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第4話 あやしいリベンジマッチ


 かち、ふぉん、ぽと、回収の地味な作業を繰り返す――こういうのわりと好き。


 収納スペースがいっぱいになってしまったが、まだまだ罠は作動している毒矢無限増殖状態。


 影収納の新しい使い方を思いつく、収納から出てくる毒矢でスライムさんに刺せないだろうか?


 おお、にょきにょき出てきた毒矢がスライムさんにずぶりんこ。


 一瞬で紫色に変色したと思ったら、スライムさんは核だけ残して溶けてしまった。


 ……このダンジョンの難易度については後で考えるとして、スライムさんの核に残っていた魔素は美味しくいただきました。


 編み出したぜ! 俺の新しい武器!!


 ちゃらりーん、穴から注入――


 なんと鼻からミルクならぬ穴から毒矢! わーい。


 本能よ、そんな目でこっちを見るな。


 影収納の仕様は、本体に出る収納口から物を取り込み、取り出すときは頭に浮かべるだけで外に出せる。


 もう少し、びゅっ! と毒矢が出せれば……。


 とりあえず吹き矢のイメージで、上に矢尻を向けて……、んぺえっ!


 にゅにゅにゅ~って……、遅いよ。


 壁に寄って横から吹いてみる、にゅにゅにゅ~っと出て、そのままぽとっと地面に落ちた。


 人であれば筋肉や空気を送るための肺があるけど、俺にはそんなのないからな。


 うーん、収納のイメージが強すぎて、どうしてもゆっくり取り出してしまうんだよなぁ。


 本能は核を保護する場所としか思ってないから、攻撃に転化できるなんて考えてないし……。


 まずは、このイメージを壊す。


 協力者はこちらのスライムさん。


 さっきみたいに、スライムさんに収納口から毒矢を当てることで、影収納でも攻撃ができるって頭に刻み込むんだ。


 スライムさんの乱獲、からの実験。


 なんと時間のかかることか……。


 だぁー、全然うまくいかないっ!!


 そんな簡単に認識なんて変えられない!! てかこれ……無理でしょ。


――ふと、あの人の言葉が頭に浮かんでくる。


『やれる! 君たちの目標はなんだ? 君たちなら出来るっ! チャレンジ! アンパサンド! フルコミット!!』


 だあ! うるせー!! わかってる!!


 俺の目標は、この世界の可愛い女の子を愛でること!!


 そのためにも、こんな序盤のゴブリンなんかにつまずくわけにいかないんだよっ!


 フルコミットなんてしたくないけど、目標のために……やるっ!!




◇◇◇




――ふぉんっ!! ずぶっ。


 スライムさんに勢いよく突き刺さる毒矢。


 罠から飛び出る毒矢より速くなったな。


 ついに出来た、技名はすでに考えてある。


 かつて日本の歴史千年の長きに渡って受け継がれてきた、一子相伝・門外不出の格闘術。


 継承者は未だに負けを知らない地上最強の無手の流派。


 その戦闘狂の一族の技の一つ、その名も――()が……。


 おっと本日一番の本能からの警告出ました。


 はい、付け直します。


 その名も――影吹き。


 ひねりもなし、決定。


 唾や歯を口内から相手の目に向けて飛ばすというあの技を、まさか異世界で再現できるなんて――異世界に著作権はないと思いたい。


 あとは命中率を上げていく。


 練習あるのみだ。




◇◇◇




 どれくらい時間が経ったのか時計ください。


 スライムさんに当てることも慣れてきた。


 まあ、一度だけ、間違えて核を射出したときは焦った。


 スライムさんが受け止めてくれなかったら、壁に激突してヤバかったかも。


 受け止めてくれたスライムさんは派手に弾けとんでしまった。


 中々の破壊力だけど、本能がマジギレして怖いのでもうやらない。


 そんなわけで、影収納の応用スキル【影吹き】でゴブリンにリベンジしたい。

  

 毒矢のストックもかなりある。


 罠部屋の魔素溜まりを回収して、スライムさんで影渡りしながら分岐に戻る。


 右に行けば自宅と外に出る部屋、真っ直ぐ行けば――


 ……いるな。


 奥の突き当たりの部屋、かなり広そう。


 魔素感知でも半分ぐらいしかわからない。


 そして、さすがゴブリン。


 驚きの繁殖力。


 感知にかかるだけでも数十匹か――ストックしてる毒矢だけじゃ足りないか?


 とりあえず部屋の入口でぼーっとしてる見張りゴブリンに毒が効くのか試してみよう。


 スライムさん、もう少し近づいてください。


 違うそっちじゃない、やだなぁ、壁はさすがに登れませんよぉ。


 よし、射程距離に入った。


 喰らえ、【影吹き】――


『ぎゃ?』


 緊張して失敗した、近くに落ちて地面に沈む毒矢。


 気を取り直して【影吹き】――


『っ! ぎゃあっ、ぎゃが……』


 うしっ! 毒、強すぎなんだけど。


 ま、まずは、一匹。


『ぎゃ?』


『げぎゃ?』


『ぎゃっ! ぎゃっ!』


『『『『『ぎゃ?』』』』』


 うわー! 見張りゴブリンの声に反応して、ぞろぞろ出てきた、ご丁寧に松明まで装備済み。


 ならば、迎え撃とう。


 【魔素吸収】からの【影吹き】――


『ぎっ、ぎゃ!!』


 二匹目、影糸を先行させて松明を振らせる。


 隙が出来たところに、毒矢がぶすり。


 良かった、矢としての威力も十分だ。


 毒矢を飛ばしながら、影渡りで罠部屋へと後退していく――へいへい、鬼さんかもーん!!


 ゴブリンが二、三匹ずつのグループでぞろぞろついてきたな。


 よし、うまく釣れた。


 あとは罠の前で核を出して……スタンバイオッケー!!


 いざ! 尋常に勝負だ!!


 入口まで走ってきたゴブリン、足音と魔素感知で位置が丸わかり。


『ぎゃっ!』


 いらっしゃい、そしてさようなら――かちりと核で罠を踏む。


『っぎ!』


 ばたりと倒れたゴブリンA、顔の区別がつかないからAと呼ぶ。


 松明は入口近くでまだまだ燃えている――火事の心配はなし。


『ぎゃっ!? ぎぎゃ? っぎ!』


 はい、仲間思いのゴブリンBがAに駆け寄ってところで背中にぶすり。


 さらに松明を拾いに来たとこをぶすり。


 二匹同時に来ても大丈夫、罠作動と影吹きのコラボで処理。


 戦い方が尋常ではなかった件……。


 警戒されたのか、すぐに部屋に入らずこっちの様子を伺っているようだ。


 何匹か死体が重なったところで、ダンジョンの死体回収が始まり、核を残して死体は地面に沈んでいく。


 今のうちに、と影を伸ばしてゴブリンの核にタッチ。


 【影収納】――、ゴブリンの核を回収。


 職能をチェック。


 種 :【魔影】王体

職 能:【スライムシャドウ】――【影分裂】

  ▽ 【ゴブリンシャドウ】


 よし、ゴブリンの職能はどんなのだ? 新たな武器の予感。


 種 :【魔影】王体

職 能:【ゴブリンシャドウ】――【百発百中】【暗視】

  ▽ 【スライムシャドウ】


 【暗視】は魔素感知があるから要らない、【百発百中】か、名前的に影吹きの精度を上げるスキルじゃないこれ?


 教えて本能さん! え? まじでぇ……。


 種 :【魔影】王体

職 能:【スライムシャドウ】――【影分裂】


 【百発百中】のことは、ゴブリン狩りが終わってから。


 核は魔素吸収で一気に吸うっ!!


 相変わらずの不味さと臭み。


 核にまで臭いが染みついているとはゴブリン恐るべし。


 不味さに耐えつつ、ゴブリンの魔素を吸い続けたおかげで、本体はかなり大きくなってきた。


 広げると気球ぐらいの大きさだからかなりでかいな。


 さて、ゴブリン達の気配がなくなったし、毒矢を補充してまた攻めよう。




◇◇◇




 ゴブリン部屋の入口には別の見張りゴブリンが立っている。


 奴らは人材豊富だ。


 魔素感知の範囲も広がり、部屋の内部をチェック。


 あと二十匹ぐらいか、毒矢の本数は数千本単位で持ってるから多少無駄打ちしても問題ない。


 ただ、部屋の奥にでかい魔素の塊が動いているから油断せずにいこう。


 まずは、見張りだけど今回は影渡りで滑り込む。


 相変わらずコイツらの足は臭い。


 中は薄暗いな、ゴブリンは暗視持ち、戦闘のときだけ松明を持ち出しているのかな?


 魔素のでかいのがボスか、ごつごつした赤黒い筋肉に鋭い目付き、角が伸びている――見た感じオーガ。


 ゴブリンの上位種? 進化した亜種? わからん。


 まず【影分裂】で影を増やしてからの一斉に【影吹き】――乱れ吹くぜ!!

 

『ぎっ?』


『ぎゃぎ……』


『げぎゃ?』


『ぎゃぎゃ!』


 ひゃっはータイムだ!


 十字砲火で毒矢が頭に刺さり倒れる者、致命傷にならなくても傷さえつければ毒で殺せる。


『ごぎゃごぎゃ……』


 っ! オーガの近くにいるゴブリンの手に魔素が集まっていく。


 うおぉ、火が飛んできたぁ!! 【影渡り】――、影候補ならそこら中に落ちてるよ――魔法初体験。


『ぎゃあっ』


 俺に魔法耐性があるのか受けてみたい気もするが、安全第一で魔法を撃った奴に照準を絞ってー、狙い吹く!!


 よし、メイジゴブゴブの処理完了。


『ごがあぁぁっ!!』


 側近をやられたオーガが()えるっ!! 声でかっ!!


 威圧か? なっ! 体が動かない!? ……なんてこともない、だって影だから。


 うてー! うってうってうちまくれー!!


『ご、ごぼぉ……』


 ゴブリンは絶命した、残りはキレてるオーガのみ。


 そのオーガも針ネズミのように毒矢が刺さっていて虫の息だ。


 【魔素吸収】――ゴブリンの魔素を吸収する。


 ……ぜんぜん不味さに慣れない。


 吸えば吸うほど新しい不味さに気づく、どこまでも俺を苦しめる。


 うぇっぷ。


 さて、オーガも吸わせてもらおうか。【魔素吸収】――


『ごがっ、ごぶぅ……』


 オーガなのに、ごぶぅ言ってる。


 予想はしていたが、さすがゴブリンの上位種。


 オーガの味は、粘っこく舌にまとわりついてくるようなしつこい不味さ。


 もう嫌だ、ゴブリン系列のお店は絶対に利用しない。


 癖にならない不味さをどうもありがとう。


『ごっ……』


 オーガが倒れ、ずぶずぶとダンジョンが回収、サラダバー。


 残されたのはオーガの核と、大きな角だった。


 リベンジ大成功っ!!

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