。

 見届けるのは七家の面々。町の者たちの目もある。


 ヤマトの目もあるわけだが、そんなものは別に何の意味もないだろう。

(……僕、完全に蚊帳の外っていうか……まあ最初からそうなのか)

 主人公ではない、ただの一人の観衆。

 その他大勢。

 どう見てもこの戦いの主役は、ヒュテであり、その敵役であるジョラージュだ。アウェフフは名脇役というところか。


「僕を、舐めているのか」

 ジョラージュが剣を手にして、ゆらりと立ち上がる。

 その鬼気迫る空気に、少し寂し気だったヒュテの目が楽しそうに輝いた。

「冗談。御三家の当主同士、舐めてなんかいない。お前の強さを一番知っているのは俺だよ」

 ヒュテが手にしているのはあまり長くない短剣だった。

 寝間着のようなジョラージュの簡易な装いと違い、ヒュテは撥水性がありそうな青いコートを身に纏っている。暑くないのだろうか。

 もしかしたらチザサの正装なのかもしれない。プエムの赤帽子のように。


「決闘、ここに成立と見る。よいな!」

 アウェフフが轟と叫ぶと、弾かれたように七家の面々が頷いた。

 周囲に集まってきた火事場泥棒の野次馬たちも、その宣言にどよめきと喝采を漏らした。


 この町の混乱はこの後も広がるのかもしれない。

 そんな先のことは無関係な、二人の若者にとっての最終局面が始まる。


  ※   ※   ※ 


 ヒュテ・チザサは天才だ。

 知っている。嫌というほど知っている。

 さっき奴は、ジョラージュ・ヘロを一番知っているのは自分だと言ったが、それは逆も同じだ。

 ヒュテ・チザサは天才だ。完全に落ち目だったはずのチザサの家を盛り返す才能もあれば、個人として様々な技術を習得して高いレベルで使いこなす。


 体格は大柄ではない。だが、俊敏さと精密さは抜群だ。

 一度、西の森で見たことがある。飛びかかってくる皮穿血を、見てから切り裂いたその技術を。

 普通に出来ることではない。

 ジョラージュでも避けることは出来るだろうが、咄嗟に切り裂くなど。偶然だと言っていたが、偶然に出来るわけがないのだ。

 皮穿血が出るという情報を伏せて、死ねばいいのにと思って同行させた時のことだったのだが。当時、ヒュテは十歳を過ぎた程度だった。


 簡単には死なないと見て、からめ手に切り替えた。

 ヒュテに近付く人間をなるべく少なくして、人脈などといった政治的な力を削ごうと。

 それはある程度成功して、近い親戚であるロファメト以外とはほとんど交流を持つことがなくなった。

 その暇を持て余してか、今度は魔術士としての技術を習得していた。本当に忌々しい。


 光弾の魔術。

 それは魔術士としての基本にして絶対の技術であり、有用なまでの威力で生み出すことが出来るものを魔術士と呼ぶ。

 威力が足りない程度のものなら、出来る人間もそれなりにいる。百人の中に数人という程度。

 だが、魔術士として認められるまでの出力となると、千人に一人もいない。

 御三家や七家では、ジョラージュだけだった。

 その光弾の魔術で、ヒュテは太浮顎を仕留めたのだ。港に紛れ込んだはぐれた太浮顎を。

 その時、本人はまだ十四歳だった。


 チェゼ・チザサの再来だと謳われる年下の少年に恐怖を覚えた。

 これは将来、絶対に自分の敵になる、と。

 その時が今だ。



「ヒュテ」

「なんだい?」

「……いえ、何でも」

「そうだね」

 武器を構えて向き合う。

 何を言おうと思ったのだろうか。ジョラージュにもわからない。

 恨み言や不満ではなかったような気がする。この場を用意してくれたことへの感謝、というのが近いような気がした。


 衆目の前で白黒つける。

 そういう機会は、もしかしたら本当に心から望んでいたことかもしれない。

 どうでもいい。

 たぶん、どうでもいいことだ。

 剣を構える。自分の顔の横辺りまで肘を上げて、切っ先が真っ直ぐ相手の目を剥くように。上段霞の構えというのに近いが、そんな言葉はジョラージュは知らない。


「はぁ!」

 突いた。

「っ!」

 跳ね上げるヒュテの短剣。

 弾かれる前に引き、今度は腰の辺りからの構えで突く。胴の中心辺りを。

 目に留まる速さではない二段突き。

 いつかこんな日がくるかと磨いていた技でもある。一人でも密かに練習できたということも言える。

 だが、その二段目もヒュテには届かない。

 胴に届こうかというところで、ヒュテの短剣の柄が振り下ろされてジョラージュの剣を払った。


「ってぇ」

 わずかな肉の感触。

 柄を握った拳を、ジョラージュの剣の刃が滑ったのだ。

 握った手の小指の近くが切れている。

 ジョラージュの剣は諸刃で、その切れ味も一級品だ。わざわざ使い慣れたこれを渡したことを後悔しても遅い。


 と、その次の瞬間にヒュテの体が回転した。

 突きの姿勢で少し前のめりになっていた体を強引に戻すと、鼻先に衝撃があった。

 回転蹴り。

 器用でバランス感覚のいい奴だ。

 どうやら青いマントのせいで重量も増しているのか、鼻をかすっただけなのに結構な重みを感じる蹴りだった。


(わざわざそんなチザサの戦闘衣まで準備してきて)

 海の魔獣の皮で作られたそのマントは生半可な刃は通さないと聞く。数百年経ってもなお朽ちないというのも面白い。

 ジョラージュの持つ剣であれば切り裂くことも出来るだろうが、もちろんまともに当たればの話だ。

 チェゼ・チザサの遺した家宝だとか。

 残念ながらヘロにそういう戦闘用の遺品のようなものはなく、金銭的な価値のあるものしかないが。


(それも合わせて全部僕のものになればいい)

 所詮は物だ。所有者が変わることもある。

 全てを手にすることが出来る戦い。

 それに臨む自分が、これまで何も準備していないと思っているのなら。ヒュテ。大間違いだと。

 ジョラージュの剣戟を躱しながら反撃をしてくるヒュテと踊るように入れ替わりながら、心中でほくそ笑むのだった。



「はぁ、はぁっ……」

 互いに息が切れる。

 真剣勝負というのは、短時間でもひどく体力を消耗する。

 何時間も戦い続けるなど不可能。どこかで呼吸は必要だ。

「……それが、チザサの青陣衣ですか」

 距離を取って、息を整える。

「ああ、そうだね……」

 応じるヒュテも息は荒い。


「……その皮は魔術には弱いのですよ」

 元になったという海の魔獣は、打撃や斬撃には強靭なのだが、魔術による攻撃にはあまり強くない。

 海という環境で、敵となる相手はほとんどが魔術を使うような生き物ではないのだから当然のことだが。使ったところで海中ではあまり効果もない。


「は、はは……親切に、どうも」

 ヒュテは笑った。

 殺し合いの最中にわざわざ欠点を指摘してくれたのだ。明らかなことだと言ってもおかしかったかもしれない。

 当然知っている。

 ジョラージュが魔術を使うことも知っている。


 それでもこれを纏ってきたのは、チザサの当主として戦うという意思の表れか。

 生身で魔術を食らうのも結局は同じなのだから、それなら少しでも刃を防げる分だけ良いと判断したのかもしれない。

「では、いきますよ」

 本当に親切なことだ。

 なぜ掛け声などかけているのか。競技会をしているわけでもないのに。

 そう思いながら、ジョラージュが左手を掲げて光弾を生み出した。


「はぁ!」

 熱を持った塊が打ち出される。

 剣戟の速度と変わらぬほどの、あるいはそれ以上の速さで。

 見ているのだから当然避ける。


「ひぁっ!」

 後ろにいた野次馬の一人が大慌てで逃げた。その後ろの石壁を穿つ。

 石の壁が、拳一つ分ほどめり込んだ形で砕けた。

「ひ」

 見ていたものが息を飲み、取り囲んでいた場所から数歩離れる。

 石を穿つほどの一撃を受ければ当然骨が砕けるし、当たり所によっては死ぬ。

 それが出来るから魔術士は恐れられるのだ。


「っとぉ!」

 続けて放った光弾も、手を着きながら転がって避けるヒュテ。

 逆に、短剣を握った手をジョラージュに向けて同じような光弾を打ち出す。

「ふん」

 軽く躱す。ジョラージュから外れた光弾は空に向かっていって消滅した。

「そんなもので」

「だけじゃない!」

 ヒュテが左手で何かを投げる。

 魔術に気を取られていたジョラージュの足が止まっていた。慌てて身を躱したが頬を掠めた。


「いっぎぁぁぁ」

「小賢しい」

 投げナイフだ。

 後ろで声が上がったのは、ジョラージュの躱したそれが刺さったからだろう。

「あ、ごめ」

「甘いんですよ!」

 何か謝罪の言葉を掛けようとしたヒュテに、再び光弾を放つ。

「なんだって!?」

 慌てて避けるヒュテだが、躱しきれない。

 右と、左の連続で襲ってくる光弾に。


「僕が成長していないと思ったのか!」

 連続攻撃。

「こんなろぉぉお!」

 最初の一発を避けつつ、次に顔面に迫った光弾に向けてヒュテが光弾をぶつける。

 普通ではない反射神経。それは昔から変わらない。

「う、っぐぁぁっ!」

「ヒュテ!」

 顔近くで衝突した光弾。

 それは熱と衝撃を伴って破裂して、ヒュテの顔を包み込む。


 観衆の中から声が上がったのは、ロファメトの娘か。

 あの父親にも兄弟にも散々な目に遭わされた。あの娘には相応の報いを与えて、その上でヤルルーにくれてやる。死んだ方がマシと思うかもしれないが、殺しはしない。

「っまだまだぁ!」

 顔面に爆風を受けたくせに、ヒュテの戦意は失われない。

 戦意を失ったら死しか待っていないのだし、そうなれば支援しているものも同じ運命なのだから当然だが。


「く、この!」

 突進してくるヒュテに向けて光弾を放つ。

 それをヒュテの短剣が切り裂いた。

「なにっ?」

 普通の剣でそんなことをすれば、剣が折れる。

 石を砕くような衝撃を伴う光弾だ。研ぎ澄まされた剣であれば折れるのが普通。

 青陣衣と共にそれも何かの家宝――魔道具なのかもしれない。


 肉薄するヒュテ。

 一手遅れる。

 ジョラージュの剣の方が長い。踏み込まれればヒュテの短剣の方が早いし有効だ。

 下がりながら剣を振るうジョラージュに、構わず突っ込んでくるヒュテ。

 こんな風に闇雲な戦いをする奴ではなかったと思うのだが、意外だった。

 これが追い詰められた獣というものかもしれない。

 ジョラージュの知らない、必死な姿のヒュテ・チザサ。


「お前は!」

「お前を――」

 互いの目を睨みながら、歯を食いしばる。

 殺す。

 殺される。

 その一歩、半歩の差。


 実力的な差は少ない。少ない差だとしても、今までならヒュテは年少ながらその上を行っていたのだ。

 今でも、本来ならジョラージュよりも素早かったかもしれない。そうだっただろう。

 お互いに体格は似ている。そういえば似ているのか。

 だからわかる。

 ヒュテには重荷だと。


 チザサの家宝かもしれないが、その青陣衣は重い。

 それを身に着けたままの戦いが、ヒュテの体力を普段より多く消耗させている。その消耗は多くの場合に足に影響するものだ。

 ヒュテの短剣が振るわれるが、少しまだ遠い。

 ジョラージュの剣は届くが、ヒュテの短剣では浅い。

 あるいはまた投擲してくるのか。

 しかし――


「終わりだ!」


 背後からだった。

 注意を払っていない背後からの一撃。

 いや、一撃ではない。二撃。

 右と、左と。

 渾身の力を込めた光弾。

 それが、ヒュテ・チザサの背中に突き刺さった。


「ヒュテ!」

「ぬう……」

 ロファメト親子の声が漏れる。

 他の観衆からも、どよめきとも感嘆ともつかない息が溢れた。


 決着。

 青いマントに黒い穴が二つ覗いている。光弾の直撃を受けたヒュテが、その勢いのままジョラージュともつれながら転がる姿に、皆が理解した。

 勝敗は決したのだと。


  ※   ※   ※ 

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