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第八話 魔王様、降臨!(「元」付きだけどね)(4)

「さて、本題に戻ろう」


 優馬は、改めてリオンに向き直った。莉奈には申し訳ないとは思っていたが、まずはリオンの件からすっきりさせておきたかったのだ。ビルヴェンシアから地球へやってきたのがティナだけではなかったことが不思議だったのだ。隣のティナも顔をうつ向けており、重たい空気を放っている。


「魔王リオンは、自らの行いの罰としてビルヴェンシアを追放された。しかし、なぜ地球なんだ? 天界の奴らは、魔王を力を失った元勇者のいるところに送り込むのか?」

「地球には、ビルヴェンシアの魔力を抑え込む不思議な力があるからじゃよ」


 優馬は口を挟まず、目顔で続きの話を促した。


「じゃから、この通り元魔王とは思えんようなみっともない姿をしておるのじゃ。当然、魔術まで使えなくなっとるしな」

「魔術が使えない?」と優馬は訝しそうにティナの方に目をやった。「でも、ティナは普通に魔術を使ってるぜ」


 むしろティナの魔術がなかったら、今頃優馬は例の通り魔に殺されていたかもしれないのだ。すると、リオンは驚いた顔をティナに向けた。


「え、マジで?」


 ティナは浅くため息を吐き、ピストルの形にした左手を中空に向け、〈火球魔法(フラム)〉を放った。リオンは「嘘じゃぁぁぁぁぁ!」と叫びながら後ずさりをして背中を壁に張り付けた。


「魔術が使えなくなるっていうのは、普通の人間や魔族の話よ。私を誰だと思ってるのよ」

「神様……か」と優馬は呆れたように答えた。「まったく、チートだよな」

「私は、昔なら本気出せば時を動かす魔術だって使えるのよ。もちろん大きい魔術は使えないけど、今だって初級の魔術くらいなら余裕で使えるわよ」


 そもそも、ティナは「時を動かす魔術」によって優馬を死ぬ前の時間に戻し、魂をそこに呼び戻したのだ。そのついでに自分の存在も地球に紛れ込ませるという所業までやってのけた。ティナの総魔力量が、「地球」という世界が抑えられる魔力量を上回ったということだろう。リオンは奇妙な形をした石像でも見つけたみたいに顔を歪めて、ティナのことをじとりと見つめた。


「わしのことよりも、そこの神の娘の方を気にするべきじゃと思うぞ」

「私のことはいいでしょ。話題を逸らさないでよ。それより、あなたのことを早く話しなさいよ。場合によっちゃ、ここで始末する必要があるかもしれないんだから」


 ティナは、いつになくむっとした強い口調で言った。


「ねえ、優馬」


 自分の足元にちょこんと隠れるリオンを一瞥(いちべつ)して、優馬は弁解するように言った。


「……いや、幼女を殴るのはコンプライアンス的に」

「そもそも、こいつは魔王なのよ」

「まあ、たしかにな」


 そう言われてしまえば、言い返しのしようもない。しかしリオンを見ると、彼女は今にも泣き出しそうに瞳を潤ませながら、優馬のことを上目で見つめていた。


「勇者殿は……わしのことを殺すつもりなのか?」


 優馬は歯噛みした。そして現実逃避するように頭を抱えて叫んだ。


「だめだ! 俺にはこんないたいけな幼女を傷つけることなんてできない!」

「ちょ、優馬っ! こいつは元魔王なのに!」


 ティナは苛だたしそうにリオンを見つめる。「怖いよぅ」と彼の足元に隠れ、「俺が守ってやるからな」と壁になる優馬を見れば、どうやら優位は魔王の側にあるらしかった。

 リオンはティナを見てほくそ笑んだ。リオンは、すべての魔力と妖艶で官能的な肉体を失った代わりに、世界最強の防具のひとつを手に入れたのだ。


 その世界最強の防具の名は——「コンプライアンスの盾」。


 今や同僚の女の子に「そのイヤリング可愛いね」と褒めればセクハラ扱いをされ、悪戯(いたずら)をした子供に「こら!」と大きい声を出せば児童虐待だと糾弾される時代なのだ。そんな時代に「幼女を始末する」と発言することがいかなる意味を持つのか、考えるまでもないだろう。もし本当に幼女を始末してしまえば、この「優馬とティナのありふれた日常」という物語は、確実に消える。炎上し尽くした末に燃えかすすら残らない勢いで消えてしまうだろう。とにかく女の子と子供だけは守ろうと言うのが、このゴミみたいなギャグ小説に課せられた唯一のルールなのだ。


「わかったわよ!」


 ティナはいまだに納得がいかない様子だったが、吐き捨てるように言った。


「優馬がそこまで言うんなら、あなたのことは特別に許してあげる」

「さすがは神の娘。物分かりが良くて助かるわい」と幼女は急に偉そうな態度になった。「しかし、ただ家に住まわせていただくだけというのも申し訳ない。交換条件として、わしの過去についてお主らに話してやろう」

「え、ちょっと待って。今なんて言った?」


 今、何か大切なことを聞き逃したような気がする。そう思い、優馬はおそるおそる尋ねた。リオンは答えた。


「じゃから、お主らにわしの秘められた過去について話してやろうと言っておるのじゃ。まったく、普段なら絶対に話さんのじゃぞ? 今回だけは特別なのじゃからな? 感謝せえよ?」

「いや、違う。その前」


 リオンは呆れ果ててしまい、「はあ」と声に出してため息を吐いた。


「大切なことじゃからもう一度言うぞ。ただ家に住まわせていただくだけというのも申し訳ないから……」

「ストップ! ストォップ!」と優馬は声を張り上げた。「ちょっと待て。『家に住まわせていただく』というのはどういうことだ」


 すると、リオンはさも当然のごとく答えた。


「わしはビルヴェンシアからこの身ひとつで追放されてきたのじゃ。住む場所もないから、誰かの家に泊めてもらうしかなかろう」


 それとも、と幼女は悪そうに口の端を吊り上げた。


「お主らは、こんないたいけな少女を夜の街に放り出しておくというのか? 危険じゃぞ? 夜の街は危ないぞ?(※)」

※「コンプライアンスの盾」発動中。


 面倒臭そうな顔をしている優馬に代わって、ティナがリオンの前に進み出た。


「それを言うなら、見知らぬ男の人の家に泊めてもらう方がよっぽど危ないでーす! 現代では『神待ち家出少女』が被害に遭うケースが社会的な問題になってまーす!(※)」

※「コンプライアンスの盾返し」発動中。


 そしてティナは、とどめに世界最強の矛で「コンプライアンスの盾」を刺し貫いた。


「今からこの優しいお姉ちゃんが警察に連れて行ってあげるから、一緒に行こう☆」


 世界最強の矛の名は——「警察」。

 それは「コンプライアンスの盾」を悪用して桜井家を無銭寝食の本拠地に据えようとする幼女に対抗することのできる唯一のカード。もし警察に連れて行かれてしまったら、もう彼女には対抗する術がない。それどころか、住所不定で親の顔も知らない幼女が放浪していたなんて知れたら、どれほどの大事になることか。きっと彼女は社会によって守られ、住む場所を与えられることになるだろう。その代わり、学校に通わされ、無断外出のような真似ができなくなってしまうだろう。無論、優馬に近付くことは難しくなる。リオンは、それだけは何としても避けたかった。なぜなら……。


「そういうことではない! わしは……わしはただ……勇者殿と一緒にいたいだけなのじゃ!」

「勝手なこと言わないでよ。第一、優馬は、エデルはあなたの敵でしょう?」


 リオンはぶんぶんと大きく首を振った。そしてぴったりと優馬の脚に抱きついた。


「何を言っておる! わしは、この男とは貴様なんぞよりももっと深い関係があるのじゃぞ。何せ、かつては共にビルヴェンシアを旅して回った仲なのじゃからな!」

〈次回予告〉

 かつて、優馬 (エデル)の前世であった男ヘミンと共にビルヴェンシアを旅して回ったと言う元魔王リオン。彼女から詳しい話を聞くために、三人はティナの家に向かった。

 しかし、前世のヘミンは、一見爽やかそうに見えるとんでもないクズ男で、優馬はそのたびごとに「早く俺 (前世)を殺してくれ!」と叫び出したい衝動に駆られる。しかし、リオンはそんなクズ男の中にも人間的な魅力を見出しており、ヘミンとの旅から魔業核に出会ってしまったことまで、自らの過去を赤裸々に語る。

 第九話「クズな前世のいいところ」

 お楽しみに!




〈おまけ 俺たちが勝ち組!〉


雪菜「一丁前に次回予告とか、作者マジで生意気じゃない? こんなくだらないギャグ小説、誰も楽しみにしてないっつうの」

優馬「別にいいんじゃねえの? 一人で妄想膨らませたって、傷つくのは自分だけだし」

晴敏「ふうむ……。しかし、俺は黒歴史には『傷つけられる』のではなく、『呪われる』と言った方が正しいと思うぞ」

優馬「どういうことだ?」

晴敏「単なる傷だったら、そのうち回復するだろ? だがな、黒歴史は消えない。呪いのように生涯永遠に我が身にのしかかり、蝕み続けるのだ。それはある日、突然頭を壁に打ち付けたい衝動に駆られるようなものなのだ」

雪菜「もしかして、実体験?」

晴敏「説得力があるだろう?」

優馬「確かに」

晴敏「しかし、それを逆手に取ってネタにすることも可能なんだぞ」

雪菜「へえ」

晴敏「『俺さー、中学のときさー、中二病全開で小説とか書いててさー、おまけに次回予告とかノリノリで書いててさー』とか言えば、大体ウケる。黒歴史ネタというのは、お笑いで言ったら観客イジりくらい鉄板でウケるネタだからな」

雪菜「それも実体験?」

晴敏「答えはNOだ」

優馬「そもそも笑わせる友達がいないというやつだな。俺にはよーくわかるよ。頭の中では教室のみんなを爆笑の渦に巻き込んでるんだけどっていう隠キャの気持ち、よーくわかるよ」

晴敏「だから俺は、小説の中でみんなを笑わせているんだよ」

優馬「そしていつのまにか人気作家になってるっていうね」

晴敏「それで三人の子供を抱えた生活が成り立ってるっていうんだから、十分だろう」

優馬「逆に言えば、それは隠キャこそが人生において真の勝ち組って言うこともできるだろ」

晴敏「その通りだ! 優馬、良いことを言った! 結論、人生は友達のいない奴の勝ち!」

優馬「あー、マジで友達いなくて良かったわー!」

晴敏「友達がたくさんいる奴には、心の底から同情するよ」

雪菜「ねえ、盛り上がってるところ悪いんだけど、悲しくなってくるから、その会話今すぐにやめてくれない?」

優馬&晴敏「…………」


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