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第九話 クズな前世のいいところ(1)

 それから、優馬に言われたこともあり、ティナは仕方なくリオンを一度自分の家に連れて行った。もちろんティナが泊めることになったわけではなく、リオンから詳しい話を聞くための場所を確保するためだ。幸い通行人は通らなかったものの、たまたま広かったとはいえ、さっきからずっと歩道を塞ぐ形でやりとりをしていたのだ。どこか落ち着いて会話ができる場所に移動する必要があった。


「あ、わしはアイスココアで構わんぞ」

「ないわよ。そんなの」

「そういえば、ティナの家に来るのは、初めてだったよな」


 ティナが熱を出したとき、看病のために寝室には行ったことがあったが、リビングに来るのは初めてだった。ソファや冷蔵庫、電子レンジにテレビなど、一般的な家具はすべて揃っていたが、一人で暮らすにしては少し広すぎるような気がした。それに、少し埃っぽくて空気も汚いような気がした。


「掃除をする魔術みたいなの、なかったっけ?」

「いざとなったら〈風魔法(ヴァン)〉とかでぜんぶ吹き飛ばせばいいと思って」

「家具ごと吹き飛ぶわ」

「威力の調節くらいできるってば」

「大雑把すぎんだろ。掃除は毎日しないと、埃とか吸い込んで体に悪いからな」

「私、二階の寝室と勉強机しか使わないから大丈夫だよ」

「じゃあ、もっと小さい部屋にすりゃ良かったじゃねえか」

「だって、一緒に暮らすとしたら、このくらいの部屋の方がいいでしょ?」


 たしかに、家族で暮らすとしたら快適に過ごせそうな空間ではあった。優馬は顔をしかめ、たらりと冷や汗を流すものの、それには代わりにリオンが答えた。


「たしかにな。まあこのくらいスペースがあれば十分じゃろう」

「あんたは何勝手に住もうとしてんのよ」


 優馬は冷蔵庫を開けてみたが、食料はおろか飲み水すらまったく入ってはいなかった。


「お前、普段どうやって生活してるんだ?」

「優馬の家で」

「なんじゃ。貴様も居候じゃったのか」

「お世話になってるのは食事だけよ!」

「風呂。歯磨き。洗濯物」

「そうでした。はい……」


 優馬が淡々と言うと、ティナはうなだれてしまう。優馬は腰に手を当て、深いため息を吐いた。


「仕方ない。この部屋だけでも掃除するか」


 まだ一回も使われたことがないらしい最新型の掃除機で埃を吸い取り、テーブルはアルコールで消毒して雑巾で軽く拭いた。その場しのぎ感は否めないものの、何もやらないよりかはマシだろう。


「わしと、そして現在では『桜井優馬』と呼ばれているこの男との間にどのような関係があるのか。良かろう。それについて教えてやる」


 三人でテーブルを囲み、ようやく本題に移ることができ……。


「なあ、その前にちょっといいか?」


 何事もないかのように滔滔と喋り出すリオンだったが、優馬は少し苛だたしげに言った。というのも、優馬の右隣にはリオンが、俺の左隣にはティナが座っていた。どう考えても三人で会話をするような座り方ではない。


「誰か反対側行けよ」

「あなたがいきなさいよ。私が最初に座ったし」


 とティナが言った。俺は、ティナに腕を引っ張られるようにしてその隣に座らされたのだ。


「いや、わし、見た目は子供、頭脳は大人じゃもーん。子供の意見が最優先されるのは、どの世界でも共通のルールじゃもーん」

「いや、私、神様。神様の意見が最優先されることこそが、全世界共通のルールなのよ」

「神様は、与えられるよりも与える側に回らなければならないのではないか?」

「神に対する忠誠心が足りないわよ」

「わし、魔王じゃし。神に対する忠誠心とか、むしろ反発する立場じゃし」

「もう、わかったよ……」


 優馬はリオンをどかして立ち上がった。そして、優馬一人が向かい側の席に座ることになった。というか、最初からこうすれば良かったのだ。

 ティナとリオンは同時に立ち上がろうとしたが、優馬が「こっちに来るなよ」と威圧をこめて言えば、二人は大人しくなった。


「わしは一度天界と関わったことで、人の魂の色が見えるようになったのじゃ。魂の色、と言うと大げさかもしれないが、少なくとも、わしの長い歴史の中で、そいつが一度会ったことのある人間なのかどうかくらいはわかる」


 優馬はまだ訝しそうに目を細めていた。リオンは続けた。


「前世で会ったことのある人間に来世で出会えば、同一人物であるということがわかる、ということじゃよ」


 リオンの言葉を頭の中で咀嚼し、それから優馬は答えた。


「と言うと、俺は前世でリオンとビルヴェンシアを旅して回ったことがあって、だからお前は俺のことを知っている、っていうことか?」

「その通りじゃ」とリオンは言った。「それにはまず、わしのむか〜しむかしの話から始める必要があるのじゃ」


 そして、リオンはこほんと咳払いをして、自らの過去について語り始めた。


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