第5話 あやしい翻訳機能と指しゃぶり
『ヘイ、ピーチボーイ、ユーはどこへゴーするんだーい? きーきー』
『今から鬼ヶ島に命懸けの鬼退治に行く。だんごをやるから供をしろ』
『オイオイ、おだんご一つで命をかけさせるなんて、ブラックすぎるぜピーチボーイ。きーきー』
『何を言っている。モンキーなら出来るって私は信じている。私と一緒にコミットしよう! ほーら、だんごをお食べ』
『はぐはぐ、オー! ファンタスティック! ミスターピーチ、ミーも生涯フルコミットするーヨ! きーきー』
ラジカセを肩に担いだヒップホップ系のグラサン猿と少し社長似の桃太郎は、影の濃淡でラジカセの形から陣羽織や細かい刀の装飾までしっかり表現できるようになった。
次話は、ドラゴンをお供にした桃太郎が鬼ヶ島で鬼を相手に俺強ぇ無双!!
さあ、次の新しいコミットを探そう!! みたいな打ち切りエンド。
嘘だ、影絵遊びはもう飽きた。
だって全然スキル化しないんだよ、必要かも不明だしな。
さて、俺はゴブリン部屋に落ちていた核を吸収しているときに、下に続く階段を見つけた。
でもね、行かない。
少し燃え尽き症候群な俺は自宅を警備するのだ。
ゴブリン部屋の魔素溜まりは念入りに吸収したし、しばらくゴブリンも出て来ないはず。
ステータスはこんな感じだ。
種 :【魔影】王体
職 能:【スライムシャドウ】――【影分裂】
▽ 【ゴブリンシャドウ】
【オーガシャドウ】
スキル:【魔素吸収・プロ】
【魔素感知・プロ】
【影宿り・プロ】
【影移動】
【影収納】
【影吹き・プロ】
【影伸縮・プロ】
【魔素回復】
やっと影宿りがプロになった。
【影宿り・プロ】……影さえあればどこにでも宿を作ることができる
プロになって生物縛りが消えた。
これでスライムさんの気分に任せなくて良くなったよ。
【影移動】……本体の範囲内の影に移動することができる
影宿りがプロになったタイミングで、影渡りが影移動に変わった。
スキルの最適化とかあるのかなね?
影糸を細長く伸ばして、その先にある影の中に入ったり、天井の暗がりに潜むこともできる。
核を収納したままうろうろ出来るのが嬉しい。
【影吹き・プロ】……収納内の物を複数の影から飛ばすことができる
勢いで十字砲火が出来たと思ってたけど、プロってたのね。
消費した毒矢もきちんと大量保管済み。
ちなみに、オーガの角はかなり重たいのか飛ばなかった。
職能はオーガが増えた。
職 能:【オーガシャドウ】――【健康】【咆哮】【統率】
▽ 【ゴブリンシャドウ】
【スライムシャドウ】
【健康】は状態異常への耐性がつくスキルらしい、どおりで毒矢があんなに刺さっても死ななかったわけだ。
【咆哮】は俺には効かなかったけど、行動を阻害できるスキルらしい。
【統率】は格下ゴブリンを従えてたやつだな。
どれも影の俺にはあまり恩恵はないみたいだ。
ちなみに、ゴブリンの【百発百中】は子作りで使えるスキルで戦闘には向いていなかった……。
実体化しても使いたくないスキルかも。
俺の子どもとか不遇すぎて可哀想だよ。
さてさて、怖くてなかなか確認したくない称号を見てみるか――
称 号:【理性ある狂気】
【同族喰らい】
【イレギュラー】
【エロ妄想くそ野郎】
【一人遊び上手】
【恩知らず】
【イキったモブ】
【理不尽なリベンジャー】
【スキルアレンジャー】
【理不尽なリベンジャー】は、先に喧嘩を売った俺がゴブリンにリベンジしたからついたのか?
【スキルアレンジャー】は、影収納を攻撃手段として使ったからか。
結果的には、遠距離攻撃スキルを手に入れたからいいのだけど、スキルのアレンジの件では気になることがある。
――俺、実は近接攻撃の手段持ってたんじゃね?
そう、初めて影収納でスライムさんを収納したときのことだ。
本体の大きさがスライムさんより小さかった時、スライムさんを収納したとき、収納スペースに収まりきれなかったスライムさんの一部が地面にべちゃりと落ちたんだ。
ダルマ落としの土台を一段飛ばした時のようにすぽっとね。
……生物の一部を生きたままの状態で収納できるのなら、ゴブリンの足だけ収納とかも可能だったのでは?
スペース空けるためにじゅるじゅるしたり、職能でスライムシャドウが選べるようになったりと色々と気が散ってて今まで考えもしなかった――ほんと、俺、残念。
今の俺の大きさならオーガだって収納が出来るけど、収納内部で生物はどうなるのかね。
中で動けて暴れられでもしたら、俺の核がかなり危険だよな。
燃えてる松明とかも飲めるのか? その場合、時間は経過するのか停止するのか?
この辺りも調べておこう。
スライムさん、よろしくお願いいたします。
◇◇◇
影収納の調査報告ー!! どんどんぱふぱふ。
本体内部でスライムさん動いてた! なんなら俺を攻撃しようと近づいてきたよ!!
時間停止はなし、容量は俺の本体全部だからかなり入る。
空気はあった。
特別ゲスト、生まれたばかりのゴブリンベビーをお招きした。
わりと長い間、収納できたから呼吸は出来てたんだと思う。
空気が減ってきて、だんだんと苦しそうになってきたから、楽にしてあげた。
臭くはなかったけど、さっぱりとした不味さだった。
二匹目のゴブリンベビーには一部収納を試させてもらった。
うん、スパーっと綺麗に切れた。
足がぽとっと……。
やった俺が言うのもなんだけどかなりグロかったな。
罪悪感はほぼないけど、確認が終わったので感謝の心を込めていただきます。
ちなみに、一部収納はかなり意識しないと丸っと収納してしまうから練習が必要だな。
影収納という名前のせいで気づかなかったけど、俺にとってはかなりチート武器だったようだ。
……どうやら、スキル名や説明にも誤訳があるような?
俺の記憶が本能からの信号を、それっぽく意訳してるだけ……なのか。
となると、感覚についても誤訳してるのでは?
俺は核を中心に物事を考えている。
脳の代わりと思っているからだ。
ゴブリンの魔素が不味いとか、足が臭いとかやっぱり錯覚なのかもしれない。
そもそも視覚に関しては特におかしい。
本体は核にまとわりついている黒いもやも含めているんだから、核から見て正面だけしか見えないってのは変じゃないか?
てなわけで、影糸を伸ばして伸ばしてダンジョンの出口部屋まで伸ばす。
出口付近はどうなっている? 意識を広げる。
景色が広がってどこがどこやら、ぐう、頭が痛いぞ。
先頭の影糸に意識を集中する、……明かりが見える。
上り階段がある。
よし、出口部屋の視点だけに出来た。
つまり、俺の影は全部が目になることが出来るわけか。
聴覚……、うるさっ!! ダメだ、視点付近だけに耳を澄ませるイメージなら? よし、出来てる……はず。
嗅覚、味覚は遮断できるかを意識しよう。
オンオフ切り替えられるまで練習しよう……、上達を早めるために、ご、ゴブリンで。
触る感覚は……、ダメか。
影はダメだけど核なら感触あり。
影の伸縮に合わせて視点を変更、天井に影を這わせれば上から見た視点にもできた。
つまり、下から目線だけでなく、上からお姉さんの谷間を覗くことができるんだ!
まだまだ考察は終わらないけど、あと一つだけ試してみよう。【魔素感知】――
感知の範囲は核を中心に何メートルだろうか、ダンジョン出口のスライムさんは感知出来ていないな。それでも出口のある部屋に入る手前や罠部屋の近くまでは魔素を感知できる。
どうも範囲内では俺が一番の魔素持ちだな。
魔素溜まりも復活しつつあるけど、それでも俺の方が多いな。
おっと話が脱線した、試したいのはここからだ。
うへへ【魔素吸収】――
『――やめろ』
っ!!
『――やめろ』
まじかっ!?
『――やめろ』
ふぉおおおぉぉぉっ!! うめぇ!! 濃厚な味!!
『――やめろ』
止まらないっ!
本能の警告が鳴りやまない!!
でもこの全能感が癖になるぅっ!!
『――やめろ』
まだ……、まだ行ける――
『――禁じる』
あ、止まった。
本能が魔素吸収を強制終了した感じだ。
予想外だった。
こんなに……、こんなに自分の魔素が美味いとは……。
…………。
◇◇◇
はっ!
意識が飛んでたみたいだ。
本能からの警告はもうない。
やべぇ、自分の指を舐めると塩味ー、みたいな軽いノリだったのに――
めっちゃ美味しかった! ゴブリン味じゃなくて良かった。
では、ワンモア――
『――禁じる』
……あ、もう吸えない。
本能から警告がすごい。
八割? 何が? いいじゃん、ちょっとくらい減るもんじゃなし……、はい、もうしません。
なんだかすごく体調がいいなぁ。
疲れたときはセルフ魔素吸収……やめろ?
なんだろ、本能から『次、やったら殺すぞ!?』って信号が来てる気がする。
自分を殺すという何かの哲学。
俺の記憶が誤訳してるだけだろう。
きっとそう。