第50話 あやしい滅亡
どうしてこうなった……。
「マスター、このままだと国が滅びます……」
ミドラ副将たちを運動場で吸ったり、斬ったり、地竜をソニアが倒したりと王国の混乱を収めるべく東奔西走していた俺なのだが、ミドラたちが迷子龍を探しに来ていた部隊とは思わなかった。
将軍が王様に話していた内容も、「湖の祠が様子おかしいのと、こないだうちの兵士が山頂付近で行方不明になってるんだけど何か知らない?」程度で、怒っていたわけではなかったんだ。
天龍たちは迷子龍探し、地竜は正夢スキルの影響って紛らわしいわっ!
さて、この盛大な勘違いで部隊が一つ喪失した結果、更なる悲劇が起こっている。
『本隊が来ちゃいました』
もうね、すぐ来た! 何かつながってるのかね?
地竜を片付けたソニアたちと合流して食堂でお昼食べてる時間にはお空が天龍模様に変わっていって……。
北のスー大陸の中腹から来てるはずなんだけど、迅速すぎて引いたわ。
えーと、豪華な鎧を着けた将軍龍が一匹、豪華な鎧を着けた将軍龍が二匹、豪華な鎧を着けた将軍龍が三匹、豪華な鎧を着けた将軍龍が……眠くならない。
人間相手に本気出しすぎぃ!
どんだけ部隊を送り込んで来てるんだよ!
王城はあっという間に占拠され、都中に地竜やワイバーンが解き放たれて人間を餌にしている地獄絵図、天龍たちは空から何かを探しているせいで逃げ出す隙がない――俺たち以外は。
「くあ! おばちゃんの食堂は自分が守るっす!」
完全に胃袋掴まれてるじゃないか!
シャドスペ食堂で良ければ一緒に逃げられるけど、魔人じゃなくてゾンビ化した時は味覚がどうなるか心配だ。
『ラァブ、都中に溢れる地竜を何とかしてくれよ』
王都にはまだまだ元気な冒険者たちもいるし、お前が頑張る姿を見た誰かしらが錯乱して恋してしまうかもしれないぞ。
吊り橋効果だな。
「ノォンッ! 地上の戦闘は苦手なのよぉ!」
『安心しろ、核は拾ってやるから! ラァブ、ファイトーっ! 【転移】――』
――のおおぉぉおおっん!!
「マスター、私も戦います」
『いや、ソニアは俺の護衛してくれ。空にいる天龍たちがどう動くか分からないし』
「……護衛いらないですよね?」
「いや、正直嫌な予感がするので側にいてほしい」
まだ何か来そう? な感じがするんだよな。
「……分かりました」
◇◇◇
今、俺たちは歴史的な瞬間に立ち会っているのかもしれない。
――歴史ある王国シンフォニアの滅びの瞬間に……。
王都の空は天龍たちに覆われ、都中を荒らしまわる地竜たちを前に冒険者たちも疲労が溜まり、いい感じに蹂躙されまくってる。
『これは詰んだな! 【影吹き】――、【影収納・影喰らい】――』
とりあえずハルピが後でおっぱい見せてくれるって言うから、おばちゃんの食堂は死守してるけど――
「ふっ! はあっ! このままだと食堂以外、何も残らないかもしれません」
シャドスペ内も龍族の残骸が溜まってきて……あ!
下りてきた! ご都合主義が! ナイスアイディーア!
よっしゃ! そうと決まれば……。
「たあ! マスター! 死体を外に出すと戦いにくいのですが! ちぃっ! やぁ!」
返り血まみれのソニア無双、もうこの子のレベルアップがとどまるところ知らないんじゃね?
『レベルアップしてるはずなのにエッチぃ声を出してないのが不満だな』
「いいからっ! 早く片付けてください、よっ!」
ソニアが忙しすぎて俺、寂しい。
「くぁ! フェザースラッシュ! や、やったっすか!?」
全身に羽毛が刺さった天龍が動きを止めた!
「ぐおおああっ!」
あらら、咆哮一つで羽毛がぽろぽろと地面に落ちた。
「クアー! ぜんぜん効いてないっすよぉ!!」
そりゃハーピーより圧倒的に上位種なんだから仕方ない。
あ、ソニアが途中で話しかけるから何をやろうとしたか忘れてたわ。
『ほいほい、手数増やすよー。【呼び起こし】――』
――ぐおおぉおぉぉお!
――びゃごぉ!
――うばぁあぁっ
――ぼおああああ
「マスターっ! アンデッド化した龍や冒険者たちが無差別に人々を襲ってます!!」
……あるれぇ?
『すまん! 分かった、じゃあこれならどうだ!? 【影伸縮】からのー【影収納】――』
『マスター……』
『くぁ? 急に暗くなったっす!』
『人々を保護するために手当たり次第にシャドスペしてみたんだけど……』
『力の弱い人間はマスターの中では生きることが出来ませんが』
あは。
じゃあ、出そう。【影収納】――
「あばばばばぁ」
「おお! シェイド様の力がぁっ!」
「ぐでぇ」
「おばながっでぐだざぁい」
思った以上にシャドスペ内は魔素が充満していたようだ……人間弱すぎ。
――こうしてシンフォニアで生活していた数十万人の人々は、魔人化した数千人を除いて、全員が綺麗にまるっとゾンビ化することになった。
『龍族が滅ぼす前にマスターが滅ぼしてしまいましたね……』
『くぁ! おばちゃんはゾンビになってないっす! 良かったっす!!』
『よぉーし、お嬢ちゃんのために美味しい料理を作ってやるからね!』
食堂のおばちゃん魔人に抱きつくハルピ、微笑ましい光景だよね。
でも、デビルプラントちゃんを食材にするのやめてね?
『龍族が滅ぼす前にマスターが滅ぼしてしまいましたね……』
いや、二回言わなくてよろしっ!!
戦いは続く。
◇◇◇
グオオォォとかンバアアァとか謎の饗宴、数の暴力で押してくる龍族に対して不死の暴力で対抗するドラゴンゾンビーズと御先祖様ーズときどきシンフォニアゾンビーズ、そして俺の影糸だったり、魔素吸収で完全に泥仕合の様相に呈してきた。
『なんとか天龍たちだけになってきたな。それにしても空から攻撃できるのってズルくないか? 【影吹き】――。からの【呼び起こし】――』
少し飽きてきた。
『姿も見せずに魔物の影から一方的に攻撃したり、倒した魔物をゾンビ化させて手駒にするのも十分にズルいですよ』
『なんか決着つかないし、ジャミラのおっぱいでも拝みに行かないか? ちょうどラァブも行方不明だし』
分身を入れているからいつでも転移できる。
『……この状況をそのまま放置するのはどうかと思いますが。……それに惨劇はこの大陸だけで十分です』
なんか最後の言葉はウィスパーされてて聞こえなかった。
『くぁ、うまいっす! はふはふ!』
『たぁんとお食べ!』
シャドスペ内のギルドに食堂が出来ました。
おばちゃんの適応力、恐るべし!
『昔、俺のいた世界の偉人はこう言った「人は城、人は石垣、人は堀」……あと何だっけ?』
『どういう意味ですか?』
『えーと、人がいれば肉壁にもなるし、生かしておけば使い勝手のいい人材だ?』
『異世界にはなんとも恐ろしい魔王がいるんですね……』
いや、魔王と呼ばれていたのは別の人だったよ?
だからシャドスペ内の人間も魔人として生きてる奴らがいれば王国もすぐに元通りになるさ!
今回は建物もそのまま綺麗に残ってるのがあるし、ほとぼりが冷めたら……。
――どごおっ!
空からぷすぷすと焦げたスルメイカ?
晴ときどき天龍、ところによりスルメイカとか異世界の天気は怖い。
『かぁ! ら、ラァブ様っす! ラァブ様が落ちてきたっす!!』
『待て、ヤバい気配が上空から下りてきてる。お前ら静かにしとけよ』
『かぁ! でも、ラァブ様を早く手当て――』
よし、ハルピGO!! 【影収納】――
「くぁ、ラァブ様! 大丈夫っすか!?」
「……は、ルピちゃ、ノン、逃げて」
よし、逃げよう!
――全員、動くな。
ぐうぅ、すごい上からプレッシャーが……!
動けない……、ラスボス降臨かよ。
「我が名は天龍王バハムール、貴様が魔王カオスシェイドとやらか?」
漆黒の大龍、禍々しさと神々しさを併せ持つオーラ、獰猛な顎はいいけど何で目元だけよく見えないの?
ただ、視線は完全に俺の核がある場所に固定していらっしゃる。
魔王じゃねぇし!
もう龍の王様といえばバハムートなんだし、バハムールとか微妙に変えなくても良くないか?
俺もネズミのしっぽでジョブチェンジ出来ないかなぁ……。
「……我の声がわからぬか?」
現実逃避したけど回り込まれたらしい。
鳥だ! 飛行機だ! いや――
「我が名はバハムールだ!」
あっ、はい。
ダメだ、もう一度現実逃避してみたけど回り込まれたらしい。
『マスター、いい加減にしてください』
うん、そろそろ返事しないととヤバいよな。
「……ふむ、我の威圧で口がきけぬか。威圧を解く前に我が同胞の御魂を解放してもらうぞ。【天浄雨】――」
バハムールさんのさらに上空からきらきらした雨が……。
あた! あたたた!
痛い、その雨、痛いよ。
――ばぉおおお……。
――ごおぉぉぶぅ……。
うお! ドラゴンゾンビーズが溶けてくんだけど!?
天にドラゴンたちが上っていく、バハムールさんにお辞儀して。
ついでにシンフォニアゾンビーズも天に召されてる、いや何でお辞儀してんだよ! 俺にも挨拶して逝けや!
地上に残されたのは、魔人たち、焦げたスルメイカとイカの影に潜む俺!! 【影伸縮】――っ!?
痛っ!
「先ほどここから動くなと命じたはずだが?」
えー! スキル? 何かのスキルで影を動かせないの?
…………。
『は、ハロー?』
「……それは異世界の挨拶か?」
『え? 何でわかんの!?』
「口の利き方が悪いな……」
ちょ! すみませんでした!
そんな怖い顔しないでくれよ!!
『あは、は。すみません、どうして異世界言語だとお分かりでしょうか?』
とりあえずラァブが回復するまで時間稼いでみよう、こういうピンチの時は誰かしら助けてくれるはずだ。
ご都合主義、大募集!!
「過去にもお前のような異世界から来た者がいて我も話した事がある。魔物になった者は初めてだがな……」
何そのちょっと懐かしい感じで遠くを見てんの?
そこに何があるんだ?
『みんな人で生まれてきたのか……』
俺だけ仲間外れ。
「ある者は異世界の知識を用いて一財を築き、ある者は平和な国を興し、ある者は勇者として魔王と戦った。我が話したのは勇者マイケルと名乗っていた」
急にアメリカンっ!!
『あ、それでハローが通じたんですか……』
HAッHAッー! アメイジングだぜぇ!?
「うむ、明るくて面白い奴であった。最後まで我の事をガジーラと呼んでいたのが気に入らなかったがな」
『ガジーラって、それは日本の怪獣の名前。いやー、まじっすかぁ。自分は日本ってところから――』
「まあ、貴様がどこから流れてきたのであろうと、これだけ同胞を殺戮し、魂をもてあそんだ罪が許されるわけもない。そろそろ我の準備も整った、この世界に生まれてきた事を後悔して消し飛ぶがいいっ!」
バハムールさんの両翼が広がって地上に影が差す……けど操れない!
「無駄だ、我の影には入れぬ。何重に結界や自己強化を施したからな……」
あ、確かにバハムールさんの身体を包むオーラっぽいのが地上の影にも見える……。
え……、ちょっと強者のお遊び的なトークって時間稼ぎだったの?
俺が奇跡待ちで時間稼ぎしてる間に、バハムールさんもしっかり俺を分析してメタ準備しちゃったってこと!?
明らかな強者がバフのガン積みは大人げないよっ!
「我はシンフォニアの建造物は好きだ、愛着がある。貴様の血で穢れないように戦いの場所を移そう。ついてこい」
そう言ってバハムールさんと天龍ご一行は南の方へ飛び去った。




