第二十一話 「親父」と「息子」(1)
階段を上り、廊下を抜け、五人は大広間へと足を踏み入れた。その瞬間、彼らがやってくるのを待ち構えていたかのように四方八方から何者かが突進してきた。五人はそれぞれに対応しようとするも、触れた瞬間、それは爆発を起こした。
「……っ。兄さんの土人形か」
リョゼが顔を歪めて言う。
「兄さん?」
咳き込みながらも、ティナが訝しそうに目を細める。ティナの疑問符を無理やり打ち砕くかのように、エデルが答えた。
「リョゼは俺たちの仲間だ。とりあえずは、目の前の相手を倒すことだけに集中してくれ」
ティナは戸惑った様子を見せたものの、こくりと頷いた。
「うん。わかった、エデル」
そして、カイルとラミーが奥の部屋から現れた。
「まさかアジトに忍びこんで来るとはな」
ラミーも思案気に顎に手をやり、言葉を紡ぐ。
「荷下ろしの者が倒されたと聞いたから、馬車から乗り込んだのね。リョゼとその子たちが手を組んで……まったく、うまくやるものね」
「急に姿を消したと思ったら、何の真似だ。リョゼ」
カイルは目元に怒りを滲ませて言う。リョゼは沈鬱そうに唇を硬く引き結んだまま佇んでいた。
俺たちは家族だ。
かつてそう言って手を差し伸べてくれた男の大きな手の平が、リョゼの脳裏に浮かんだ。その次の瞬間、あの残虐な光景が同時にフラッシュバックをした。どうして、とリョゼは不思議に思った。俺はあいつの残酷を受け入れたはずだし、何があろうと付いていくのだと決めたはずではないか。あまりにも感情的で、わがまますぎるのかもしれない。しかし、リョゼはどうしても彼女を食った化け物のことを、許すことができなかった。
「もうあいつには付いていけない。そう思っただけだ」
それだけを言った。それだけでしかなかった。彼の事情を知っていようがいまいが、リョゼは既にクロガネにとって害のある人物である。カイルはその答えを知っただけで納得してしまったのか、「そうか」と一言だけ冷淡に言った。
「それならば、リョゼ、覚悟はできているだろうな」
強気な態度を取るカイルに、リオンが鼻を鳴らした。
「しかし、貴様らはたった二人でわしらに勝てるとでも思っておるのか? 言っておくが、わしらはそこらへんのギルターなんかよりもよっぽど強いぞ」
カイルは自嘲気味に笑った。
「ああ。何しろ、リョゼが加わっているからな。だから、最後の手段を使うことにした」
「あいつを解放したのか」とリョゼは唇を噛む。
「我らがリーダーを道具のように使うのは、いささか気が咎めたがな」
すると、彼らがやってきた奥の通路から、どすんどすんと大きな足音がした。カイルとラミーが、譲るようにすっと両脇によけた。そして、現れた化け物はエデルたちの姿を認めると、凄まじい雄叫びを上げながら襲いかかってきた。
「……一発でも食らったらやばいかもな」
エデルは眉をひそめた。振り下ろされた一撃は、頑丈そうな石の床を抉り取ってしまった。化け物のようでいて、人間の面影が残されていた。白髪のツンツン頭で、濃くしっかりとした顔立ち。上半身に着るものも纏わず、筋骨隆々とした大きな体があらわとなっている。そして、ティナはその額で光る赤い石に目を留め、エデルの方に目をやった。
「ねえ、見て。エデル」
「ああ、わかってる」
エデルもごくりと唾を飲み込んだ。リョゼの話とクロガネのアジトの地名を聞いて、まさかとは思っていたが。
「……魔業核だ」
ドーブルクは、破蛇の森の支配者のときと同じように、完全に正気を失っているようだった。瞳は焦点が定まらず、肉体が己の限界を突破して強化されている。その分だけの破壊力も恐ろしいが、しかし彼の体が魔業核の支配に耐えられるかどうかは疑問だった。
「ああ。思い出すわい」とリオンは身震いした。「欲望に脳を支配され、ひたすらに力を求めていくあの感覚。世界を統べ、新たな神になろうとしたあの頃」
「力を求めるために、人間を食べたって言うの?」とミーシャが尋ねた。
「肉食な魔物のほとんどが、そのために人間を襲っておる。特に魔力の強い人間は、奴らの血肉となり、さらなる力を与えてくれるからの」
「つまり、このドーブルクという男は……」
エデルの言葉を、リョゼは憎しみを伴った声音で引き継いだ。
「すでに人間ではなく、処理するべき化け物だということだ」




