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第十六話 支配者(ルーラー)(3)

「〈一撃必殺(ドルボイア)〉!」


 そのとき、単なる威圧ではない、圧倒的な魔力の波動を感じた。横側から飛んできた魔力の波動の(やいば)は、魔物の右腕を刹那に斬り落とした。


「〈(グラン)火球魔法(フラム)〉!」


 続いて巨大な火球が魔物に直撃し、その体を焼き焦がす。魔物は断末魔を上げながら地面に倒れ、その体を焼かれていく。


「間に合ったか」


 聞き慣れた声に、リオンは瞳を輝かせた。


「エデルゥ!」


 剣を鞘に収めて安堵の息を漏らすエデルに、リオンは体当たりするようにして抱きついた。その勢いに押され、エデルはそのまま倒されてしまう。


「わしは信じておったぞ! 必ずエデルが助けに来てくれると!」

「言っとくけど、私も助けてあげたんだからね」とティナが口を挟む。


 リオンはそんなの聞こえていないかのように、エデルの胸に頬をすりすりする。


「まったく。お前は人騒がせな奴だな」

「旅にトラブルは付き物じゃろう!」

「少しは反省しろよ!」

「じゃって! じゃって!」


 リオンはエデルの胸で泣きじゃくる。エデルは今は仕方ないかと小さなため息を吐いた。リオンの背中をトントンと叩いてなだめる。


「リオンちゃん、怪我はない?」


 しかし、リオンは心配そうに見つめるミーシャの存在に気づき、ハッとする。


(そうじゃ! 弱さを「売り」にする時代は終わったのじゃ!)


 かと思えば、リオンは急に立ち上がって偉そうに踏ん反り返った。


「ふ、ふんっ! こんな程度のことで、わしが死ぬわけがなかろう!」

「強がるなよ」


 エデルはしらーっとした目でリオンを見つめ、軽い空手チョップを食らわせる。さっきまで泣き喚いていた小さな女の子が唐突に自分を大きく見せようとする様を見て、ミーシャはほんのりと顔を赤らめた。


「リオンちゃん、可愛い……」

「可愛い、じゃと!」


 「可愛い」。しかしそれは、リオンにとっては宣戦布告も同じだった。「可愛い」とは、人を支配下に置き、完全にコントロールできる相手だと確信したときに、またそのために生まれる庇護欲によって用いられる言葉である。


(この女……わしのことを完全に見下しおったな……!)


「リオンちゃん、可愛い!」


 今度は、ミーシャはリオンのことをぎゅっと抱きしめた。


(何百年も生きるわしのことを、ペットの犬と同列に扱うじゃと……!)


「体、めっちゃ柔らかいし、小さいし、もうずっと抱きしめていたい!」

「おい、ミーシャ、言ってることが変態だぞ」


 エデルは呆れたようにため息を吐いたが、その眼差しは温かかった。それはまるで、母と娘の戯れを眺める父親の様。


「戦争じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 リオンはミーシャの「抱きつき攻撃」から抜け出し、ビシッと指差して大声を張り上げた。


「いきなりどうしたの、リオンちゃん!」

「どうしたもこうしたもあるか! わしを子供扱いしおって!」


 都合の良いときは『か弱い子供』になるくせに、とエデルはひっそりとぼやいた。


「わしは、すでに数百年も生きた妙齢の婦人であるぞ!」


 数百年も生きたら老婆だろ、とエデルは小さな声で言った。


「わしは決めた。今、決めたぞ! 必ずや支配者(ルーラー)の卵を食い、貴様の代わりにエデルの隣で戦ってみせる、とな!」

「うん、その意気だよ!」とミーシャはリオンを肯定した。「それだけ強い気持ちがあれば、あと十年後には立派な魔術師になれるはずだよ! わからないことがあったら、私が何でも教えてあげるから、遠慮なく訊いてね!」

「……おのれ、どこまでもわしのことを舐めおって」


 この何となく噛み合わないやり取りに、エデルはただ笑うことしかできない。ミーシャはまさに「純粋な女の子」と言った感じで、特に初対面の男性などには高い警戒心を抱くものの、「可愛いもの」には素直に「可愛い」と言い、直情的に動いてしまうし、これでもなかなか面倒見の良い少女なのだ。


「破蛇の森を出たら、ボーツギンか。ボーツギンに着いたら、ちょっと魔法の練習をしようね」

「だぁれが貴様なんぞに教わるものか!」


 これではキリがないと思い、エデルはパンパンと手を叩いた。


「とりあえず、早く魔法陣を破壊して、この森を出ようぜ」

「リオン、もう勝手なことするのはやめてね」とティナはリオンをたしなめる。


 しかしそのとき、エデルはピンと何かの気配に気付いた。最初はかすかな違和感にも似た邪気だった。ティナとミーシャもそれを感じるようになると、次にはずるずる、ずるずる、と何かが音を立てて彼らのもとに近付いてきた。そして、リオンが叫んだ。


支配者(ルーラー)じゃ! いや、しかし」リオンは眉を曇らせる。「あやつは理性的で穏やかな性格の持ち主であるはずじゃが、この感じは……」


 魔業核じゃ!、とリオンは叫んだ。


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