第41話 あやしい家族ごっこ
王都の民百人に聞きました――影読みで――、その中でも地元の人がよく行く食事処に入ってみた。
恰幅のいい肝っ玉母ちゃんが、「あいよっ!」とか「たーんとお食べ」っと料理を出してくれる感じの良い店だ――俺は食べられないけどね。
「くぁ! くぁ! はふっはふっす! 美味しいっす! こんなの初めてっす!」
「ハルピちゃん、食べ物は逃げないからゆっくり食べなさいよ」
ラァブの声も聞こえてないのかハルピは料理に夢中だ。
「本当に美味しいです! 舌の中でとろけるかと思えば口中に広がる芳醇な香り!」
ソニアは目を見開いて食レポしてる。
味わうだけなら吸えばいいんだろうけど、噛みごたえとか匂いとかって影だと微妙なんだよなぁ。
「おっと、お嬢ちゃんたち、いい食べっぷりじゃないか! あんたたち、見かけない顔だけど、よくこんな小さい店に来てくれたね!」
「このお店が一番美味しいって地元で有名だったので入ってみました」
「そうかい、そうかい! もう十年以上の馴染みばかりのこの店に一見さんで、しかもこんな若い子らが来るなんてねぇ」
「女将さんも若返るってもんだよなっ」
「今日はいつもより肌艶がいいな?」
「ははっ! 違いねぇ!」
「なんだってぇ!? よし、アンタたち! この子たちの飯代はアンタたちが払いなっ!」
「おい! 嘘だろ!?」
「嘘じゃないさ。この店じゃあたしがルールだよ! じゃなきゃ、もう出入り禁止さ」
どーんっと腕組みして、からかった常連客たちを睨みつける。
迫力あるな。
「だー! わかったよ、俺たちもこの店の味が好きなんだよ。からかって悪かった」
「出入り禁止は勘弁してくれぇ!」
「仕方ねぇか。俺たちもこんな若い常連さんが出来るなら大歓迎だ」
隣のテーブルの常連客A、B、Cと女将さんとの飛んだクソ茶番も地元の名物になっているらしい。
俺はこういうの苦手、静かに食べたい。
「あらぁ、皆さんありがとねぇ」
「「「……お、おう」」」
ラァブが代表で挨拶したら微妙な空気が流れてしまった。
女将さんは厨房に入っていったから、ラァブの挨拶はぎりぎり聞こえたぐらいかな。
「はんっ! それでいいんだよ。お嬢ちゃんたち、騒がしい店でごめんね。ほら、これはおまけだよ」
どんっとテーブルには“おはぎ”が置かれる。
おはぎ……、ヨーロッパ風のお城のお膝元で、おはぎ!?
「オハーギって言うんだよ。この大陸から遥か東の小さい島国から来た料理人に教えて貰ったんだ」
この世界にも日本的な要素があるのか?
あとでギルドで貰った世界地図を確認しよう。
「ありがとうございます」
ソニア、礼儀正しい。
「くあぁっ! いただくっす……んぐ! んんん」
ハルピ、行儀悪い。
「ぁんっ! せっかちハルピちゃん。大丈夫?」
オハギを一口でいけばそうなるわな。
「おやおや、仕方ない子だねぇ。ほら、お水飲みな!」
口いっぱいにオハギを突っ込んで苦しげなハルピに、女将さんが笑いながら水を飲ませてくれた。
微笑ましい光景だな。
「くっくぁ、ふう、助かったっす。オハギ、美味しかったっす!」
「はっ、満足したならまたおいで!」
三人であらためて常連客たちにお礼を言って店を出た。
『いい店だったようだな』
「美味しかったっす! また行きたいっす」
「はい、美味しかったです」
「そうねぇ、また来ましょっ」
『俺は食えないから、次からはお前たちだけで行っていいぞ。お金はソニアに渡しておくからな』
あのアットホームなノリのせいでお腹いっぱいだ。
「マスターはその間、何かされるんですか?」
何しようかな……、とりあえず――
『俺は大通りのカフェテリアで、ぼんやり可愛い子探しするから気にするな』
人通りの多い喫茶店の窓越しに、歩いている女の子を見ながら、「あ、この子可愛い」「胸デカっ」「一回お願いいたします」とか心の中でナンパしてたんだよな。
最後はお店の人にそれがバレて、そこの喫茶店では出入り禁止になってしまったけど……。
「シェイド様って女が本当に好きっすね!」
「シェイドちゃん、ぶれないわねぇ」
そりゃ、だって女の子の秘密を知るために生まれてきたんだから――確かそんな目標だった、よね?
『ほら、次は宿探しだろ? ああ、面倒だ。【影分裂】――』
もう思い出してからは、マイフェイバリットスキルになりつつあるけど、影分裂をそれぞれの影に入れておこう。
『よし、これで別行動しても大丈夫だろ? 俺は王都を散策してくる』
「では私は宿を探しておきます。Bランク試験の範囲も聞いたので予習をしておかないと……」
真面目かっ!?
「あらぁ、それじゃラァブとハルピちゃんは美味しいお店をもう少し開拓するわねぇ」
「ラァブ様、いいっすね! お腹空いてきたっす」
いや、さっき食べたばかりだろ!? ラァブはハルピのお守りか。
『よし、じゃあ解散!』
「あ、ねぇ、シェイドちゃん? そういえばルークちゃんって無事かしらぁ?」
――あ!
意識をルークの影に移すと……、ギルドの裏手? ゴミ箱に身ぐるみ剥がされてぼろぼろのルークが入れられてる!?
『い、息はしているぞ』
「少しだけルークさんに同情しました」
よ、よし、作戦通りだ。
ルークにお知らせしておこう。
『良かったな、ルーク。ソニアが同情してくれたぞ!』
「……う。俺の影……仕事してくれよ」
お前の影は仕事出来ないからね。
仕方ない新しい服とお金だけ渡しておこう。
一度豹変すると、もう戻らないのかな? 要観察ってとこだな。
◇◇◇
解散後、人化と幻妖を使って大通りのカフェテリアなう。
王都の女の子のレベルは高い、俺はイケメンとして女の子たちに熱い眼差しを送りつけている。
といっても、昼下がりで女の子よりも主婦しか通らないから、王都中に影を伸ばして可愛い知識人を影読みしたり、可愛いメイドちゃんにセクハラしたり、ギルド職員の服を溶かしたりして遊んでいる。
テーブルの上には、コーヒーと世界地図。
世界地図で気づいたことがある。
地球の世界地図に似ている……。
どっちかというと名前や都市の場所は違うけど……ドラクエシリーズ三作目に似ている。
ラスト大陸のゴンドールの墓所のポジションに、王様が真実の鏡に写すとトロールが化けてるお城を乗せて、山脈の南側のところが王都シンフォニア。
まあ、この世界地図の精度がどれだけ正確は分からないけどね。
ちなみにラスト大陸から東に進むと砂漠の国アイシス、北にはポルトガルっぽい名前の町がありそうだ。
てことは、この南西のオーストラリアポジションにある大きな島って勇者の実家があったりして……。
影を細く伸ばせば届くかな? 【影伸縮】――
…………。
…………。
…………。
…………。
やめた! 面倒くさい! 海底を伸ばすと海牛? ねばっとした生き物がキモい!
ワカメってサメを捕食出来たっけ? デビルプラントの海藻バージョンかな。
とりあえず島国までたどり着けば転移も出来るんだろうけど、影の伸びるスピードも大陸規模だと遅く感じる。
ソニアに話せばどうせ行きたがるだろうし、そんときでいいや。
もう少し近くに影を伸ばすと王立の図書館発見!
実体化のヒントないかな。【影読み】――
司書の知識によると世界有数の図書館らしい、これを全部読むの大変だよな。
この辺はソニアに任せよう。
図書館からさらに坂道を上るとお城に到着、むむっ、結界……ふんぬっ!
――パキーン!
よっしゃ、俺も少しは強くなったかも? お城にお邪魔しまっす――
さあ、宝物庫はどこだ? 更衣室や風呂場はどこだぁ!?
あれ? お城の兵士がばたばたと走り回ってるな?
「侵入者を探せ!」
「王様はご無事か!?」
「まさか龍の結界が破られるとは……」
「結界を早く張り直せ!」
「「「はっ!」」」
なんだか慌ただしいけど王城見学を続けよう。
大広間には龍と人が楽しく歌ってる絵やら高そうな壷が並べられてるな。
あとでソニアたちにも見せてやろう。【影収納】――
「おい! ここにあるはずの“龍奏祭”の絵がないぞ!? 賊がまだ城内にいるぞ!」
「なんと! 国宝が……」
国宝を見せびらかすから賊に盗まれるんだよ。
まったく! セキュリティどうなってんの!?
さて大広間の国宝鑑賞も終わったし、ハルピたちに食材のお土産でも貰いに台所を覗いてみよう。
きっと近くに使用人の控え室とか更衣室とかあるはずだ、まずは下々の女たちの下々を見学させていただこう。
ぐへへ。




