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第十五話 再会(3)

「あの、本当にすみません」


 三人は宿を取ろうとしたが、そこで初めて自分たちがお金を持っていないことに気付いたのだった。しかしミーシャの口利きや、エデルとティナがビルヴェンシアを魔王から救った勇者だということもあり、特別に泊めてもらえることになったのだ。


「余計なことは気にしなくていいんだよ」


 エデルの謝罪に、小太りの女主人は困ったように手を振る。


「こうして恩を売っておけば、うちらが困ったときに助けてもらえるだろ」

「はは、ありがとうございます」

「それよりも、今はゆっくり休んでおいきよ。せっかくマーリヤ村に来たんだしさ」


 三人はひとつの部屋に案内され、そこに集まり、ミーシャも同席した。


「色々と訊きたいことはあるんだけど」とミーシャはリオンを一瞥した。それからエデルに視線を戻す。「まず、エデルくんとティナちゃんが、どうしてマーリヤ村にいるの? さっきも言ったけど、二人はそもそもビルヴェンシアからいなくなっちゃったはずでしょ?」

「それが、どうやらまた面倒なことになったみたいでさ」


 エデルは顔を歪め、後ろ手でくしゃくしゃと髪を掻く。


「簡単に言えば、魔業核がまた動いているらしい」

「ええええええええええ!!!」


 すると、ミーシャは反射的にエデルに顔を近づける。


「魔業核が……嘘でしょ……」


 それからエデルと自分の顔の距離感に気付き、「へんたぁい!」と叫んでビンタをする。「いや、近寄ってきたのミーシャの方だろ」とぶっきらぼうに言うと、「ごめん」とばつが悪そうに引っ込んだ。


「しかも、それを主導しているのが、神王の側近のマールスってやつらしいんだから、ちょっとタチが悪いよ」

「そんな……」


 次々と突きつけられる衝撃的な事実に、ミーシャは言葉を失ってしまった。挙句の果てには、とエデルは眉根を寄せる。


「そいつらの目的のために、ティナが狙われている。天使たちはそのために地球までやってきたんだ。そして、俺たちは、天使たちから逃れるためにビルヴェンシアまでやってきた。ついでに、ティナを生贄にされないように魔法陣を破壊するべく、また旅をすることになりそうってわけ」

「それじゃあ、私たちの戦いって……」


 ミーシャは疲れたように大きく息を吐き出し、背もたれに体重を預けた。エデルは仕方がないと首を振った。


「あんな貴重な資料を粉微塵に破壊するわけにもいかなかったし、魔業核を使おうとしたのが、天界のナンバーツーってわけだからな」

「なるほど、そういうことか」


 エデルたちと別れた後、ミーシャはマーリヤ村に戻って家事を手伝ったり、治療魔術師として病人や怪我人の処置などをして過ごしていた。地元での生活は穏やかで落ち着いていて、エデルから告げられた新たな事件の幕開けをすぐに受け止めることはできない。

 ぼうっと視線を彷徨わせ、次にリオンのところで定める。


「あの、とりあえず今の疑問を全部解決させたいから訊くね。この子供は、一体誰なの?」

「ああ。こいつは魔王リオンだ。『元』付k……」

「ええええええええええええええええええええ!!!!!」


 ミーシャはさらに素っ頓狂な大声を上げて、ぐいっとエデルに迫ってくる。


「魔王……リオン……って、あの……?」

「うん。だから、『元』付k……」

「ちかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」


 肌にピリピリと感じた嫌な予感は的中する。ミーシャは林檎みたいに顔を真っ赤にさせたかと思うと、エデルを思い切り突き飛ばした。ミーシャは「ひゃ!」と小さな悲鳴を上げて、「大丈夫!?」と彼の元に近寄ってこようとした。


「……悲鳴を上げたいのはこっちだよ」

「だって、エデルくんがとんでもない冗談を言うんだもん」


(顔が近い)


 やばい、これは殴られパターンだ、とエデルが回避の体勢を取ろうとしているところに、ティナが助け舟を出した。


「でも、エデルの言ってることはホントだよ」


 ミーシャはぴたりと足を止め、ティナの方に視線を移す。


「こいつは本当に魔王リオンなの。まあ、『元』付きなんだけどね」

「……どういうこと?」


 ミーシャはぱちぱちと目を瞬かせる。ティナは苦笑しつつ、リオンが罰として地球へ追放されたところから、魔法陣代わりにビルヴェンシアまで連れて来られるまでの経緯を話した。

 すべてを聴き終えたミーシャは、同情するような眼差しをリオンに向けた。いくら極悪人とは言え、ほとんどの魔力や美しい容姿を奪われて一人で見知らぬ世界に放り出され、しかも都合の良い魔法陣としても利用されて振り回される彼女が、何だか惨めに感じたのだ。今の幼い少女の姿を見れば、哀愁も尚更である。


「そんな目でわしのことを見るでない」

「あ、ごめん」とミーシャは口元に手を当てる。

「ま、たしかに、かつてあれほど敵意の目を向けてきた者に『可哀想』と思われるなんてのは癪じゃ」そう言って、リオンは小さくため息を吐いた。「しかし、この蔑みや哀れみも含めて罰なのかもしれんけどな。文句も言えんわい」

「お前が落ち込んでると、なんか調子狂うからやめてくれよ」


 エデルは呆れたように、軽い口ぶりで言う。


「リオンはたしかに取り返しのつかないことをしたし、それは決して忘れていいことじゃない。だけど、それでリオンを恨んだって結局は何も変わらないし、もうお前が悪いことをするようには見えんよ。とりあえず、今は前だけを向いて歩こうぜ」

「やっぱり、お主はいくら生まれ変わっても変わらんのう!」


 エデルがしゃべるにつれてリオンの目が大きく開いていき、最後には我慢できずにその胸元へと飛びついてしまった。


「わし、絶対エデルのために頑張るからの! 絶対に戦力になって、魔法陣じゃろうが魔業核じゃろうが、全部ぶち壊してやるからの!」

「だけど、頼むから、余計なことをして心配をかけるのだけはやめてくれよ」

「いや、大丈夫じゃ!」と叫び、立ち上がる。「今からわしらが向かうのは、『破蛇の森』なのじゃろ?」

「あ、ああ……。そうだけど……」

「それならば、あやつに迎合するなど、本当は『超』が一億個付くほど癪な話じゃが、エデルのためとあらばやむを得ん。わしは裏技を使うことにする」

「裏技?」

「うむ。破蛇の森にはな、わしの古い知り合いがいてな。勘違いするなよ、古い『知り合い』じゃぞ? そんで、そいつに頼んで力を貸してもらうってわけじゃ」

「力を貸してもらうって、どういう風に?」


 ティナが尋ねると、リオンはにやりと含み笑いを漏らした。


「話し合いじゃよ。まあ、深く気にすることはない。やつもそれを求めておったし、現状を考えれば、わしにとっても利益はある。これからの旅には、戦力はひとつでも多い方がええじゃろう?」


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