第十五話 再会(1)
「無理。もう無理。立てん。死ぬ」
異世界ビルヴェンシアの山奥に飛ばされた三人は、まずは山を下りることに決めた。しかし、ここでひとつの問題が発生した。
「だめじゃ。これ以上歩いたら怪我する。まずい。もう無理。助けて」
地面にうつ伏せになって倒れるリオンを見つめ、エデルは深いため息を吐いた。
「するわけねえだろ。まだちょっとしか歩いてねえじゃんか。頑張れ」
「ばっかもぉん!」
リオンはくわっと目を見開いてエデルを睨みつけた。
「わしの今の姿を見ればわかるじゃろ? 子供じゃぞ? 貴様はこんな幼気な姿をした美少女に、こぉんなに歩きにくい山道を歩かせると言うのか? 児童虐待じゃぞ? しかるべき機関に訴えるぞ?」
この姿になってしばらく、リオンはコンプライアンスの盾の振りかざし方をすっかり身につけてしまったみたいだ。あるいは、それはすでに「コンプライアンスの剣」と呼ぶ方が正しいのかもしれないが。
「……お前、本当に元魔王かよ。人間界に慣れすぎだろ」
「あーあ、これで足の骨に悪い影響が出たら、健全な成長ができんわい。こんな幼気な姿をした美少女の健やかな成長を妨げるような愚かな人間は、将来子供を持ってはいかんのう」
「お前、すでに何百年も生きた魔族の王じゃなかったのかよ」
エデルはリオンの頭をこつんと軽く叩いた。
「久々の山で、疲れてるのは俺も一緒なんだよ。山を下りたらたぶん宿があるから、そこまでは頑張ってくれ」
すると、リオンは泣きそうな顔をして上目でエデルを見つめる。
「……じゃって、本当に疲れたんじゃもん。この姿のままでビルヴェンシアに送り返されるとは思っておらんかったんじゃもん。羽根がない。空を飛べん。飛べない魔王はただのごみじゃ」
ティナは、じろりとリオンを見つめていた。エデルは諦めたようにどんよりとしたため息を吐いた。
「はあ、それじゃあ、仕方がない。山を降りるまで……」
「ストップ!」
してやったりとほくそ笑むリオンを見て、ティナが鋭く声をかける。リオンはぎろりとティナを睨んだ。
「いくらおんぶしてもらった方が楽だからって、わがままを言っちゃだめでしょう? そんなんじゃ、いずれ弱い大人になっちゃうよ。ほら、エデルも、あんまりリオンを甘やかしちゃだめでしょ」
「まあ、たしかに、ティナの言う通りかもしれないな」
この女、余計なことをしおって……。
リオンは拳を力強く握りしめ、ぐっと歯をくいしばる。そして、コンプライアンスの剣を振り回す。大人二人にいじめられるか弱い女の子を演じる。
「そんな……エデルまでわしを見捨てると言うのか!」
「見捨てるっていうか……その……」エデルは困ったように後ろ手で頭をかく。
「じゃろ。じゃろ。わしはもう、疲れてしまったんじゃ」
エデルは舌打ちをして、諦めたようにため息を吐く。
「仕方ね……」
「仕方ないなあ」と遮るように言ったのはティナだった。「それじゃあ、私が手をつないであげるよ」
ぎょっとして、リオンはティナの顔を見つめる。
(子供の立場を悪用してエデルの背中を奪うなんて、絶対に許さないわ)
「その方が、リオンも安心できるし、誰かに頼りきりにならないし、名案じゃない? ね、エデル!」
「あ、ああ……。そうだな」
リオンは拳をさらにぎゅっと握りしめて、不貞腐れたようにぷいと顔をそむけた。
「いいもん。それなら、一人で歩く!」
「結局、どっちなんだよ」
エデルは呆れたように目を細め、リオンの後を追った。




