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第九話 クズな前世のいいところ(4)

 わしはすぐにヘミンの後を追いかけ、そして追いついた。わしは、嗅覚や移動速度についてはそれなりに自信があったし、ましてや人間に負けるはずはなかったのじゃ。

 最初、ヘミンはわしと行動を共にするのをためらっていたが、最終的には諦めて一緒に旅をすることを許してもらった。


「その代わり、僕は子守りをするつもりはないからな。あらゆることは自分の力でやるんだぞ、いいな」


 とは言ったものの、ヘミンは何だかんだでわしの面倒を見てくれた。魔物と戦う修行に付き合ってくれたり、食料を分け与えたりしてくれた。時には、他の魔物から守ってくれたりもした。その代わり、わしはヘミンにあることを頼まれた。


「『ビルヴェンチューブ』には必勝法があるんだ。それは金と子供と動物を出しておくことだ。ほら、見てみろ。トップビルヴェンチューバーのYAMIKINだって、無名だった頃は過激な動画ばかりだったが、最近は金持ちアピールとペットの犬の動画しか出してないだろ。その理由は簡単だ。超高層マンションの内装や超高級ソファの動画には異世界感があって、単純に貧乏人どもに需要があるからだ。『大量の借金をしたけど、実際に闇金の人と会って利子含めて全額返済してみたw』の動画は、炎上こそしたが三千二百万回再生だ。その後に急に犬を飼い始めて好感度を上げてきたところも印象的だな。あと、夫婦チャンネルってのがあるだろ。あれは理想的な夫婦を演じることで、さらには子供に可愛らしい振る舞いをさせることで、その『理想的な家族』に夢見る若者を狙いにしているんだ。子供は最強だ。なぜなら、子供はただおもちゃで遊んでるだけで再生数を稼げるからだ。つまりだな、僕の分析では『魔人の美少女と海辺ではしゃいでみたら大変なことになったwww』っていうタイトルで、僕が水着のリオンと適当に遊んでいれば、百万回再生も夢ではない、ということだ。別に本当に『大変なこと』にならなくてもいい。タイトルはあくまでも釣りだからな。サムネはリオンの水着が脱げそうになってるシーンを置いておく。だが、本当に脱げてしまってはいけない。なぜか。BANされるからだ。リオンには、こうもりの耳と尻尾と羽根という小動物属性、おまけに美少女プラス幼女という性質もある。だから、お前は言わばビルヴェンチューブ界では最強なんだ。エクスカリバーだろうがウロボロスだろうが、そんなものは目じゃない。それに、ビルヴェンチューブなんて、痩せてて髪が長くて口数が多ければ、大体はイケメン扱いされる。つまり、その定義からすると、僕はイケメンだ。イケメンと水着の美少女が海ではしゃいでる動画なんて、バズらないわけがない」


 わしはヘミンが何を言っているのかよくわからなかった。


「どういうこと?」

「とりあえず、リオンは水着で笑顔で適当にはしゃいでいればいいっていうことだ」

「そうしたら、ヘミンは私のことをもっと好きになってくれる?」

「ああ。今も大好きだけど、僕のお願いを聞いてくれたら、僕はリオンのことがもっと大好きになりそうだ」

「本当に?」

「ああ、本当だ」とヘミンは真夏の青空のように爽やかな笑顔を浮かべて言った。「僕は君のことをとても愛しているよ、リオン」


 じゃから、わしは精一杯ヘミンの期待に応えることにした。実際、ヘミンの考察は当たったらしく、しばらくは幸せな暮らしが続いた。おいしいものをたくさん食べたし、色々な場所に旅行にも行った。じゃが、そんな生活は長くは続かなかった……。


「くそう、あのビッチ、十九歳だったのかよ! 巨乳だったから、二十五歳くらいだと思ってたのに! 四股かけて浮気したビルヴェンチューバーは何事もなく復帰してるのに、どうして僕はアウトなんだよ、ちくしょう! 浮気は犯罪じゃないのに、未成年とのセックスは犯罪か? 愛さえあれば関係ねえだろ! っていうか、あいつ、絶対未成年じゃねえだろ! だって、平気な顔して酒飲んでたぜ、あいつ!」

※未成年との淫行は犯罪です。


 理由はよくわからなかったが、わしらはまた貧乏になって、もとの旅生活に戻ることになった。


× × ×


「いや、絶対理由わかるよね! 普通に犯罪して表舞台に立てなくなってるよね、そいつ! 今まで積み重ねてきたものが全部パーになってるよね!」

「わしには優馬が何を言っておるのか、さっぱりわからんのじゃが」

「リオン、目を覚ませ! お前は本当はわかってるけど、わかってないふりをしているだけなんだ! わかっていないふりをしていることにすら、気付いていないだけなんだ! お前はヘミンもとい最低野郎に洗脳されてるだけなんだ!」


 全力でツッコんだが、リオンは無表情のまま優馬を見つめるばかりだった。その表情に違和感を覚え、「なんだよ」と優馬は眉をひそめた。


「のう、優馬」

「ん?」


 そして、リオンは悪戯っぽい知的な微笑みを浮かべた。その微笑には、どこか見覚えがあった。あくまでもほんの少しだけ、優馬はどきりとしてしまった。あどけない容姿の中に、リオンの奥深さを見てしまったからだ。すべての魔力を奪われ、未熟な容姿になってしまったとしても、リオンはたしかに自分よりも長い時間を生き、様々な経験を積んだ存在なのだ。


「このわしが、ただデタラメなだけの人間を好きになると思うか?」


 優馬はきょとんとリオンの瞳を見つめた。


「当時はわからんかったとしても、年老いた今なら、ヘミンの行いや言動が世間的に正しくないことくらいわかるわい。そんな程度の人間を、来世まで追いたいと思うか?」

「いや、だってお前……」


 さっきまで、めちゃくちゃ騙されてる感じだったじゃねえか、と思っていると、リオンは話を続ける。


「あいつは、欲の権化みたいな人間じゃったことは確かじゃが、決して悪い奴ではなかった。ヘミンのおかげで、今までわしは生きてこれたのじゃからな。それに、奴はわしとの旅の中で一度だけ、自分よりもわしのことを優先してくれたことがあるのじゃぞ。どんな人間にも、いいところのひとつくらいはあるものじゃ」


 話を聞いた限りでは、とびっきりクズ人間な俺の前世ヘミン。自分のことがバカにされているみたいで正直苛立たしかったが、優馬はヘミンの悲しい最後を聞いた。


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