あなたにインタビュー〈ティナ・アーリスト〉編
「入っていいですかぁー?」
ノックの音とともに、よく通る明るい調子の声がドアの向こうから響いた。どうぞ、と声をかけると、「こんにちはー」と人好きのする眩しい笑顔を見せて入ってきたのが今回のゲスト、ティナ・アーリストだ。
思わず見とれてしまうような美貌の持ち主だった。きちんとケアの行き届いているさらさらの金髪をハーフアップにしており、もし僕がボディソープの会社の広告担当だったら、街で彼女を見かけたらすぐに「CMに出てくれ」とオファーしてしまうのであろう、汚れのひとつもない生まれたての赤ちゃんみたいな柔肌に一度でも触れてみたいと思った。
ティナちゃんは椅子にしなやかな指を添え、あまり音を立てずに引いて腰掛けた。天真爛漫な笑顔に上品な振る舞いを揃ってしまえば、素晴らしいを通り越して怖いと思った。それは、神様に天国から遣わされた天使に感じる畏怖だ。
「君は天使みたいに美しいね」
思ったことを率直にいうと、ティナちゃんはテーブルの上で腕を組んだ。そして、ぱっちりとした碧眼で僕をまっすぐに見つめ、桜色の唇を悪戯っぽく歪めた。
「いいえ。私は天使じゃありません。何だと思います?」
「女神様かな?」
「おしいな」とティナちゃんは指をぱちんと鳴らした。「でも、ほとんど正解。私は、神様なんです」
「本当か?」
「ええ。だから、私はあなたに上から下まで舐め回すように見られたとしても、セクハラでどこぞの団体に訴えるようなことをしないんですよ」
「それは、脅しと捉えてもいいのかな?」
「どうぞ、ご自由に」
平然とした彼女の態度からは、心の奥の真意をまったく見て取ることができなかった。ちょっとからかっただけで動揺させるのは、かなり難しそうな相手と見えた。
「ねえ、やるなら早く始めましょうよ。私、これ終わったら優馬とデートの約束があるんです」
「優馬くんは、家に帰って本を読むって言ってたけど?」
「それまで、私のインタビューが終わるのを待っていてくれてるんです。優馬のために早く終わらせないといけないから、ささ、早く、早く!」
「わ……わかりました」
× × ×
★初めに:
・こんにちは、ティナ・アーリストです! 私、本当は人間じゃないんだけど……みたいなのは別にいいですよね。何でもないです、すみません(笑)。 私は、日本生まれなんですけど、小学校からフランスに行ってて、それでまた帰ってきたっていう、いわゆる帰国子女ってやつです。独学で日本語の勉強もしていたし、向こうに日本人のお友達もいたから、ご覧の通り、日本語はペラペラなんです。むしろフランス語よりも得意かも(笑)。 今日は、私のことについて色々と知りたいんでしたよね? それじゃあ、それじゃあ、思う存分に話を聞いてくださいよ! 私は小さい頃、日本で優馬にプロポーズされたんですけど、この世界では十八歳まで結婚できないから、それまでは「フィアンセ」っていう立場で我慢しているところなんです。あはは!、よく「小さい頃のプロポーズだけで人を好きになるものなのか?」とかよく聞かれたりするんですけど、小さい頃の思い出だからこそ、私にとって忘れられないんですよ。そのときの優馬はまるで白馬の王子様みたいで……別れるときは本っ当に辛かったんですよね。あ……前置き長すぎましたよね(苦笑)。
(ティナちゃんは真っ赤に染めた頬に両手を当てて、くねくねと体を動かしていた。これだけ彼女に愛されている優馬くんはとても幸せだと、僕は思った)
私の優馬に対する思いを、言葉よりも気持ちで伝えたいってのが前面に出すぎちゃったみたいです。とりあえず、まあ、そんな感じで……よろしくお願いしますっ!
★好きなこと、もの:優馬の好きなものなら、何でも好きです!
★嫌いなこと、もの:私と優馬の仲を引き裂こうとするもの! だったら、莉奈ちゃんは嫌いなのかって? んーん。ぜんぜん、そんなことはありません。だって、莉奈ちゃんは壁どころか障子にすらなりませんからね。笑
★好きな食べ物:人間になってから栄養を補給しなくちゃいけなくなったんだけど、人間界の食べ物って、全部おいしいですよね。写真だけ撮って食べ物粗末にする人って、本当に信じらません。私なんて、高熱で歩けなくても、朝ご飯はきっちり食べられますからね(笑)。
★人間になってから、とはどういうことですか? 人間界とはどういうことですか?:
(ティナちゃんはしばらく沈黙して、まっすぐに僕を見つめた。しかしすぐに元の明るい表情に戻った)
難しい言い方をすれば、「暗喩的な表現」というべきかもしれないですね。私にとって優馬と会えなかった期間は、「人間ではなかった」と言っても過言ではないんです。それで……そう! 私にとっては優馬のいる場所が「人間界」で、優馬のいない場所は「外界」なんです。だから、もし優馬がフランスにいれば、フランスが「人間界」で、日本が「外界」ということになるんです。
★嫌いな食べ物:ありません!
★習慣、癖:(口癖。毎朝8時に起きる。〜を前にすると…になる。etc)
・毎朝、すみれちゃんが作ってくれた美味しい朝ご飯を食べてから、優馬と一緒に学校に行くんです。両親は普段家にいないから、向かいの優馬の家で夕食までお世話になっちゃって。でも、実はその分のお金は渡してあるんです。習慣っていうのは、まあ、それくらいかな。優馬と愛し合う以外にやることないし。そのために生きているようなものだし。
★その他:
・私の愛情が、どうしたら優馬にも伝わるのかっていうのが悩みなんです。それに、莉奈ちゃんも優馬のこと狙ってるみたいで、ちょっと警戒しています。本当にちょっとだけですけど。もちろん、莉奈ちゃんじゃあ私の魅力には敵わないですしね(笑)。
× × ×
ひと通りのインタビューは終わった。ティナちゃんに目配せすると、彼女は即座にそれを感じ取ったようだった。
「これで終わりですか?」
「はい。おわ……」
「ありがとうございましたぁぁぁぁぁ!!!」
お礼を言っているのか、立ち上がっているのか、そうかと思えば部屋を出ている。どうやらティナちゃんは、終わったその足で優馬くんとのデートの約束に向かったらしい。
果たして優馬くんは大丈夫なのだろうか。
僕にはそれだけが心配だった。
まさか「あなたにインタビュー」をもう一度投稿することになるとは思いませんでした。汗 要するに、ピンチです。焦
第八話は、例によって明日か明後日くらいに投稿して完結します。近況報告しますと、現在、第十二話を執筆しています。では、なぜとっとと更新できないのかと言いますと、第十二話がなかなか微妙な回でして、この話の存在によって第十話やら第十一話やらに若干の改変を加えなければいけない可能性が出てくるのです。だからと言って一気に更新してしまうと更新頻度にすごく間が空いてしまうし、エンターテイメントの難しさを痛感しているところです。
最初は一話完結型のつもりで書き始めており、まさかここまでストーリーらしきものにまとまるとは自分自身思いませんでした。もしかしたら、とりあえずこの小説のストーリー的な部分を完結させてから、それこそ一話完結型のお話をバラバラに思いつきのままに書いていく、という形になるかもしれません。
小説書くの難しいなー、でも、もっと楽しいことができないかなー、と内心ドキドキ、ワクワクしながら作っております。更新頻度が少ないとすぐに飽きられるし、たくさんの人に見てもらった方が大きな面白いことができそうだし……。我ながら才能のなさにうんざりさせられる日々ですが、とりあえずは完結させられるように精一杯頑張りたいと思います。ぜひとも、お付き合いいただけると嬉しいです!




