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第十三話 ここにニッチが送ります。エース級の大告白!(6)

「ど、どうしてあなたがここに……?」


 SYNL包囲網が足止めをしてくれたはずなのに。

 莉奈は口をあんぐりと開けたまま、目の前で強気に睨めつけてくる少女を見つめた。


「何か、おかしいと思ったのよ」とティナは言った。「陽子ちゃんや奈美恵ちゃんたちと三人で遊ぶ約束をしたところ、莉奈ちゃんが風邪を引いて来れなくなったってところまではまだ理解できるわ」

「東雲が、風邪を引いて?」


 ティナはちらりと優馬の方を見ると、すぐに視線を莉奈に戻した。莉奈は、悔しそうに眉根を寄せて顔をうつ向けていた。


「だけど、リオンに砂星先生まで使うのは、ちょっとやりすぎたんじゃない? 『会わない偶然』を狙った方が、むしろ安全だったかもしれないわね」


 策士策に溺れるっていうやつね、とティナは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

 ティナは、莉奈のSYNL包囲網に気づいてしまったのだ。莉奈があまりにも周到に策を凝らしすぎたせいで、疑惑に疑惑が積み重なり、砂星に連れられた店内にてリオンのスマホを覗き見、莉奈とラインをしていることを知ったのだ。それからリオンが莉奈に言われてティナの監視をしていたことを知り、今までの違和感に答えが出た。たぶん、今日に限って偶然出くわした不自然な振る舞いの砂星先生も、何らかの理由で莉奈に協力しているのだろう。そして、莉奈はティナを出し抜いて優馬をデートに誘った。どんな口実で誘うかと言えば、映画デートだろう。約束が取り付けられた場には、ティナも一緒にいたのだから。


「ねえ、優馬」とティナは優馬の腕をつかんだ。「早く、一緒に帰ろうよ」


 強引に腕を引っ張るティナに、優馬は眉を八の字にした。莉奈は何も言わない。さっきと同じまま、顔をうつ向けて黙っているだけだ。


(ここまでやって、私はティナちゃんに負けたんだ)


 だとしたら、私には他に何ができるだろう。いや、もう何もできない。



 さようなら、私の初恋。さようなら、私の初めての……本当の恋。



 その瞬間、莉奈はこの場を去ろうと決めた。自分はこの場所にいてはいけないのだと思い、足を一歩後ろに退いた。


「そういうところだよ」


 莉奈が踵を返そうとしたとき、優馬はぼそりと言った。莉奈もティナも、きょとんとした顔を優馬に向ける。


「俺がティナを面倒くさい奴だって思う理由」


 ティナ・アーリストはたしかに美少女だ。エデル・アーリストとしてビルヴェンシアに生まれ、成長すればするほど美しくなっていく彼女に、異世界転生万歳を唱えた。そんな美少女が慕ってくれると言うならば、文句なんて出るはずがなかった。しかし、一緒にいればいるほど、優馬 (エデル)は彼女にも欠点があることに気づく。ただ美しい少女に愛されたからと言って、それだけが幸せではないことに気づく。


「ティナは、ちょっと自己中心的すぎるんだよ。だから、今日のことも、ちょっと前に雪菜とエオンに行ったときのことだって、お前に言いたくなかったんだ。他にも、俺は俺のことを、どうしてもティナに言いたいとは思えない。どうせ、こうやって纏わり付いてくることがわかっているから」

「優……馬?」


 優馬の言葉の端々には、静かなる怒りが秘められていた。拒否はされても、否定はされたことはない。「面倒臭い奴だ」と言いながらも、優馬はティナを「悪い奴」とは思っていなかったし、ある程度は受け入れる必要があるのだとも思い始めていた。そしてティナ自身も、優馬の繊細な心の動きを感じ取っていた。あともうひと押しで行ける。そう思っていた。けれど、その「もうひと押し」が強すぎた。


「今日は、『東雲と二人だけで会う』っていう約束でここにいるんだ。生憎、俺はちょっと頭の堅い人間なんだよ。一度取り決めた約束は破れそうにない。だから、今日だけは帰ってくれないか?」


 悪いな、と言ったその表情は、実に優馬らしいものだった。しつこく迫ってくるティナに憤りを感じつつも、その中には多少の罪悪感が含まれている。けれど、それ以上の優馬の考えというものはたしかに存在した。


「……ごめん」


 ティナは一歩、足を後ろに退いた。そしてもう一歩を後ろにやると、自嘲気味に笑って肩をすくめた。


「あーあ、最近は押しの強い女の子がモテると思ってたのになあ。ちょっとやりすぎたのは、私の方だったか」


 優馬、ばいばい。

 くっそー!、なんてわざとらしい明るい声音で言いながら、ティナは街の人混みの中に消えていく。


「何て言えばいいのかわからないけど……悪かったな」


 優馬はごまかすように笑って言った。


「ティナは悪い奴じゃないんだけど、ちょっとだけ考え方が行き過ぎてるんだよ。まあ、俺が言えたことじゃないのかもしれないけどさ」


× × ×



 人生とは、得てして計画通りに行かないものである。



 莉奈は最後の名言を残した。この名言を最後に、今までの自分を捨てようと思った。もっと自分に対して素直になろうと思った。くだらない小細工は捨てて、まっすぐに相手とぶつかろうと思った。

 元の楽しい空気を取り戻そうとするかのように、優馬は普段以上に口数多くしゃべった。いや、でもラストシーンには泣かされたよ、とクライマックスシーンの話を先にされてしまったが、莉奈は深く気にすることなく「そうだね」と受け流した。


「こんな夜遅くまで街を歩くことがないから、ちょっと不思議な気分だな」


 物語は終幕の雰囲気。

 二人の足も、自然とバス停の方へと向かっていた。適当なファミレスで軽くご飯を食べたけれど、小洒落た夜景の見えるレストランで愛や恋について語り合うことはなかったし、クライマックスシーンをきっかけに告白をすることも叶わなかった。


 でも……。


 この言葉だけは、言わなければならないと莉奈は思った。今日という日を逃したら、二度とこのチャンスは巡ってこない気がして。付き合うどころか、話す機会すらなくなるような、そんな気がして。


「ねえ、桜井くん」


 夜のバス停。雰囲気は微妙。車の通る音がうるさいし、離れた場所では三、四人の男子高校生がじゃれ合っている。ベンチには年老いた女性が一人座っているだけではあったが、果たしてこんな恥ずかしいやりとりを人に聞かれて良いものか。


(ほんと、私ってエースにはなれないなあ)


 莉奈は自分自身に対して苦笑したい気持ちをこらえた。


「私……」


 それよりも、今はただ、自分の気持ちをまっすぐに伝えたい。不思議そうに「どうした?」と尋ねる優馬の顔を見上げ、莉奈は精一杯の自分の思いを吐き出した。


「私、桜井くんのことが、好きです! 桜井くん、私と、付き合ってください!」


2019/6/11


 これにて、第二部は終わりです。結果論から申し上げますと、第二部は莉奈一人が中心となる物語になりました。

 第一部は桜井家を中心に、割とバランス良くキャラクターたちにスポットライトを当てられたのではないかと思います(まあ、雪菜がヒロインになった感は否めませんが)。最初は第二部も同じような手法でストーリーを進め、つまり今度は優馬と学校を取り巻く環境にスポットライトを当てようと思っていたのですが、そこまでの物語を作り上げる実力が自分にはありませんでした。学園ものと言えば、文化祭やら体育祭やらってテンプレ的な話の作り方ががあるとは思うのですが、うーん、「できないな」って思ってしまったんです。

 第二部のヒロインが莉奈であることは最初から決まっていました。そもそも、第一話を書き始めたあたりからティナのライバル的な立ち位置として据えていましたし、第四話にて、第一部で唯一桜井家メンバー以外でスポットライトが当たっていましたから、この点に関しては割と必然的かもしれません(月垣のことは忘れてください)。

 そうやって話を進めていくと、なぜか莉奈の母親がでてきたんです。莉奈の家族の話をもっと深く掘り下げていくことも考えましたが、上記の「できないな」の通り、無駄なストーリーを入れすぎてもぐちゃぐちゃになるだけで処理しきれずに、この小説が未完結放置になることを恐れて単純なラブコメを書きました。ここまでこの小説を書いたからには最後までやりきりたいし、また第三部で違うベクトルに話が展開していくことを考えれば、物語がこのシンプルな形に落ち着かざるを得ないのも止むを得ないかなあ、と思いました。

 ここまであとがきを書いてみて、自分の言いたいことって言葉で伝えきれないなあ、と頭を抱えております。もっと文章にして伝えたいのに、どうやって言葉にすればいいのかわからないもどかしさに唇を噛み締めております。未熟ですねえ……。

 次の第三部は、話がかなり大きく変わります。というか、舞台が地球からビルヴェンシアに変わります。新しい物を作るときは、相変わらず「いや、マジ、できんのかなあ? できる気がしねえんだけど?」っていう恐怖に怯えつつ、「どんな世界が生まれるんだろう」というワクワク感もまた抱えております。

 数多溢れる作品群の中で、書き始めた当初は「十人くらいに見てもらえたら万々歳かな」と思っていたので、ブックマークが三十人を超えた現状(あとがきを執筆した六月十一日現在。更新日の八月十九日では、なんと六十人!)に加え、ポイント評価までくださったことは、とても嬉しく思っております。あともう少しだけ、この小説にお付き合いいただければと思います。

 それでは、失礼します。


〈追記〉2019/08/19

 第三部更新の目処が経ったのか、と問われれば、そういうわけではありません(申し訳ございません)。お盆ということで空いた時間にたくさん読んでほしいという思いから、毎日更新をさせていただきました。執筆状況に関して言いますと、文字数で言えば54799字、一回通り見直し修正を終えて、物語の道筋が立ってきたかな、というところです。しかし、今週末あたりに第三部のプロローグが更新できるかと思います。そこから少しずつお話を上げられればいいかな、と思いますので、楽しんで読んでいただけたらな、と思います。


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