第42話 あやしいお姫さま
誰だ! お昼の時間に更衣室に期待した奴は!? 俺だよっ!
くそ、普通に皆忙しそうに働いてるんだから着替えてる奴なんていないんだった!
八つ当たりで長ネギっぽい食材をデビルプラントの茎部分と交換したのは仕方ないと思う。
気づくかな? と思って眺めてたけど昼時の調理場は戦場って感じで、コックさんたちは流れ作業で大量の食材を切ったり、煮込んだり、盛り付けたりとやってて『ぎ、ぎ、ぎ、ぎ、ぎ』って小刻みに聞こえるデビルプラントの声も届いてないようだった。
『お前って美味しいの?』
『ぎちち!』
うん、美味しいよ! ってデビルプラントが答えてくれた気がした。
出来立てほやほやのコース料理はメイドさんたちによって各部屋へと運ばれていく。
デビルプラントのエキスたっぷりの野菜炒めは兵士たちの食堂へと運ばれたようだ。
――ああっ! どうか、お許しを!!
綺麗な子どもドレス着ている幼女とめっちゃ謝ってるメイドちゃん発見!
「無礼者っ! 誰か! この者を極刑にせよ!」
この幼女、極刑の意味分かってんのか?
「ひいっ! も、申し訳ございません、姫様! どうかお許しくださいませ!!」
メイドちゃん、ドジっ子したのか? 【影読み】――
は? メイドちゃんが持ってきた午後のお茶会用のドレスが気に入らないから極刑!?
この幼女はやべぇ! 【影読み】――
……荒ぶってたらお父様に構ってもらえる、それだけ?
極刑宣告は今回初めてだけど、解雇されたメイドちゃんは多いみたいだな。
ついでに言うと、極刑の意味も分からずに使っている……。
王族ってそんな好き放題出来るの? ヤバい、こんなんなら俺も憧れる。
「エステル様、この者はまだ慣れておりませぬゆえ、どうかご慈悲を!」
侍女長? 綺麗な姿勢でお辞儀してるけど幼女の目論見としては、極刑からのお父様からのお叱り待ちみたいなところがあるのかね。
「姫様、どうかお許しください……」
あ! このメイドちゃん、可愛い! レベル高い!
「ならぬっ! 私に逆らうのなら、マアヤ! お前も極刑にするぞ!」
何が「ならぬっ!」だよ、このガキにはお仕置きを、メイドちゃんにはセクハラを。
お仕置きか、この子がどれだけ恵まれた環境にいるかを思い知らせて反省させてやるか。
さっき影を伸ばしてるときに見つけた母子家庭を利用させてもらおう。
王都の闇って感じの家庭、少し懐かしい。
では、早速……【転移】【幻妖】――
「ひいっ! やめて! やめて、ごめんなさい、もうしません。ごめ……え?」
母子家庭でビッチなママンは我が子が嫌いるしいよ?
虐待中の幼女と姫様を入れ替えてそれぞれ幻妖をかけると、あら不思議!
「お許しを! どうか、お許しを!」
「エステル様? どうかなされましたか?」
そう、見た目はエステルお姫様、中身は貧乏幼女ちゃんの完成ですっ!
なんと名前は、王族の名前にあやかって付けられたその名もエスタルちゃん! 似てる。
「ひぃ! エステル……? 私の名は……、えっとここは……!?」
混乱してるのをチャンスとみた侍女長の行動は早いよ。
「……ヒルダの事はもうよろしいですか? お茶会のドレスはこちらでよろしいですか? エステル様……?」
詰め寄って圧をかけて――
「え? あ、はい、わがまま言ってごめんなさい、ごめんなさい」
言質を取る。
「ありがとうございます。ヒルダ、エステル様は少し感情が高ぶりすぎてお疲れのご様子、後の事は私に任せなさい」
「は、はい、マアヤ様、ありがとうございます! 姫様、申し訳ございませんでした!」
ヒルダちゃんって言うのか、後でメイド服を着替えるところを見せてもらおう。
「……さて、貴女はエステル様、ではありませんね? お名前を聞いてもよろしいですか?」
速やかにバレてーる! さすが侍女長! 幻妖が効いてないのか?
「あの……ごめんなさい、私はエスタル……です。さっきまでお母さんに悪い子だからってずっと叩かれてました。痛くて、怖くて、誰か助けてって思ったら突然この場所に……。ここってどこですか? っ!」
侍女長の熱い抱擁――なかなか業の深い趣味をお持ちで?
「ここは王宮ですよ、貴女のおかげでヒルダが死なずにすみました。もしかしたら神様がヒルダと貴女をお救いになったのかもしれませんね。とはいえ貴女をこのままにしておけば恐らく私も含めて死罪になります」
あ、違ったわ。
侍女長、優しい人だな――でも死罪なんだ。
「死罪……、私は結局死ぬ運命にあるんですね……」
「お待ちなさい、貴女は不思議な事に見た目はエステル様に見えますので、しばらく何も話さず、じっとお部屋で休んでいてください。決して悪いようにはしません」
――ぐうぅ
「あっ! ごめんなさい!」
「ふふっ、後で食事をお部屋に運ばせます。ノックされたら「入りなさい」と言って、食事がテーブルに用意されたら手を上げる、メイドがいなくなったら好きなように食べていいですよ。それと……後でお風呂にも入りましょうね」
めっちゃ優しい! 聖母マアヤ!
臭いはごまかせないからな、お風呂行きが決定したようだ。
『それじゃその子を頼むぞ』
「ひうっ? この声は……?」
『きょろきょろしても頭に直接話しかけてるから見えないぞ。わがままな姫さんよりその子の方が扱いやすいだろ? 交換してやったぞ』
「そ、そんなことっ! 不敬です! エステル様を返してください!」
『返してもいいけど、このまま戻しても全員が死刑になりそうだけどいいのか?』
一瞬で姫様が行方不明になったんだから何人かの首が物理的に飛ぶかもしれない?
そんときは俺がシャドスペで保護してやるけどね。
「っ! そ、それは……」
「……あ、あの。大丈夫ですか? ぁ、ごめんなさい、つい」
『ほら、お前の顔色を見て心配してくれるエスタルちゃんも死んじゃうぞ』
「……エステル様はご無事なのでしょうか?」
えーと、エスタルのママンに絶賛叩かれ中だけどそれを言っちゃうと心配するよな。
『元気だ……』
元気に泣き叫んでいる、間違いじゃないはず。
「貴方が何者か分かりませんがヒルダの命を救うためにしてくれたことには感謝いたします。それにこの子も貴方に救われたのかもしれません。……ただ、エステル様も悪い方ではないのです、どうか、どうか、ご慈悲を!」
『そうか? 親の関心を引きたくて人の命を奪う子どもってヤバい精神だと思うぞ』
「エステル様はお寂しいだけなのです!」
寂しいで人を殺そうとする八才幼女、末恐ろしい。
『親の教育が悪いってことだろ? でも、あの子にもそういう素質はあるんじゃないか?』
クズに育てられた子どもはクズになりやすいからな。
『力を持ったクズは世界の害悪にしかならないから今のうち教育しておこうぜ』
実地研修で世の中は甘くない事を教えてやるんだ!
「……どうか、ご慈悲を」
うーん、めっちゃ好い人や。
『じゃあ、エステルちゃんが反省したら返してやる。命の保証もしてやるよ』
思いつきで行動したら面倒な事になってしまったけど、もう少し面倒を見てやろう。
「……ありがとうございます」
『それじゃその子の事もいい感じで頼むな』
細かいところは丸投げしておこう。
「は、はい……」
エステル姫を人質にしてるようなもんだし、イエスしか言えないよね。
実体化出来たら「あの子の命が惜しければチョメチョメしようぜ!」って流れに持っていけるのに……。
まあいいや、エステル姫はしばらく虐待ママンの元で修行してもらおう。
てなわけでお姫様のご様子は――
「このっ! このっ! このっ!」
ぱしっ! ぱしっ! っと乾いた音が狭い部屋に響いている。
「…………」
さっき「お前は極刑だ!」「ここはどこ?」「無礼者!」だのとビッチママンの怒りに油を撒く発言で、顔が腫れ上がるレベルでびんたされまくってる。
何も言えなねぇ! 物理的に!
『やめろ、クソビッチママン』
「あ!? この子はまだ反抗する気かい!?」
俺の声もお姫様の声と勘違いしたのか大きく手を振りかぶるビッチママン……。
『やめろっ! 【魔素吸収・微】――』
「んぎゃあ!」
変な声とともにぶっ倒れたけど死んではいない、セーフ。
『おーい、お姫様?』
「ひいぃ、なんですの!? ここはどこなんですの? お父様はどこですの!?」
『ここは王都の貧民区画だな、お前はしばらくそこで倒れてる女の子どもとして生活してもらう。王様もいない使用人もいない、飯もない、ないないづくしの貧乏生活だ』
まあ、着る物も寝る所もあるからまあまあ貧乏ってレベルだけど。
「……どうしてこんなことに」
リアルどうしてこうなった? いただきました。
『お姫様が今まで首にしてきた使用人たちの怒りと可愛いメイドちゃんを死刑にしようとした罰だ、寂しいからって人を簡単に殺そうとしちゃダメだぞ』
ちなみに、俺は魔物だから別枠だよ。
「……そんなつもりなかったですわ。お父様から一言貰えたら撤回するつもりでした」
『いやそれ一言が遅れたらメイドちゃん死んでるかもしれないだろ!』
「ど、怒鳴らないでっ! そんなの知らないわよ!」
『はい! 反省してない! しばらくここで自分が今までどれだけ恵まれていたのか反省するんだな!』
命に関わる事とか俺が気に食わない行為はさせないからファイト!




