第46話 あやしい知識チート
――火事だああぁぁ!!
――誰か水魔法かけろおおぉ!
「は、はは。俺の店が……」
ぽっちゃり以上おデブ未満の食べるの大好き親父が、膝から崩れ落ちてしまった。
膝への負担がとても心配だ。
『マスター、どこの心配してるんですか……』
いや、うん、わかってるよ。
異世界料理をね?
教えてあげようと親父に話しかけたんだけど、ちょうど中華料理ばりに油がんがん使ってたところだったみたいで、びっくりした拍子に鍋ひっくり返して油にメラミっちゃって。
『て、てへぺろ?』
『くあ? てへぺろってなんすか? うまいんすか?』
ちげぇよ、ご飯から離れろ羽むしるぞ!?
『ノンっ! てへぺろっていうのは、てれ笑いやごまかし笑いの意味で用いられる若者言葉で周囲に愛嬌を振りまくニュアンスで使われるのよぉ』
やめろ、説明されると逆に恥ずかしいわ!
『ちょっとタイミング悪かったな。ラァブ、カレーライスのレシピを伝えるからメモって親父に渡してやってくれ』
一、何かしらの肉、芋、玉ねぎ、人参をちょうどいい大きさに切る。
二、厚手の鍋に油を熱して、一、で切った食材をよく炒める。
三、水を加え、沸騰したら浮いてるゴミを取り、弱火~中火で材料が柔らかくなるまでいい感じに煮込む。
四、いったん火を止め、ルウを割り入れて溶かし、再び弱火でとろみがつくまでさっきより短めに煮込む。
五、ご飯にかける。
『あとは、納豆とかトンカツとかチーズとか玉子を適当にトッピングしたら万人に受けるカレーライスの出来上がりだ!』
『んん? 芋とか玉ねぎは何かの野菜よねぇ? なんで洗ってるはずなのにゴミが浮くのかしらぁ?』
『知らん、なんか不純物が浮くんじゃないか? 風呂に入ると髪の毛とか垢が浮いたりするだろ?』
『汚い料理ねぇ。シェイドちゃん、ルウってなぁに?』
ルウ……、ルウ?
『なんか香辛料をいい感じにブレンドして固めた四角くて茶色い奴だろ?』
『かぁ? 茶色いやつって人間のう●こっすか?』
やめろおおぉぉ! 今晩がカレーライスのご家庭に謝れぇ!!
『ハルピ、黙れ! なんでそんなものを食わないといかんのだ!』
『んー、でもルウってないわよぉ』
『じゃあ、なし! トンカツにしようか? 豚とかどうせいないか、そうだオークって食えるんだろ?』
『『『オークを食べるっ!?』』』
いや、三人ドン引きするなよ! ソニアに関しては異世界知識持ってるだろがい!
『あれ? この世界ってオーク食べないの?』
『……マスターに人を食べる趣味があったとは思いませんでした』
ソニアのその言い方だと、オークって人のジャンルなん?
『一応、聞くけど魚人いたじゃん? アイツらは――』
『クアー! 怖いっす、シャドスペから出してくれっす! 自分も食われるっすぅ!!』
『食わないって! あ、でもお前の姉ちゃんは唐揚げ味で美味かった』
『ガァガァッ! やっぱり太らせて食べるんすね!? ラァブ様、助けてくれっす!』
あ、ハルピの誤解が真実になってしまった。
『○人は普通は食卓に並びませんし、もしそれを食べてる人がいるなら共食いとして町や村から追放される行為ですよ……』
思いの外、厳しい罰。
『んもぅ、ラァブを食べたいならぁンヂッ! ンヂッ! ンヂッ! やめて、そのリズミカルに攻めるのやめて欲しいわぁ』
お約束のセリフを吐くからだ。
このあと、しばらくハルピをなだめるのに時間がかかった。
親父にはヤック村の家を空き地出しておいたから大丈夫だろ。
一応、料理道具や食材関連はラック商会から調達したし、お金も適当に家に置いておいたから親父も許してくれるはず。
『マスター、結局何がしたかったんですか?』
『異世界知識チートで内政がしたかった……』
『はあぁ』
ソニアから今日一番のため息いただきました。
◇◇◇
『はい、チョンボ!』
『くあ! またっすか? だいたいこんな小さい物を掴めないっす!!』
『マスター、さすがに簡単にルールだけ説明してハルピさんを狙い撃ちするのはどうかと思います』
『ホントよねぇ。ラァブも細かい作業させられて疲れたわぁ』
麻雀はハードル高かったか。
『じゃあさ! 囲碁作れよ! はまぐりに白と黒塗ってさ!』
『マスター、恐らくそれもルールの理解が厳しいかと』
『だって定番のオセロとかトランプって何番煎じだってなるだろ!? 人生ゲームとかは?』
『寿命が違いすぎます、そもそも私は不死ですし』
ゴムらしい素材が分からないからボールとか作れないし、磁石もないし、プラスチックなんて最早どこにもない。
俺の娯楽知識チート、終了。
◇◇◇
『酒、ビール、エール……あるな。銃……作り方知らね。産業系……やり方知らないし、そこそこ発展してるっぽい。歴史知識……ここ地球じゃない』
色々と内政チートを思い出してんのに全部詰んでる。
そもそも異世界に行った主人公って何であんなに知識がしっかりしてんだよ?
もうそれがチートだろ?
ソニアたちは人が落ち込んでるのにフォローもせんと、ひそひそ話してるし。
『あぁん? シェイドちゃん、どうしたのぉ?』
『くぁ、いつも以上にシェイド様が変っすね』
『恐らくですが、ホームシックだと思われます』
『『ホームシックぅん?(っす?)』』
聞こえたぞ! ホームシックってあんな家に帰りたくないわ!
あ、でも、続きのマンガやラノベが気になるけどもう読めないんだよなぁ……。
っ!
『来たぞ! 悪魔的発想! 圧倒的なひらめき!! なんで気づかなかった、こんな簡単な事に……!?』
『……一応、マスターのお考えをお伺いしてもよろしいでしょうか?』
『遊ぶ者たちに夢操作で、向こうの世界のマンガやラノベの知識を植えつけるんだ! そしたら、向こうの世界の作者と似た思考の奴がこっちでも作ってくれるんじゃね?』
『紙も筆記具もマスターの世界のクオリティの物はありません』
『んもおおおお!! 異世界、物資少なすぎるんだけどおぉ!?』
剣と魔法の異世界ファンタジーより、二次元の同人描いてる人がいる世界がいいのに。
そもそも、剣も魔法も使えなかった!!
『もう楽しみがなくなってきた。王都の女の子もぶっちゃけ眺めるの飽きてきたし、硬化して触られても感覚薄いし、実体化するか向こうの世界に戻るかしたいんだよおおお!!』
『マスター! 落ち着いてください、魔素が荒れてます!』
『ハルピちゃん、こっちに来なさいっ。危ないわよぉ!!』
アレもダメ、コレもダメってもう何なんだよ、誰か俺の代わりにそういうの頑張れよおおお!!
しばらく不貞腐れてた結果、称号が生えていた。
称 号:【諦めからの怠惰】
すごくゴネ得……、いや称号は得じゃないか。
称号についてもウィキソニアは答えられない、本能は教えてくれない。
◇◇◇
「うう……、もうやめてくれ」
『ダメだな、今日は特にイライラしている』
「俺がお前に何をしたって言うんだよ……」
『俺にブレイクって本当はクライブなのに嘘を吐いた』
「その件の謝罪と罰は受けたはずだろ、助けてくれよ」
『モンスターハウスに放り込んだ』
「それも謝ったし、お前はマダムに夢を見せただけだろ、途中から知らないおっさんと交代してるし……。あのおっさん体臭酷かったぞ」
幻妖では臭いは消せないからな。
『それでもって食いついてくるマダムがトラウマになった』
「見なきゃ良かったんじゃねぇか……」
『女……』
「え?」
『女に子ども産まして捨てたな?』
「……たまにあることだ。でも、それはお前に関係ないだろっ!?」
『女の子が叩かれてたぞ、母親はお前に似てるのが気に食わないってさ』
「だから、それは女と娘に謝ることだ。お前には関係ない! なんだ? 正義の味方か?」
『正義なんてない。強いか弱いかだから』
「ならっ――」
『思い出すんだよなぁ。アイツの事を……【魔素注入】――』
「うぐ……。がああああああっ! やめっぐああああぁぁぁ!」
『入ったか?』
「はあっ、はあっ。これはお前の? 違う! 俺はここまでの事はしていない、金も少しは置いてきた。俺は悪くない……」
『お前は悪くない、ただの憂さ晴らしだし』
イケメンのヤリティンは許さん。
「ひっ! 頼む、その子も女の面倒も見るから! これ以上は死んじまうよぉ!」
『はいダメー、子どもに面白半分で悪戯するんだろ? 女と一緒にさぁ!? 一緒に暮らすって答えはダメだ。その選択は不正解』
「はへっ? おい! 看守さん、看守さん! 助けてくれ!」
――何時だと思ってんだ! 静かにしろや! くそイケメン野郎がぁ!!
『看守さんも仮眠とかして大変だからね、邪魔しちゃダメだよ?』
「なぁ? 隣のっ!? 頼む、看守を呼んでくれ、お前、俺の事が気に入ってんだろ? 何でも舐めてやるし、尻でも口でも貸してやるから頼む、助けてくれー!」
『うわ、キモ……』
「お、おでの? ほんとが? か、看守さーん! なんか隣が変だどぉ」
――だからうるせーって! 出入口は俺のいるとこだけだ! 何を呼ぶ事があるんだよ、腹が痛いなら明日にでも神父さんを呼んでやるって!
『看守さんもお疲れなんだよ、そんじゃ今日は帰るわ。あ、約束は守れよ? 【影収納】――』
「へ? 壁……が!?」
「あだ? 壁がなくたっただ? うわ、おでのこと受け入れでくれだんだなぁ」
うわ、囚人同士で深夜のスポーツか、観戦する趣味もないし帰ろっと。
『じゃあ、続きはまた今度にするわ』
あ、忘れてた。【拘束】――
影傀儡だと色々と聞きたくない声や映像が伝わるからアラクネのスキルがちょうどいい。
「うっ! これは糸……!?」
『正解です! 正解者には、お隣さんとのスポーツです! あ、看守は睡眠で寝かせておくからごゆっくりー』
「え? おい、おいっ! おいってええぇぇ!!」
――お城の地下にある牢屋で野太い声が響いたとか、響かなかったとか?




