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5-22 予言の子



 アスカは、自分の理解が浅かったのだと知る。

 代償術を電気的なエネルギーの置き換えだと思い、そのように使っていた。けれどそれは一端に過ぎない。

 自分に理解しやすく、事実としてそのような効果が発揮される。だからそれを原理だと思い込んでいた。

 教えるフィフジャの側も深く理解していたわけでもない。


 事象を、置き換える。

 そんなことが可能なのかと考えても理解できないが、これこそ事実を先に確認してしまった。

 原理はわからないけれどこういう結果がある。

 こういうことは、地球ではあったのだろうか。アスカは知らない。


 地球の知識も森羅万象全てを網羅しているわけではない。アスカが知らない、地球でも解明されていない理論は多くあるだろう。

 重力、時間、それ以外の事象も。


 遠く離れた場所で、別々の文明で。似たような技術が同じような時代に開発されたこと。

 全く交流のない異なる文化圏で、まるで同じような伝承が伝わったり。

 双子の間に見られるという不思議な共感能力。

 地球では理解が進まなかったそういう物事を、過去の超魔導文明や神様とやらはより深く知り、活用していたのかもしれない。


 だいたい、この世界の法則が地球と全く同じとも限らない。

 成り立ちが違い、生き物も違う。

 似ているだけで違う。そういう部分もあるのだから、何もかもを地球に当て嵌めて考えるのも短絡的だ。



 異なる生き物。

 アスカはこの世界で生まれ育ったわけで、自分の目で見知ってきた生き物が別世界の生き物だと思うわけではない。

 人々だって、アスカやヤマトと大きく異なる形をしているわけではない。個体差はあっても地球人の姿とほぼ変わらない。

 けれど、やはり何か違うのかもしれない。


 母から言われた言葉を思い出す。

 アスカにだけ伝えられた言葉を。

 フィフジャを拾い、母が亡くなる前に。アスカにだけ。

 内容を要約すれば、ヤマトのことを頼むという話だ。他意はない。




「なんか魔獣多くない? いつもこんな?」

 ヤマトがぼやく気持ちもわかる。

 もうすぐヘレムス教区との境だと言うが、頻繁に魔獣に襲われていた。

 石猿や、見たことのない大きな狐のような群れなす魔獣。

 川沿いでまたバムウにも出くわした。数匹の群れだったので特に問題はなかったが。


「街道沿いにこんなのはおかしいですねぇ」

 首をひねるエンニィと、胡乱な目で師を見るフィフジャ。

「また何かしているんじゃないか」

「阿呆、俺を何だと思ってるんだ。神か」

 暗躍を疑われたラボッタだが、さすがに魔獣をどうこうする手管はないと溜息交じりに返した。


 返した後で、ふと。

「確かに、俺くらいになれば何でも出来てしまいそうなもんだが」

「悪事の裏にはだいたい顔を出していそうですもんね、ラボッタさん」

 エンニィの悪口は相手をフィフジャに限るわけでもないらしい。ラボッタに向ける言葉にも遠慮はない。

 彼の上司バナラゴ・ドムローダに対してもそうだったか。

 陰でコソコソというよりも、思った言葉がそのまま出てしまうタイプ。悪意があるのかないのか、笑顔のまま。


 言われたラボッタも気を害した様子もなかった。

 頻繁に悪事の裏にいるのも事実なのではないか。

「しかしまあ、今回のこれは俺のせいじゃねえ。出来たとしてもな」

 変人のラボッタでも、自分の行く先々に魔獣を用意するのは無駄だ。


 海の悪魔ネレジェフを操る(すべ)があるのなら、魔獣をどうこうすることも可能かもしれない。

 可能性は捨てきれないが、疑い出したら際限がない。

「今回は、違うみたいね」

 自分の目がどこまで信用できるのかわからないが、嘘を言っているようには見えなかった。


 ラボッタは、自分の仕業なら悪びれもせずにそう言うのではないだろうか。

 面白そうだったからとかそんな理由で。魔獣を集めておいたぜ、くらいは言い出しそう。

 本当に出来ないかどうかはともかく、今はやっていない。そういうことなのだと思う。



「この辺の街道沿いで魔獣なんて、普段は年に一度も会わないんですけどね」

「二日に一度は出くわしてる気がするんだけど」

「ヤマトがそういうの引き付ける体質なんじゃないですか? あははっ」

 無責任に言って笑うエンニィに、ヤマトが肩を落として首を振る。

 兄の体質と考えれば、確かに厄介事を引き付けそうだと納得もしてしまうアスカだが。


「出たってすぐやっつけられるんですから平気じゃないですか」

「疲れるし、初めて見る奴はやっぱり危険だよ。死骸、放置してるけど本当にいいの?」

「腐って臭いでしょうけど、埋めたり焼いたりするのは大変ですし」

 襲ってきた魔獣は、全てを殺さなくてもいくらか相手にすれば逃げていく。あれらは別にこちらに恨みを抱いて襲ってくるわけではない。

 普通なら多人数のこちらを見て逃げていきそうなものだが、何かに興奮しているのかとりあえず襲ってくるケースが多い。


 倒した魔獣は、戦いには手を出さないラボッタがちょいちょいと解体して、使えそうな部位だけを切り出している。

 バムウの毒針。

 毒ではなく、鋭く硬い針部分が必要らしい。

 エンニィから聞いてアスカたちも、お金になりそうで荷物を圧迫しない部位だけ取ってきた。

 商人だけあってエンニィは物知りだ。

 持ちきれない部位はネフィサにも分けている。彼女は申し訳なさそうにするが、捨てていくくらいなら金に換える方がいい。



「エンニィってさ、暇なの?」

「アスカの言葉は遠慮がないですねぇ」

「それをあなたが言う?」

 ずけずけと物を言うのは自分だってそうだろうに。自らの言動は棚に上げて笑う。


「ローダ行商会は、会長の独断の部分と、各町のまとめ役がやることにはっきり分かれてますからね」

「?」

「組織が出来上がっているんで、会長のやることは大してないんですよ。視察と、全体的な方向性の指示くらい」

 そうなの、とフィフジャを見るが、彼の方も畑違いの話で曖昧に首を傾けるだけだ。


「元々はそこまで大規模じゃなかったんですけどね。バナラゴ会長が町同士の連絡を定期的にさせるようにしてから、十数年でリゴベッテでも一番大きな商会になったんです」

 先代、先々代の頃は、ローダ行商会はヘレムス教区にあるやや大手の商売人という程度だったらしい。

 連絡網、と言った。

 情報を集めて、それに合わせた商売の組み立てをする。

 そんな仕組みを作ったことで大きく成長したのだと。


 軍事以外で、大陸全体での情報を仕入れて活用して大きく伸張した。

 情報伝達手段が少ないこの世界で、その仕組みは画期的で有用だったのだと思う。

 需要を知り、供給をする。

 どこで何が必要になりそうか、分析して準備すれば他の商売人より先んずることが出来るのだから、ローダ行商会が伸びるのは必然だ。


 バナラゴ・ドムローダ。フィフジャと話していた時の気難しそうな顔しか覚えていないが、理知的な商売人なのだろう。

 今日の食い扶持を拾うことよりも、来年の種を蒔くような。そういう考え方が出来る人物。

 通信も教育も不十分なこの世界にあっては、彼のような人材は多くない。



「北部に長雨が続くとか言い当てますからね。何を根拠に言ってるのか僕にはさっぱり」

 集めた情報から天候の不順も予測するとは。著名な軍師のよう。

「すごい人なんだ」

「何でも知っているみたいな顔をする偉そうな奴だ」

 フィフジャの言い様は、バナラゴの一面でもあるのだろう。

 自らの知恵で成功を収めた人間なら、他の何にでもその成功体験が通用するかのように錯覚することもある。

 実際に偉くて、成功者で、傲慢な部分があっても仕方がない。


「良い人ってわけじゃないのは本当ですねぇ」

 部下のエンニィも、バナラゴの人柄を慕っているわけではない。

「僕は一応会長の補佐ですけど、あの人は誰も信用してないんですよ。本当に重要なことは自分で勝手にやりますから」

 秘書のエンニィが長期間離れていていいのか不思議だったが、必要なかったのか。

 独自に考えて動く方が好きなのだとしたら、今もエンニィを遠ざけて大事な仕事でもしているのかもしれない。


「やっぱり暇なんじゃん」

「あはは、やだなぁ。ちゃんと会長から任された仕事をしているじゃないですか」

 確かにそういう体裁だが、実質は漫遊しているようなものだ。

 ヤマトたちが倒した魔獣を、これは美味しいとか言いながら食べて遊んでいる。


「いいですか、アスカ。適度に働いたようで、極力働かないのが僕の生き方です」

「アスカ、こんなのを見本にするな」

 馬鹿なことを堂々と言うエンニィ。感心してしまったアスカの顔を見てフィフジャが諫めた。



「仲、いいよね。フィフとエンニィって」

「そんなわけが」

「そうですよね」

 お互いに言い合って顔を見合わせる。どういう経緯か知らないが、やはり距離が近い。

 フィフジャにだって友人のようなものくらいいるだろう。エンニィがそれだ。


「二人っていつから知り合いなの?」

「それは……えっとぉ」

「俺が黄の樹園を出た時、だな」

 フィフジャの口から答えが出て来たことに、意外そうに目を丸くするエンニィ。

 知ってるの、という視線に無言で頷いた。


「まあ、そうですね。というか僕は居合わせただけですけど……は、ははっ」

 笑いながら、その視線の先には苦い顔のラボッタがいる。

 黄の樹園、という単語が耳に入って気になったのかこちらを見ていた。それを見てエンニィが可笑しそうに笑う。

「今でも覚えてますよ。三人が三人ともひどい顔でしたし」


 三人。

 何の話なのかとフィフジャを見るが話してくれそうにないので、エンニィに視線を戻す。

「ラボッタさんが、ふてぶてしいガキだなって」

 その場にはラボッタもいたということか。黄の樹園から出てラボッタに拾われたというのだから不思議はない。

「会長は、どこか見所があるかもしれんって言って。あれはフォローのつもりだったのかな」

 バナラゴ・ドムローダも同席していて、だからエンニィが一緒だったのか。


「フィフジャさんってば、あの二人相手によく言いますよね。『偉そうな顔をした年寄りが二人』って」

「思ったことを言っただけだ」

 三人が三人とも、ひどい仏頂面で向き合っていたのだろう。

 まだ少年だったはずのフィフジャも、ラボッタもバナラゴも。


「僕、大笑いしちゃいましてね。いやいや、あそこで僕がいなかったら、間に立ってたコカロコ大司教も大変だったでしょうし」

 気遣いで笑ったのだと言いたいのかもしれないが、単純に面白がっただけなのだろうが。

 孤児の子供が、大魔導師と大商会の会長相手にふてぶてしい態度で。

 教会とラボッタの間に何らかの取引があってフィフジャを引き取った。バナラゴの立場はよくわからない。



「なんでフィフを引き取ったの?」

 知りたいから聞いてみる。聞くべき相手はそこにいる。

「あぁ」

 アスカの質問を受けて、ラボッタが頭を掻いた。

 話の流れから聞かれるかもしれないと予測はしていただろう。


「そういえば俺も知らない」

「なんで知らないのよ」

「興味がなかった。まともに聞こうと思ったことがない」

 自分のことなのに、興味がなかったと言う。

 彼にとっては黄の樹園での生活は苦痛で、他の場所も知らなかったはず。生きること自体に興味がなかったのかもしれない。


「聞いて教えてくれるような師匠でもない」

「あのな……お前だって薄々はわかってんだろうが。予言の子(・・・・)なんだよ、こいつは」

 隠すことでもないのか、今だから言うのか。

 予言の子。

 聞いたことのない言葉だけれど、有名な話なのだろうか。



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