第57話 あやしいやり取り
――がんっ!
「痛っ! 揺らすなよ! あと箱を叩くのやめろ、音が嫌だ」
「…………」
――がんがんがんっ!
「やめろ、やめろ! 復讐ってなんだよ! 俺、なんかしたか?」
揺れると箱に核が当たってピリッと来るし、やめてほしい。
「はぁ、何かしたか? ですか。そうですね、ここ二年間で言いますと毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日……」
毎日なんだよ!
「卑猥な言葉や覗き、感触がないとか言いながら身体を触ってきたりとセクハラの日々、それに暇だからと一発芸を無茶ぶりされたり、荒れ地に無能なゾンビや雑草を溢れさせておいて内政を任せただの、本当にマスターは滅茶苦茶ですよ、ねっ!」
揺らすなって! くそが!
「は、ハルピは何だよ? ソニアがストレスマッハなのは分かった、すまんかった。俺、ハルピにはそこまで――」
「……姉ちゃんの敵っす」
「え? 今さら!? いやそれに魔物の死生観はあっさりしてるとか、運命だからとか、姉ちゃんが唐揚げとかで納得したんじゃねぇのかよ!」
そんなに長いこと寝かす? もっと早めに言ってくれたら――
「クァー! ソニア様に我慢するように言われたっす、いつか復讐のチャンスが来るまでって! ……今がその時っすよ」
「ま、待て! 本当にそうか? 本当に今でいいのか? もしかしたらこの後にすっごい大チャンス来るかもよ?」
「かぁ? そ、ソニアさん、どうするっすか?」
よし、ハルピのおバカは元々だった。
「ハルピさん、私は貴女よりも前からこの機会を待ってました。そして、これ以上の機会はありませんよ」
ソニアに早々と訂正された……。
「なんだよ、ソニアは俺がどんな風に育ったか知ってるんだろ? 俺がこんな風になったのも親が悪いと思わないか? 俺も被害者だと――」
いちいち俺を黙らせるのに揺らすなって!!
くそ、情に訴えて何とか離脱しないと。
「そうですね、マスターの記憶を知ってマスターがそうなるのも仕方ないと想いました。私の故郷をあんな風に滅茶苦茶にしたのも、シモンたちが死んだのも運が悪かったと思い込もうとしました」
「だろ? ちなみにブレッシェル村の悲劇は俺のせいじゃないぞ」
「えぇ、理不尽な運命により魔物たちに蹂躙されただけですよ」
「じゃあ何が不満なんだよ! さっさと箱から出してくれよ。謝るにしても面と向かってごめんなさいしたいし、頼むよソニア。仲間だろ?」
仲間、好感度が低かろうとさ、ずっと一緒にいたじゃん、ナカーマ。
「仲間……、そうですね。ハルピさん、私のここを見てもらえますか?」
え、どこ? 俺も見たい。
「くぁ? ここだけ円になってるっす」
どこ? ポッチの周囲が綺麗な円? それはハルピ、乳り――
「ストレスで髪が抜けました。円形脱毛症ってマスターの世界では言うそうですよ」
……ストレス、俺の? ここ二年間の?
上司が無知ぶり、丸投げ、セクハラ。
「あ」
「やっとお分かりいただけましたか? ちなみにお忘れだと思いますが、私は現在、十歳です。マスターの世界では虐待じゃないですか?」
体はその道のプロだけど、心は子ども……だったね!
「……つまり、お前らは俺からのストレスで復讐を企てたと? こんなピリピリした箱まで用意して? つーか、この箱って何?」
「やっとご理解いただけて何よりです。この箱ですか? この箱はヨウスフィア様のお力が込められた聖櫃です。魔素を集める力があります、すでにローマン地方の魔素が入って来てるのを感じませんか?」
うーん? 確かに力が少し戻ったか?
「聖櫃ってあのインディなジョーンズが崖から落とした失われたヤーツ?」
「アーク? みたいに言わないでください、そうです見た目はマスターにバレないように細工しましたけど」
シェルターって言ってた!
「いやソニア、シェルターって嘘ついたじゃん! お前、嘘つかないキャラ――」
いや、いつから裏切る気だったのか分からんけど既に騙された……。
「……んで、ヨウスフィアに箱ごと渡すのか? お前らの復讐ってそれか?」
「マスター、魂は循環されるって知ってますか?」
質問に違う質問返すなよ、知らねぇわ。
「……説明したことを覚えてないと思いますので、簡単に説明しますけど魂はヨウスフィア様のお力で浄化されて生まれ変わるんですよ。でも、例外がありまして魔に堕ちた魂はずっと地上に縛り付けられるんです」
へぇ。
「だからまず、マスターの配下になった魔人や魔物から皆の魂を解放するんです」
ドラゴンゾンビーズやデビルプラントちゃんたち、ピュアスライムさん……は俺の配下というよりカタストロフの配下か?
「何だかよくわからないけど……、ゾンビーズや魔人をばらすってこと? 別にいいよ」
だいぶん劣化してるゾンビも増えてきたし、俺がダメージ喰らうわけでもない。
それが復讐?
「魂が正常に循環されるようになればヨウスフィア様の力が戻ります、そして……」
魔王をシステム内に組み直してこの世界を正常に戻す。
俺は魔素収集箱の中にずっと詰め込まれて、自由を奪われて悲しい人生を送ることに……。
「ソニア、俺が悪かった。反省している、もうセクハラは二度としない。責任を持って万能な毛生え薬を探し出すから許してほしい」
とりあえず素直に謝ってみた。
「ふふ、もう遅いですよ。この世界に紛れ込んだ異物、マスターの境遇には同情して、憐れみますけど……。マスターは世界に要らないんですよ」
同情して憐れまれて、ついでに異物呼び……。
好きで来てるわけでもないし、もう俺の夢はこの世界からチート持ったまま実体のある元の世界に戻ってローファンタジーやることにする。
その前にコイツらに何か……。
「なんて酷いことを言うんだ、普通に凹むわ。そうだ! 魔素を集めきったら第二、第三の魔王を実体化させてやるぞ、覚えとけよ!」
ふははー、嫌がらせしてやるぜ、俺をハブって皆で楽しく暮らすなんて許さない。
「くぁ、反省してないっすよ! ソニア様、そろそろいいっすか? 復讐タイムっす!」
え? 復讐タイムってまだなの?
「マスター、今までのは説明タイムとお説教タイムです。復讐、なんですからこんなことじゃないですよ。ああ、それとこの箱の事ですけど、マスターが魔素を集めきったら浄化するんですよ。ヨウスフィア様のスキルで……」
いや、集めないし! 入って来たら魔素を追い出すし!
って無理ね、勝手に入って来てるのね、はいはい。
移動してるんだろうな、少しずつ魔素が戻ってきてるわ。
どうせあれだろ? この世界の魔素を集めてもこの箱が壊れることはないんだろ、魔王を復活させたら狭い箱が更に狭くなる地獄が待ってるとか嫌だ。
おっさん魔王むちむち地獄……。
「……うぜぇな、敬語キャラ。顔が見えないと余計にムカつく、ラノベだったら読者さんのヘイト溜まってるぞ? それで何が言いたい?」
「酷いですね、ずっとマスターの好みのキャラを守ってきたのに。お兄ちゃんとでもお呼びすれば機嫌なおりますか? なんてマスターの機嫌なんてどうでもいいですね。さぁ、ハルピさんからどうぞ」
「ガァーガァー!! 姉ちゃんの敵、喰らえっす。【フェザースラッシュ】――」
ハルピはおバカだな、箱の外側でスキル使って――
「痛い、痛い! ちくちく止めろ!」
スキルって……まさか?
「はい、マスターのお考え通りです。この箱、スキルは通ります。もちろん武器スキルも……」
……え?
「マスターにはずいぶん無茶な武器を装備させられました。おかげさまで大鎌のエキストラ以外にも鞭、円月輪、弓、トンファーなんかも極めております」
「くあぁ! ソニア様、口の形がお月様みたいで怖いっす!」
お月様……三日月だよね?
……あっ! そうだ!
すっかり忘れてたけど俺には強力な味方、忠実な下僕のラァブがいる。
ラァブの奴、早く助けてくれぃ!
「急に静かになりましたね。あ、そうそうラァブさんですけど魔王さんのところに加勢に行ったみたいですよ。元サヤですかね」
待て、元サヤって言うのは魔王もラァブが好きじゃないと成立しない、そこは魔王も認めてないところ! ってそんなことより、ラァブが助けに来ないことだけ伝わったわ。
「くそっ。……好きにやればいい、魔素が集まって万が一でも箱が壊れた時は覚えとけ」
拷問? 慣れてるわ、好きにしてくれ。
実体化も俺の思う実体化じゃなかったし、ソニアたちの好感度がここまで無いとは思わなかった、もう日本に帰りたい……。
コイツら嫌い、俺が好きに生きていい世界なんてないのかね。
どこに行っても虐げられ、利用されるだけなのが俺の運命ってか……。
いいだろ――
「マスター、独白中に申し訳ないんですが自業自得だと思います。人のせいや神様のせいにしてますけど、もう少し配慮があればこんなことにはならなかったと反省してください」
精神干渉で読まれてんのか? シャットアウトじゃ!
「……黙りですか。つくづくクズですね、少しは自分の非を認めてほしかったのですが無駄のようです……。では、まずはマスターの大好きな大鎌から行きましょう」
大鎌から行きましょう、じゃねぇよ。
クズ親の元に生まれたら、クズ親の背中見て育つしかねぇんだよ。
今さら説教するんだったら向こうの世界でさっさと俺を殺しておけば良かったんだよ。
くそ……。
くそっ、くそっ、くそがぁ! 丁寧に言ったらおうんこがぁ!!
「……クズの親の元で生まれても立派な人物になる人もいますよ? ソースは私」
ある意味、私は貴方に育てられたようなものですから……。
「あのね? 殺人級の武技を放ちながら言われても説得力ないから! お前、お前も十分に狂ってるからな! まともな奴なんて世の中どこにもいないんだ!」
世の中腐ってどこの世界も終わってるんだよ、俺は悪くない!
「くすっ、そうですね……」
ここからは無限に思える地獄が続いた。
ソニアの技で核が壊れても、すぐに魔素が俺の核を補って復活させてくれる。
痛みはある一定量喰らえば感覚が麻痺する、火に炙られようと水をかけられようとどうでもいい。
しばらくしたら慣れた。
でもね、一番辛いのは――
「んっ! んんんん!」
「くぁ! はぁ、はぁ! ソニア様、そこは触っちゃダメっす」
「はぁ、はぁ、ハルピさん、我慢してください。もう少し……奥に」
「くほぉ!」
「ふふっ、ハルピさん、可愛いです」
「くぁ! 恥ずかしいっす、見ないで欲しいっす」
「おい! どうせマッサージとかだろ?」
「……さあ? ハルピさん、続けましょう」
スキルにより暴力、理詰めで説教、そして……箱の外で繰り広げられている何かに対する謎のエッチぃやり取り。
頼むから箱の外を見せてくれぇ!
もう寝るっ! 耳がダンボだけど寝るからぁ!
ラス前の話です。
最終話のエピソードは短いので、朝起きたら投稿する予定です。




