第43話 あやしいイケメンたち
「お客様、コーヒーのおかわりいかがですか?」
「ん? ああ、頼む」
こぽこぽとコップにコーヒーを注いでくれる店員さん、シンプルな白シャツに黒いパンツで細身のレディ、顔は普通だけど愛嬌がある。
王城の方面に意識を持ってかれてる間に、おかわり五杯も飲んでたわ。
王様との謁見も終わったし、そろそろ通行人ウォッチに戻るかな。
ちなみに、王様は頭良さそうなイケおじだった、ちょうど書斎に一人ぼっちしてたから、「ハローぅ」って話しかけたら「なんじゃっ?」とビビり、「アーイム、カタストロフぅ!」と言うと「なんで魔王がっ!?」と混乱し、「だっ、誰かあるっ!!」と兵士さんを呼ぼうとする。
話をなかなか聞いてくれないから、精神干渉を強めに使って大人しくしてもらった。
わがまま姫のことでお説教したら「ヨきにはからエ」と俺に丸投げするとんでもないクズ野郎で驚いた。
「どうぞ。お客様はコーヒーが好きなんですね?」
「ありがとう。コーヒーも好きだけどここから眺める景色が気に入ってね」
目の前を横切る上下に揺れるおっぱいさん、スカートのスリットから光を求めて飛び出す太ももちゃん、やっと素敵なお姉さんたちが増えてきた。
「ああ、私もここから見える景色大好きなんです。湖に浮かぶお城、雨上がりは虹がお城にかかって幻想的で素敵なんですよ」
「へー、それじゃ雨上がりにまた来たいな」
「ええ! ぜひお越しください。ふふっ」
素敵な笑顔の店員さん、そろそろ他の子を見るのに集中したいのだけど。
注いでもらった熱々コーヒーをそのまま口につける。【影収納】――
「えっ? あの、それ熱くなかったですか?」
あ、飲んでるふりだから熱々なのを忘れてた。
さっきからシャドスペ内の魔人たちが悲鳴あげていた理由がわかった。
「俺は熱くないよ。うん、とても良い香りだ」
「そ、そうですか。ああ、そろそろ下校中の生徒たちが通りますから少し騒がしくなるかもしれません」
あ、もうそんな時間なのか、無駄に粘ってたな。
ちなみに、おかわりは一杯小銀貨一枚だから無料じゃないし、肝っ玉母ちゃんの一食分の飯代とほぼ変わらなかったりする。
「ねー、あの子ちょっと可愛くなーい?」
「えー、どこどこ?」
「ほんと、どこかの国の王子様とか――」
「ん?」
ちらっと視線を向けてみる。
「きゃー! 今、あの人こっち見てくれた!」
「えー、うそうそ私を見たのよ!」
「ノンっ、違うわよぉ、あの人はラ【魔素吸収】――ンヂイイイイイィィィィィ!!」
「年は近いのに落ち着いた感じで素敵……」
「ちょっとおじさん、大丈夫?」
ショタっ子ルークをもう少し青年に成長させた幻顔のおかげで、JKたちがきゃーきゃーと騒いでる。
――一匹だけ人外が混ざっていたような気がするが忘れよう。
「本当だね、少し混んできたみたいだ。ありがとう、俺もう行くよ」
ぐいっと一気に飲むふりをして、席を立つ。
「……熱々を一気に!? あ、すすすみません、小銀貨五枚です」
支払いはその場でいいらしい、小銀貨五枚とお姉さんに一枚チップを渡す。
「えっ? お客様……、あの! また来てくださいね?」
チップを渡すときに、じっと見つめると店員さんの顔が赤くなったチョロい。
「ああ、また来るよ」
マジか、イケメンって少し会話するだけで女の子落とせるわけ?
羨ましいな。
早く実体化した暁には、幻のヤリティンとして色欲に溺れまくろう。
さてと、これからどうしようかな。
ソニアは宿で受験勉強中か、ハルピは……また何か食ってる、ラァブはいいか。
「じぃざぁす! ぞんざいな扱いが切ないわぁ。あとそこのガキっ、ラァブの事をおじさんって呼んだわねぇ!?」
「えっ、キモーい、急に話しかけられたんですけどー?」
「おじさんはおじさんでしょ、ちょっと生臭い……」
「この臭いってアレじゃね? おっさん、一人で頑張りすぎ。まじキモいわ」
「ないわー」
いつの間にか、ギャル風の女の子まで増えてラァブをいじりだした。
JKって群れると平気で下ネタぶっこんでくるよな。
「ノンノンっ! 若いからってノンっ! ねぇ、シェイドちゃんも少しはこっちも見てよぉ!」
無視、無視。
JKの下ネタの連続攻撃で、俺もドン引きだ。
ピュアソニアに癒してもらおう。
えっと、宿は――
「ねえ、そこの君っ! ちょっといいかい?」
長身、スクエア型のフレームを少しずらしてかけて、チャラさを備えるメガネ男子、軽薄な黄色い髪の無造作ヘヤーはイケメンだけに許されるのか……。
で、何用だろうか? 【影読み】――
あ、女の敵、ガチのヤリティンさんや。
適当に好みの女の子を落とし、ヒモ生活しながら彼女の金で遊びまくって新しい寄生先を探す。
寄生先が出来たら、付き合っている女の子――仕込み済み――は地方の“その道のお店”に紹介する。
もちろん紹介料と女の子の売上の一部がキックバックされる契約で、落とした女の骨の髄までしゃぶりつくすクズだ。
なんならエスタルちゃんのお父さん!?
よし、お近づきになりたくない、くるりと背中を見せて立ち去ろう。
「……それじゃ!」
「えっ? ちょっと待ってよっとと……あれれ?」
俺の肩に手をかけようとしたけど、ミス! 影だから触れないよ。
「なんだよ?」
「え、あ、君ってもしかして何かの達人かな? 目が後ろにもついてるような動きだったからさ」
そりゃ三百六十度見えてるからね。
「ああ、人に触られるの苦手なんだ。それじゃ!」
「ちょっと待って、少し話をしたいんだよ。俺さ、君みたいな子を探していたんだよ!」
ざざざっと回り込んで来た、逃げられない。
そういうのは女に言ってくれよ。
俺を利用したいだけなのが読めてるし……。
「ナンパか? 俺は男だぞ?」
「ちょ! さすがに分かるって。ナンパじゃなくてスカウトだよ。今さ、色んなタイプの男の子を集めてアイドルユニットを組もうと思ってるんだよ」
それで目ぼしい女を落として金づるにするんだろ?
でも、アイドルユニットとか面白いな。
この世界にもアイドルとかあるんだな。
「握手会とか無理だぞ」
「えー! もうイベントの事考えてるの? 実は乗り気じゃーん! 大丈夫、握手会なんて生ぬるいイベントはしないって」
ん? コイツの考えてるアイドルって――
「まっ! とにかくここじゃ話せない事もあるし、仲間を紹介したいから俺についてきてよ。あ、俺の名前はブレイク、よろしくなっ」
いや、お前の名前ってクライブだろ?
偽名まで使って騙す気満々じゃないか。
……これも何かの縁って奴かな。
クライブに着いていくと、裏路地の階段を下りた先にドアのある薄暗い店に案内された。
ぼったくりバーに間違いなし!
◇◇◇
――ぎい……
「お待たせ! 最後の一人を連れてきたよ。ルークって言うんだ!」
話を聞くだけだったはずなのに、もう頭数に入れられてる。
カウンターには寄りかかってる色とりどりの男たちがいて、その奥には二畳分の小さいスペースにソファーベッドと小さいテーブルが設置されたブースが五つ、それとステージもある。
このブースってナニをするところ? レイアウトがいかがわしい。
「ブレイクさん、お帰りなさい。こちらの方が五人目ですか? 僕はロイドです、よろしくお願いします」
柔らかい水色の髪を七三に分け、いかにも頭の良さそうなインテリメガネのイケメン登場。
「くくっ、ルーク君ねぇ……。レクスだよ」
濃い緑色の長髪で、にやにやと口元が緩んでいる怪しい雰囲気のメガネもイケメンといえばイケメン。
「……十九、百っ! ふう、おっせぇぞブレイク! 待ちすぎて腹筋割れちまっただろ!」
赤いワイルドな短髪、精悍な顔つきで耳から顎下にメガネをぶら下げているKWBTスタイルの筋肉の男、どこかバランスはおかしいがイケメン枠に入るかな?
名前はガイア。
「あれれー? ブレイク、この子ってボクとキャラかぶってるよー?」
ピンク髪の中分け童顔、ちょっとバカっぽい……メガネをおでこにかけている。
この背の低いショタっ子はピールって言うのか。
ってメガネだらけじゃねぇーか!!
「ははっ、大丈夫だよ、ピール。ルークはツンデレメガネキャラで行く予定だから安心しろって」
誰がツンデレメガネを? ってこの流れだと俺にさせたいんだろうな。
ちなみに、名前はルークにしておいた。
「ほいっ! ルークにはこれだ」
クライブから投げ渡されたのは、黒縁の有能な執事がつけそうなメガネだった。
「えと、メガネを渡されたけど、まだ何の説明もないんだけど」
影読みでもう知ってるんだけど、コイツの口から聞いてないから一応質問しておく。
俺は普通にメガネをかけるふりをして幻妖を更新した。
『めがでぇ、わ"ぁーい!』
収納したメガネは、メガネ僧侶が拾ってかけてる。
古いのは血がついて見えにくかったのかな?
「まあまあ、慌てるなって。お、似合うね! それじゃ簡単に説明すると――」
上級国民――貴族、王族とか――の有閑マダムを相手に、会員制アイドルクラブ――おさわり、お持ち帰りあり――で太客を捕まえて金を稼ごうという話だが、クライブの本当の狙いは、俺たちに爆弾処理を押しつけつつ自分は上級国民とパイプを作って新しい寄生先を探すことらしい。
他の色男たちは純粋に貧乏で、金のためなら何でもやるって奴らだった。
「……わかった。俺、歌ったり踊ったり出来ないぞ」
「大丈夫、簡単な振り付けだし、歌も口パクでいいよ。どうせトークがメインになるからな」
アイドル業界の人に怒られてしまえ! ていうか出張有りのガールズバーの男版って感じだよな。
発想が異世界人じゃないけど、プロデューサー役のクライブのジョブは……やっぱり【遊ぶ者】か、こういう奴がいるからルークみたいな真面目な【遊ぶ者】がバカにされるんだろう――ルークも闇落ちしたけど。
「まあ暇だし付き合うよ」
「よっしゃ! それじゃ早速、歌とダンスを教えよう。この店の奥にホールがあるからそこで練習だ!」
「おう! 筋トレやろうぜ!」
筋トレもあるだろうけど、コイツ踊れるのか?
「くくっ、行こうか」
レクスは含み笑いとミステリアスな雰囲気を頑張って醸しているが、クライブから教えてもらったキャラ設定らしい。
本当の彼は南部の田舎から王都に出てきたお上りさんだ。
「やれやれ、僕はダンスは好きじゃないんですがね」
ちなみに、ロイドは歌も下手かった。
「ルークっち、よろしくねー。ボクはピールだよ、年も近そうだし仲良くしよー」
バカっぽい話し方だが、ピールが俺を一番ライバル視しているようだ。
クライブの次に腹黒。
「渇いた砂漠にオアシスを! 歌と踊りとロマンスを貴女に! ”フィフス☆グラシーシィズ”をここに結成するよ!」
「「「オアシスアンドロマンス!!」」」
――すこぶるダサさ……。




