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第十五話 再会(2)

「たしか、ズーリャムは近くに『破蛇の森』があるって言ってたわよね」


 道中、ティナが思い出したように言った。


「そこの魔法陣を破壊すればいいんだろ」

「じゃなくてさ、『破蛇の森』って、たしかマーリヤ村の近くじゃなかったっけ?」

「マーリヤ村……あ!」


 エデルもハッとして、二人で顔を見合わせて歓喜の声を上げる。


「「ミーシャの住んでいる村だ!」」

「っていうことは」とエデルがさらに想像力を働かせる。「ここはマーリヤ村の裏山だったのか」


 三人が山を下りたところでは平地が広がり、その先に村を見ることができるようになった。その風景にはやはり見覚えがあり、少し近付いていくと、エデルは「やっぱり」と声を上げた。


「あれ、マーリヤ村だ!」


 二人の足は自然と速くなる。「ミーシャ、いるかな」と周囲をきょろきょろと見回すティナに、エデルは苦笑した。


「とりあえず、まずは宿屋を探そうぜ」

「あ、それもそうだね」


 だが、二人を見つけたのはミーシャの方が先だった。村の新たな来訪者を怪訝そうに見つめるのは、桃色の髪の少女だった。肩甲骨のあたりまで伸びた髪はサイドテールになっており、大人しそうな垂れ目で怯えたように見つめてくる態度は昔と変わらなかった。しかし、それがよく見知った顔だとわかるや否や、瞳孔を思い切り開いて、大きな声で言った。


「エデルくん!?」


 その喜びは、エデルにしても同じだった。いくら元の地球での生活が良いと言っても、長い間一緒に旅をして、ともに苦境を乗り越えた仲間に再会した感慨は深かった。


「ミーシャ!」


 ほとんど本能的に、エデルはミーシャに向かって駆け出していた。しかし、ティナは今だに怯えた様子のミーシャを見て、思わず叫んだ。


「エデル、ミーシャのことを忘れたの!」


 さらに彼女の性格を考えれば、エデルが次にどうなるか、考えるまでもなかった。




















「へぇぇぇぇぇんたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!」





















 飛びかかってくるエデルに、ミーシャは魔法でそこそこ大きい岩石の連打を食らわせた。


「ずばばばばばばばば!!!」


 エデルは陸に打ち上げられた魚みたいに地面に倒れる。

 あちゃあ、とティナは額に手を当てた。ミーシャは、もともと男性があまり得意ではないのだ。彼女はおっとりとした男ウケのする容姿故に男性から言い寄られることが多く、時には襲われそうになることもあった。だから、目の前の男性に対しては異常なまでの警戒心を持ち、急に近付いてくる男に対しては容赦なく攻撃を加える。

 もちろん、彼女が警戒するということは——。


「危うく騙されるところだったな。あなた、エデルくんの偽物ね? だって、エデルくんがこんなところにいるはずがないもの。エデルくんは、もう元の世界に帰ったのよ」ミーシャは悲しそうな顔をして、それからエデルを憎々しく睨みつけた。「エデルくんの名を(かた)って私をだまそうだなんて、絶対に許せない!」


 ミーシャは眉根をぎゅっと引き寄せ、次の魔法を発動する準備を整える。彼女の目にはエデルしか映っていないみたいだった。「エデルの名を騙って自分をだますこと」が、相当許せないらしい。しかしエデルは体を起こし、必死の弁明を試みた。


「いや、マジで俺! エデルだから! だから、魔法はやめろって!」エデルは面倒臭そうに頭をかきむしる。「よし、わかった。それじゃあ、俺とティナしか知らないお前の秘密を言ってやろう」


 ミーシャは尚も警戒心を緩めないまま、エデルを睨みつける。エデルは言った。


「昔、一緒に旅をしてたとき、ミーシャは大きくなってきた胸にコンプレックスを感じて、ずっとティナに相談し続けていたよな。ティナからは左胸のほくろがチャームポイントだと言われつつも、そのおかげでさらに目立つ胸に、余計にコンプ……ずばばばばばばばば!!!」


 エデルは再び、ミーシャの岩石に打たれる。

 それはある街の宿屋に泊まったとき、ミーシャと話をしようと部屋のドアをノックしようとしたら、たまたま聞こえてきた相談内容である。左胸のほくろについては、どこかの温泉でラッキースケベ展開が起こったことでたまたま知り、それによってティナも「すごく可愛いのにね」と大っぴらに話すようになったのだ。


「あぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!」


 続いて、ミーシャの手の平の魔法陣から伸びた蔓が、エデルの体を幾度となく引っぱたく。


「ぎゃどどどどど!!!」


 とどめに、エデルの上空に生まれた魔法陣から大量の水流が流れ落ちてきた。

 ボロ雑巾のように地面に転がるエデルを見て、リオンは小さな声で呟いた。


「今のは完全にセクハラじゃしな。自業自得じゃ」

「一生懸命言い訳するエデルも可愛い」とティナは頬に手を当てて言った。


 ミーシャは、怪訝そうに眉根を寄せたまま言った。


「あなた、本当にエデルくんなの?」

「ああ、俺はエデル・アーリストだ」とボロ雑巾は言った。「妹のティナ、マーリヤ村のミーシャ、武闘家のゴルトンとともに魔王を倒すために、世界を巡った勇者だ」ボロ雑巾は続ける。「ちなみに、そこにティナもいるんだぜ」


 エデルが顔を向けると、ミーシャはその先にいた人物を見てぎょっと目を見開く。「ティナちゃん!?」とこれまた大きな声で叫び、そのまま固まってしまった。


「久しぶり、ミーシャ」

「え、だって、ティナちゃんは神の娘として天界に戻ったはずでしょ。どうしてこんなところにいるのよ」

「ちょっと、いろいろと事情があってね」


 それでもしばらくは警戒心を緩めなかったが、ミーシャはやがて「わかったわ」と肩を落とした。


「とりあえず、あなたが本物のエデルくんだって、信じてあげることにする」


 ボロ雑巾は、声を震わせながら答えた。


「そうか。それなら半殺しにされただけの甲斐があったよ」


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