第六話 神様は小説家(1)
「お父さん、そこで寝転がっていられると、お洗濯物を外に干すことができないんだけど」
すみれは洗濯物を入れたカゴを手に、床で寝転がっている晴敏を見下ろした。晴敏は腕と脚を組み、気難しそうに眉根を寄せていた。しばらく沈黙していたが、晴敏はその重たい口を動かした。
「なあ、すみれ」
「何でしょう、お父さん?」
「お前は『床』になってみたいと思ったことがあるか?」
「あら、そんなに踏みつけてほしいのなら、最初からそう言ってくれればいいのに」
笑顔で足を上げるすみれにも動じず、晴敏はちらりとすみれの脚に視線を送り、「そんなことは一言も言ってはいないだろう」と冷静に言った。すみれは脚を下ろし、首を傾げる。
「それでは、どういうことなの?」
「それはだな……」晴敏は目を閉じ、何事かを思案した後におもむろに口を開いた。「床になれば、女の子のパンツが見放題だろう。最近思うのだが、世の中の男子はみんな一度は『床』になりたいと思ったことがあるような気がするんだ。あ、それじゃあ、こういう話はどうだ。床になった主人公が、伝説のパンツを探し出すという……ぐほっ」
戯れ言をぺらぺらとしゃべりだす晴敏の腹を、すみれは踏みつけて乗り越えていった。
「タイトルは『大炎上時代』で決まりね」
晴敏は、腹をさすりながら、通り過ぎていくすみれの方を見つめた。
「……それは上手いな。下ネタが炎上するところまで含めてひとつの作品に仕立てあげてしまおうという腹だな? だからわざわざ俺の腹を踏んでいったのだな? 腹だけに」
無視されたのが寂しかったのか、晴敏は「すみれ」ともう一度呼びかけた。すみれは「何かしら?」と彼の方を振り返る。
「あまり派手な下着を身につけるのはよせよ」
さっきすみれが脚を上げたときにちらっと見たのだ。晴敏は、真面目臭った顔をして続ける。
「お前が悪い男に捕まったらと思うと、お父さんはだなあ……ぶぎゃどればごすっっ!」
「あら、いけない。お父さんがセクハラの覗き魔だってことを、すっかり忘れていたわ。それに、大丈夫よ、お父さん。私は、心に決めた一人の殿方にしか、私のすべてを晒すことなんて決してしないわ。だから、安心してそこで眠っていてね。もちろん、一生眠っていてもいいんだからね」
何があったのか、晴敏は部屋の壁にめり込んでピクピクしていた。
「そ……そうか。それなら、安心だな。おやすみ、すみれ」
「ええ。おやすみなさい、お父さん」
ピロン、と壁紙が剥がれるみたいに、晴敏は仰向けに床に落ちていった。この一連のやりとりにタイトルをつけるとしたら、まさに「床」が相応しいな。気分転換に、ちょっと短編小説でも書いてみようか。
体中に痛みを感じながらも、晴敏はそんな暢気なことを考えていた。




