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第七話 優馬と雪菜の初デート(?)(2)

「こんなところで会うとは奇遇だな、桜井。それに、お前という奴は……」


 憎そうに言って、月垣は拳を強く握りしめる。次に月垣が何を言うのか、なんとなく想像できてしまった。


東雲(しののめ)さんにアーリストさんに飽き足らず、他の女性にも手を出すとは……。この浮気者め、その美少女は一体どこのどいつだ!」


 月垣が凄まじい剣幕で言うと、近くを歩いている人々はちらちらとこちらを見ては、見なかった振りをして通り過ぎていく。雪菜は「優馬、美少女だって」と言いながら得意そうに自分のことを指差す。いや、こいつに言われても誇るほどのことでもないぞ? だってこの月垣という男は、若くて綺麗な女の子であれば、ほとんど誰にも「美女」か「美少女」と言ってのけるのだ。

 第一、俺は月垣アレルギーなのだ。こいつの姿を見るだけで、何だか体の力が抜けてため息がこぼれてきてしまう。


「どうしてお前に逐一説明する必要があるんだよ」

「僕は警察だからだ」


 月垣は腕を組んで、きりりと引き締まった表情をする。もちろん、月垣玲は警察ではなく高校生だ。


「はぁ?」

「この世の浮気な不埒者は、僕の正義が許さない。不特定多数の女性と遊び歩く男は、この月垣玲が成敗してくれよう。この光り輝やく太陽の下で、すべての悪を打ち砕く。それこそが恋愛警察なのだ」


 また意味のわからないキャラクターを作り出したぞ、この男は。そう思っていると、月垣はふいに雪菜に近寄り、彼女の手を取った。


「少しだけ僕に時間をくれないか? そうすれば、僕は必ずやあの恋の犯罪者、桜井優馬を地獄の底に突き落とし、君をあの悪魔の手から救ってみせるから……。君に与えるひまわりの花言葉は『いつも心に太陽を』だ」

「月垣、お前、それ何かのゲームのセリフをパクっただろう」

「いいや。これは僕の完全なオリジナルの花言葉だ」


 タイトルは思い出せないが、絶対に何かのゲームで同じセリフがあったような気がするんだよなあ、と俺は顔をしかめた。


「っていうか、雪菜から離れろよ。この変質者」

「黙れ犯罪者!」


 俺が握った手を振り払おうとすると、月垣は逆にこちらの手を払ってきた。しかし、「雪菜さん……」と記憶を失ってから初めて大切な人の名前を思い出したかのように、ぽかんとした顔になった。その表情は次第に明るくなり、やがて完全に相好(そうごう)を崩す。


「おお、その太陽のような笑顔を見せる美少女の名は、雪菜さんというのか」

「俺の雪菜だ。お前ごときが勝手に名前で呼ぶんじゃねえ」

「いや、優馬の雪菜でもないし」と、雪菜はさらっと言う。俺はずばっと傷つく。

「ええ……そんな……」

「ほれ見ろ。貴様の雪菜さんでもないらしいぞ!」


 月垣は仲間を得たとばかりに高笑いをする。どういうことだ、と驚愕の視線を雪菜に向けると、彼女は手の平を口元に当てて、笑いをこらえるのに必死らしかった。何だか面白そうだからこのままにしておけ、ということだろう。


「よし、わかった!」


 と月垣は声高に叫んだ。


「桜井、雪菜さんを賭けて、僕と決闘をしろ!」


 ほら、出たよ……。俺はただ、この運の悪さに身を任せることしかできずに深いため息を吐いた。


× × ×


 話し合いの結果(というか、月垣の一方的な提案の結果)、俺たちはエオン二階にあるゲームセンターで太鼓道というゲームをすることになった。太鼓道とは、音楽に合わせてひたすら太鼓を叩くゲームだ。……ん、似たようなゲームを知っているって? 気のせいだよ、きっと。


「一回やってみたかったんだ、このゲーム!」


 わっはっは、と高笑いする月垣を見て、自分の得意なゲームにはしなかったんだな、と苦笑いをする。そして、今回は雪菜が審判をやっていた。


「勝負は三回戦。合計点数の多い方が勝ち。それでいい?」

「ああ。どんなルールだろうと、正義は必ず勝つのだ!」

「もう、何でもいいよ……」

「優馬、やる気出しなさいよ!」


 まあ、仕方ない。音ゲーは割と好きだし、楽しみながらでも勝負を受けてやりますか。ゲームを対戦モードにして、お互いに開始する。単純に良い記録を出したいと思い、俺は気合いを入れてバチを握り直した。


「よし、いくぜ!」


 そして曲が……





















 バカな。曲が流れてこない?

 俺がいくら目を閉じて耳を済まそうとも、聞こえるのは周りの雑音だけ。むしろ雑音しか聞こえないと言っても過言ではない。目を開けば、画面がスクロールして曲が流れていることがわかる。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 ふと隣を見れば、月垣が凄まじい大声を上げて太鼓を連打している。もはや連打している内の一発が当たればいいや、といった感じだった。


 いや、違う!


 そして、俺はようやく事の真相に気づいた。曲が流れて来ないのではない。曲が月垣の獣のような雄叫びによってかき消されているのだ。この野郎。太鼓道なんて個人競技みたいなゲームでも妨害をしてくるとは……。ならば、仕方ない。そっちがその気なら!


「ぐああああああああああ!!」

「ちょっと、優馬! 何やってんの! 卑怯だよ!」


 俺は、月垣にヘッドロックを決めた。


「はぁ? 卑怯とか知らねえし! 太鼓道のルールブックに『ゲーム中にヘッドロックを決めてはいけません』なんてルールはねえし!」

「太鼓道を作った人も、ゲーム中に対戦相手がヘッドロックを決めてくるなんて想定してないわよ!」

「出すぎた杭は打たれないっていうやつだな!」

「全然違うわよ!」


 俺は月垣を倒し、そのまま自分の立ち位置に戻る。ようやく聞こえるようになった耳でゲームを続け、俺は月垣に勝利した。


「桜井! 貴様、卑怯だぞ!」

「お前との勝負に卑怯もへったくれもあるもんか」

「許さん。僕は絶対に貴様を許さんぞ」


 わなわなと握り拳を震わせる月垣。次は少し警戒した方が良さそうだな。

 雪菜はごちゃごちゃでカオスな勝負に深いため息を吐きながら、「優馬の勝ち〜」と気だるそうに言った。


「それじゃあ、次の勝負の準備はできてる?」

「ああ。大丈夫だ」


 と言った月垣の殺気は、明らかに画面ではなく俺の方に向けられていた。こいつ、やる気だな、と奥歯を噛みしめる。そして、ゲームが始まった。


「死ねえええええ! 桜井!」


 物騒なことを叫びながら、月垣は持っているバチを俺に向かって振り回してきた(※この小説はフィクションです。太鼓のバチは凶器ではありません)。


「おまっ、殺す気かよ!」


 俺はしゃがんで横薙ぎの一撃をかわし、バチを構える。俺はビルヴェンシアでは剣士だったので、なかなか懐かしい感覚ではあった。月垣も同様にしてバチの「切っ先」を俺に向け、ひまわりの花の匂いを嗅ぐ仕草をして格好をつけた。


「できるな。まさか、今の攻撃がかわされるとは思わんかったぞ」

「俺はお前みたいに剣術の心得もない人間よりも強い奴らと戦ってるし、修羅場だっていくつも潜り抜けてきたんだよ」

「気づいていないのか? 僕がまだ、実力の八割も出していないことに」

「……あなたたち、もしかしてバカなの?」


 雪菜はもはや呆れかえってしまい、ぐったりと肩を落としていた。俺は歯ぎしりをしながら、雪菜を一瞥(いちべつ)する。


「月垣と絡むと、妙に調子が狂うんだよ」

「永遠のライバル、桜井優馬。いいだろう。ここで決着をつけようではないか。おぅりゃぁぁぁ!」


 月垣は(バチ)を振りかぶり、思い切り殴りかかってくる。俺はすんでのところでかわし、(バチ)を右手に持ち替えて、空いた左手で月垣の腹目掛けてストレートを繰り出した。


「かたっ!」

「わっはっはっは! 毎日三十回の腹筋の成果が、こんなところで出るとはなあ!」


 俺はバックステップで距離を取り、体勢を立て直す。月垣も同様にして構え直し、俺たちは再び睨み合った。


「いくぞ、桜井!」


 月垣が駆け出してきたので止むを得ず、(バチ)を合わせた。こいつのバチを防がないことで他のお客さんに当たったりしたら、とんでもないことになってしまうと思ったからだ。


「防御ばかりでは一生僕には勝てんぞ、桜井ぃ!」

「お前こそ、時と場合をわきまえろっつってんだよ!」

「そんなこと、僕の知ったことではない。ゲーセンで戦ってはいけないというルールは、僕のルールブックにはないのだぁ!」

「社会のルールブックにはあるんだよ!」


 仕方ない。一撃で気絶させて、その場を落ち着かせるか。そう思い、月垣の脳天めがけて(バチ)を振るったのだが、それは止められてしまった。


「もらったぁ!」


 それを好機と捕らえた月垣も(バチ)を振るうが、それもピシリと止められてしまった。何事か、と思った俺たちの脇には、ずいぶんと巨大な図体をした男性が額に青筋を浮かべていた。


読んでいただき、ありがとうございます!


お知らせです。


次回の更新は、今週の金曜日か土曜日あたりになると思います。

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