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第四話 ニッチを狙え!(2)

「初めまして、ティナ・アーリストです。元々は日本で……」


 フランス人の美少女ね。たぶん男子人気ではぶっち切りで一位を取るでしょう。しかし、心配することはないわ。ああいうのは、大概フランスに遠距離恋愛中のイケメンの彼氏がいるか、うちの学校だとしても、どうせ白崎くんみたいな……。


「あ、優馬ぁ!」






















 マジ(まんじ)ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?!?!?!?!?






















 意味がわからない。なに、一体、どういうこと? 「優馬」って、桜井くんのことよね? どうして? え、どうして? 転入生ってことは、桜井くんとは初対面のはず……。


「はい。優馬にプロポーズされたんです。『大きくなったら、結婚しよう』って」


 プロポォズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?!?!?!?!?


 プロポーズって、あれよね? 別に「モデル」の言い換えとかじゃないわよね? ポーズを取るプロのことじゃないわよね? 結婚って言ってるんだから、あれよね?

 莉奈は驚愕のあまり呆然としてしまったが、おまけにティナの特徴はその美貌だけではなかった。


「J’aime Yuma! Il est beau et fort. 優馬はね、格好良くて、すっごく強いのよ。だから、私は優馬のことが大好きなの」


 流暢なフランス語をしゃべったかと思えば、


「すごぉい。ティナちゃんって、走るのも速いんだね」


 運動もできたかと思えば、


「勉強もできるって、ティナちゃん反則でしょ〜」


 語学以外の勉強まで優秀な成績を修める完璧超人。非の打ち所のない、まさに「神」のような存在。莉奈は口をぽかーんと開けたままティナの姿を見つめ、叫び出したくなった。


 ぶぁかぁぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!


 反則でしょ……。本当に反則でしょ……。信じられない。そんな、ばかな。あの地味で根暗で陰キャな桜井くんに外国人美少女の知り合いがいて、しかもあんな神様が二物も三物も与えたみたいな絶世の美少女が、あんなニッチの香り漂う「THE・平均点よりちょい上」の桜井くんのことを好きだなんて。信じられない。これは、嘘よ。落ち着きなさい、私。落ち着いて、私。落ち着くのよ、私。これにはきっと、何かトリックがあるはず。推理するの。私の中のシャーロック・ホームズを目覚めさせるのよ。そう思い、莉奈は優馬のことをじっくりと観察した。

 しかし、不可思議な点だってあった。あれほどの美少女に言い寄られているのに、優馬には動揺している様子が一切見られないのだ。別に美少女を怖がっているというわけでもなさそうだ。ティナが近付いてくることを、むしろ避けているようにも見える。

 まだ勝機はある。

 ここからはテンポを上げていかなければいけないわね、と莉奈は思った。



 取られる前に取る。取った者勝ちよ。



 莉奈は三度(みたび)名言を残した。非常に直截的(ちょくせつてき)でわかりやすい名言だ。名言とは一言でわかりやすいからこそ名言なのである、と莉奈は思った。


「ねえ、桜井くん、今度はプリン作ってきたんだけど、良かったらどうかな」


 とクッキー以外のアピールをしてみたり、


「桜井くんって、どういう女の子がタイプなの?」


 と恋の匂いを漂わせてみたり、


「私ってアリかな?」


 と冗談めかして言ってみたりもした。

 思ったよりもうまくいった。「宿題見せて」作戦から世間話を持ちかけるというジャブがうまく機能してくれたのだろう。そして、思い切って誘ってみた。


「桜井くん、もし良かったらなんだけど、今週の日曜日、一緒に映画にでも観に行かない?」

「あ、悪い。その日は無理なんだ」





















 どぉしてだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!





















 まさか、ティナ・アーリストなの? 仲が悪い風に見えて、実は、みたいな。

 自分には感情なんてないと思っていたのに、さすがの莉奈も落ち込んだ。まさか、計算通りに落とせると思っていたのに、こうも軽い感じで足蹴(あしげ)にされてしまうとは……。

 結局、日曜日は陽子たちと映画を観に行くことになった。


「莉奈、残念だったね。今日はさ、みんなで映画観たあとにカラオケとか行って、ぱーっと盛り上がってさ、桜井のことなんて忘れちゃおうよ」


 陽子は苦笑混じりに言った。


(はぁ? 今まで私がどれだけ地味だけど割と大変な努力をしてきたと思ってんのよ)


 心の中では愚痴を言いつつも、莉奈は頑張って作り笑いを浮かべる。そうよ、そうよ、と奈美恵も陽子に乗っかる。


「桜井なんかよりも良い男なんて、星の数ほどいるって」


(そりゃあ、桜井くんよりも良い男なんてたくさんいるかもしれないわよ。でも、桜井くんは一人しかいないの。私が捜しているのは、「ナンバーワン」じゃなくて「オンリーワン」なのよ。「ナンバーワン」はいろんな女を(はべ)らせてすぐに浮気するっつってんじゃん。あ、私一人で言ってるだけか。っていうか、知ってる? 平均点の男を見つけるのって、ナンバーワンの男を見つけるよりも難しいことなの)


 しかしそんな不満はおくびにも出さず、表では作り笑顔でガッツポーズを取り、「そうだよね!」と明るい声で言う。空気が読めるのが莉奈の良いところである、という点については、ここで言及しておきたい。

 そして、三人で退屈な感動物恋愛映画を見た。「泣ける映画」と話題で流行っているらしかったが、内容は実に陳腐(ちんぷ)でありきたりなものだった。しかし、莉奈にとっては良い映画だった。なぜなら、わかりやすい映画の方が会話のタネになりやすいからだ。できるだけ広く会話に対応できるようにとたくさんの映画を観る努力をしている莉奈だ。着眼点は「物語の内容」ではなく、「会話のタネ」になるかどうかなのだ。こういう系の映画は、適当に涙目になって「〜が……になったところで、もう、私、耐えきれなくて……」みたいなことを言うと、大体の場合は感受性豊かで好印象な人間だと思ってもらうことができる。私って実はテレビタレントに向いてるんじゃないかな?、と莉奈はひそかに思っていた。


(打算で泣くなんて人間味がない、とかいう批判は一切受け付けないわ。だって、感動映画を観て泣かないと、「あんた、人としての心がないの〜?」とか言ってくるじゃん。しょうがないじゃん。泣けないんだもん。そもそも、打算で泣くためにどれだけ感情コントロールのトレーニングを頑張ったと思っているのよ。ま、トレーニングの成果は絶賛放出中なんだけど(笑))


 そんなことを思いながら、莉奈は大粒の涙を流していた。


「ヒロインの子が死んじゃって、幽霊として主人公の前に現れたときにさ、私、もう限界だった」

「うん。すごいわかる。めっちゃ良い映画だったよね」と陽子もはらはらと泣きながら言った。

「うっそ。私、主人公役の俳優が超イケメンとかしか思ってなかったんだけど」と奈美恵は苦笑混じりに言う。

「もう、奈美恵、さいてー」


 冗談混じりに膨れっ面をしてみせると、陽子と奈美恵は二人して笑った。


「莉奈って、こういうのですぐに泣くよねー」

「情緒豊かっていうかさー、感情的っていうかさー」


 すると、莉奈は今度は本気っぽく膨れっ面をする。


「仕方ないじゃん。勝手に涙が出てくるんだもん」

「ごめんって! 冗談だから!」


 そして、映画館を出ると、莉奈は一人の挙動不審な男に目を止める。


(……ん?)


 明らかに不自然な男だった。帽子にマスク、サングラス。その男は、「私は不審者か有名人のどっちかですよ」と自己紹介でもしているかのような格好をしていた。気味悪いから目線をはずそうと思っていたが、莉奈は直感的にある違和感を感じる。その男の体格というか雰囲気に、どうにも見覚えがあるような気がしたのだ。しかもあの人がいじってるスマホ、桜井くんが使ってるやつと同じスマホケースに入ってる。


(……桜井くん? だとしたら、どうしてこんなところに? いや、ただの考えすぎか。でも、桜井くん、たしか日曜日は大切な用事がある、みたいなことを言っていたわよね。……ティナ・アーリストと映画? 確かに、あれだけの美少女とデートをしていることがバレたら、間違いなく嫉妬を買うだろう……)


 そんなことを考えていると、莉奈の中で様々なパズルのピースが重なり合った。


(ちょっと、待って。もしかして、桜井くんが学校でティナ・アーリストを避けている理由って、それ? 他の生徒からの嫉妬を隠すために、わざと嫌われる演技をしていて、本当は付き合っているとか……。何それ、私、どんだけ置いてけぼりにされてんのよ!)


「ねえ、莉奈、どうしたの? 大丈夫?」と陽子が尋ねる。奈美恵も心配そうな顔をしていた。

「あ、うん、ごめん。今朝、お母さんが具合悪そうだったから、大丈夫かなって思って。で、でも大丈夫だと思うよ! 早くカラオケ行こうよ!」


 その場では通り過ぎたが、やはり頭の中でもやもやした気持ちがあった。エスカレーターで階を移動した後、莉奈は電話がかかってきた振りをしていったんその場を離れた。あるいは、二人の心配に対してあんな嘘を吐いた時点で、その気持ちは固まっていたのかもしれなかったのだが。

 そして戻ってきたとき、申し訳なさそうな顔をして二人に両手を合わせて頭を下げた。


「ごめん。お母さんが倒れて、ちょっと家に帰らなくちゃいけないことになったの」


 二人は残念がっていたが、「お母さんが倒れた」に対抗できるカードなんてあるはずがなかった。翌日、「あ、そんな大したことじゃなかったみたい」という復活の呪文を唱えればいいだけの話だから。そのためのお母さん病弱設定なのだ。


(利用できるものは何でも利用する。これが「プロ」なのよ)


 私って、本当に性格悪いなあ、と莉奈はひそかに笑みを浮かべた。でも、仕方ないじゃん。桜井くんだったら、将来私を幸せにしてくれそうなんだもん。もちろん、与えられた分は与えるつもりよ。炊事、洗濯、掃除だって何でもね。もちろん、食事に対して完璧な栄養バランス云々なんてアスリートの妻みたいなことはできないけれど。面倒臭いし。

 だって、結婚生活って、買い物と一緒なのよ。私は「それなりの家事と子供思いの優しい奥さん」というそこそこの売値で「そこそこの安定」を買うの。

 謎の人物は——もちろん優馬なのだが(第三話参照)——、女の子数人のグループに続く幾人かの人々に続いてエスカレーターを降りてきた。ちなみに、実はこのとき、雪菜を追う優馬と、優馬を追う莉奈という不思議な構図が生まれていたことは言うまでもない。

 男には目的の何かがあるのか、周りの物になど一切目もくれず、大して変装もしていない莉奈に気付くこともなかった。そして彼がサングラスをはずしたとき、莉奈はそれが優馬だと確信したのだった。


「ねえ、やっぱり桜井くんだよね」


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