第47話 あやしい大商会
『ギーリアームくーん、あーそーぼー!』
ソニアたちと別れて自由行動なう。
話の長い男で有名なギリアムがラック商会に入るところを見かけたので、俺もついて行くことにした。
受付の人にラック会長へのアポがどうのと話すと、奥へと案内された。
――こんこんっ
「ギリアム君かね? 入りなさい」
扉の向こうから低音ボイスが聞こえる。
「……ギリアムです、失礼します」
緊張した様子で扉を開けて恐る恐る中に入っていく。
会長室はどんな成金趣味の部屋なんだろうと思ってたけど、割りとシンプルで機能的な部屋だった。
黒い高そうな革の椅子にどっしり座っているおじさんがラックかな?
少し太りぎみだけど、眼がぎらぎらしてて油断ならないな。
偉そうな口ひげが自己主張してるけど、俺はもう一ヶ所気になったところがある。
「やあ、初めてお目にかかる。私がラックだ、そちらにかけたまえ」
「失礼します、この度は貴重なお時間を私のために割いていただき誠にありがとうございます」
『ギーリアームくーん、あーそーぼー!』
あれ? 二回目なんだけど聞こえてないのかな?
昭和の時代、小学生が友達を誘うときは、家の前から大声を出していたらしい。
平成ボーイの俺の家に来る奴はいなかったが。
――失礼します……。
『おお! 見ろよギリアム! セクシー秘書だぞ、お茶を入れるときの姿勢でブラちらチャンスあるぞ! なぁ?』
『…………』
「どうぞ、ギリアム様」
セクシー秘書が、静かにティーセットをギリアムに差し出す。
ここっ! チャンス!
……うん、いいね! もちろんガン見だ。
『見た? ギリアムからだと少し背筋を伸ばさないと見えないか』
「……お茶、ありがとうございます」
あれ? 変だな? 聞こえてない?
『ラックのおっさんにお茶を出してる時の秘書の後ろ姿って良くない? なぁ?』
『…………』
絶対聞こえてるだろ、無視すんの?
セクシー秘書が一礼して部屋を出ていくタイミングで、ラックから――
「本当ならもう少し早く君に会いたいと思っていたんだが、最近商会に泥棒が入ってね。商品が消えてしまって対応に時間がずいぶんとかかってしまったんだよ」
「……泥棒ですか、それは大変な時期にご挨拶に来てしまって申し訳ございません」
「いや、いいんだ。最近は王都中の雰囲気がおかしくなっている。君もムーンの町からここに来るまでに色々あったらしいじゃないか」
「はい、ヤック村の件では事情聴取までされて大変でしたよ」
「そうだな、あれは不思議で不幸な事件だった。そうだ、ブレッシェル村に巨大な雷が落ちて村そのものが無くなった話は聞いているかね?」
まじか!? あの天使どもやりやがったな!
「ええ、存じております。それにしても会長のお耳に入る情報の早さと精度には驚きを隠せません」
確かにネットもテレビもないこの世界の情報源は人が基本だろうし、人件費凄そうだよな。
ペタ子、元気かな。
「なに、君も知ってるだろうが商売に必要なスキルさ。――で、そろそろ本題に入ろう。君は王都で店を持ちたいか?」
あれ? ミッション失敗してなかったっけ?
『ギリアムって期限に遅れたから信頼失墜の謝罪で来たんじゃないのか?』
「はい、持ちたいです! 私の夢でした。納期に遅れ、会長の期待を裏切ってしまった私に対して、会長からのお手紙をいただいた時は年甲斐もなくはしゃいでしまいました」
手紙に嬉しい事が書いてたのかぁ、そろそろおじさんたちの会話も飽きてきたなぁ。
「そうかね、確かに君は納期に遅れ、私の期待を裏切った。だが、私の依頼に対してひたすら誠実であったことは評価できる。それに先ほど泥棒に入られたと言ったが君が納品してくれたおかげで、なんとかなっているところもある。そういう意味では君の運は良かったのかもしれないな」
『お! やったじゃん、俺のおかげだよな? ピュアスライムさんの養殖なら任せてくれよ?』
『……その件は感謝している。頼むから静かにしてくれ』
なんだよ、聞こえてるじゃーん?
「はい! ありがとうございます。今後も何かご入り用の物がございましたら何でもおっしゃってください!」
「ふふふ、よろしく頼むよ? で、王都にはいつ頃出店する予定かね?」
「はい、まずはムーンの町の復興もありますし、王都で物資を仕入れて――」
……商売の話、長いな。
とりあえず高そうな絵貰おう、あと金庫の金、会計帳簿がある。
『ギリアムー、金庫が二重になってて奥にも会計帳簿っぽいのあるけど欲しい?』
「いやー、ラック会長は冗談もうま……『要らない! そのままにしておけ! 頼む!』いですなぁ、はははは」
ラックと和やかに話しつつ、心中で俺に注意するとかやるじゃないか。
――こんこんっ 失礼します
二杯目のおかわりで、セクシー秘書ふたたび!
ラックのお茶を注いでるお尻に……。【変形・手の平】――さわさわっ。
【変形・解除】っと。
「きゃあっ!」
微妙な手触りだけど、リアクションはナイッスゥ!!
「おい、君! どうしたんだね?」
「申し訳ございません会長。誰かに……、その……お尻を触られた気がして……」
誰かにって俺かギリアムしかいないぞ?
「えっ!? 私じゃないです!」
「ふむ? だが、ここには私以外は君しかいないし、ミシェルは私にお茶を入れているわけだから私がやれば流石に分かるだろ?」
『おい! あんときの魔物、お前がやったんだろ! 何て事をするんだ!』
「は、はい! しかし……」
ごにょごにょと罪を認めないから、ラックもセクシー秘書もギリアムを見る目がキツいな。
セクシー秘書の後ろ、ラック側から【変形・手の平】――さわさわっ。
「もう! 会長まで!」
「おい! 私には妻も子もいるんだ! 何を言っている!」
「っ! ……でも! 今のは……、もういいです、失礼します!!」
セクシー秘書的には二人にセクハラされた感が満載だもんなぁ。
あー、下に降りて泣きながらめっちゃ同僚に愚痴ってる。
「たくっ! ギリアム君、うちの秘書が教育がなっていなくて大変失礼した。後できちんと叱っておかねばならない。すまないが今日の事は……」
あ、そうだ! 【糸術】――
「はい、もちろん何もございませんでした。……出来れば秘書の方には私の誤解も解いて……ああっ!」
『ほら、やっぱりな! ギリアムにパスっ!』
――ふぁさぁ
「どうした……。ぎ、ギリアム君、その手にある物は……」
「へ? ……あ、これはそのぉ。何と言いますか……」
『お前! 何て事するんだよ! 会長の秘密を知った者は全員消されるんだぞ!?』
『いやだって、そこにズラがあるなら取れって格言があるだろ?』
『ないわ! そんなん聞いた事ないっ! 頼む、何とかしろよこの状況!』
『えー! すぐ人を頼るぅ! さっきまで無視してたのに。とりあえず【睡眠】――』
「お前! 私の秘密を……ぐぅ~」
「はあ、今のうちセットしておこう。……いい加減にしてくれ! 何で私に付きまとうんだ! これ、どうするんだよっ!」
『頼み聞いたら、文句言われた。とりあえず夢操作でセクハラ後の記憶は曖昧にしてるけど、お礼ぐらい言えよな』
「……ありがとう。もう付きまとうのやめてくれないか?」
『人をストーカー扱いするなよ! 気が向いた時だけ応援してるだけで、ギリアムの事が気になるとかじゃないんだからねっ!』
ちょっとツンを入れて見たけど我ながらキモいな。
後でソニアのおっぱい触らせてもらおう。
「応援だと? 邪魔しかされてないぞ! お前のせいでヤック村の事件の容疑者にもなってるし、そもそもムーンの町の復興や魔石の納期が――」
『またぐだぐだと! 長いんだよ、話が! シータウンから王都まで魔物に襲われなかったのは俺のおかげだろうが!』
正確にはギリアム一行をつけていたペタ子を中心に魔物が逃げていただけだが。
でも、俺の魔素に逃げてるわけだから嘘じゃない。
「……仮に魔物に襲われたとしても、冒険者たちが何とかしてくれたはずだ」
出た! もし、魔物に襲われてたら助かってないかもしれないのに、結果的に無事だったから調子こいてる!
『ほー! そういう事を言うんだ、じゃあ今度の王都からの帰り道はせいぜい魔物に気をつけるんだな? 俺は助けてやらないからな!』
「……助けないで構わないが、魔物をけしかけたり、集めて襲わせたりしないでくれ」
む、嫌がらせしてやろうと思ったら先手打たれた!
『ぐぬぬ。そういえば何でソニアの依頼を断ったんだ? ソニア、泣いてたぞ』
護衛依頼の募集で、ウインドダガーとルークだけ選ばれてソニアはハブられたの思い出した。
「……逆に聞きたいのだが、お前と関係の深いソニアさんにどうして依頼すると思ったんだ?」
え? 知り合いだから?
『あれ? それじゃまるで俺とお近づきになりたくないみたいに聞こえるんだけど?』
「何で私が魔物とお近づきにならねばならない。そもそもお前とは考えが違いすぎる」
なんて酷い事を……!
『人と魔物が互いに手を取りあって共存できる道を模索するって誓ったのを忘れたのか!?』
「は、初耳だが……」
おう、俺も初めて言った。
雰囲気的にこういうセリフ言ってみたかった。
『ごほん、それじゃまた暇な時に絡んでやる! じゃあな!』
――こん……、こん……、失礼します……。
「会長、ギリアム様、先ほどは大変――」
「やめろ! お前はもう二度と出て来るなっ!」
「っ! 失礼しました!」
「あっ! 違っ!」
――ばんっ! ばたばたばた!
『あーあ、また下であの娘、愚痴ってるよ』
「まだいたのか! お前のせいだろうがっ!」
『いや、心の中で叫んでたら良かったんじゃね? あ、今度はズラック会長が起きるぞ』
「ズラックじゃない、ラック会長だ!」
――がたっ!
「…………、ギリアム君、今の発言を詳しく聞いてもいいかな?」
顔真っ赤! ズラック会長の頭皮まで真っ赤だよ。
またここから長い商談が始まってもつまらないし、そろそろ帰るかな。
帳簿はギリアムが要らないって言うし、金庫に戻すのも面倒だからその辺に捨てておくか。
――ぽいっ!
「監視対象のいる部屋辺りから何か落ちてきたぞ!?」
「こ、この帳簿はっ!?」
商会の裏手でギリアムをつけていたペタ子の後任らしい二人組が会話をしているけど、男だったので放置することにした。




