第十五話 再会(4)
「ミーシャ、本当に大丈夫なのか?」
いよいよ破蛇の森に向かう段になって、目の前できりりと眉根を寄せる少女の姿を見て、エデルは不安そうに声をかける。
「大丈夫だよ、エデルくん。パパにも、ママにも、もう話を付けてきたから」
エデルは困ったように後ろ手で頭をかいたが、それ以上何か口に出す気にはならなかった。これから旅をするにあたって、ミーシャほどの魔法のエキスパートがいてくれることは、彼らにとってもありがたいことだからだ。
「それに、エデルくんとティナちゃんが困っていて放っておくことなんて、私にはできないよ」
私たち、友達でしょ。
そう笑顔を見せるミーシャではあったが、内心は違った。
(エデルくんを放っておけるわけがないじゃない! いくら小さい女の子って言っても、どうして私の知らない子が勝手に増えているのよ! それに、あの子を除いたとしても、ティナちゃんの積極性を考えれば、絶対に二人きりになんてさせておけないわ!)
自分の静かなる怒りを表に出せるほど豪胆な人間ではないが、正直なところ、ミーシャはこれを好機と捉えたのだ。ティナがあまりにも「好きアピール」をするせいでずっと知らぬ素振りをしてきたけれど、魔王リオンを倒す旅の途中から、ミーシャも彼に男性的な魅力を感じていた。
(それに、エデルくんの周りには、なぜか色々な女の子が寄ってくる)
これ以上黙って見ているだけなんてできない。地味な一歩かもしれないけれど、それでも。
「ミーシャ、ありがとう」
ティナは柔らかい微笑を浮かべた。
「でも、無理しなくても大丈夫だよ」
そして、そっとミーシャにマーリヤ村に戻るように促した。
「これは私たちの問題だから、関係のないミーシャに迷惑をかけるわけにはいかないわ」
私たち、友達でしょ。
そう笑顔を見せるティナではあったが、内心は違った。
(まさか、よりによってマーリヤ村の近くに飛ばされるとは思わなかったわ。おまけに、昔はあんなに気弱で優柔不断だったミーシャが、即断即決でエデルに付いていくことを決めるなんて。させない。これ以上ライバルを増やして、もしエデルの気持ちがそっちに傾いたらと考えると……)
「ううん、全然迷惑なんかじゃないよ」とミーシャは首を振った。「むしろ、エデルくんが困っているのを黙って見ているだけっていう方が辛いし、戦力はひとつでも多い方がいいでしょう!」
「その心配ならば必要はない」とリオンがきっぱりと言った。「破蛇の森の支配者に会えば、わしは大抵の魔物とは渡り合えるほどの力を手にいれることができるからな」
リオンはティナに目配せした。ここはひとつ、手を結ぼうではないか。
ティナも彼女の意図を察し、リオンの言葉に乗っかる。
「そうよ。だから、ミーシャが心配することなんて何もないわ!」ミーシャは自信満々にとんと胸に手を当てた。「私たちに、任せて!」
「でも!」
とミーシャは負けじと大声を出す。エデルは彼女たちのやりとりを歯痒そうに見ていた。一体、何なんだ。この空気感の非常に悪い譲り合いは。
「覚えてるでしょ? 破蛇の森は危険な場所だからって、わざわざ遠回りしてボーツギンに行ったじゃない。リオンちゃんはまだ戦力にはなっていないでしょう? だったら、少なくともそこまでは協力させてほしいの!」
(この子、「少なくともそこまで」とか言っておきながら、結局最後まで付いてくる気ね(じゃな))
ティナとリオンは互いに目配せし、ひっそりと頷きあった。どうしてもミーシャを食い止めなければならない。しかし、先に行動を起こしたのはミーシャの方だった。
「エデルくん!」とミーシャはエデルにすがる。「私、どうしてもエデルくんの力になりたいの! ねえ、付いていっちゃだめかな? ねえ!」
ミーシャは無意識の内にずんずんとエデルに顔を近づけてくる。エデルは震えた。完全なる死亡フラグが身に迫りつつある、と。焦り、反射的にミーシャから距離を取る。
「わかった! わかったから、ひとまず落ち着いてくれ! 俺としては、戦力がひとつでも増えてくれることは嬉しいし、ミーシャがそれでいいなら、俺はそれで構わない。だから、まずは冷静に俺から離れてくれ」
「「エデル!」」とティナとリオンは同時に叫んだ。
「……エデルくん、ありがとう」
両手を胸に当て涙ぐむミーシャに、ティナは憎々しげな視線を送った。
(この子、莉奈ちゃんと違って天然でこれができるから腹立たしいわ!)
最も、エデルはミーシャの色香に惑わされたわけではなく、単に「ミーシャが無意識の内に顔を近付けてくる」➡︎「ミーシャが自覚する」➡︎「殴る」のパターンを回避したかったがために適当に都合の良いことを言っただけである。その場しのぎでティナとの結婚の約束を取り付けたのと同じである。
「危うく冒険に出る前に殺されるところだったな」
自分が認められたと思い込んでいるミーシャを尻目に、額の汗を拭い、エデルは安堵していた。
〈次回予告〉
破邪の森の支配者は、リオンの古くからの知り合いである。リオンによれば、その卵を食らって支配者の「子」となり、未来の「支配者」候補となることを条件に、凄まじい戦闘力を手にいれることができるらしい。四つの魔法陣を構成する魔業核を探すついでに、三人は支配者に会いに行くことを決め、破蛇の森に潜り込む。
次回、第十六話「支配者」。
お楽しみに!




