第十三話 ここにニッチが送ります。エース級の大告白!(2)
リオンのことである。莉奈は、ティナの監視用にリオンを置くことを決めた。ティナの動向を知ることで、デートの予定も動かしやすくなる。
「ティナちゃんも知ってると思うんだけど、ほら、リオンちゃん」
ティナは驚いて「え?」と声を上げた。
「リオンって、あのリオン?」
「そうだよ。この前、桜井くんとも一緒にいた、リオンちゃん。あのあと仲良くなって、今度一緒に遊ぼうって約束したんだ」
「莉奈ちゃん、絶対やめた方がいいよ。たぶん、住み着かれるから」
ホームレス小学生のことは重々承知である。莉奈は、ティナの監視をすることと引き換えに、一ヶ月間だけ家に住まわせることに決めたのだ。「本当は神の娘 (ティナ)の家に住もうと思っていたのじゃがなー」と言っていたので、その一ヶ月間で何とかしてティナの家に送り込もうという算段だ。
「住み着かれるって?」
陽子がわけがわからないといった顔でティナを見た。ティナは「いや……」と戸惑ってしまうが、首を横に振った。
「まあ、私は大丈夫だよ。あいつも、地球の知り合いが多い方が、何かと便利だろうし」
「へえ、どこかから引っ越してきた子なんだ」と奈美恵が言った。
「私も大丈夫だよ。むしろ、会えるのを楽しみにしてるね。リオンちゃん、だっけ?」と陽子は笑顔を見せた。
「みんな、ありがとうね」
一方、ティナたちとのカラオケの当日に、莉奈は優馬との映画デートの約束も取り付けていた。
「桜井くん。日曜日のことは、絶対に他の人に言っちゃだめだよ」
莉奈は神妙な面持ちで言ったが、優馬は怪訝そうに眉をひそめる(もちろん、ティナが陽子たちとお手洗いに行った隙間を狙って話しかけている)。
「え……どうして?」
「単刀直入に言うね」と莉奈は生唾を飲み込んだ。「ティナちゃんに、見つかりたくないの」
「あ、あー……! たしかに!」
ティナのことだ。当日になって「私も行きたい!」と言いだすに違いない、と優馬は想像力を働かせた。そして、付いて来たら来たでうるさくなることは必定。それでは莉奈に対する罪滅ぼしにはならない。
「この前約束したしな。わかった。約束は守るよ」
約束。
それがただの口実だってわからないのかな、と莉奈は少し寂しくなった。
「…………」
話は終わったと思っていたが、莉奈はまだじいっと優馬のことを見つめていた。優馬はきょとんとして莉奈のことを見返す。
「……まだ、何か用か?」
「桜井くんってさあ」
「お、おう……」
莉奈は口元に手を当て、困ったようにクスッと笑った。
「やっぱり、ちょっと鈍いよね」
莉奈は時計を確認し、自分の席に戻った。その一分後くらいに、ティナや陽子たちがおしゃべりをしながら教室に入ってきた。そのときすでに、莉奈は自分の机の上で寝た振りをしていた。
× × ×
そして、日曜日がやってきた。莉奈はネットで拾ってきた38.1度が表示された体温計の画像をグループラインに載せて「ごめーん! 土曜日の夜から熱が上がり始めちゃって!」という言葉とともに伏線を回収した後、気合いを入れてメイクを始めた。淡い水色のフレアスカートに薄手のボーダーのシャツを着て、その上に白いカーディガンを羽織った。そのとき、玄関のインターフォンが鳴った。リオンだ。
「わしは、今日一日、神の娘の生態を観察しておれば良いのじゃろ?」
生態を観察する。つまり、敵を倒すためには敵のことをよく知らなければならない、と莉奈はリオンに言っていたのだ(優馬との映画デートのことは、もちろんリオンには伏せてある)。
「うん。お願いね」
昨夜、父親に「私の人生がかかってるの!」と土下座し、「レンタル料も払うから!」と必死で頼み込んだ結果、一日だけスマートフォンを借りることに成功した。リオンには空メールの送り方だけを教え、異常がなければ空メールを、異常があったら適当な文字を打って送信するようにと指示をした。交通の便やエンターテイメント施設の多さなどから、市内の高校生たちは休日には「街」に集まる。同じ日に街をうろついていれば、当然鉢合わせをするリスクもあるわけだ。ティナたちが一日中カラオケをしているとは考え辛く、それが終わって街をぶらぶらするタイミングで映画館に入ろうという計画を立てていた。
「そうすれば、わしをこの家に泊めてくれるのじゃろ?」
「うん。もしママが許してくれれば、たぶん一ヶ月くらいは大丈夫だと思うよ。その後のことは、また二人で考えましょう」
第二の刺客である砂星は、街のどこかに待機させてある。必要に応じて指示を与えるつもりだ。この前手に入れたばかりの弱みを武器に、莉奈は一日だけ砂星の時間を拘束することに成功していた。「ティナちゃんが、私と桜井くんの映画デートを邪魔しないようにしてくれたら、このメイド喫茶でのことはすべて水に流してあげます」と言うと、複雑そうな面持ちをしながらも「わかった」と小さな声で言ったのだった。ティナたちがカラオケ店を出てからの保険である。
(この一日に……私のすべてをかける)
そのためにここまで入念に準備をしてきたんだもの。絶対に成功させてみせるわ。
しかし莉奈は、ティナには感謝すらしていた。
(もしあなたがいなかったら、何だかんだ言いながら、私は結局、桜井くんに対して本気になれなかったかもしれない。自分に嘘を吐いて、嘘を真実だと思い込んで、好きな人に直接ぶつかることを避け続けていたかもしれないから。ずっとママの言いなりのままに生きていただろうから。私はたしかに「まっすぐ」なやり方はしていないのかもしれないけれど、それでも、桜井くんに対する気持ちにだけは「まっすぐ」でいたいの。そのために、ティナちゃんに邪魔されないための最後の卑怯よ。リオンちゃん、砂星先生、ごめんなさい。でも……)
誰に何を言われようとも、私は桜井くんのことが好きなの。




