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第十二話 エースを狙え!(3)

「あのさ、ちょっと道訊きたいんだけど」


 金髪の二人組で、体格から見て自分よりも年上だろう。明らかに恐怖の方が勝っていたが、相手は笑顔で、道に迷って困っているみたいだし、ということで足を止めた。しかし——


「いいじゃん。ちょっとくらい遊ぼうよ」

「記念にちょっとくらいいいじゃん。楽しいぜ」


 実際、それは恐喝まがいのナンパだった。どうしよう、どうしよう、と怖くなって、涙が出てきそうだった。


「おーい、お前、東雲だろ」


(そういえば、そのとき助けてくれたのが桜井くんだったな。それは、すごくよく覚えてるけど……)


「こんなところで何やってるんだよ」


 そのときの優馬は、男らしいとは言えない、恐怖に慄いた顔をしてやってきたのだ。二人の金髪男たちも、それに気付いて笑っていた。


「なに、この子、お前の彼女なの?」

「ちょうどいいじゃん。俺たち、これから遊ぶからお金くれよ」

「いや、東雲は……」


 と、優馬は莉奈の顔をちらりと見た。明らかに何も考えていない顔だった。しかし優馬は、きりりと目の力を強めてこう言った。





















「東雲は、俺の彼氏なんです」





















「「ええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」」


 さすがの金髪男たちも、揃って素っ頓狂な声を上げた。


「見てわからないんですか? こいつ、男ですよ。こんなナリと声してるし、女装癖まであるから、いつも男にナンパされたって自慢話されて俺も困ってるんですよ。まったく。すぐに浮気されるからな」と優馬は心底安心したように右手を額に当てた。「あー、マジセーフだったわ。また穴兄弟増えるところだったわ。お兄ちゃんが二人増えるところだったわー」


 いや、東雲……「東雲金太郎」って男は、マジでヤバイですからね、と優馬は莉奈には中身のよくわからない話を続ける。金太郎って、誰?、と思いながら莉奈は優馬の話を聞いていた。


「こいつ、ハメ撮りしてすぐにネットに流出させるから、マジでやめた方がいいっす。こんなこと言っちゃなんだけど、俺も流出されたことあるんですよ。俺はすぐに回収できたからよかったんですけど、こいつと関わったら、マジでヤバイですからね? 俺が彼氏じゃなかったら今頃死んでますから。お兄さん、穴だらけになってましたよ? こいつは精力マシンガンと言われていて……」


 優馬がマシンガンのように意味不明なトークを繰り広げると、男たちは顔を見合わせ、どちらかと言えば面倒臭そうな顔をしていた。そして、「こいつら、違う意味でちょっとヤバイな」と言い捨てて不気味そうな顔をして去っていった。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……! 死ぬかと思ったぁぁぁぁぁ……!」


 金髪男たちが去っていくと、優馬は地の底から響くような叫び声を上げ、その場でうずくまった。


「あの、桜井くん……」


 声をかけると、優馬は我に返ったように東雲を見上げ、途端に顔を真っ赤にしてしばらく硬直した。かと思えば、突然すっと冷静な顔をして立ち上がった。





















「いや、桜井くんって、誰?」





















 っていうか、お前誰だよ。東雲くんにすっげえ似てたから、ちょっと勘違いしたわ。よくよく見たら、全然ちげーじゃん、なんてぼやきながら、優馬はどこかに去っていった。莉奈はその後ろ姿を見送り、口元に拳を当ててぷっと噴き出した。

 第一印象は、変な人。ぱっと見ではその存在すら忘れてしまいそうなくらいに影が薄いけれど、たぶんそのときの印象が強く残っていたのだと思う。おかしいような、気持ち悪いような、それでいて心の底での強さと優しさを持った彼のことが。


(桜井くんの良さを知っているのは、私だけなんだぞ)


 でも、変わった少年は母の言う「理想的な結婚相手」とは離れたところにあった。だから、莉奈は優馬の隙間(ニッチ)な部分を探し出し、隙間(ニッチ)の衣で彼を包み込むことで、母の「理想的な結婚相手」の条件に無理やり当てはめることにしたのだ。


× × ×


(それでも私は、自分にだけは嘘を吐いていなかったんだ)


× × ×


 走馬灯の記憶が流れている間、莉奈はきょとんと目の前の男のことを見つめていた。


「ど、どうしたの、大丈夫?」


(そうか。私……)


 そして再び現実に帰ってくると、莉奈は前よりも少し明るい気持ちになった。

 無視するのが一番の対処法だと知りつつも、莉奈はあえてそのナンパ男に不満そうな顔を向けた。


「いや、お前じゃないんだけど」


 私が「可愛い」って思ってほしいのは、あなたじゃないの。

 ぷい、とそっぽを向いて立ち上がり、莉奈はカフェを出ていった。そんな簡単に諦めたら、心の底から「好き」だなんて言えないでしょ。


「ねえ、ママ」


 そして、莉奈はついに自分の本当の思いに向き合うことに決めた。「捜してはいる」とは言っていたけれど、今まで昌子に「好きな人」のことを話したことはなかった。


「ごめんなさい。日野くんは良い人だとは思うんだけど、やっぱり付き合うことはできないわ」





















 東雲莉奈は、恋をしていた。





















「私、好きな人がいるの」


 それはたしかに、莉奈の本当の恋だった。


〈次回予告〉


 東雲莉奈は、恋をしていた。それは紛れもない本当の恋だ。

 ついに自分の気持ちに素直になろうとした莉奈は、偶然によって取り付けられた映画デートに優馬を誘い、そこで告白することを決めた。しかし、そこにはティナ・アーリストという大きな壁が立ちはだかる。ここが天王山だと意気込んだ莉奈は、最後の戦いにあらゆる手段を尽くしてティナの邪魔が入らないように封じ込めた。どんなデートコースにするのか、どんな会話をするのか、どうやって雰囲気を作るのか。あらゆることを計算に入れ、決戦の日、莉奈は人生で一番の気合いを入れて、家を出る。

 次回、第十三話「ここにニッチが送ります。エース級の大告白!」。

 お楽しみに!


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