第39話 あやしい誘導
「はい、それでは王都までお気をつけて……」
「コマリコさん、大丈夫ですか?」
「っ! は、はい……。ちょっと最近寝不足で」
天使たちが怖かったので、雷が止んでから五日ほど大人しくすることにした。
この五日間は派手に動けないので、人化して完全なガングロギャルになったハルピに“気軽に会えるアイドル”風コスチューム――ラァブお手製のJKの制服、短いスカート――を着せたり、公衆浴場でコマリコさんのおっぱいをチェックしたり、そのままコマリコさんの部屋で一方的に愛を囁いたり、教会の聖気が吸えるかどうかの実験を行ったりとわりと充実した日々だった。
そして、いよいよ“名前を言ってはいけないあの神”の天使たちの脅威も去ったであろう昼下がり、ソニアがタイミング良く見つけた“王都までの護衛依頼”を受け、シータウンを出ることにした。
寝不足気味のコマリコさんのポケットに、道具屋からもらった高級ポーションをこっそり忍ばせて南門へ向かう。
「やっほぉ! ソニアちゃん、こっちよぉ!」
「我が主シェイド様、どうかどうか……」
「かぁ、やっと来たっす。結構、時間かかるもんっすね」
一人発言のおかしいおっさんは放置して、とってもタイミングの良かった依頼について話しておく。
お忍びでシータウンに遊びに来たガングロ令嬢ハルピと護衛兼メイドのラァブが、王都に帰るための護衛として冒険者を一人雇いたいという内容だ。
お忍びなので人数は極力少なく、お土産が多いからアイテムボックス持ちの冒険者であることが条件だ。
指名依頼でソニアを指名すると何で新人冒険者の事を知ってるの? ってなるからね。
つまり自作自演だ。
「シェイドちゃんの謎のこだわりよねぇ」
『でもその条件で名乗りを上げた冒険者が一人犠牲になってしまいました』
『あれは不運な事故だったな。女性冒険者も条件に入れておけば良かったと反省している』
まさか貴重なアイテムボックス持ちの冒険者がシータウンに来ていたとはね。
ムーン支部の復興で荷物持ちとして呼ばれていたそうだ。
Bランクで実績もある冒険者と新人冒険者、普通ならどちらを選ぶかって話になるのを避けるために必要な対応をさせてもらった。
「くぁ? その冒険者ってどうなったんすか?」
『ギルドに依頼伝票を提出した帰り道、突然、足元に穴が空いて忽然と消えただそうだ』
世の中、何が起こるか分からないな。
「クァ! まじっすか!? 地上は怖いっすね、空飛んでもいいっすか?」
――ばささっ!
おい、翼を広げるなよ!
「ノォンっ! ハルピちゃん、どこに空飛ぶご令嬢がいるのよぉ! 早く翼を戻しなさい」
「くぅ、わかったっす」
これで、ハルピの翼が黒いフェザーカーディガンに変化し、ラァブお手製の白いブラウスの上から羽織っているようになった。
赤黒チェックのスカートと羽毛で出来た黒いルーズソックスで、春先なのに見た目が冬服なのは諦めよう。
『ハルピ、ブラウスは第二ボタンまで開けておくもんだぞ』
「こうっすか? 胸元が涼しくていいっすね。これも令嬢さんがしてる格好なんすね」
ぷるんっと弾けるぜ!
『おう、そうだ』
「そもそも、そんな服装の令嬢は――」
『ソニア、シャラップ!』
「…………」
ちなみに、ハルピは姉ちゃんの事を忘れてんの? ってレベルであっけらかんとしているが、これは魔物特有の死生観だそうだ。
弱ければ死に、強ければ生きる、それだけらしい――んー、とってもシンプル!
ラァブが言うには、死者をいつまでも悼むのは人間ぐらいなんだとさ。
「はぁい、サイン完了っ! あとは無事に王都に着いたら、この依頼完了書――アンケート付――をギルドに提出したら、ソニアちゃんの実績となるのよねぇ」
触手でひらひら振ってる護衛系の依頼完了書は、依頼者がギルドに渡すことになっている、なぜならアンケートがあるからだ。
『あ、そうだ。アンケートの評価は一番右側の“五”を選べよ。感想もしっかり書いておけ、それが冒険者にとって励みになるからな。気になる点や一言はあまり乱暴な言葉を使うとメンタルの弱い冒険者がいたら傷つくからなるべく優しい言葉を選んでくれ』
あとは「この冒険者が良かった!」みたいな紹介文をギルドに提出すると、掲示板で一定期間だけど紹介されることになり、指名依頼を受けやすくなったり、冒険者の名声が上がったりするらしい。
「分かったわぁ、評価は“五”ねぇ。感想はどうしようかしらぁ……」
こういう依頼者と冒険者がぐるになって不正に評価を上げるケースだが、ギルドにバレれば冒険者の登録抹消という厳しい処分を下されるが……バレなければ不正ではない。
「あの……、ラァブさんからの感想なら直接教えていただければ、アンケートに書かなくても……」
「そういえばそうねぇ、ソニアちゃんは直接言うわねぇ」
ふとギルドの壁にあった張り紙を思い出した。
――評価や感想は冒険者の原動力となります。
――依頼達成後の評価にご協力をお願いします。
……………。
『じゃ、行こうか』
「あぁっ! お待ちください、我が主よ、どうか私をお導きください。置いて行かないでください」
あ、こいつ忘れてた。
シータウンの教会の神父、目に隈ができて頬がこけて不健康に痩せたおっさん。
教会で聖気を吸えるかの実験で、聖気を吸う事は出来るがお腹が痛くなる感覚に襲われることが分かった。
じゃあ、引いてダメなら押してみようと考えた俺は、教会と中にいた神父に魔素を注入をしてみた結果、俺を崇める邪教会と悪魔神父が誕生してしまった。
『だから、お前はシータウンの教会でこっそりと魔王の素晴らしさを広める事が仕事って言っただろ? それと俺は魔王じゃないから!』
高位の魔人化したせいか俺への愛が凄くてしつこいけど、おっさんなのでノーグッドだ。
適当に命令しておこう。
「ははっ! しかし、私も少しで良いので我が主のお側でお仕えしたいのです! どうか! ご慈悲を――」
『よし! じゃあ、金とヤック魔人ズを何人か貸してやるから、魔王大好きっ子をいっぱい見つけてくれよ。働き次第で側仕えを考えてやるから、おっさんの力を見せてくれ……この辺りで!』
ムーンとかシータウンとか南の町や村で可愛い女の子や綺麗なお姉さんをキープしておいてほしい!
「おおお! ならば我が主のご意向に報いた暁にはどうかお側にぃ!」
ははーって五体投地する奴初めて見たわ!
「考える……つまり、確定ではな――」
『ソニア、そろそろ行くから! 余計な事は言わない!』
おっさんのお世話係させるぞ!?
『えーと、おっさん頑張れよ!』
「ははっ! 我が主のため、布教活動に勤めますっ! まずはこの町から……」
布教どころか制圧しそうな勢いだけど……。
まあいいか。
◇◇◇
かっぽ、かっぽのがぁらがらとゾンビホースが引く馬車は、御者のラァブが手綱を握って王都へと向かっている。
『あーあ、平和だなぁ』
「それはっ、マスターだけですよっ!【ストームウィップ】――」
「ぐあっ!」
「ぶぼっ」
「げひゃっ!」
ソニアの新武器“デビルプラントウィップ”は、シャドスペでガーデニングしているデビルプラントを束ねてぎゅるって捻って締め上げた植物系の鞭だ。
出来ればボンデージ着て、『あたしだよっ!!』ってやってほしい。
ずたぼろにミミズ腫れのまま絶命したか、装備は綺麗だから回収するか。【影収納】――
「くぁ! ほんとっすよ! 【フェザースラッシュ】――」
「「「「あががぁ!」」」」
ハルピの羽だと瀕死にもならないか、まだ息はあるんだけど回収、回収っと。【影収納】――
「ひぃ、コイツら一体なんなんだよ! お、俺はもう逃げぐぁ!!」
「おい、やべぇ。ひっ、イカの触手が何で……? た、助け……」
「ノンっ! 集団で襲ってきておいて自分だけ助かろうとするなんて。【圧縮】――」
最後の二人は、ラァブのハグで粉々にミックスサンドになってしまったから回収はやめとこ。
『ふう、いきなりだったから疲れたな』
シータウンを出て三日目、俺たちの魔素を恐れて魔物が近づくことはなかったが、護衛が女一人だけ馬車は、盗賊たちには美味しそうに見えたらしい。
「私に気持ち悪い鳴き声の鞭を使わせておいて、マスターは収納しかしてません」
ぎちぎちと鳴く鞭をぎゅっと掴んで黙らせて、ソニアが俺に非難がましい言葉を投げてくる。
『そんなん言われたって俺は実体化が出来ないんだから戦えないだろ!』
「いえ、そもそも盗賊団が百人いてもマスターの影収納で一瞬だったと思います」
『ええ! 面倒くさいよ! それにソニアたちの戦闘能力も見ておきたいじゃないか』
「ねえ、ラァブ、汚れちゃったぁ」
やめろ、ハグした触手を開くな。
ねちゃあって赤黒い糸が引いてる! こっちが引くわ!!
『おいラァブ! 鼻かんだ後のティッシュみたいになってるぞ、汚ねぇな』
「ノンっ! そこは『汚れたラァブも綺麗だよ』って言って欲しかったぁ。はいはい、洗えばいいんでしょ。【粘液】――」
ぶぅぶぅと文句垂れながら、どろどろの粘液を分泌して身体を洗ってる。
汚れた○○も綺麗だよってのは、素材が綺麗だから言えることってコイツわかってんのかな。
あれ、そういえばハルピが地味に凹んでないか?
『ハルピどうしたー? 怪我でもしたのか?』
「かぁ、自分だけ弱いなって思って落ち込んでたっす……」
『たくっ、ハルピはおバカだなぁ。お前はラァブたちを上手く利用して盗賊を撃退したんだから弱いわけじゃないだろ?』
一人でぶらついてたら死んでたんだろうけど。
「くあっ! あれ? そうっすね、自分は弱いから皆を利用していいんすよね!? そっすね、そっすね……えへへ」
リアルで“泣いた烏がもう笑う”を見せられたわ!
歯は白くて綺麗だった、美白になればソニアに迫れる可愛さだと思う。
ソニアより控えめな小麦肌より黒肌おっぱいも白いブラウスがアクセントになっていい感じだし。
『そうだぞ? ハルピはブラウスの第三ボタンを止めてるから、そんな窮屈な考え方になるんだ。もっとおっぱいを開放しろ』
「くああぁ? ……これ以上開けると全部出ちゃうっすよ!」
ちっ、この三日でラァブとソニアが余計な教育したせいで、ハルピが騙されなくなってきた。
『ハルピはバカなんだから、深く考えるなって話だよ』
仕方ない、一旦おっぱいは諦めて、時間をおいて今度はスカートをたくしあげて太もも見せてもらう作戦を実行するか……。
「そうっすね、悩んでも強くはなれないっす。シェイド様、ありがとうっす」
『おう、気にするな。俺の言葉も素直に受け取ってくれればいいんだぞ』
俺がハルピを思考停止する方向に言いくるめていると、後ろからはひそひそと話し声が――
「――ねね、ソニアちゃん。今のってハルピちゃんを慰めてたのかしらぁ?」
「――どうでしょう? ハルピさんに深く考えさせないように誘導して、ほとぼりが冷めた頃に、エッチな事をさせるつもりだと思いますけど……」
――ソニアが大正解。




